StudyMed医師国家試験

気管支を締めつける降圧薬―喘息患者で避けたい薬を作用機序から見抜く

第113回医師国家試験 D問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第113回 D問題 第6問

成人で喘息の増悪をきたす可能性が最も高い薬剤はどれか。

  1. a.利尿薬
  2. b.β遮断薬
  3. c.ヒスタミンH1受容体拮抗薬
  4. d.塩基性非ステロイド性抗炎症薬
  5. e.アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、喘息を悪化させうる薬剤を選ぶ問題だ。丸暗記ではなく、気道平滑筋がどんな仕組みで収縮・弛緩するかから考えると、迷わず解けるよ。
医学生医学生
喘息の悪化といえば、真っ先にアスピリン喘息が浮かびました。NSAIDsが答えではないんですか。
ドクタードクター
その連想は大事だけど、今回の選択肢には「塩基性」とついている。ここが落とし穴なんだ。その話は後でするとして、まずは自律神経の基本から。気管支を広げるのはどちらの神経系だったかな。
医学生医学生
交感神経です。生理学の講義で、β2受容体が刺激されるとcAMPが増えて平滑筋が弛緩すると習いました。
ドクタードクター
完璧だね。逆に副交感神経は迷走神経からアセチルコリンが出て、M3受容体を介して気管支を収縮させる。喘息治療でβ2刺激薬や抗コリン薬を使うのはこの裏返しだ。では、β受容体を遮断したらどうなる?
医学生医学生
気管支拡張の作用が消えて、副交感神経優位になって気管支が締まる……つまりβ遮断薬で喘息が悪化するんですね。
ドクタードクター
正解。喘息患者の気道は過敏だから、わずかな収縮でも重い発作になりうる。プロプラノロールのような非選択性β遮断薬は喘息に禁忌だ。
医学生医学生
循環器内科を回ったとき、心不全の患者さんにビソプロロールが出ていました。β1選択性なら喘息でも大丈夫なんでしょうか。
ドクタードクター
β1選択性の高い薬でも、用量が増えるとβ2も遮断されうるから、喘息患者では原則避けるか、慎重に使う。もう一つ見落としやすいのが点眼薬だ。緑内障に使うチモロール点眼も全身に吸収されて発作を誘発することがあり、喘息には禁忌とされている。
医学生医学生
目薬でも起きるのは意外です。では、塩基性NSAIDsはなぜ外れるんですか。
ドクタードクター
アスピリン喘息では、COX-1が阻害されると気管支拡張・抗炎症的に働くPGE2が減り、アラキドン酸がロイコトリエン産生に流れて強い気管支収縮が起こると考えられている。だから危ないのはCOX-1阻害の強い酸性NSAIDs、つまりアスピリンやロキソプロフェン、ジクロフェナクなどだ。塩基性NSAIDsはCOX阻害作用が弱く、誘発の危険は酸性NSAIDsより低いとされる。
医学生医学生
完全に安全というわけではないけれど、この中で最も可能性が高いとはいえない、ということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。抗ヒスタミン薬はどうだろう。
医学生医学生
ヒスタミンは気管支を収縮させるので、それを抑える薬が喘息を悪化させるとは考えにくいです。
ドクタードクター
その通り。むしろ一部の第2世代抗ヒスタミン薬は補助的に使われることもある。注意すべきは眠気や、第1世代に多い抗コリン作用だね。利尿薬も気道には直接作用しないから、気にすべきは低カリウム血症などの電解質・代謝異常のほうだ。
医学生医学生
ARBはACE阻害薬と混同しそうでした。ACE阻害薬は咳が出ますよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ACE阻害薬の空咳はブラジキニンの蓄積によるもので、喘息の気道収縮とは別の機序だ。ARBはブラジキニンを溜めないので空咳もまれ。ARBで注意するのは高カリウム血症、腎機能悪化、妊婦への禁忌だよ。
医学生医学生
喘息の患者さんに薬を出すときは、β遮断薬と酸性NSAIDsを真っ先にチェックする、と覚えておきます。
ドクタードクター
それが基本だね。臨床ではもう少し広げておこう。NSAIDs過敏喘息は成人喘息の約5〜10%で、鼻茸や嗅覚障害を伴う好酸球性副鼻腔炎の合併が多い。湿布や坐薬でも発作は起こりうるし、コハク酸エステル型ステロイドの急速静注で悪化することもある。鎮痛が必要ならアセトアミノフェンを少なめの量で、あるいは選択的COX-2阻害薬を慎重に使う。問診で既往をしっかり聞くことが、最大の予防になるんだ。

まとめ

気道平滑筋はβ2受容体刺激で弛緩し、ムスカリン受容体刺激で収縮するため、β受容体を遮断するβ遮断薬は気管支収縮を招き、喘息を増悪させる可能性が最も高い薬剤です。非選択性β遮断薬は喘息に禁忌で、チモロールなどの点眼薬でも発作を起こしうるほか、β1選択性薬でも慎重な使用が求められます。NSAIDs過敏喘息を誘発するのはCOX-1阻害の強い酸性NSAIDsであり、塩基性NSAIDs、選択的COX-2阻害薬、アセトアミノフェンは比較的安全とされますが、病状によっては注意が必要です。利尿薬、抗ヒスタミン薬、ARBには喘息を増悪させる作用はなく、ACE阻害薬の空咳はブラジキニンによる別の機序である点も区別しておきましょう。作用機序から副作用を予測する姿勢は、処方時の安全確認に直結する重要な力です。

解答・解説

正解はbです

問われていること

気管支喘息の患者に使用すると発作(増悪)を誘発するおそれのある薬剤を、各薬剤の作用機序から判断する問題である。

考え方

気管支喘息は、慢性の気道炎症を背景に、さまざまな刺激で気道平滑筋が収縮し、可逆性の気流制限が生じる疾患である。気道平滑筋の収縮・弛緩を調節する主な仕組みは次のとおりである。 ・交感神経系:気道平滑筋のβ2受容体が刺激されると、細胞内のcAMP(サイクリックAMP)が増えて平滑筋が弛緩し、気管支が拡張する。喘息治療に用いるβ2刺激薬はこの経路を利用している。 ・副交感神経系:迷走神経から放出されるアセチルコリンがムスカリン(M3)受容体に作用し、気管支を収縮させる。 したがって、β受容体を遮断する薬剤は、β2受容体を介した気管支拡張作用を打ち消し、副交感神経優位の状態にして気管支収縮を招く。喘息患者ではわずかな気道収縮でも症状が出やすいため、重篤な発作を起こすことがある。 喘息の増悪をきたす薬剤として、もう一つ重要なのがNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)である。シクロオキシゲナーゼ(COX、とくにCOX-1)を強く阻害するNSAIDsは、NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)の患者で激しい発作を誘発する。ただし本問の選択肢は「塩基性」NSAIDsであり、COX阻害作用が弱く、酸性NSAIDsに比べて喘息誘発の危険が低い薬剤である点に注意が必要である。 以上から、成人の喘息増悪をきたす可能性が最も高いのはβ遮断薬である。

選択肢考察

  1. ×a.  利尿薬

    利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、カリウム保持性利尿薬など)は、腎尿細管でのナトリウム再吸収を抑えて尿量を増やす薬剤であり、気道平滑筋への直接作用はなく、喘息を増悪させることは知られていない。注意すべき副作用は電解質・代謝異常で、ループ利尿薬とサイアザイド系では低カリウム血症や高尿酸血症、サイアザイド系では高カルシウム血症や耐糖能低下、カリウム保持性利尿薬では高カリウム血症などがある。誤りである。

  2. ○b.  β遮断薬

    β遮断薬は、交感神経のβ受容体を遮断して心拍数や心収縮力を抑え、高血圧、狭心症、頻脈性不整脈、心不全などに用いられる。気道平滑筋にはβ2受容体があり、これを遮断すると気管支拡張の作用が失われて気管支が収縮するため、喘息の増悪や重篤な発作を招くおそれがある。プロプラノロールなどβ1選択性のない(非選択性の)β遮断薬は気管支喘息患者に禁忌である。β1選択性の高い薬剤(ビソプロロール、メトプロロールなど)でも、高用量ではβ2受容体も遮断されうるため、喘息患者では原則として避けるか、慎重に用いる。なお、緑内障治療に用いるβ遮断薬の点眼薬(チモロールなど)も全身に吸収されて喘息発作を誘発することがあり、喘息患者には禁忌とされている。喘息の増悪をきたす可能性が最も高く、正しい。

  3. ×c.  ヒスタミンH1受容体拮抗薬

    ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)は、アレルギー性鼻炎や蕁麻疹などのアレルギー疾患の治療薬である。ヒスタミンには気管支収縮作用があるため、それを抑える薬剤が喘息を増悪させることはなく、一部の第2世代抗ヒスタミン薬は喘息の補助的な治療に用いられることもある。主な副作用は、眠気・鎮静などの中枢神経抑制、口渇・便秘・尿閉・眼の調節障害などの抗コリン作用(第1世代に多い)、悪心などの消化器症状である。誤りである。

  4. ×d.  塩基性非ステロイド性抗炎症薬

    NSAIDsはCOXを阻害してプロスタグランジンの産生を抑える。NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)の患者では、COX-1が阻害されると気管支拡張・抗炎症的に働くPGE2が減少し、アラキドン酸がロイコトリエン産生へ流れることで、強い気管支収縮が起こると考えられている。このため、COX-1阻害作用の強い酸性NSAIDs(アスピリン、インドメタシン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクなど)は喘息の増悪をきたす代表的な薬剤である。一方、塩基性NSAIDs(チアラミド、エモルファゾンなど)はCOX阻害作用が弱く、喘息を誘発する危険は酸性NSAIDsより低いとされる。鎮痛効果も弱いため、臨床で使われる機会は少ない。完全に安全というわけではないが、本問の選択肢の中では最も可能性が高いとはいえないため、誤りである。

  5. ×e.  アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

    アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、アンジオテンシンⅡのAT1受容体への結合を阻害する降圧薬であり、喘息の増悪をきたすことは知られていない。主な副作用・注意点は、高カリウム血症、腎機能の悪化(とくに両側腎動脈狭窄や脱水時)、血管浮腫であり、胎児への影響(腎障害、羊水過少など)から妊婦には禁忌である。同じレニン・アンジオテンシン系阻害薬であるACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬は、ブラジキニンの分解を抑えるため空咳が生じやすいが、これは喘息の気道収縮とは別の機序であり、ARBではブラジキニンが蓄積しないため空咳はまれである。誤りである。

喘息の増悪に注意すべき主な薬剤

1. β遮断薬(内服薬・点眼薬):β2受容体遮断による気管支収縮。非選択性β遮断薬は喘息患者に禁忌。α・β遮断薬(カルベジロールなど)も喘息患者には禁忌とされる。 2. NSAIDs:NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)の患者で発作を誘発する。内服薬だけでなく、坐薬、注射薬、湿布・塗り薬などの外用薬でも起こりうる。 3. コリン作動薬・コリンエステラーゼ阻害薬:ムスカリン受容体刺激により気管支収縮や気道分泌の増加を起こす。メタコリンは気道過敏性試験に用いられる。 4. その他:一部の造影剤や、食品・医薬品添加物(亜硫酸塩、タートラジンなど)が発作の誘因となることがある。

NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)

・成人喘息の約5〜10%を占め、小児にはまれである。 ・好酸球性副鼻腔炎、鼻茸(鼻ポリープ)、嗅覚障害を合併することが多い。 ・COX-1阻害作用の強い酸性NSAIDsで、服用後1時間以内に強い喘息発作や鼻症状を起こすことが多い。 ・比較的安全とされる鎮痛薬:アセトアミノフェン(1回量を少なめにする)、選択的COX-2阻害薬(セレコキシブ)、塩基性NSAIDs。ただしいずれも、病状が不安定な患者では発作を起こすことがあるため慎重に用いる。 ・コハク酸エステル型の副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾンコハク酸エステルなど)の急速静注で発作が悪化することがあり、発作時はリン酸エステル型を用いるか、点滴でゆっくり投与する。

気道平滑筋の自律神経支配

・交感神経(β2受容体):気管支拡張。治療薬はβ2刺激薬(サルブタモール、サルメテロールなど)。 ・副交感神経(M3受容体):気管支収縮。治療薬は抗コリン薬(チオトロピウムなど)。

POINT

・β遮断薬は気道平滑筋のβ2受容体を遮断して気管支を収縮させ、喘息を増悪させる。非選択性β遮断薬は喘息に禁忌であり、点眼薬(チモロール)でも発作を起こしうる。 ・酸性NSAIDsはNSAIDs過敏喘息を誘発するが、塩基性NSAIDs、選択的COX-2阻害薬、アセトアミノフェンは比較的安全とされる。 ・ACE阻害薬の副作用は空咳(ブラジキニン蓄積)であり、喘息の増悪とは区別する。ARBでは空咳はまれである。 ・利尿薬・抗ヒスタミン薬には喘息を増悪させる作用はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。