StudyMed医師国家試験

小さな体は「水の出入り」が激しい―乳児が脱水に陥りやすい理由を腎臓から読み解く

第113回医師国家試験 B問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第5問

成人と比較したときの乳児の特徴はどれか。

  1. a.尿濃縮力が低い。
  2. b.体重あたりの体液の割合が少ない。
  3. c.体重あたりの水分必要量が少ない。
  4. d.体表面積あたりの不感蒸泄量が少ない。
  5. e.体重あたりのエネルギー必要量が少ない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児の体液と代謝が成人とどう違うかを問う問題だ。選択肢は「多い・少ない」「高い・低い」の比較が並んでいるから、乳児の体の仕組みを一本の筋で理解しておくと迷わない。キーワードは「水が多く、出入りも多いのに、腎臓で水を節約する力は弱い」だ。
医学生医学生
小児科の実習で、胃腸炎の赤ちゃんがあっという間に脱水になると聞きました。それと関係がありますか。
ドクタードクター
まさにその理由を問う問題なんだ。まずは体液の割合から考えよう。体重に占める水分の割合は、乳児と成人でどちらが多いと思う?
医学生医学生
生理学の講義で成人は約60%と習いました。赤ちゃんはみずみずしいので、もっと多いはずです。
ドクタードクター
正解。新生児で約80%、乳児で約70%と成人より多く、特に細胞外液の割合が大きい。新生児では体重の約40%が細胞外液で、成人の約20%の倍ほどある。だから体液の割合が少ないとする選択肢は逆だね。
医学生医学生
体液が多いなら、むしろ脱水には強そうに思えてしまいますが……。
ドクタードクター
いい疑問だ。ここで大事なのは「貯水量」より「1日に入れ替わる量」なんだ。乳児の水分必要量はおよそ100〜150mL/kg/日で、成人の30〜50mL/kg/日の数倍。1日に出入りする水が細胞外液のかなりの部分を占めるから、少し飲めなくなるだけで影響がすぐ出る。
医学生医学生
なぜそんなに水が必要なんでしょう。
ドクタードクター
理由の一つが不感蒸泄だ。乳児は体重あたりの体表面積が大きく、皮膚の角質層も薄くて水を通しやすい。だから体表面積あたりで比べても成人より少ないとはいえないし、体重あたりならおよそ50mL/kg/日前後と成人の約3倍に達する。さらに代謝率と呼吸数が高いから、呼気から失われる水も多い。
医学生医学生
不感蒸泄が少ないという選択肢も逆ですね。エネルギーも同じように考えていいですか。
ドクタードクター
その通り。乳児は基礎代謝が高いうえ、生後1年で体重が約3倍になるほど急成長するから、体重あたりのエネルギー必要量は90〜120kcal/kg/日ほどで、成人の数倍だ。目安として消費エネルギー100kcalあたり水100mLといわれ、エネルギー需要と水分需要は連動しているんだ。
医学生医学生
では、残る尿濃縮力が低いというのが正解ですね。でも、どうして乳児の腎臓は尿を濃くできないんでしょうか。
ドクタードクター
腎生理の復習になるね。尿を濃くするには、ヘンレループと尿素の働きで腎髄質に高い浸透圧勾配をつくり、抗利尿ホルモンの作用で集合管から水を再吸収する必要がある。乳児はヘンレループが短く、摂取した蛋白質が成長に使われて尿素が少ないので、髄質の浸透圧勾配が十分にできない。集合管の抗利尿ホルモンへの反応性も低いんだ。
医学生医学生
だから水が足りなくなっても尿を減らして水を守れない、ということですね。
ドクタードクター
そう。最大尿浸透圧は成人の約1,200mOsm/kgに対して、新生児・乳児早期ではその半分程度にとどまる。GFRや腎血流量も成人より小さい。水の出入りが激しいのに、出口の蛇口を絞れないわけだ。
医学生医学生
CBTの勉強では数字を丸暗記していましたが、こうつなげると忘れにくいです。
ドクタードクター
臨床ではここからが大事だよ。乳児は口渇を自分で訴えたり自分で飲んだりできないし、下痢・嘔吐・発熱を伴う感染症にもかかりやすい。だから体重減少、大泉門の陥凹、尿量の減少などから脱水の程度を評価し、早めに経口補水や輸液を考える。維持輸液量のHolliday-Segarの式でも、体重10kgまでは100mL/kg/日、それ以降は1kgあたりの量が減っていく。体が小さいほど体重あたりの必要量が多いことがよくわかるね。
医学生医学生
小児の輸液量を体重から計算する理由が、ようやく腑に落ちました。

まとめ

乳児は成人と比べて、体重あたりの体液割合(新生児約80%、乳児約70%、成人約60%)、水分必要量(乳児100〜150mL/kg/日、成人30〜50mL/kg/日)、エネルギー必要量がいずれも多く、不感蒸泄も体重あたりでは成人の約3倍に達します。一方で、ヘンレループが短い、尿素が少なく髄質の浸透圧勾配が不十分、抗利尿ホルモンへの反応性が低いといった理由で尿濃縮力は低く、GFRや腎血流量も小さいのが特徴です。「水が多く出入りも激しいのに、腎臓で水を節約できない」ことが、乳児が下痢・嘔吐・発熱で短時間に脱水へ陥る理由です。Holliday-Segarの式に代表される小児の輸液計算もこの生理に基づいており、乳児の体液生理を理解することは、小児の脱水評価と安全な水分管理の土台になります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

乳児の水・電解質代謝とエネルギー代謝が成人とどう違うかという、小児の生理学の基本である。

乳児の体液・代謝の特徴(成人との比較)

乳児は「体の中の水が多く、出入りする水も多いのに、腎臓で水を節約する力は弱い」と整理すると理解しやすい。 1. 体液量が多い: 体重に占める総水分量は新生児で約80%、乳児で約70%と、成人の約60%より多い。特に細胞外液の割合が高い。 2. 水の出入りが多い: 体重あたりの体表面積が大きく、代謝率と呼吸数が高いため、皮膚や呼気から失われる不感蒸泄が多い。そのため体重あたりの水分必要量も成人の数倍になる。 3. 腎機能が未熟: 糸球体濾過量〈GFR〉や腎血流量が少なく、尿を濃縮する能力(ヘンレループでの濃度勾配形成、抗利尿ホルモンへの反応性)も未熟である。 4. 代謝が盛ん: 成長に必要な分も含め、体重あたりのエネルギー必要量が多い。

考え方

上記の特徴から、水分摂取が減ったり下痢・嘔吐・発熱で水分を失ったりすると、乳児は成人より短時間で脱水に陥りやすいことがわかる。選択肢のうち、この特徴に合致するのは「尿濃縮力が低い」だけであり、ほかの選択肢はいずれも「多い」を「少ない」と逆に述べている。

選択肢考察

  1. ○a.  尿濃縮力が低い。

    乳児の特徴として正しい。尿を濃縮するには、腎髄質にヘンレループと尿素の働きで高い浸透圧勾配を作り、抗利尿ホルモン〈ADH〉の作用で集合管から水を再吸収する必要がある。乳児ではヘンレループが短く、蛋白質摂取が成長に使われて尿素が少ないため髄質の浸透圧勾配が不十分であり、集合管のADHへの反応性も低い。そのため最大尿浸透圧は成人(約1,200mOsm/kg)よりかなり低く、新生児・乳児早期ではその半分程度にとどまる。水分が不足しても尿量を十分に減らして水を保持することができないため、脱水になりやすい。あわせてGFRや腎血流量も成人より小さい。

  2. ×b.  体重あたりの体液の割合が少ない。

    誤りである。体重に占める体液(総水分量)の割合は、新生児で約80%、乳児で約70%であり、成人の約60%より多い。体脂肪が少ないことに加え、細胞外液の割合が大きい(新生児では体重の約40%、成人では約20%)ことが特徴である。総水分量の割合は成長とともに減少し、高齢者では約50%まで低下する。

  3. ×c.  体重あたりの水分必要量が少ない。

    誤りである。乳児の1日水分必要量はおよそ100〜150mL/kgであり、成人の約30〜50mL/kg(1日1,500〜2,500mL程度)の数倍にあたる。不感蒸泄が多いこと、尿濃縮力が低く一定量の尿を出す必要があること、代謝が盛んであることが理由である。乳児では1日に入れ替わる水の量が細胞外液量のかなりの部分を占めるため、摂取不足の影響がすぐに現れる。

  4. ×d.  体表面積あたりの不感蒸泄量が少ない。

    誤りである。不感蒸泄とは、皮膚からの蒸発と呼気中の水蒸気として、自覚されずに失われる水分である。本選択肢は「体表面積あたり」の比較であり、この基準でみても乳児の不感蒸泄が成人より少ないとはいえない。乳児の皮膚は角質層が薄く未熟で水を通しやすいため、同じ面積の皮膚から蒸発する水の量は成人と同程度以上であり、生後早期ほど(早産児では特に)多い。さらに乳児は代謝率と呼吸数が高いので、呼気から失われる水分も多い。 【補足:体重あたりでの比較】体重あたりの体表面積は乳児のほうが成人よりかなり大きいため、体重あたりでみると差はさらにはっきりする。体重あたりの不感蒸泄量は、乳児でおよそ50mL/kg/日前後、成人で約15mL/kg/日と、乳児は成人の3倍程度に達する。発熱や多呼吸、高い室温があるとさらに増える。乳児が脱水になりやすい大きな理由の一つである。

  5. ×e.  体重あたりのエネルギー必要量が少ない。

    誤りである。乳児は基礎代謝率が高いうえ、急速な成長(生後1年で体重は約3倍になる)のためのエネルギーも必要とするため、体重あたりのエネルギー必要量はおよそ90〜120kcal/kg/日と、成人(約25〜40kcal/kg/日)の数倍である。なお、エネルギー代謝で生じる水(代謝水)や熱の放散に伴う水分喪失も多く、エネルギー必要量と水分必要量は比例して考えられる(目安として消費エネルギー100kcalあたり水100mL程度)。

年齢による体液組成の変化(体重に対する割合)

・新生児: 総水分量約80%(細胞外液約40%、細胞内液約40%) ・乳児: 約70% ・成人: 約60%(細胞外液約20%、細胞内液約40%) ・高齢者: 約50% 成長に伴い主に細胞外液の割合が減少する。

乳児が脱水になりやすい理由のまとめ

1. 体重あたりの水分必要量・水の出入り(ターンオーバー)が多い。 2. 体重あたりの体表面積が大きく、不感蒸泄が多い。 3. 腎の尿濃縮力が低く、水を保持できない。 4. 口渇を自分で訴えたり、自分で飲水したりできない。 5. 下痢・嘔吐・発熱を起こす感染症に罹患しやすい。

維持輸液量の目安(Holliday-Segarの式)

体重10kgまで: 100mL/kg/日 10〜20kg: 1,000mL+(体重−10)×50mL/日 20kg超: 1,500mL+(体重−20)×20mL/日 体重が小さいほど体重あたりの必要量が多いことがわかる。

POINT

・乳児は成人に比べて、体液割合・水分必要量・エネルギー必要量(いずれも体重あたり)が「多い」。不感蒸泄も、体表面積あたりで少なくはなく、体重あたりでは成人の約3倍と多い。 ・一方で尿濃縮力、GFR、腎血流量は「低い」。 ・総水分量の割合: 新生児約80%、乳児約70%、成人約60%、高齢者約50%。 ・水分必要量: 乳児100〜150mL/kg/日、成人30〜50mL/kg/日。 ・これらの特徴のため、乳児は脱水に陥りやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。