StudyMed医師国家試験

発作の現場でまず手に取る一本―アスピリン喘息でも変わらない「最初のSABA」

第120回医師国家試験 A問題 第62問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第62問

44歳の男性。喘鳴を伴う呼吸困難のため夜間に救急外来を受診した。2日前から感冒様症状があり,昨日からの喘鳴が出現した。2年前に気管支喘息と診断され,自宅近くの診療所から副腎皮質ステロイド吸入薬を処方されており,最近は調子が良かったため,自己判断で吸入を中止していた。以前,感冒様症状があり,市販の解熱薬内服で喘息症状が悪化したエピソードがある。喫煙歴はない。意識は清明。身長168cm,体重68kg。体温37.6℃。脈拍88/分,整。血圧120/78mmHg。呼吸数20/分。SpO2 89%(room air)。心音に異常を認めない。呼吸音は両側全肺野で呼気時にwheezesを聴取する。鼻茸がある。診察後,酸素吸入を開始した。  次に行うべき治療はどれか。

  1. a.NSAID投与
  2. b.副腎皮質ステロイド吸入
  3. c.短時間作用型β2刺激薬吸入
  4. d.生物学的製剤の皮下投与
  5. e.抗菌薬の静脈内投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、夜間救急に来た喘息発作の初期治療を問う問題だ。注目してほしいのは2つ。1つは、どの程度の発作で、まず何をすべきか。もう1つは、問題文にさりげなく書かれた背景が、治療にどう影響するかだ。まずは病態の整理から。全肺野で呼気時にwheezesが聞こえる、という所見から何を考える?
医学生医学生
呼気時の笛様音なので、気道が狭くなっている閉塞性の病態ですね。喘息の既往もあるので、喘息発作だと思います。
ドクタードクター
そうだね。しかも吸入ステロイドを自己判断でやめていて、そこに感冒が引き金として加わった。増悪の条件がそろっているんだ。心音に異常がないから、心不全による喘鳴を積極的に疑う材料もない。では、背景で気になるところは?
医学生医学生
市販の解熱薬で喘息が悪化したことがあって、鼻茸もある……呼吸器内科の講義で習ったアスピリン喘息でしょうか。
ドクタードクター
その通り。解熱鎮痛薬による喘息悪化と鼻茸の組み合わせは、アスピリン喘息、別名NSAIDs過敏喘息を強く示唆する。喘息・鼻茸・アスピリン過敏の3つはSamterの3徴と呼ばれるね。では発作の重症度はどうだろう。SpO2が89%だ。
医学生医学生
90%を切っているので、かなり重い発作ということですか。
ドクタードクター
日本のガイドラインではSpO2 90%以下が高度発作の目安とされている。だからまず酸素を始めたわけだ。その次に何をするか、というのが今回の問いだよ。
医学生医学生
アスピリン喘息という特殊な病型なので、何か特別な治療を選ぶのかなと迷いました。
ドクタードクター
そこがこの問題の引っかけどころなんだ。喘息発作で最初に使うのは、原因がアスピリン喘息であってもなくても、短時間作用型β2刺激薬、つまりSABAの吸入だ。SABAは気管支平滑筋のβ2受容体を刺激してcAMPを増やし、数分で平滑筋をゆるめて気道を広げる。効果が足りなければ20分ごとに繰り返せるし、アスピリン喘息にも安全に使える。
医学生医学生
病型が特殊でも、まず気道を広げるという基本は同じなんですね。でも熱もあるので、解熱薬を使いたくなります。
ドクタードクター
ここが一番危ないところだよ。アスピリン喘息の人にNSAIDを使うと、命に関わる発作を起こしうる。NSAIDがCOX-1を阻害すると、アラキドン酸の代謝がリポキシゲナーゼ経路へ偏って、強力な気道収縮物質であるシステイニルロイコトリエンが過剰に作られるからなんだ。COX-1阻害作用があればNSAIDの種類を問わず交差反応を起こすから禁忌。どうしても解熱が必要なら、アセトアミノフェンを少量で慎重に使う。
医学生医学生
吸入ステロイドをやめたのが原因なら、吸入ステロイドを再開するのが正解では、とも思いました。
ドクタードクター
鋭い視点だけど、吸入ステロイドは気道の慢性炎症を抑える長期管理薬で、効き始めるまでに時間がかかる。発作で狭くなった気道をその場で広げる力はないんだ。もちろん発作が落ち着いたら必ず再開してもらうし、自己中断しないよう指導することが再発予防の要になる。発作時にステロイドを使うなら、点滴や内服の全身投与だよ。
医学生医学生
生物学的製剤はどうでしょう。最近いろいろ出ていて、CBTの勉強でも抗IL-5抗体などを覚えました。
ドクタードクター
よく勉強しているね。オマリズマブやメポリズマブ、デュピルマブなどの生物学的製剤は、高用量の吸入ステロイドなどを使っても管理しきれない難治性喘息の長期管理薬なんだ。発作を速やかに止める薬ではないし、この患者さんはそもそも基本治療を中断していただけだから、適応を考える段階でもない。
医学生医学生
感冒がきっかけで発熱もあるので、抗菌薬も必要かと思いましたが。
ドクタードクター
感冒の多くはウイルス性で、膿性痰や胸部X線での浸潤影など、細菌性肺炎を示す所見は今回示されていない。喘息発作に抗菌薬をルーチンで使うことは勧められず、細菌感染の合併が疑われるときに限って検討するんだ。
医学生医学生
酸素で低酸素を補って、まずSABAで気道を広げる。アスピリン喘息だと分かったら、NSAIDを避けることに注意する、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。そのうえで発展知識を押さえておこう。中等度以上の発作では、SABAに加えて全身性ステロイドを早めに追加する。ここでアスピリン喘息ならではの注意点がある。ヒドロコルチゾンやメチルプレドニゾロンのコハク酸エステル型を急速静注すると、発作が悪化することがあるんだ。だからデキサメタゾンやベタメタゾンのようなリン酸エステル型を、点滴でゆっくり投与するのが望ましい。
医学生医学生
ステロイドなのに喘息を悪化させることがあるなんて意外です。救急外来で当直するときに必ず思い出すようにします。
ドクタードクター
ぜひ覚えておいてほしい。それでも改善しなければ短時間作用型抗コリン薬の吸入やアミノフィリン点滴、アドレナリン皮下注を検討し、重篤なら挿管も考える。また、アスピリン喘息は湿布や点眼薬のNSAIDでも発作が起こりうるし、病態の中心がロイコトリエンだから、長期管理ではロイコトリエン受容体拮抗薬がよく効く。鼻茸を伴う副鼻腔炎の治療も喘息の安定に役立つよ。

まとめ

喘息発作の初期治療は、低酸素血症があれば酸素投与を行い、原因にかかわらず短時間作用型β2刺激薬(SABA)吸入で速やかに気道を広げることから始まり、中等度以上では全身性ステロイドを早期に追加します。解熱鎮痛薬による喘息悪化の既往と鼻茸はアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)を示唆し、COX-1阻害によってシステイニルロイコトリエンが過剰産生されるため、NSAIDは剤形を問わず禁忌で、ステロイド静注ではコハク酸エステル型の急速静注を避けリン酸エステル型を点滴で用います。吸入ステロイドや生物学的製剤は長期管理薬であって発作を止める薬ではなく、抗菌薬も細菌感染を疑うときに限られます。発作の場面で「まず何をするか」という基本と、病型ごとに「何を避けるか」を区別しておくことは、救急外来での安全な喘息診療に直結します。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・44歳男性。2日前からの感冒様症状に続き、昨日から喘鳴が出現し、夜間に喘鳴を伴う呼吸困難で救急受診した。 ・2年前に気管支喘息と診断され、吸入ステロイド薬(ICS:inhaled corticosteroid)を処方されていたが、調子が良いため自己判断で中止していた。つまり長期管理(コントローラー)が途切れていた状態である。 ・過去に市販の解熱薬を内服して喘息が悪化した既往がある。 ・鼻茸(鼻ポリープ)を認める。 ・体温37.6℃、呼吸数20/分、SpO2 89%(室内気)と低酸素血症がある。心音は正常で、両側全肺野で呼気時wheezes(笛様音)を聴取する。

診断に至る過程

呼気時に全肺野でwheezesを聴取する喘鳴・呼吸困難は、気道が狭くなる閉塞性の病態を示す。喘息の既往があること、ICSの自己中断という増悪の下地があること、ウイルス性と考えられる上気道感染が引き金になっていることから、気管支喘息の急性増悪(喘息発作)と判断できる。心音に異常がなく、心不全による喘鳴(いわゆる心臓喘息)を積極的に疑う所見はない。 さらに、解熱鎮痛薬(多くはNSAID:非ステロイド性抗炎症薬)による喘息悪化の既往と鼻茸の合併から、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、N-ERD/AERDとも呼ばれる)の存在が強く示唆される。 SpO2 89%は日本の喘息予防・管理ガイドラインで高度発作の目安とされるSpO2 90%以下に該当し、ただちに酸素投与と気管支拡張治療を始める必要がある。

設問の考え方

酸素投与を開始した後、次に行う治療が問われている。喘息発作の治療で最初に行うのは、短時間で気道を広げる短時間作用型β2刺激薬(SABA)の吸入である。そのうえで、中等度以上の発作では全身性ステロイド(点滴静注または内服)を早期に追加する。アスピリン喘息であることは「使ってはいけない薬」と「ステロイドの剤形選択」に影響するが、SABA吸入が第一選択であることは変わらない。

選択肢考察

  1. ×a.  NSAID投与

    誤り。発熱があるからといって解熱目的にNSAIDを使うと、アスピリン喘息では致死的になりうる重篤な発作を誘発する。アスピリン喘息ではシクロオキシゲナーゼ(COX)-1の阻害によってアラキドン酸代謝がリポキシゲナーゼ経路へ偏り、気道収縮作用の強いシステイニルロイコトリエンが過剰に産生されるためである。COX-1阻害作用をもつNSAIDは種類を問わず交差反応を起こすので、本症では禁忌である。解熱が必要な場合はアセトアミノフェンを少量(1回300mg以下が目安)で慎重に用いる。

  2. ×b.  副腎皮質ステロイド吸入

    誤り。吸入ステロイドは気道の慢性炎症を抑える長期管理薬の中心であり、本例でも自己中断が増悪の一因と考えられるため、発作が落ち着いた後には必ず再開・継続させる。しかし効果が出るまでに時間がかかり、急性発作で狭くなった気道をすぐに広げる作用はないため、発作時の初期治療にはならない。発作時に用いるステロイドは全身投与(点滴静注または内服)である。なおアスピリン喘息では、コハク酸エステル型ステロイド(ヒドロコルチゾンコハク酸エステル、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルなど)の急速静注で発作が悪化することがあるため、リン酸エステル型(デキサメタゾン、ベタメタゾン)を点滴でゆっくり投与するのが望ましい。

  3. ○c.  短時間作用型β2刺激薬吸入

    正解。SABA(サルブタモール、プロカテロールなど)は気管支平滑筋のβ2受容体を刺激して細胞内cAMPを増やし、数分以内に平滑筋を弛緩させて気道を広げる。喘息発作では原因(アスピリン喘息か否か)にかかわらず最初に用いる薬であり、効果が不十分なら20分ごとに反復吸入できる。SABAは本症の発作にも安全に使える。本例は酸素投与に続いてSABA吸入を行い、低酸素血症と高度発作であることを考えて全身性ステロイドを早期に追加するのが標準的な流れである。

  4. ×d.  生物学的製剤の皮下投与

    誤り。抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-5受容体α抗体(ベンラリズマブ)、抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)、抗TSLP抗体(テゼペルマブ)などの生物学的製剤は、高用量ICSと長時間作用型β2刺激薬(LABA)などを併用しても十分に管理できない重症(難治性)喘息の長期管理に用いる薬である。効果発現に時間がかかり、発作を速やかに止める目的で投与するものではない。本例はICSを自己中断していただけであり、まず基本治療の再開・遵守が優先される。

  5. ×e.  抗菌薬の静脈内投与

    誤り。今回の増悪の引き金は感冒(多くはウイルス性の上気道感染)と考えられ、膿性痰、胸部X線での浸潤影、高熱など細菌性肺炎を示唆する所見は示されていない。喘息発作に対する抗菌薬のルーチン投与は推奨されず、明らかな細菌感染の合併が疑われる場合に限って検討する。

アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、N-ERD/AERD)

・アスピリンに限らず、COX-1阻害作用をもつNSAID全般によって強い喘息発作と鼻症状(鼻閉・鼻汁)が誘発される病態で、アレルギー(IgE介在性)ではなく薬理作用による過敏症である。 ・成人喘息の約5〜10%を占め、20〜40歳代の発症が多く、やや女性に多い。小児にはまれである。 ・好酸球性副鼻腔炎と鼻茸を高率に合併し、嗅覚障害を伴いやすい。喘息・鼻茸・アスピリン過敏の三つは「Samterの3徴」と呼ばれる。 ・病態の中心はシステイニルロイコトリエンの過剰産生であり、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)がよく効く。

アスピリン喘息で注意すべき薬剤

・禁忌:内服・注射・坐薬のNSAIDのほか、貼付薬・塗布薬・点眼薬のNSAIDでも発作が起こることがある。 ・比較的安全:アセトアミノフェン少量(1回300mg以下)、選択的COX-2阻害薬(セレコキシブなど。ただし慎重投与)。 ・ステロイド静注:コハク酸エステル型の急速静注は避け、リン酸エステル型を点滴で用いる。 ・ほかに、一部の食品添加物(着色料・防腐剤)や香料で症状が出ることもある。

喘息発作時の治療の流れ(概略)

1. 発作の強さを評価する(会話・歩行の可否、SpO2、呼吸数など)。 2. 低酸素血症があれば酸素投与(SpO2 93〜95%程度を目標)。 3. SABA吸入(必要に応じ20分ごとに反復)。 4. 中等度以上や改善不十分な例では全身性ステロイドを早期に追加する。 5. さらに改善しなければ、短時間作用型抗コリン薬吸入、アミノフィリン点滴、アドレナリン皮下注などを検討し、重篤例では挿管・人工呼吸管理を考慮する。 発作がおさまった後は、ICSを中心とした長期管理の再開と、自己判断で中止しないための患者教育が重要である。鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対する治療(点鼻ステロイド、内視鏡下副鼻腔手術など)も喘息の安定化に役立つ。

POINT

・喘息発作の第一選択は、原因を問わずSABA吸入である(低酸素血症があれば酸素投与を併行)。 ・中等度以上の発作では全身性ステロイドを早期に追加する。ICSは長期管理薬であり発作を止める薬ではない。 ・「解熱鎮痛薬で喘息が悪化」+「鼻茸」→アスピリン喘息。NSAIDは禁忌、ステロイド静注はリン酸エステル型を点滴で。 ・生物学的製剤は難治性喘息の長期管理薬、抗菌薬は細菌感染を疑うときのみ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。