「使いすぎ」で壊れる骨、「血が届かず」死ぬ骨―オーバーユース障害の仲間外れを見抜く
第113回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
運動器に対する慢性的な過負荷が発症に関連しないのはどれか。
- a.腰椎分離症
- b.職業性腰痛
- c.離断性骨軟骨炎
- d.大腿骨頭壊死症
- e.Osgood-Schlatter病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腰椎分離症(関節突起間部の疲労骨折)、Osgood-Schlatter病(膝蓋腱の牽引による脛骨粗面の骨端症)、離断性骨軟骨炎(投球などによる軟骨下骨の障害)、職業性腰痛(重量物の取り扱いや不良姿勢のくり返し)は、いずれも運動器への慢性的な過負荷が発症に関わる障害です。一方、大腿骨頭壊死症は血流途絶による阻血性壊死であり、ステロイド全身投与とアルコール多飲が二大危険因子で、過負荷は発症原因ではありません。荷重で骨頭が圧潰して痛みが増すのは発症後の経過であり、原因と増悪因子を区別することが重要です。成長期のスポーツ障害は早期に発見して運動量を調整すれば良好な経過が期待できるため、疾患ごとの成因を理解しておくことは、診断だけでなく予防や患者指導にも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
本問は、運動器(骨・軟骨・腱・靱帯・筋など)に同じ方向の力がくり返し加わること、すなわち慢性的な過負荷(オーバーユース)が発症に深く関わる疾患を見分ける問題である。「関連しないもの」を選ぶ点に注意する。 慢性的な過負荷による障害は、1回の大きな外力で起こる「外傷」と区別して「スポーツ障害」「職業性障害」などと呼ばれる。代表的な病態は次の3つに整理できる。 ・骨に小さな負荷がくり返しかかって生じる疲労骨折(腰椎分離症など) ・成長期の未熟な骨端や骨端核に牽引力・圧迫力がくり返しかかって生じる骨端症(Osgood-Schlatter病など)や軟骨下骨の障害(離断性骨軟骨炎) ・作業姿勢や重量物の取り扱いのくり返しによる腰部への負担(職業性腰痛) 一方、大腿骨頭壊死症は大腿骨頭への血流が途絶えて骨組織が死ぬ「阻血性(虚血性)」の病態であり、その危険因子は副腎皮質ステロイドの全身投与やアルコール多飲などである。運動のしすぎや重労働がくり返し加わることによって起こる疾患ではない。したがって正解はdである。
選択肢考察
- ×a. 腰椎分離症
過負荷が関連する疾患である。腰椎分離症は、椎弓の上下の関節突起の間(関節突起間部)に生じた疲労骨折が癒合せず、骨が分かれたまま偽関節となった状態である。好発部位は第5腰椎で、発育期のスポーツ選手に多い。体幹の伸展(後屈)や回旋をくり返す動作で関節突起間部に応力が集中することが原因と考えられている。初期の疲労骨折の段階で運動を中止し、体幹装具などで固定すれば骨癒合が期待できるため、MRIによる早期発見が重要である。
- ×b. 職業性腰痛
過負荷が関連する疾患である。職業性腰痛は、仕事の動作や姿勢が原因となって起こる腰痛で、介護・看護職、運輸・配送業、建設業など、重量物の持ち上げや運搬、前かがみ・ひねり姿勢、長時間の同一姿勢や車両運転による振動などで腰部に反復して負担がかかる職種に多い。業務上疾病の中で最も多いものの一つであり、作業環境の改善や作業方法の工夫、腰痛予防体操などによる予防が重視される。
- ×c. 離断性骨軟骨炎
過負荷が関連する疾患である。離断性骨軟骨炎は、関節軟骨とその直下の軟骨下骨の一部が母床から分離し、進行すると関節内に遊離して関節ねずみ(遊離体)となる疾患である。成因は完全には解明されていないが、くり返す外力による軟骨下骨の疲労骨折(外傷説)が有力とされ、骨化障害や血行障害の関与も考えられている。代表例が野球の投球動作のくり返しで起こる肘の上腕骨小頭の病変(外側型野球肘)であり、そのほか膝の大腿骨内側顆、距骨滑車にも好発する。成長期のスポーツ選手に多い。
- ○d. 大腿骨頭壊死症
過負荷とは関連しない疾患であり、これが正解である。大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭の一部が血流障害によって無菌性・阻血性に壊死する疾患である。明らかな原因がない特発性のものでは、副腎皮質ステロイドの全身投与とアルコール多飲が二大危険因子として知られ、ほかに大腿骨頸部骨折などの外傷、減圧症(潜函病)、放射線照射などが原因となる続発性のものもある。壊死そのものは運動器への慢性的な過負荷によって生じるものではない。壊死部に体重がかかることで骨頭が圧潰し、そこで股関節痛が出現・増悪するが、これは発症後の経過であって発症原因ではない。
- ×e. Osgood-Schlatter病
過負荷が関連する疾患である。Osgood-Schlatter病は脛骨粗面に生じる骨端症で、成長期(おおむね10〜15歳ごろ)にジャンプやダッシュ、ボールを蹴る動作などをくり返すことで、大腿四頭筋の収縮力が膝蓋腱を介して未熟な脛骨粗面に牽引力としてくり返し加わり発症する。脛骨粗面の膨隆と圧痛、運動時痛がみられる。運動量の調整や大腿四頭筋のストレッチなどの保存療法が基本で、骨成長の終了とともに症状は軽快することが多い。
オーバーユースによる主な運動器障害
・疲労骨折: 腰椎分離症(関節突起間部)、脛骨疲労骨折(跳躍型・疾走型)、中足骨疲労骨折(行軍骨折)など ・骨端症(成長期の骨端・骨端核の障害): Osgood-Schlatter病(脛骨粗面)、Sinding-Larsen-Johansson病(膝蓋骨下極)、Sever病(踵骨骨端)など ・軟骨下骨の障害: 離断性骨軟骨炎(上腕骨小頭、大腿骨内側顆、距骨滑車) ・腱・付着部の障害: 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)、ジャンパー膝(膝蓋腱炎)、アキレス腱炎など ・職業性障害: 職業性腰痛、頸肩腕障害など
大腿骨頭壊死症の整理
・特発性大腿骨頭壊死症は指定難病であり、ステロイド関連、アルコール関連、明らかな誘因のないものに分けられる。ステロイド関連では全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病や臓器移植後の患者に多い。 ・続発性の原因には大腿骨頸部骨折・股関節脱臼などの外傷、減圧症、放射線照射などがある。 ・診断には単純X線(帯状硬化像、骨頭圧潰)とMRI(T1強調像で壊死域を囲む帯状低信号域)が有用で、MRIは早期診断に優れる。 ・壊死域の範囲や部位、圧潰の有無によって保存療法、骨切り術、人工骨頭置換術・人工股関節全置換術が選択される。 ・小児で大腿骨頭に阻血性壊死をきたすものはPerthes病と呼ばれ、これも過負荷が原因ではない。
POINT
・腰椎分離症=関節突起間部の疲労骨折。発育期のスポーツ(伸展・回旋のくり返し) ・離断性骨軟骨炎=軟骨下骨の障害。投球による上腕骨小頭の病変(野球肘)が代表 ・Osgood-Schlatter病=膝蓋腱の牽引による脛骨粗面の骨端症。成長期のジャンプ・キック動作 ・職業性腰痛=重量物取り扱いや不良姿勢のくり返し ・大腿骨頭壊死症=阻血性壊死。危険因子はステロイド全身投与とアルコール多飲で、過負荷は原因ではない
