StudyMed医師国家試験

「見張る」だけでは終わらない―院内感染サーベイランスが本当に目指すもの

第120回医師国家試験 E問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第23問

院内感染サーベイランスの目的で誤っているのはどれか。

  1. a.発生原因の特定
  2. b.発生状況の監視
  3. c.再発防止策の策定
  4. d.発症患者の転院促進
  5. e.感染拡大リスクの評価

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は院内感染対策の基本、サーベイランスの目的を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、サーベイランスとは何をする仕組みなのかを正しくイメージできるかがカギになる。まず、サーベイランスという言葉からどんな活動を思い浮かべるかな。
医学生医学生
英語のsurveillanceは「監視」なので、病院内の感染症の発生をずっと見張っておくこと、というイメージです。
ドクタードクター
半分正解だね。サーベイランスは、疾病の発生データを継続的・系統的に集めて、分析・解釈し、その結果を現場に還元して対策に役立てるまでの一連の活動を指す。見張るだけでなく、行動につなげるところまで含むのがポイントなんだ。
医学生医学生
公衆衛生学の講義で、感染症法の発生動向調査もサーベイランスだと習いました。病院の中で同じことをするイメージでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。院内では、カテーテル関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、尿道カテーテル関連尿路感染、手術部位感染など対象を決めて、発生率や薬剤耐性菌の検出状況を追いかける。では選択肢を見ていこう。まず「発生状況の監視」はどうだろう。
医学生医学生
これはさっきの「見張る」そのものなので、目的として正しいですよね。
ドクタードクター
そう、まさに中核だ。継続的に記録して平常時の発生水準、つまりベースラインを知っておくと、同じ菌種による感染がいつもより集積したときに、アウトブレイクとして早く気づける。一時点の調査ではなく「継続的に」行うことが大事なんだ。
医学生医学生
ベースラインを知らないと、増えているのかどうかも判断できないわけですね。では「発生原因の特定」は、集めたデータの分析にあたりますか。
ドクタードクター
その通り。感染部位、検出菌、発生時期、病棟、カテーテル留置や手術といった手技などの切り口でデータを解析すると、共通の感染源や伝播経路、リスク因子を絞り込める。アウトブレイクが疑われるときには原因究明の出発点になるよ。
医学生医学生
原因がわかれば、次は対策ですね。「再発防止策の策定」も正しいと思います。
ドクタードクター
うん。手指衛生の徹底、接触予防策、環境の清掃・消毒、器材の管理、抗菌薬の適正使用などの具体策を立てる。さらに大切なのは、対策を実施した後も発生率を追跡して効果を評価すること。いわゆるPDCAサイクルで、サーベイランスは評価の道具にもなるんだ。
医学生医学生
「感染拡大リスクの評価」はどうでしょう。少し抽象的で迷いました。
ドクタードクター
これも正しい目的だよ。検出菌の種類や耐性の動向、免疫不全患者が多い病棟かどうか、病棟構造や実施手技などから、アウトブレイクに発展する危険性を見積もる。その評価をもとに、どの病棟・どの対策を優先するかを決めて介入するんだ。
医学生医学生
そうすると残るのは「発症患者の転院促進」ですね。感染した患者さんを外に出せば院内の数字は減りますが……。
ドクタードクター
そこに違和感を持てたら十分。サーベイランスは自施設の感染対策と医療の質を高めるための仕組みで、患者を外に出して問題を見えなくするためのものではない。転院するかどうかは、高度な治療が必要かといった個々の病状で判断する臨床上の事柄だ。しかも感染者や耐性菌保菌者を安易に移動させれば、転院先や地域全体に病原体を広げる施設間伝播のおそれがある。
医学生医学生
収集・分析・対策・評価という流れのどこにも、転院は入ってこないということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。最後に周辺知識も押さえておこう。医療法ではすべての医療機関に院内感染対策の体制確保が求められていて、一定規模以上の病院では医師、看護師、臨床検査技師、薬剤師などからなる感染制御チーム、ICTが病棟ラウンドやサーベイランス、職員教育を担っている。抗菌薬適正使用を支援するチームはASTと呼ばれる。
医学生医学生
臨床実習で内科を回ったとき、ICTラウンドで血液培養の結果をもとに抗菌薬の変更を提案されている場面を見ました。
ドクタードクター
いい経験だね。サーベイランスには、施設全体を対象にする包括的なものと、ICUの医療器具関連感染や手術部位感染などリスクの高い領域に絞る対象限定のものがあって、現在は後者が主流だ。全国規模では厚生労働省のJANISがあり、各施設は自分たちのデータを全国と比較、つまりベンチマークできる。
医学生医学生
自分の病院の感染率が高いのか低いのか、客観的に比べられるのは便利ですね。
ドクタードクター
そう。そしてアウトブレイクを疑ったら、ベースラインとの比較で発生を確認し、症例定義を作って症例を把握し、感染源と伝播経路を推定し、対策を強化して効果を評価する。この順番は臨床に出てからも必ず役に立つよ。

まとめ

院内感染サーベイランスとは、感染症の発生データを継続的・系統的に収集・分析し、その結果を還元して対策に生かす一連の活動です。目的は、発生状況を監視してベースラインからの逸脱(アウトブレイク)を早期に察知すること、原因やリスク因子を特定すること、再発防止策を策定してその効果を評価すること、感染拡大リスクを評価して介入の優先度を決めることにあります。感染患者の転院促進はこの流れに含まれず、むしろ施設間伝播を招くおそれがあるため目的として誤りです。ICTによる多職種での取り組みやJANISによる全国比較とあわせて理解しておくと、臨床現場での感染対策の全体像がつかめます。

解答・解説

正解はdです

サーベイランス(surveillance)とは、疾病の発生に関するデータを継続的・系統的に収集し、分析・解釈し、その結果を関係者に還元して対策に役立てる一連の活動を指す。単に「見張る」だけでなく、得られた情報を予防や改善の行動に結び付けることまでを含む概念である。 院内感染(医療関連感染)サーベイランスでは、カテーテル関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、尿道カテーテル関連尿路感染、手術部位感染(SSI:surgical site infection)などの対象を決め、発生率や薬剤耐性菌の検出状況を継続的に把握する。その目的は、(1)平常時の発生水準(ベースライン)を知り、異常な増加(アウトブレイク)を早期に見つけること、(2)データを解析して原因やリスク因子を明らかにすること、(3)それに基づいて対策を立て、その効果を評価して再発を防ぐこと、(4)今後の感染拡大の危険性を見積もり、優先度を付けて介入すること、などである。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。感染した患者を他施設に移すことは、サーベイランスの「収集→分析→対策→評価」という流れのどこにも含まれないため、これが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  発生原因の特定

    目的として正しい記述である。集めたデータを感染部位、検出菌種、発生時期、病棟、実施された医療手技(カテーテル留置、手術など)といった切り口で解析することで、共通の感染源や伝播経路、リスク因子を絞り込むことができる。アウトブレイクが疑われる場面では、原因究明の出発点となる。

  2. ×b.  発生状況の監視

    目的として正しい記述であり、サーベイランスの中核である。感染症の発生率や耐性菌の分離数を継続的に記録し、推移をみることで、ベースラインからの逸脱(同一菌種による感染の集積など)を早期に察知できる。一時点の調査ではなく「継続的に」行うことが重要である。

  3. ×c.  再発防止策の策定

    目的として正しい記述である。監視と原因分析の結果をもとに、手指衛生の徹底、接触予防策などの隔離、環境の清掃・消毒、器材の管理、抗菌薬の適正使用といった具体的な対策を立てる。さらに対策実施後の発生率の変化をサーベイランスで追跡し、対策の効果を評価する(PDCAサイクル)。

  4. ○d.  発症患者の転院促進

    院内感染サーベイランスの目的ではないため、本問の正解(誤っている記述)である。サーベイランスは自施設の感染対策と医療の質を向上させるための仕組みであり、感染患者を外に出して問題を見えなくすることを目的とするものではない。転院するかどうかは、より高度な治療が必要かなど個々の患者の病状に基づいて判断される臨床上の事項である。さらに、感染者や耐性菌保菌者を安易に移動させると、転院先の施設や地域全体に病原体を広げる(施設間伝播)おそれがあり、感染対策の考え方にも反する。

  5. ×e.  感染拡大リスクの評価

    目的として正しい記述である。検出菌の種類や薬剤耐性の動向、患者背景(免疫不全患者の多い病棟か)、病棟の構造や実施手技などから、アウトブレイクに発展する危険性を予測して評価する。評価結果に基づき、どの病棟・どの対策を優先するかを決めて介入につなげる。

院内感染対策の体制

医療法により、病院・診療所などすべての医療機関の管理者には院内感染対策の体制確保が義務付けられている(指針の策定、委員会の開催、職員研修、感染症発生状況の報告と改善策の実施など)。一定規模以上の病院では、医師、看護師、臨床検査技師、薬剤師、事務職員などからなる感染制御チーム(ICT:infection control team)が組織され、病棟ラウンド、サーベイランス、職員教育、抗菌薬適正使用の推進などを多職種で担う。抗菌薬の使い方の適正化を専門に支援するチームはAST(antimicrobial stewardship team)と呼ばれる。

サーベイランスの種類

・包括的サーベイランス:施設全体のすべての感染を対象とする。労力が大きい。 ・対象限定サーベイランス:リスクの高い部門や手技(ICUでの医療器具関連感染、SSI、特定の耐性菌など)に絞って行う。現在の主流である。

全国規模のサーベイランス

厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS:Japan Nosocomial Infections Surveillance)では、参加医療機関から検査部門の細菌検出・薬剤感受性データ、全入院患者部門、ICU部門、SSI部門、NICU部門などのデータを集めて集計・還元している。各施設は自施設のデータを全国の値と比較(ベンチマーク)でき、地域や全国の薬剤耐性菌の動向を把握することにも役立つ。

アウトブレイク時の対応の流れ

発生の確認(ベースラインとの比較)→症例定義の作成と症例の把握→感染源・伝播経路の推定→感染対策の実施・強化→効果の評価、の順に進める。

POINT

・サーベイランス=データの継続的な収集・分析・評価と、その結果の還元・対策への活用。 ・目的:発生状況の監視(ベースライン把握と異常の早期発見)、原因の特定、再発防止策の策定と効果評価、感染拡大リスクの評価。 ・感染患者の転院促進はサーベイランスの目的ではなく、施設間伝播の危険もある。 ・ICTによる多職種協働と、全国規模のJANISによるベンチマークも押さえる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。