1セットだけ陽性の表皮ブドウ球菌―血液培養で「汚染」を見抜く目
第118回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
血液培養2セット中1セットのみが陽性の場合,起因菌ではなく常在菌の汚染菌〈コンタミネーション〉と解釈して治療しない場合があるのはどれか。
- a.Candida albicans
- b.Escherichia coli
- c.Pseudomonas aeruginosa
- d.Staphylococcus aureus
- e.Staphylococcus epidermidis
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液培養は異なる部位から2セット以上採取するのが原則で、真の菌血症では複数セットで同じ菌が検出されやすく、採血時の皮膚常在菌の混入(汚染)では1セットのみの陽性になりやすいです。表皮ブドウ球菌などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Corynebacterium属、Cutibacterium acnesなどの皮膚常在菌が1セットのみから検出され臨床所見に乏しい場合は、汚染と判断して治療しないことがあります。一方、黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌、Candida属は1セットのみの陽性でも起因菌として治療し、黄色ブドウ球菌では心内膜炎の検索、カンジダでは眼科診察やカテーテル抜去も重要です。表皮ブドウ球菌もカテーテルや人工物に関連した感染では主要な起因菌となるため、陽性セット数や臨床像を含めて総合的に評価します。培養結果を菌種と状況から読み解く力は、不要な抗菌薬を避けつつ重症感染を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はeです
血液培養は菌血症(血液中に細菌が存在する状態)や真菌血症を診断するための最も重要な検査である。採血時には皮膚を消毒するが、皮膚の常在菌を完全に除くことはできず、穿刺の際に皮膚表面や毛穴の菌がボトルに混入して培養で発育することがある。これを汚染(コンタミネーション)と呼ぶ。 汚染と真の菌血症を区別するために、血液培養は異なる部位から別々に穿刺して2セット以上(1セット=好気ボトルと嫌気ボトル各1本)採取するのが原則である。真の菌血症では菌が血流全体に存在するため複数セットで同じ菌が検出されやすいのに対し、汚染は穿刺1回ごとに偶発的に起こるため、1セットのみの陽性となることが多い。 ただし「1セットのみ陽性なら汚染」と一律に判断できるわけではない。判断の鍵は検出された菌の種類である。 ・皮膚常在菌(表皮ブドウ球菌をはじめとするコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Corynebacterium属、Cutibacterium acnes〈旧名Propionibacterium acnes〉、Bacillus属〈炭疽菌を除く〉、Micrococcus属など):1セットのみ陽性なら汚染の可能性が高い。 ・病原性の高い菌(黄色ブドウ球菌、大腸菌などの腸内細菌目細菌、緑膿菌、肺炎球菌、Candida属など):汚染菌となることはまれであり、1セットのみの陽性でも真の起因菌として扱い治療する。 したがって、選択肢のうち汚染と解釈して治療しない場合があるのは、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌である。
選択肢考察
- ×a. Candida albicans
カンジダは皮膚・口腔・腸管などに常在する真菌であるが、血液培養から検出された場合は汚染とはみなさず、カンジダ血症として必ず治療する。中心静脈カテーテル留置、広域抗菌薬の使用、高カロリー輸液、腹部手術後、好中球減少などが危険因子で、死亡率が高い。治療では抗真菌薬の投与とともに、原則として中心静脈カテーテルの抜去、眼内炎の有無を確認する眼科診察、陰性化を確認するための血液培養の再検を行う。
- ×b. Escherichia coli
大腸菌は腸管内の常在菌であるが、皮膚の常在菌ではないため、採血時に混入する汚染菌となることはまれである。腎盂腎炎などの尿路感染症、胆管炎などの胆道感染症、腹腔内感染症からの菌血症の代表的な起因菌であり、血液培養で検出されれば1セットのみでも起因菌として治療する。
- ×c. Pseudomonas aeruginosa
緑膿菌はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、湿潤環境に生息し、医療関連感染や免疫不全患者(好中球減少時など)の日和見感染の重要な起因菌である。皮膚常在菌ではなく汚染菌とはみなさない。菌血症の死亡率が高く、多剤耐性化もしやすいため、検出されれば1セットのみでも抗緑膿菌活性をもつ抗菌薬で治療する。
- ×d. Staphylococcus aureus
黄色ブドウ球菌は皮膚や鼻腔に定着していることがあるが、病原性が高く、血液培養で検出されれば1セットのみであっても汚染とはみなさず、黄色ブドウ球菌菌血症として必ず治療する。カテーテル関連血流感染症や皮膚軟部組織感染症のほか、感染性心内膜炎、椎体炎などの骨髄炎、膿瘍といった転移性病巣を作りやすいため、心エコーによる心内膜炎の検索、感染源(カテーテルなど)の除去、血液培養の陰性化確認が重要である。
- ○e. Staphylococcus epidermidis
表皮ブドウ球菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の代表で、皮膚の常在菌である。採血時の消毒が不十分だと穿刺針を介してボトルに混入しやすく、血液培養の汚染菌として最も頻度が高い。病原性は比較的低いため、2セット中1セットのみの陽性で臨床的に感染を示唆する所見に乏しい場合には、汚染と判断して治療しないことがある。一方、血管内カテーテル、人工弁、人工関節、ペースメーカーなどの人工物はバイオフィルムを形成して表皮ブドウ球菌の感染巣となりやすく、とくにカテーテル関連血流感染症(CRBSI)の起因菌として最多である。このため、複数セットで陽性となった場合や人工物が留置されている場合は真の起因菌として慎重に評価する。
血液培養の基本
・採取のタイミング:可能な限り抗菌薬投与前に採取する。 ・セット数:異なる部位から2セット以上(1セット=好気ボトル+嫌気ボトル)。1セットのみでは検出感度が下がるうえ、陽性時に汚染との区別ができない。 ・採血量:成人では1ボトルあたり8〜10mL程度。量が少ないと感度が低下する。 ・皮膚消毒:アルコール含有クロルヘキシジンやポビドンヨードなどで十分に消毒し、乾燥を待ってから穿刺する。消毒後の穿刺部位には触れない。ボトルのゴム栓もアルコールで消毒する。
汚染菌か起因菌かの判断材料
・菌種:皮膚常在菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Corynebacterium属、Cutibacterium acnes、Bacillus属、Micrococcus属など)かどうか ・陽性セット数:複数セットで同一菌が検出されれば真の菌血症の可能性が高い ・陽性までの時間:汚染菌は菌量が少ないため陽性化までに時間がかかる傾向がある ・臨床像:発熱、血圧低下などの全身症状、血管内カテーテルや人工物の有無、免疫状態
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)
中心静脈カテーテルなどの血管内カテーテルに関連して起こる血流感染症である。起因菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が最も多く、黄色ブドウ球菌、腸球菌、グラム陰性桿菌、Candida属などが続く。診断には、末梢静脈血とカテーテルからの血液をそれぞれ培養し同一菌を確認すること、抜去したカテーテル先端の培養などが用いられる。治療の基本はカテーテルの抜去と抗菌薬投与である。
POINT
・血液培養は異なる部位から2セット以上採取する ・皮膚常在菌(表皮ブドウ球菌などのCNS、Corynebacterium属、Cutibacterium acnes、Bacillus属)は1セットのみ陽性なら汚染の可能性が高い ・黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌、Candida属は1セットのみ陽性でも起因菌として治療する ・黄色ブドウ球菌菌血症とカンジダ血症は汚染と考えず、感染源検索(心エコー、眼科診察など)を行う ・表皮ブドウ球菌は人工物・カテーテル関連感染の起因菌として最多であり、複数セット陽性や人工物留置時は真の感染を考える
