血液培養ボトルは冷蔵庫に入れない―菌を「生かして届ける」検査の鉄則
第113回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
血液培養で菌血症の診断の感度を下げるのはどれか。
- a.検体を冷蔵保存する。
- b.検体採取の回数を増やす。
- c.抗菌薬を投与する前に採取する。
- d.異なる部位から2セット採取する。
- e.好気性ボトルより先に嫌気性ボトルに分注する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血液培養は、血中にごくわずかしか存在せず間欠的に出現する菌を、ボトル内で増やして検出する検査です。ボトルは体温付近での培養を前提としており、冷蔵すると菌の発育が止まり、髄膜炎菌や淋菌などの低温に弱い菌は死滅して偽陰性の原因となるため、採取後は冷蔵せず速やかに提出します。感度を高めるには十分な採血量、2セット以上の採取、抗菌薬投与前の採取が重要で、異なる部位からの2セット採取は皮膚常在菌の混入と真の菌血症の判別にも役立ちます。注射器で採血した場合は嫌気性ボトルから先に分注して空気の混入を防ぎますが、真空採血ホルダーでは好気性ボトルが先になります。尿や喀痰の冷蔵保存と混同せず、各手順の理由を理解しておくことが、正確な感染症診断と適切な抗菌薬治療の出発点になります。
解答・解説
正解はaです
血液培養は、血液中に細菌が存在する状態(菌血症)を証明するための検査であり、感染症診療の中でも特に重要な検査の一つである。菌血症では血液中の菌量はごく少なく(成人では血液1 mLあたり1個未満のことも多い)、しかも菌が血中に流れ出るのは間欠的なことが多い。そのため、検出の感度(菌血症がある人で培養が陽性になる割合)は、次のような要素に大きく左右される。 ・採取する血液の量とセット数:多いほど菌を捕まえる確率が上がる。 ・抗菌薬投与の有無:投与後に採取すると菌の発育が抑えられ偽陰性になりやすい。 ・検体の取り扱い:採取後、培養装置に入るまでの間に菌が死滅したり発育しにくくなったりすると感度が下がる。 ・ボトル内の環境:嫌気性菌用ボトルに空気が入ると嫌気性菌が育ちにくくなる。 本問は、これらのうち「感度を下げる行為」を一つ選ぶ問題である。血液培養ボトルは体温付近で菌を増やすことを前提に作られており、冷蔵は菌の発育を止め、低温に弱い菌は死滅させてしまう。したがって、適切な手技を並べた選択肢の中から、明らかに不適切な取り扱いである冷蔵保存を選ぶ。
選択肢考察
- ○a. 検体を冷蔵保存する。
血液培養ボトルを冷蔵すると、菌の増殖が止まるだけでなく、髄膜炎菌や淋菌、インフルエンザ菌などの低温に弱い菌は死滅することがあり、偽陰性の原因となる。採取後はできるだけ速やかに検査室へ運び、自動培養装置(通常35〜37℃で培養)に入れる。すぐに搬送できない場合も冷蔵はせず、室温(施設によっては保温)で保管する。尿検体や喀痰などは雑菌の増殖を防ぐため冷蔵することがあるが、血液培養は例外であり、混同しないことが重要である。
- ×b. 検体採取の回数を増やす。
菌血症は間欠的であることが多く、血中菌量も少ないため、1回の採取では菌を捉えられないことがある。採取回数(セット数)を増やすと、培養に供する血液の総量が増え、菌を検出できる確率は高くなる。成人では1セットだけでは感度が不十分であり、2セット以上の採取で感度が大きく向上することが知られている。したがって感度を下げるのではなく上げる行為である。
- ×c. 抗菌薬を投与する前に採取する。
抗菌薬が投与されると血中の菌は殺菌・静菌され、また採取した血液中に抗菌薬が含まれることでボトル内での発育も妨げられる。抗菌薬開始後に採取した血液培養は陽性率が明らかに低下するため、菌血症を疑ったら抗菌薬投与前に採取するのが原則である。これは感度を保つための正しい手順である。ただし敗血症性ショックなど重症例では、採取のために抗菌薬投与を大きく遅らせてはならない。
- ×d. 異なる部位から2セット採取する。
2セット採取には二つの意義がある。一つは採血量が増えることで検出感度が上がること、もう一つは皮膚常在菌の混入(コンタミネーション)と真の菌血症を見分けやすくなることである。例えばコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌など)が1セットのみから検出された場合は混入の可能性が高いが、別々の部位から採った2セットの両方から検出されれば真の菌血症と判断しやすい。異なる部位から採るのは、同じ穿刺部位の汚染が両方のセットに入ることを避けるためである。いずれにしても感度を下げる行為ではない。
- ×e. 好気性ボトルより先に嫌気性ボトルに分注する。
注射器で採血した場合、シリンジ内に残った空気は最初に注入するボトルに入りやすい。嫌気性ボトルを先にすると、空気(酸素)が嫌気性ボトルに混入するのを避けられ、嫌気性菌の発育が保たれる。したがってこの手順は感度を下げない、標準的な方法である。なお、翼状針と真空採血ホルダーを用いる場合は、チューブ内の空気が先に入るため好気性ボトルから先に分注するのが一般的であり、採血方法によって順序が異なる点に注意する。
血液培養の適応
発熱に悪寒戦慄を伴う場合、原因不明の発熱、敗血症や感染性心内膜炎を疑う場合、低体温や原因不明の意識障害・血圧低下など、菌血症が疑われる状況では積極的に採取する。
標準的な採取手順
1. 好気性ボトルと嫌気性ボトルの2本を1セットとし、成人では2セット以上を異なる部位(例:左右の上肢)から採取する。 2. 1セットあたり成人で20 mL程度(各ボトル10 mL程度)を採取する。採血量は感度に最も大きく影響する因子の一つであり、少なすぎると偽陰性が増える。 3. 穿刺部位の皮膚は消毒薬(クロルヘキシジンアルコールやポビドンヨードなど)で十分に消毒し、消毒薬が乾燥してから穿刺する。ボトルのゴム栓もアルコール綿で消毒しておく。 4. 原則として末梢静脈から穿刺して採取する。留置中のカテーテルからの採取は汚染の可能性が高く、カテーテル関連血流感染を評価する目的以外では避ける。 5. 注射器で採取した場合は嫌気性ボトルから、真空採血ホルダーを用いた場合は好気性ボトルから分注する。 6. 抗菌薬投与前に採取し、採取後は冷蔵せず速やかに検査室へ提出する。
結果の解釈
・黄色ブドウ球菌、大腸菌などの腸内細菌目細菌、肺炎球菌、緑膿菌、カンジダなどは、1セットのみの陽性でも真の菌血症として扱う。 ・コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、コリネバクテリウム属、バシラス属、キューティバクテリウム(旧プロピオニバクテリウム)属などの皮膚常在菌が1セットのみから検出された場合は、混入の可能性を考える。 ・感染性心内膜炎のように持続的な菌血症をきたす疾患では、時間をずらして複数セット採取することで持続性菌血症を証明でき、診断に役立つ。
POINT
・血液培養ボトルは冷蔵しない。採取後は速やかに提出し、待つ場合も室温で保管する。 ・感度を上げる要素:十分な採血量、2セット以上の採取、抗菌薬投与前の採取。 ・2セット採取は感度の向上に加え、皮膚常在菌の混入と真の菌血症の区別に役立つ。 ・注射器で採取した場合は嫌気性ボトルから先に分注し、嫌気性ボトルへの空気混入を防ぐ。
