「3か月で妊娠しない」は不妊症?―まず始めるのは検査より排卵日の把握
第113回医師国家試験 C問題 第33問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。挙児を希望して来院した。月経周期は30日型,持続は5日間。避妊せずに3か月経ったが妊娠しなかったため来院した。内診で子宮と卵巣とに異常を認めない。Douglas窩に異常を認めない。基礎体温は2相性である。 この時点で適切な説明はどれか。
- a.「排卵日を見つけましょう」
- b.「子宮卵管造影検査をします」
- c.「排卵誘発薬を服用してください」
- d.「あなたの染色体検査をしましょう」
- e.「抗カルジオリピン抗体を検査します」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不妊症は、妊娠を望む健康な男女が避妊せずに性交しているにもかかわらず、一般的に1年妊娠しない状態と定義され、2015年に2年から1年へ改められました。避妊中止から3か月で、月経周期・内診・基礎体温に異常がなければ、まずは排卵日を把握して性交のタイミングを合わせる指導を行います。基礎体温が2相性なら排卵があると推定でき、排卵誘発薬の適応はなく、子宮卵管造影などの精査も1年経過後や卵管因子を疑う背景がある場合に考えます。夫婦の染色体検査や抗カルジオリピン抗体は不育症の原因検索であり、「妊娠しない」不妊症とは区別が必要です。ただし35歳以上や明らかなリスク因子がある場合は早めの精査が勧められ、定義と個別のリスクの両方をふまえて対応を選ぶ姿勢が臨床では欠かせません。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・28歳の女性で、挙児を希望している。避妊をやめてからの期間はまだ3か月である。 ・月経周期30日型、持続5日間:周期・持続日数ともに正常範囲(周期25〜38日、持続3〜7日)にあり、月経異常はない。 ・内診で子宮・卵巣に異常なし:子宮筋腫や卵巣腫瘍、子宮の形態異常など、触知できる器質的病変はない。 ・Douglas窩に異常なし:子宮内膜症でみられるDouglas窩の硬結・圧痛や癒着を示唆する所見はなく、子宮内膜症を積極的に疑う根拠に乏しい。 ・基礎体温は2相性:排卵後に黄体から分泌されるプロゲステロンの体温上昇作用で高温相が形成されていることを意味し、排卵が起こっていると推定できる。
診断に至るプロセス
日本産科婦人科学会の定義では、不妊症とは「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(一般的には1年)妊娠しないもの」である。本例は避妊を中止してから3か月しか経っておらず、不妊症の定義を満たさない。健康なカップルでも1周期あたりの妊娠率は20〜30%程度にとどまり、3か月で妊娠しないことは珍しくない。加えて、月経・内診所見・基礎体温のいずれにも異常がなく、現時点で器質的にも機能的にも問題は見つかっていない。つまり「挙児希望の健常女性」と考えるのが妥当である。
設問の考え方
この段階で求められるのは、侵襲的な不妊症検査や薬物治療ではなく、自然妊娠の確率を高めるための生活指導である。具体的には排卵日を把握し、妊娠しやすい時期に性交をもつよう指導する(タイミング指導・タイミング法)。精査が必要となるのは、1年経過しても妊娠しない場合や、年齢・既往などから早期の検査が望ましいと判断される場合であり、反復する流産があれば不育症の検査を検討する。
選択肢考察
- ○a. 「排卵日を見つけましょう」
本例は不妊症の定義(通常1年)を満たさず、月経・内診・基礎体温に異常のない健常女性である。まずは自然妊娠を目指し、排卵日を把握して性交のタイミングを合わせる指導を行うのが適切である。排卵日の推定には、基礎体温表(低温相の最終日〜高温相への移行期が排卵期の目安)、尿中LH(黄体形成ホルモン)を検出する市販の排卵検査薬、経腟超音波による卵胞径の計測などが用いられる。卵子の受精能は排卵後およそ1日、精子は女性生殖管内で数日生存するため、排卵の数日前から排卵日までが最も妊娠しやすい時期である。
- ×b. 「子宮卵管造影検査をします」
子宮卵管造影(HSG:hysterosalpingography)は、子宮腔の形態異常や卵管の通過性(卵管閉塞・狭窄)を評価する不妊症の基本検査である。しかし本例は避妊中止後3か月で不妊症に該当せず、造影剤使用・疼痛・被曝などの負担を伴う検査を現時点で行う必要はない。1年たっても妊娠しない場合や、クラミジア感染・骨盤内手術の既往など卵管因子を疑う背景がある場合に考慮する。
- ×c. 「排卵誘発薬を服用してください」
排卵誘発薬(クロミフェンなど)は、多嚢胞性卵巣症候群などの排卵障害による不妊に用いる。本例は基礎体温が2相性で排卵が起こっていると考えられ、月経周期も正常であるため、排卵誘発の適応はない。不要な使用は多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの副作用のリスクを生む。
- ×d. 「あなたの染色体検査をしましょう」
夫婦の染色体検査は、流産を繰り返す不育症の原因検索として行われ、均衡型転座(相互転座やRobertson転座)の保因を調べる目的がある。本例には妊娠歴・流産歴の記載がなく、不育症には該当しない。また原発性無月経などで性染色体異常(Turner症候群など)を疑う場合にも行うが、本例は月経正常であり適応はない。
- ×e. 「抗カルジオリピン抗体を検査します」
抗カルジオリピン抗体は抗リン脂質抗体の一つで、抗リン脂質抗体症候群(血栓症や流産・死産などの妊娠合併症を起こす自己免疫疾患)の診断に用いる。不育症の原因精査として測定される検査であり、妊娠に至っていない本例では現時点で行う必要はない。
不妊症の定義と精査開始のタイミング
不妊症は、妊娠を望む健康な男女が避妊せずに性交しているのに一定期間(一般的には1年)妊娠しない状態をいう。2015年に日本産科婦人科学会が、それまでの「2年」から「1年」へと定義を改めた。ただし女性が35歳以上の場合や、月経異常・骨盤内感染の既往・男性因子が疑われる場合など、妊娠しにくい要因が明らかなときは1年を待たずに検査・治療を始めることが勧められる。
不妊症の主な原因と基本検査
・排卵因子:基礎体温、血中ホルモン(LH、FSH、エストラジオール、プロラクチン、甲状腺機能など)、超音波による卵胞計測 ・卵管因子:子宮卵管造影、クラミジア抗体 ・子宮因子:超音波、子宮鏡(筋腫、ポリープ、奇形など) ・頸管因子:頸管粘液検査、性交後試験(Huhner試験) ・男性因子:精液検査 ・子宮内膜症:内診、超音波、必要に応じ腹腔鏡
不育症との区別
不育症は、妊娠は成立するものの流産・死産を2回以上繰り返し、生児を得られない状態をいう。原因検索として、夫婦の染色体検査、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなど)、子宮形態検査、内分泌検査などを行う。「妊娠しない」不妊症と「妊娠しても継続しない」不育症とでは、行う検査が異なる。
基礎体温の読み方
排卵後、黄体から分泌されるプロゲステロンが体温中枢に作用し、体温が約0.3〜0.5℃上昇する。そのため排卵周期では低温相と高温相の2相性を示し、無排卵周期では1相性となる。高温相が短い(およそ10日未満)場合は黄体機能不全を疑う。
POINT
・不妊症の定義は「避妊せず一般的に1年妊娠しない」(2015年に2年から1年へ変更)。 ・3か月の未妊娠で、月経・内診・基礎体温が正常なら、まず排卵日を把握して性交のタイミングを合わせる指導を行う。 ・基礎体温2相性=排卵ありと推定でき、排卵誘発薬の適応はない。 ・夫婦染色体検査・抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体)検査は不育症の精査項目である。 ・35歳以上や明らかなリスク因子があれば、1年を待たずに精査を考慮する。
