StudyMed医師国家試験

造影MRIの前に必ず腎機能を―ガドリニウムと腎性全身性線維症

第113回医師国家試験 E問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第16問

MRIでガドリニウム造影剤を使用する際に,最も注意すべき患者背景はどれか。

  1. a.脳卒中
  2. b.心房細動
  3. c.間質性肺炎
  4. d.頭蓋内圧亢進症
  5. e.人工透析中の慢性腎不全

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、MRIで使うガドリニウム造影剤の安全性に関する問題だ。考えるポイントは一つ、「この造影剤は体のどこから出ていくのか」。そこがわかれば、注意すべき患者背景は自然に見えてくるよ。
医学生医学生
造影剤というと、まずアレルギーが頭に浮かびます。でも選択肢にはアレルギーに関係しそうなものが見当たらないですね。
ドクタードクター
いい着眼だね。過敏症の既往や気管支喘息はもちろん大事な確認事項だけど、今回は別の角度から問われている。ガドリニウム造影剤の排泄経路は覚えているかな。
医学生医学生
薬理学の講義で、ほとんどが腎臓から未変化体のまま尿中に出ると習いました。
ドクタードクター
その通り。腎機能が保たれていれば、投与後おおむね1日以内に大部分が尿中に排泄される。ところが高度の腎機能障害や透析患者では、造影剤が体内に長く留まってしまうんだ。
医学生医学生
長く残ると、何が問題になるんですか。
ドクタードクター
ガドリニウムイオンそのものは毒性が強いので、製剤ではキレートという構造で包み込んで無害化している。体内に長く滞留すると、そのキレートからガドリニウムが遊離しやすくなり、皮膚や内臓に沈着して腎性全身性線維症、NSFを引き起こすことがある。だから正解は人工透析中の慢性腎不全だ。
医学生医学生
NSFは名前だけ聞いたことがあります。どんな病気なんでしょうか。
ドクタードクター
投与後数日から数か月で、四肢から皮膚の浮腫・肥厚・硬化が始まる。強皮症に似ているけれど、顔面は侵されにくいのが特徴だ。進むと関節拘縮で歩けなくなり、肺や心臓などにも線維化が及んで致死的になりうる。有効な治療法が確立していないから、とにかく予防が大事なんだ。
医学生医学生
では、脳卒中はどうでしょう。脳の病気なので何となく慎重になりそうな気がしました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いけれど、脳卒中自体は造影の妨げにならない。むしろ脳梗塞の亜急性期病変と腫瘍の鑑別など、造影MRIが役立つ場面もある。頭蓋内圧亢進症も同じで、原因となる脳腫瘍や膿瘍を探すのに造影MRIは有用だよ。
医学生医学生
頭蓋内圧亢進で注意が必要なのは、腰椎穿刺でしたね。神経内科の実習で、脳ヘルニアの危険があるから穿刺前に必ず画像を確認すると教わりました。
ドクタードクター
そう、そちらと混同しないことが大切だ。心房細動はどうかな。
医学生医学生
心電図同期の撮像がうまくいかない、ということは聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。それは画質の問題で、造影剤の安全性とは別の話。ペースメーカーなどの植込みデバイスも磁場に関する注意点であって、造影剤の問題ではない。間質性肺炎も造影を制限する背景ではなく、呼吸器疾患で注意したいのは過敏反応が起きやすい気管支喘息のほうだ。
医学生医学生
つまり、排泄経路が腎臓だから腎不全、特に透析患者が最もハイリスクということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。わが国の指針でも、透析患者やeGFRが30 mL/min/1.73m2未満の慢性腎臓病、急性腎障害では、原則としてガドリニウム造影剤を避け、他の検査で代替できないかをまず考えることになっている。
医学生医学生
どうしても造影が必要なときはどうするんですか。
ドクタードクター
キレートが線状型の製剤はガドリニウムが遊離しやすくリスクが高いので、安定性の高いマクロ環状型を選び、必要最小量にとどめる。投与後早めに透析を行うこともあるけれど、NSFの予防効果は確立していない。ちなみに線状型では、腎機能が正常でも反復投与で歯状核や淡蒼球への沈着が報告されていて、この点でも環状型が主流になっている。
医学生医学生
CTのヨード造影剤も腎排泄ですよね。ごっちゃになりそうです。
ドクタードクター
整理しておこう。腎機能障害で問題になるのは、ガドリニウムならNSF、ヨード造影剤なら造影剤腎症。さらにヨード造影剤には甲状腺疾患、褐色細胞腫、ビグアナイド系薬内服中といった特有の注意点がある。CBTでも国試でも狙われやすいところだから、対比で覚えておくといいよ。

まとめ

MRIで用いるガドリニウム造影剤はほぼすべてが腎臓から排泄されるため、透析患者や高度腎機能障害では体内に長く滞留し、遊離したガドリニウムが沈着して腎性全身性線維症(NSF)を起こす危険があります。NSFは四肢から始まる皮膚の肥厚・硬化と関節拘縮を主体とし、内臓にも線維化が及ぶ予後不良の疾患で、有効な治療が確立していないため予防が何より重要です。透析患者やeGFR 30 mL/min/1.73m2未満では原則として使用を避け、やむを得ない場合は安定性の高いマクロ環状型製剤を最小量で用います。脳卒中、心房細動、間質性肺炎、頭蓋内圧亢進症はそれ自体が造影の妨げにはならず、造影剤共通の注意点としては過敏症の既往と気管支喘息を確認します。「排泄経路から副作用のリスクを考える」姿勢は、ヨード造影剤との対比も含めて、安全な画像検査のオーダーに直結する基本です。

解答・解説

正解はeです

MRIで用いるガドリニウム(Gd)造影剤は、ほぼすべてが腎臓(糸球体濾過)から未変化体のまま排泄される。腎機能が保たれていれば投与後おおむね1日以内に大部分が尿中に排泄されるが、高度の腎機能障害や透析患者では体内に長く留まる。その間にキレート(Gdを包み込んで毒性を抑えている構造)からGdイオンが遊離しやすくなり、組織に沈着して腎性全身性線維症〈nephrogenic systemic fibrosis:NSF〉という重篤な副作用を引き起こすことがある。 したがって、Gd造影剤の投与前に必ず確認すべき患者背景は「腎機能」であり、とりわけ維持透析中の慢性腎不全患者は最もリスクが高い群である。わが国の指針でも、透析患者や推算糸球体濾過量(eGFR)が30 mL/min/1.73m2未満の慢性腎臓病患者、急性腎障害の患者には、Gd造影剤は原則として使用を避け、他の検査で代替できないかをまず検討することとされている。 一方、脳卒中・心房細動・間質性肺炎・頭蓋内圧亢進症は、それ自体がGd造影剤の使用を妨げる背景ではない。全身状態が極めて悪い場合には検査そのものの適否を個別に判断するが、疾患名だけで造影を控える理由にはならない。本問は「造影剤の排泄経路=腎臓」という基本から、腎不全を選べるかを問うている。

選択肢考察

  1. ×a.  脳卒中

    脳卒中であることはGd造影剤使用の妨げにならない。むしろ脳梗塞の亜急性期病変や脳腫瘍・血管奇形との鑑別、血液脳関門の破綻の評価などで造影MRIが活用される場面がある。全身状態が極端に不安定であれば検査自体を見合わせることはあるが、それは脳卒中に固有の注意点ではない。

  2. ×b.  心房細動

    心房細動そのものはGd造影剤の禁忌・慎重投与の理由とはならない。心房細動では心電図同期撮像の画質が低下しやすいという撮像技術上の問題はあるが、造影剤の安全性とは別の話である。なお、ペースメーカーなど植込み型デバイスを持つ患者ではMRI対応機種か否かの確認が必要となるが、これも造影剤ではなく磁場に関する注意点である。

  3. ×c.  間質性肺炎

    間質性肺炎はGd造影剤の使用を制限する患者背景ではない。造影剤投与で注意すべき呼吸器疾患として挙げられるのは気管支喘息であり、喘息患者では造影剤による過敏反応(アナフィラキシー様反応)が起こりやすいとされる。間質性肺炎はこれとは区別して考える。

  4. ×d.  頭蓋内圧亢進症

    頭蓋内圧亢進症はGd造影剤の使用を妨げない。頭蓋内圧亢進の原因検索(脳腫瘍、膿瘍、髄膜病変など)ではむしろ造影MRIが診断に有用である。頭蓋内圧亢進で注意が必要なのは腰椎穿刺(脳ヘルニアの危険)であり、造影剤投与とは混同しないこと。

  5. ○e.  人工透析中の慢性腎不全

    Gd造影剤は腎排泄であるため、透析患者では体内に長時間残存し、遊離したGdが皮膚や内臓に沈着してNSFを発症する危険が最も高い。NSFは有効な治療法が確立しておらず、致死的になりうるため、透析患者や高度腎機能障害(eGFR 30 mL/min/1.73m2未満)では原則として使用を避ける。やむを得ず使用する場合は、NSFの報告が少ないマクロ環状型の製剤を選び、必要最小量にとどめる。Gdは透析で除去されるため投与後早期の透析が行われることがあるが、NSFの予防効果は確立していない。

腎性全身性線維症(NSF)

腎機能が高度に低下した患者にGd造影剤を投与した後、数日〜数か月の経過で発症する。四肢から始まる皮膚の浮腫・肥厚・硬化を特徴とし、全身性強皮症に似た外観を呈するが、顔面は侵されにくい点が異なる。進行すると関節拘縮により歩行や日常動作が障害され、肺・肝・筋・心臓などに線維化が及ぶ全身性疾患として死亡に至る例もある。2000年代に疾患概念が確立し、Gd造影剤との関連が明らかになった。

NSFのリスクとGd製剤の構造

・リスクが高い患者:維持透析患者、eGFR 30 mL/min/1.73m2未満の慢性腎臓病、急性腎障害。 ・製剤による差:Gdを包むキレートの構造が線状型(リニア型)のものはGdが遊離しやすくリスクが高く、環状型(マクロ環状型)は安定性が高くNSFの報告が少ない。現在は環状型の使用が主流である。 ・線状型製剤では、腎機能が正常でも反復投与により脳(歯状核や淡蒼球)へのGd沈着が報告されており、この点からも環状型が推奨される。

Gd造影剤使用時のその他の注意点

・Gd造影剤に対する過敏症の既往:禁忌。 ・気管支喘息、アレルギー体質:過敏反応のリスクが高く慎重に判断する。 ・妊娠:胎盤を通過するため、必要性が高い場合以外は避ける。 ・副作用の頻度はヨード造影剤(CTで使用)より低いが、アナフィラキシーは起こりうるため、投与後の観察と救急対応の準備は必要である。

ヨード造影剤との対比

ヨード造影剤も腎排泄であり、腎機能障害では造影剤腎症(造影剤投与後の急性腎障害)が問題となる。腎機能障害がNSFにつながるのはGd造影剤、造影剤腎症が主に問題となるのはヨード造影剤、と整理しておくとよい。またヨード造影剤は甲状腺疾患(ヨード負荷)や褐色細胞腫(高血圧クリーゼ)、ビグアナイド系糖尿病薬内服中(乳酸アシドーシス)などでも注意が必要であり、これらはヨード造影剤に特有の注意点である。

POINT

・Gd造影剤は腎排泄。高度腎機能障害・透析患者ではNSFのリスクが高く、原則として使用を避ける(目安はeGFR 30 mL/min/1.73m2未満)。 ・NSFは皮膚の肥厚・硬化と関節拘縮を主体とし、内臓にも線維化が及ぶ予後不良の疾患である。 ・線状型製剤はリスクが高く、環状型製剤が推奨される。 ・脳卒中、心房細動、間質性肺炎、頭蓋内圧亢進症はGd造影剤使用の妨げとならない。 ・造影剤共通の注意点として、過敏症の既往と気管支喘息を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。