穿孔の向こうに何が見える?―鼓膜写真は「向き」と「4象限」で読み解く
第113回医師国家試験 D問題 第5問
国試問題にチャレンジ
慢性化膿性中耳炎の手術を目的に来院した患者の右耳の鼓膜写真を別に示す。 視認されないのはどれか。

- a.ツチ骨
- b.アブミ骨
- c.鼓膜穿孔
- d.耳管開口部
- e.鼓膜石灰化
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
鼓膜写真はまずツチ骨柄で前後を決め、右耳なら写真の右が前方、光錐は前下方に見えることを確認します。本例では中心性穿孔、穿孔上縁のツチ骨柄、後上方の奥のアブミ骨、前方から下方の鼓膜石灰化が見える一方、前上象限の奥にある耳管鼓室口は残存鼓膜と石灰化に隠れて視認できません。慢性化膿性中耳炎は緊張部の中心性穿孔、真珠腫性中耳炎は弛緩部陥凹や辺縁性穿孔が特徴で、白色の石灰化は炎症を繰り返した後の鼓室硬化による変化です。4象限とその奥の構造を対応づけて覚えておくと、穿孔の位置から見える構造を推測でき、鼓膜所見の読影や手術適応の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
慢性化膿性中耳炎の右耳の鼓膜写真を読影し、写真の中に見えている構造と見えていない構造を区別できるかを問う問題である。
鼓膜写真の向きの確認
鼓膜写真を読むときは、まず左右と前後を決める。右耳では、写真の右側が前方(顔側)、左側が後方(後頭側)となる。ツチ骨柄は鼓膜の上方から中心(臍部)に向かって、後下方へ斜めに走る白い線状の構造として見える。鼓膜は、ツチ骨柄の延長線とそれに直交する臍部を通る線で、前上・前下・後上・後下の4象限に分けて位置を表現する。
本症例の所見
・鼓膜の中央付近に大きな穿孔があり、穿孔を通して中耳腔の内側壁(岬角)が透見できる。穿孔は鼓膜辺縁(鼓膜輪)に達しない中心性穿孔であり、慢性化膿性中耳炎に典型的な所見である。 ・穿孔の上縁にはツチ骨柄が見える。 ・穿孔の後上縁から奥に、アブミ骨がわずかに確認できる。 ・残存鼓膜の前方から下方にかけて、厚く白色の弧状の病変が広がっている。これは鼓膜石灰化(鼓室硬化による石灰沈着)であり、炎症を繰り返した鼓膜にしばしばみられる。
耳管開口部の位置
耳管の鼓室側開口部(鼓室口)は、中耳腔の前壁の上方、すなわち鼓膜の前上象限の奥に位置する。本例では、前方の残存鼓膜と白色の石灰化病変に覆われているため、穿孔を通しても耳管開口部は観察できない。 したがって、写真で視認されない構造は耳管開口部である。
選択肢考察
- ×a. ツチ骨
ツチ骨は耳小骨のうち最も外側にあり、その柄(ツチ骨柄)は鼓膜に付着している。本例でも穿孔の上縁に沿って、鼓膜の上方から中心に向かう白色の線状構造としてツチ骨柄が確認できる。視認されるため誤りである。
- ×b. アブミ骨
アブミ骨は耳小骨の最も内側にあり、底板が前庭窓(卵円窓)にはまっている。正常鼓膜では外から見えないが、鼓膜の後上象限の奥に位置するため、穿孔が後上方に及ぶと透見できることがある。本例では穿孔の後上縁の奥にアブミ骨がわずかに確認できる。視認されるため誤りである。
- ×c. 鼓膜穿孔
鼓膜の中央部に大きな穿孔があり、穿孔を通して中耳腔の内側壁(岬角)が見えている。辺縁に鼓膜が残存する中心性穿孔であり、慢性化膿性中耳炎で典型的にみられる形態である。視認されるため誤りである。なお、辺縁性穿孔や弛緩部の陥凹は真珠腫性中耳炎を疑う所見として区別して覚えておく。
- ○d. 耳管開口部
耳管の鼓室口は、中耳腔前壁の上方、鼓膜でいえば前上象限の奥に開口している。本例は右耳であるため写真の右上方にあたるが、この部分は残存鼓膜と白色の石灰化病変に覆われており、穿孔からも耳管開口部をのぞき込むことはできない。写真で視認されない構造であり、これが正解である。
- ×e. 鼓膜石灰化
残存鼓膜の前方から下方にかけて、厚みのある白色の弧状病変が見える。これは鼓膜石灰化であり、中耳の炎症を繰り返した結果、鼓膜の固有層(中間の結合組織層)に硝子化や石灰沈着が生じたもの(鼓室硬化症の鼓膜病変)である。視認されるため誤りである。鼓膜に限局した石灰化は聴力への影響が小さいことが多いが、病変が耳小骨周囲に及ぶと可動性が低下し、伝音難聴が強くなる。
鼓膜の正常構造
・緊張部と弛緩部:鼓膜の大部分は緊張部で、上方の小さな領域が弛緩部(Shrapnell膜)である。 ・ツチ骨柄と短突起:緊張部の上方にツチ骨短突起が小さな突出として見え、そこから臍部へツチ骨柄が走る。 ・光錐:臍部から前下方へ向かう三角形の光の反射。右耳では写真の右下、左耳では左下に見える。 ・4象限:ツチ骨柄の延長線と、それに直交し臍部を通る線で前上・前下・後上・後下に分ける。 ・鼓膜の奥の構造:後上象限の奥にキヌタ骨長脚とアブミ骨、後下象限の奥に正円窓(蝸牛窓)、前上象限の奥に耳管鼓室口がある。
慢性中耳炎の分類と特徴
1. 慢性化膿性中耳炎(慢性穿孔性中耳炎) ・緊張部の中心性穿孔が特徴。耳漏を繰り返し、伝音難聴を呈する。 ・耳漏の起炎菌として黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)や緑膿菌が多い。 ・保存的治療(耳洗浄、点耳薬など)で耳漏を止めたうえで、鼓膜形成術や鼓室形成術で穿孔を閉鎖し、聴力の改善を図る。 2. 真珠腫性中耳炎 ・弛緩部の陥凹や辺縁性穿孔、白色の角化物の堆積が特徴。骨破壊性に進展し、顔面神経麻痺、内耳瘻孔(めまい)、頭蓋内合併症の原因となるため、手術による摘出が原則である。 3. 鼓室硬化症 ・中耳炎を繰り返した後に、鼓膜や鼓室粘膜に硝子化・石灰沈着が起こる。鼓膜の白色斑として見え、耳小骨の固着をきたすと伝音難聴が進行する。
耳管の役割
耳管は中耳腔と上咽頭を結ぶ管で、中耳腔の換気(圧の調整)、排泄、防御の働きをもつ。鼓室側の開口部は前上方、咽頭側の開口部は上咽頭の側壁(下鼻甲介後端の後方)にある。
POINT
・鼓膜写真では、まず左右・前後を確認する。右耳は写真の右が前、左耳は写真の左が前である。 ・耳管鼓室口は鼓膜前上象限の奥にあり、通常の鼓膜所見では見えにくい。 ・アブミ骨は後上象限の奥にあり、後上方の穿孔があると透見できることがある。 ・慢性化膿性中耳炎は緊張部の中心性穿孔、真珠腫性中耳炎は弛緩部陥凹・辺縁性穿孔が特徴である。 ・鼓膜の白色の石灰化病変は、炎症を繰り返した後の鼓室硬化による変化である。
