集尿袋の尿は「培地」だった―正しい細菌培養検体の選び方
第119回医師国家試験 B問題 第8問
国試問題にチャレンジ
細菌培養検査の検体に適さないのはどれか。
- a.中間尿
- b.尿道分泌物
- c.導尿で採取した尿
- d.腎瘻造設時に採取した尿
- e.尿道留置カテーテルの集尿袋内の尿
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
細菌培養検査の検体は、感染部位の状態をそのまま反映していることが前提で、「常在菌や雑菌の混入がない」「採取後に菌が増殖・死滅していない」の2点で適否を判断します。尿は室温で細菌が増えやすく菌量の評価も重要なため、長時間室温でたまり菌の増殖や環境菌の混入が起こる集尿袋内の尿は培養検体として不適切です。中間尿、導尿尿、腎瘻造設時など無菌的に得た尿、尿道炎での尿道分泌物は培養に用いられ、カテーテル留置中はクランプ後に採尿ポートを消毒して滅菌シリンジで採取します。採取後は速やかに提出し、保存する場合は冷蔵する(低温に弱い菌が想定される検体を除く)、抗菌薬投与前に採取するといった原則は、あらゆる培養検査に共通する基本であり、正確な起炎菌同定と適切な抗菌薬選択の土台となります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
細菌培養検査は、検体中に存在する細菌を増やして同定し、薬剤感受性を調べる検査である。結果が臨床判断に役立つためには、検体が「感染部位の状態をそのまま反映している」ことが前提となる。したがって検体の適否は、(1)常在菌や環境中の雑菌が混入していないか(コンタミネーション)、(2)採取後に菌が増えたり死滅したりして菌数・菌種が変化していないか、の2点で判断する。
尿検体で特に注意すべき点
尿は糖や蛋白などを含み、室温に置くと細菌がよく増殖する培地のような性質をもつ。尿路感染症の診断では菌の種類だけでなく菌量(CFU/mL:1 mL当たりのコロニー形成単位)も重要な判断材料であるため、採取後に放置された尿では菌量の評価が意味をなさなくなる。また、外尿道口や会陰部には常在菌が多く、採取法によってはそれらが混入する。
考え方
選択肢のうち、中間尿・導尿尿・腎瘻造設時の尿はいずれも混入を最小限にする工夫や無菌的操作のもとで採取された新鮮な尿である。尿道分泌物も、尿道炎の起炎菌を直接とらえる検体として用いられる。これに対し、尿道留置カテーテルの集尿袋にたまった尿は、長時間室温に置かれ、袋内で菌が増殖・混入している可能性が高く、膀胱内の状態を反映しない。よって培養検体として不適切なのは集尿袋内の尿である。
選択肢考察
- ×a. 中間尿
適する。排尿の出始め(初尿)には外尿道口付近や尿道遠位部の常在菌が多く含まれるため、これを捨て、排尿を続けたまま途中の部分を滅菌容器に採取するのが中間尿である。外陰部・外尿道口を清拭してから採取すれば混入を減らすことができ、自然排尿で得られる尿培養検体の標準的な採取法である。
- ×b. 尿道分泌物
適する。尿道炎(特に男性)では、外尿道口から出る膿性・漿液性の分泌物に起炎菌が多く含まれる。淋菌はグラム染色で白血球内のグラム陰性双球菌として確認でき、培養によって同定と薬剤感受性検査も可能である。なお、クラミジアは通常の細菌培養では発育しないため、初尿や分泌物を用いた核酸増幅検査で診断するのが一般的である。
- ×c. 導尿で採取した尿
適する。カテーテルを清潔操作で尿道から膀胱に挿入し、膀胱内の尿を直接採取する方法であり、外陰部や尿道遠位部の常在菌の混入が少ない。中間尿の採取が難しい患者(意識障害、乳幼児、高齢女性など)や、中間尿で混入が疑われる場合に用いられる。
- ×d. 腎瘻造設時に採取した尿
適する。腎瘻造設は皮膚から腎盂へ穿刺して行う処置であり、無菌操作で実施される。造設時に得られる尿は腎盂内から直接採取された新鮮な尿で、混入の心配が少ない。閉塞性腎盂腎炎(尿路結石などで尿の流れが妨げられた状態に生じる腎盂腎炎)では、膀胱尿に起炎菌が現れにくいこともあり、腎盂尿の培養は起炎菌同定にきわめて有用である。
- ○e. 尿道留置カテーテルの集尿袋内の尿
不適切であり、これが正解である。集尿袋の尿は、何時間にもわたって室温でたまったものであり、その間に袋内で細菌が増殖する。さらに、袋の排液口などから環境菌が入り込むこともある。このため菌量が実際よりも多く出たり、起炎菌ではない菌が優位に発育したりして、真の起炎菌の判定を誤らせる。尿道カテーテル留置中の患者から培養用の尿を得る場合は、カテーテルを一時的にクランプしてからカテーテルの採尿ポート(サンプリングポート)をアルコールなどで消毒し、滅菌シリンジで新たにたまった尿を採取する。長期留置カテーテルではカテーテル内腔にバイオフィルム(細菌が作る膜状の集落)が形成されているため、可能であれば新しいカテーテルに交換してから採取することが推奨される。
培養用尿検体の採取と取り扱い
・自然排尿:外陰部・外尿道口を清拭し、初尿を捨てて中間尿を滅菌容器に採る。 ・導尿:清潔操作でカテーテルを挿入して膀胱尿を採る。 ・膀胱穿刺:恥骨上から膀胱を直接穿刺して採る。最も混入が少なく、乳児などで用いられる。 ・カテーテル留置中:集尿袋からではなく、採尿ポートを消毒して採取する。 ・提出:採取後は速やかに(目安として1〜2時間以内)検査室へ提出する。すぐに提出できない場合は冷蔵(約4℃)で保存し、細菌の増殖を抑える。室温放置では菌量が増え、偽陽性や菌量の過大評価につながる。
なぜ菌量が重要か
尿は採取経路で常在菌がある程度混入しうるため、尿路感染症の判定には菌量が用いられる。古典的には中間尿で10^5 CFU/mL以上が有意な細菌尿の目安とされてきたが、症状のある患者や導尿・膀胱穿刺で採取した検体では、より少ない菌量でも有意と判断することがある。いずれも、採取後に菌が増えていないことが前提である。
他の検体にも共通する原則
・抗菌薬投与前に採取する。 ・常在菌の混入を避ける(例:血液培養では皮膚消毒を十分に行う、喀痰はうがい後に膿性部分を採る)。 ・採取後は速やかに提出し、検体に応じた条件で保存する(淋菌や髄液のように低温に弱い菌が想定される検体は冷蔵しない)。
POINT
・細菌培養検体の条件は「常在菌・雑菌の混入がない」「採取後に菌が増殖・死滅していない」の2点。 ・尿は室温で菌が増殖しやすいため、速やかに提出し、保存するなら冷蔵する。 ・集尿袋内の尿は長時間室温に置かれ菌が増殖・混入しているため、培養検体として不適切。 ・カテーテル留置中は、クランプ後に採尿ポートを消毒して滅菌シリンジで採取する。 ・中間尿、導尿尿、腎瘻・膀胱穿刺など無菌的に得た尿、尿道分泌物は培養検体として用いられる。
