「週末まで入院したい」はどこに書く?―SOAPで整理する患者の声と医師の判断
第113回医師国家試験 B問題 第3問
国試問題にチャレンジ
肺炎で入院中の患者の診療記録を以下に示す。 S:咳も治まってきましたし,熱も下がっているようです。①今日はとても体調が良いんですよ。 O:②体温36.2℃,血圧 120/82mmHg,脈拍 88/分,整。呼吸数16/分。 呼吸音清明,明らかな副雑音は聴取しない。 心音 Ⅰ音異常なし,Ⅱ音異常なし,Ⅲ音,Ⅳ音は聴取しない,心雑音は聴取しない。 【血液検査所見】 WBC 9,800(前回16,800)neutro 65%(前回92%) AST 30,ALT 32,LD 245,BUN 16,Cr 0.6 ③喀痰培養結果はH. influenzae。 A:④細菌性肺炎:自覚症状,検査所見ともに改善傾向,抗菌薬の効果あり。 P:⑤本人は週末まで入院を希望している。 治療開始3日目なので抗菌薬の投与を継続していく。胸部エックス線写真と血液検査の予定をA医師に 確認して決める。 下線部のうちSOAPの記載法にあてはまらないのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
SOAPは問題志向型システム(POS)に基づく経過記録の形式で、S(患者や家族の訴え・気持ち・希望)、O(バイタルサイン・身体所見・検査結果)、A(医療者の評価・診断)、P(検査・治療・教育の計画)に分けて記載します。区別の基準は情報の内容ではなく出どころであり、同じ「熱」でも本人の申告ならS、測定した体温ならOとなります。患者の「週末まで入院したい」という希望は主観的情報なのでSに書くべきで、Pには希望の妥当性を主治医と相談するといった医療者の方針として反映させるのが適切です。情報・判断・計画を区別して記録することは、論理的な臨床推論と多職種での情報共有を支え、患者の意向を踏まえた意思決定の土台となります。
解答・解説
正解はeです
SOAPとは
SOAPは、問題志向型システム(problem oriented system、POS)に基づく診療録(問題志向型診療記録、POMR)で、日々の経過記録(プログレスノート)を問題(プロブレム)ごとに整理して書くための形式である。4つの項目は次のとおりである。 ・S(subjective data、主観的情報):患者や家族が語った内容。自覚症状、訴え、気持ち、希望など、本人の言葉で得られる情報 ・O(objective data、客観的情報):医療者が観察・測定して得た情報。バイタルサイン、身体診察所見、血液検査・画像検査・細菌検査の結果など ・A(assessment、評価):SとOをもとに医療者が下す判断。診断、病状の評価、治療効果の判定、問題点の考察など ・P(plan、計画):Aに基づく今後の方針。診断のための計画、治療計画、患者教育の計画
本問の考え方
下線部の情報が「誰から得た、どのような性質の情報か」を見極め、それが置かれている欄と一致するかを確認する。①〜④はそれぞれ正しい欄に書かれているが、⑤「本人は週末まで入院を希望している」は患者が述べた内容、すなわち主観的情報であり、医療者の計画を記すPの欄に書くのは不適切である。本来はSに記載し、その希望をどう扱うか(妥当性を評価し、主治医と相談するなど)をA・Pに反映させるのが正しい書き方である。
選択肢考察
- ×a. ①
SOAPの記載法にあてはまる。「今日はとても体調が良いんですよ」は患者自身の言葉であり、本人の感じ方を表す主観的情報である。したがってSの欄に書かれているのは正しい。
- ×b. ②
SOAPの記載法にあてはまる。体温、血圧、脈拍、呼吸数といったバイタルサインは医療者が測定した客観的情報であり、Oの欄への記載として正しい。なお、患者が「熱も下がっているようです」と言うのはSであり、実際に測定した体温36.2℃はOである、という区別が重要である。
- ×c. ③
SOAPの記載法にあてはまる。喀痰培養でH. influenzae(インフルエンザ菌)が検出されたという結果は、細菌検査という臨床検査で得られた客観的情報であり、Oに記載するのが正しい。血液検査や画像検査と同様、検査結果はすべてOに含まれる。
- ×d. ④
SOAPの記載法にあてはまる。「細菌性肺炎:自覚症状、検査所見ともに改善傾向、抗菌薬の効果あり」は、Sの症状改善とOの解熱・白血球数や好中球比率の低下などを総合して医師が下した診断と治療効果の判定である。これは医療者の評価・考察にあたるため、Aの欄に書かれているのは正しい。
- ○e. ⑤
SOAPの記載法にあてはまらない。「本人は週末まで入院を希望している」は患者が表明した希望であり、主観的情報としてSに記載すべき内容である。Pは医療者がAに基づいて立てる検査・治療・教育の計画を書く欄であり、患者の希望そのものを書く場所ではない。ただし患者の意向は尊重すべきものであるため、Sに希望を記録したうえで、Pには「週末までの入院継続の希望について、医学的妥当性と可否を主治医と相談する」のように、医療者としての対応方針の形で書くのが適切である。
問題志向型システム(POS)と診療録(POMR)の流れ
1. 基礎データの収集:主訴、現病歴、既往歴、生活歴・社会歴、家族歴、医療面接の内容、身体診察所見、検査所見など 2. 問題リスト(プロブレムリスト)の作成:医学的問題だけでなく、心理的・社会的・経済的な問題も含め、患者の抱える問題を列挙する 3. 初期計画の立案:問題ごとに、診断的計画(diagnostic plan)、治療的計画(therapeutic plan)、教育的計画(educational plan)を立てる 4. 経過記録(プログレスノート):日々の経過を問題ごとにSOAP形式で記載する 5. 退院時要約(サマリー):退院時に速やかに作成する
POSの利点
・患者の問題を身体面だけでなく心理・社会面も含めた全人的な視点でとらえられる ・情報、判断、計画が区別されるため、思考過程が論理的・系統的になる ・医師、看護師、薬剤師など多職種のチームで情報を共有し、方針をそろえやすい ・記録を第三者が読んでも診療の根拠をたどりやすく、監査や教育にも役立つ
SとOの区別でまぎらわしい例
・「熱っぽい」「痛みは10段階で7くらい」:本人の申告なのでS ・体温の測定値、圧痛の有無、検査値:医療者が確認したものなのでO ・家族が語った内容:医療者が測定したものではないため、一般にSとして扱う
EBM(evidence-based medicine、根拠に基づく医療)との関係
AやPを考える際には、入手可能な最良の根拠、医師の臨床的専門性、患者の価値観・意向を統合して判断する。EBMは一般に、①臨床上の疑問の定式化、②情報(文献)の検索、③得られた情報の批判的吟味、④目の前の患者への適用、⑤一連の過程の評価、の5段階で実践される。患者の希望を把握してSに記録しておくことは、患者の意向を踏まえた意思決定の前提となる。
POINT
・S=患者の訴え・気持ち・希望(主観)、O=バイタル・身体所見・検査結果(客観)、A=医療者の評価・診断、P=検査・治療・教育の計画 ・患者の希望は主観的情報なのでSに書く。Pには医療者の方針として書く ・患者の言葉による「熱が下がった」はS、測定した体温はO ・SOAPはPOS(問題志向型システム)の経過記録の形式で、問題ごとに記載する
