StudyMed医師国家試験

疥癬はくしゃみでうつらない―病原体の「通り道」で選ぶ感染予防策

第113回医師国家試験 B問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第4問

病原体と感染予防策の組合せで適切でないのはどれか。

  1. a.HIV ―― 標準予防策〈standard precautions〉
  2. b.ヒゼンダニ ―― 飛沫予防策〈droplet precautions〉
  3. c.麻疹ウイルス ―― 空気予防策〈airborne precautions〉
  4. d.Clostridium difficile ―― 接触予防策〈contact precautions〉
  5. e.インフルエンザウイルス ―― 飛沫予防策〈droplet precautions〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病原体ごとの感染経路と、それに対応する予防策の組合せを問う問題だ。ポイントは「その病原体はどうやって人から人へ移るのか」を一つずつ思い浮かべること。まず、感染対策の土台になる考え方から確認しよう。
医学生医学生
標準予防策と感染経路別予防策の二段構え、ですよね。臨床実習が始まる前のオリエンテーションで手指衛生と一緒に習いました。
ドクタードクター
その通り。標準予防策は、感染症があるかどうかにかかわらず、すべての患者の血液、汗を除く体液・分泌物・排泄物、傷のある皮膚や粘膜を感染性ありとして扱う基本の対策だ。そのうえで、標準予防策だけでは防ぎきれない病原体には、接触・飛沫・空気の3つの経路別予防策を上乗せする。
医学生医学生
飛沫と空気の違いがいつも曖昧になります。どちらも咳で広がるイメージがあって。
ドクタードクター
そこは粒子の大きさと届く距離で区別するといい。飛沫は径5μmより大きく重いので、1〜2m程度で落ちる。空気感染は飛沫の水分が蒸発した飛沫核、つまり径5μm以下の微小な粒子が長く空中を漂い、離れた場所の人にも感染する。だから空気予防策では陰圧個室とN95マスクが必要になるんだ。
医学生医学生
空気感染は結核、麻疹、水痘の3つと覚えています。だから麻疹を空気予防策とする組合せは正しいですね。
ドクタードクター
正解。麻疹は感染力がきわめて強いので、疑った段階で空気予防策を始め、免疫が確認された職員が対応するのが望ましい。一方、インフルエンザは飛沫感染の代表で、近くで対応するときはサージカルマスク、患者さんにもマスクをお願いする。手指や物品を介した接触感染もありうるから、手指衛生も欠かせないよ。
医学生医学生
HIVは標準予防策だけでいいんでしょうか。重い感染症なので、何か上乗せが必要な気もします。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でもHIVは血液や精液、腟分泌液、母乳などが粘膜や傷口に入ることで感染し、日常的な接触や咳ではうつらない。だから血液・体液を確実に扱う標準予防策で十分なんだ。実は標準予防策そのものが、HIV流行期に提唱された普遍的予防策を発展させた考え方なんだよ。針刺し事故を防ぐためにリキャップしない、というのも標準予防策の大事な要素だ。
医学生医学生
Clostridium difficileは接触予防策ですね。抗菌薬の後に偽膜性腸炎を起こす菌だと消化器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
そう、現在の学名はClostridioides difficileだ。便中の菌、とくに芽胞が手指や環境表面を介して広がるから接触予防策になる。注意したいのは、芽胞にはアルコール系手指消毒薬が効かないこと。石けんと流水で物理的に洗い流し、環境は次亜塩素酸ナトリウムなど芽胞に有効な薬剤で消毒する。
医学生医学生
となると残るのはヒゼンダニと飛沫予防策の組合せ。疥癬は皮膚の病気なので、飛沫で広がるとは考えにくいです。
ドクタードクター
その通り、これが適切でない組合せだ。ヒゼンダニは皮膚の角質層にトンネルを掘って寄生するダニで、皮膚どうしの直接接触や、寝具・衣類・タオルなどを介して広がる。咳やくしゃみで移ることはないから、必要なのは手袋やガウンを使う接触予防策だね。
医学生医学生
皮膚科を回ったとき、高齢者施設から紹介された患者さんで、病棟全体がすごく警戒していたのを覚えています。
ドクタードクター
それはおそらく角化型疥癬、かつてノルウェー疥癬と呼ばれたタイプを念頭に置いた対応だろう。通常の疥癬ではダニは数十匹以下とされるけれど、免疫が落ちた人や高齢者に多い角化型疥癬では100万匹以上に及ぶこともあり、剥がれ落ちた角質からも感染する。だから個室管理を含めた、より厳重な接触予防策をとるんだ。
医学生医学生
接触予防策には耐性菌やノロウイルスも入りますよね。経路で整理すると覚えやすいです。
ドクタードクター
いいまとめだ。接触予防策にはMRSAなどの薬剤耐性菌、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎、アデノウイルスによる流行性角結膜炎も含まれる。飛沫予防策は風疹、ムンプス、百日咳、マイコプラズマ、髄膜炎菌など。臨床では診断が確定する前から、症状と状況で疑わしい経路の予防策を先に始めることが大切だよ。
医学生医学生
病名を見たら、まず「どの経路で移るか」を考える習慣をつけます。

まとめ

医療現場の感染対策は、すべての患者に行う標準予防策を土台に、病原体の感染経路に応じて接触・飛沫・空気予防策を上乗せする二段構えで成り立っています。空気感染の代表は結核・麻疹・水痘で陰圧個室とN95マスク、飛沫感染の代表はインフルエンザ・風疹・ムンプス・百日咳でサージカルマスク、接触感染の代表は疥癬・C. difficile・ノロウイルス・薬剤耐性菌で手袋とガウンを用います。疥癬の原因であるヒゼンダニは皮膚の直接接触や寝具・衣類を介して広がるため飛沫予防策は不適切で、とくに角化型疥癬では個室管理を含む厳重な接触予防策が必要です。HIVなど血液媒介病原体は標準予防策で対応し、C. difficileの芽胞にはアルコールが効かないため石けんと流水での手洗いが重要です。病原体ごとの「通り道」を理解しておくことは、院内感染を防ぎ患者と医療者の双方を守るための基本となります。

解答・解説

正解はbです

問われていること

病原体ごとの主な感染経路を理解し、それに対応する感染予防策を正しく選べるかが問われている。

感染予防策の基本構造

医療現場の感染対策は二段構えで考える。 1. 標準予防策〈standard precautions〉: 感染症の有無にかかわらず、すべての患者に対して実施する基本の対策である。血液、汗を除くすべての体液・分泌物・排泄物、傷のある皮膚、粘膜は感染性があるものとして扱い、手指衛生、手袋・ガウン・マスク・ゴーグルなどの個人防護具の適切な使用、鋭利器材の安全な取り扱い、咳エチケットなどを行う。 2. 感染経路別予防策: 標準予防策だけでは防ぎきれない病原体に対して、その感染経路に合わせて上乗せする対策である。接触予防策、飛沫予防策、空気予防策の3種類がある。

3つの感染経路の区別

・空気感染: 飛沫の水分が蒸発した微小な粒子(飛沫核、径5μm以下)が長時間空中を漂い、離れた場所の人にも感染する。代表は結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)である。 ・飛沫感染: 咳やくしゃみ、会話で生じる比較的大きな飛沫(径5μmより大)が、およそ1〜2m以内の人の粘膜に付着して感染する。インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマ、髄膜炎菌などが代表である。 ・接触感染: 患者への直接接触、または汚染された物品・環境を介した間接接触で感染する。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬などが代表である。

考え方

各選択肢の病原体がどの経路で広がるかを思い浮かべ、組み合わされた予防策と一致するかを確認すればよい。疥癬の原因であるヒゼンダニは皮膚どうしの接触や寝具・衣類を介して広がる接触感染であり、飛沫予防策を組み合わせたものが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  HIV ―― 標準予防策〈standard precautions〉

    適切な組合せである。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は血液、精液、腟分泌液、母乳などの体液が粘膜や傷口に入ることで感染し、日常的な接触、咳、くしゃみでは感染しない。したがって医療現場では、血液・体液を感染性のあるものとして扱う標準予防策を確実に行えば十分であり、感染経路別予防策の追加は不要である。針刺し事故防止(リキャップをしない、廃棄容器の使用)も標準予防策に含まれる重要な要素である。なお標準予防策は、1980年代のHIV/AIDS流行を背景に米国で提唱された普遍的予防策〈universal precautions〉を発展させた概念である。

  2. ○b.  ヒゼンダニ ―― 飛沫予防策〈droplet precautions〉

    適切でない組合せであり、これが正解である。ヒゼンダニは疥癬の原因となる節足動物(ダニ)で、皮膚の角質層に寄生してトンネル(疥癬トンネル)を掘り、そこで産卵する。感染は皮膚と皮膚の直接接触、あるいは寝具・衣類・タオルの共用など物品を介して起こり、咳やくしゃみの飛沫で広がることはない。病院や高齢者施設での集団発生がしばしば問題となり、対策としては接触予防策(手袋・ガウンの着用、リネン類の適切な処理など)が必要である。とくに角質が厚く増殖したダニの数がきわめて多い角化型疥癬(かつてのノルウェー疥癬)は感染力が強く、個室管理を含むより厳重な接触予防策を行う。

  3. ×c.  麻疹ウイルス ―― 空気予防策〈airborne precautions〉

    適切な組合せである。麻疹ウイルスは結核菌、水痘・帯状疱疹ウイルスと並ぶ空気感染の代表的病原体で、感染力がきわめて強い。空気予防策では、患者を陰圧管理された個室(空気感染隔離室)に収容し、入室する医療従事者はN95マスクを着用する。また、免疫をもつ(予防接種歴や抗体陽性が確認された)職員が対応することが望ましい。疑い例の段階から速やかに空気予防策を開始することが重要である。

  4. ×d.  Clostridium difficile ―― 接触予防策〈contact precautions〉

    適切な組合せである。Clostridium difficile(現在の学名はClostridioides difficile)は、抗菌薬投与による腸内細菌叢の乱れ(菌交代現象)を背景に増殖し、毒素を産生して偽膜性腸炎などの下痢症を起こす。患者の便に含まれる菌、とくに芽胞が手指や環境表面を介して伝播するため、接触予防策を行う。芽胞は環境中で長期間生存し、アルコール系手指消毒薬が無効であるため、石けんと流水による手洗いで物理的に除去すること、環境消毒には次亜塩素酸ナトリウムなどの芽胞に有効な薬剤を用いることが重要である。診断には便中のCDトキシン(毒素)やGDH抗原の検出が用いられる。

  5. ×e.  インフルエンザウイルス ―― 飛沫予防策〈droplet precautions〉

    適切な組合せである。インフルエンザウイルスは、感染者の咳やくしゃみで生じた飛沫が近くにいる人の鼻や口の粘膜に付着することで感染する、飛沫感染の代表的病原体である。飛沫予防策としては、患者を個室または同じ感染症患者どうしで同室(コホーティング)とし、患者から約1〜2m以内で対応する際にはサージカルマスクを着用する。患者自身にもマスク着用を促す。ウイルスが付着した手指や物品を介した接触感染も起こりうるため、手指衛生も欠かせない。

感染経路別予防策の具体的内容

・接触予防策: 原則として個室またはコホーティング。患者や周囲環境に触れる際は手袋とガウンを着用する。聴診器や血圧計などは患者専用とする。 ・飛沫予防策: 個室またはコホーティング(ベッド間隔を1m以上あける)。患者の近くで対応する際はサージカルマスクを着用する。患者が移動する際は患者にもサージカルマスクを着用させる。 ・空気予防策: 陰圧で、空気が室外へ漏れないように管理された個室を用いる。入室者はN95マスクを着用し、着用時には顔との密着性を確認する(シールチェック)。患者が移動する際は患者にサージカルマスクを着用させる。

代表的な病原体と予防策の整理

・空気予防策: 結核、麻疹、水痘、播種性帯状疱疹 ・飛沫予防策: インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマ肺炎、髄膜炎菌感染症、溶連菌性咽頭炎 ・接触予防策: MRSAなどの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス・ロタウイルスなどの感染性胃腸炎、疥癬、流行性角結膜炎(アデノウイルス)、腸管出血性大腸菌 ・標準予防策のみ: HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど血液媒介病原体

疥癬の概要

疥癬はヒゼンダニの寄生による皮膚感染症で、夜間に強い瘙痒、指間・手首・陰部などの丘疹や疥癬トンネルが特徴である。通常疥癬に寄生するダニは数十匹以下とされるが、免疫低下者や高齢者に多い角化型疥癬では100万匹以上に及ぶことがあり、短時間の接触や剥がれ落ちた角質からも感染するため厳重な隔離が必要となる。治療にはイベルメクチン内服やフェノトリン外用などが用いられる。

POINT

・すべての患者に標準予防策を行い、病原体に応じて接触・飛沫・空気予防策を上乗せする。 ・空気感染の3大病原体は結核、麻疹、水痘。陰圧個室とN95マスク。 ・飛沫感染の代表はインフルエンザ、風疹、ムンプス、百日咳。サージカルマスク。 ・疥癬(ヒゼンダニ)、C. difficile、ノロウイルス、耐性菌は接触予防策。 ・C. difficileの芽胞にはアルコールが効かないので、石けんと流水で手洗いする。 ・HIVなど血液媒介病原体は標準予防策で対応する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。