StudyMed医師国家試験

患者のそばにいてもうつらない感染症―蚊が運ぶマラリアと「ヒトからヒトへ」の伝播経路

第119回医師国家試験 C問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第18問

Which of the following diseases does NOT cause person-to-person transmission?

  1. a.Malaria
  2. b.Measles
  3. c.Meningococcal meningitis
  4. d.Pertussis
  5. e.Syphilis

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は英語で出題された感染症の問題だ。問われているのは「ヒトからヒトへの感染を起こさない疾患はどれか」。NOTの付いた否定形なので読み違えに注意しながら、各疾患の伝播経路を整理していこう。
医学生医学生
person-to-person transmissionですね。英語問題はNOTを見落としがちなので、まず問題文に印をつけるようにしています。
ドクタードクター
いい習慣だね。では考え方の軸から。感染症の伝播は大きく、ヒトから直接あるいは飛沫や空気を介してうつるものと、蚊やダニなどの媒介動物、動物、食物や水、土壌などを介してヒトに感染し、患者から周囲には普通うつらないものに分けられる。選択肢の中で後者に当たるものはどれだと思う?
医学生医学生
マラリアは蚊が媒介するので、患者さんの近くにいるだけではうつらないはずです。
ドクタードクター
正解。マラリアはマラリア原虫をハマダラカが吸血によって運ぶ蚊媒介感染症だ。原虫はヒトの体内で肝細胞、次に赤血球に入り込んで増殖し、周期的な発熱、貧血、脾腫を起こす。咳や接触で他人にうつることはない。
医学生医学生
ただ、微生物学の講義で、輸血でマラリアがうつることがあると聞いた気がします。それはヒト-ヒト感染にならないんでしょうか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに輸血、注射針の共用、臓器移植、経胎盤感染といった血液を介した伝播は例外的に起こりうる。ただしそれは、日常的な人と人との接触でうつるという意味でのヒト-ヒト感染ではない。この問題の文脈では、蚊を介さなければ通常は広がらない疾患として理解しておけばいいよ。
医学生医学生
では残りの4つは、それぞれどういう経路でうつるのでしょうか。麻疹は空気感染でしたよね。
ドクタードクター
そう。麻疹は空気感染、つまり飛沫の水分が蒸発した5μm以下の飛沫核が長時間空中を漂い、離れた人にも感染する。空気感染する代表は麻疹、水痘、結核の3つだ。感染力は極めて強く、免疫のない人が曝露するとほぼ全員が感染する。カタル期、つまりコプリック斑が出るころが最も感染力が強い。
医学生医学生
小児科実習で、麻疹疑いの子は陰圧個室に入ってもらって、スタッフはN95マスクを着けると教わりました。
ドクタードクター
その通り、それが空気感染予防策だ。次に髄膜炎菌性髄膜炎。グラム陰性双球菌の髄膜炎菌が、気道分泌物の飛沫や濃厚接触でヒトからヒトへうつる。健常者の鼻咽頭に保菌されていることもあって、学生寮や合宿のような集団生活で集団発生することがあるんだ。
医学生医学生
電撃型で副腎出血を起こすWaterhouse-Friderichsen症候群もこの菌でしたね。周りの人への対応はどうするんですか。
ドクタードクター
濃厚接触者には抗菌薬の予防内服を考慮する。急速に進行して敗血症になりうるから、公衆衛生上も早い対応が必要だ。百日咳も飛沫感染が主体で、カタル期の感染力が最も強い。ワクチンの効果が薄れた思春期や成人が感染源となり、ワクチン未接種の乳児が無呼吸発作などで重症化する、という構図が問題になっているよ。
医学生医学生
梅毒は性感染症なので、接触感染に分類されるんですね。
ドクタードクター
そう。性器、口腔、肛門の皮膚粘膜病変との接触でうつる。硬性下疳やバラ疹、扁平コンジローマなど病変部に菌が多い時期に感染力が強く、経胎盤感染で先天梅毒も起こす。日本では近年報告数が大きく増えているから、臨床でも出会う機会は多いはずだ。
医学生医学生
整理すると、麻疹が空気、髄膜炎菌と百日咳が飛沫、梅毒が接触で、マラリアだけが媒介動物、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、感染症法の分類も一緒に押さえておこう。マラリアのように動物や物を介してヒトに感染するものの多くは4類で、診断後直ちに届け出る。麻疹と侵襲性髄膜炎菌感染症は5類の全数把握だけど直ちに届出、百日咳と梅毒は5類全数把握で7日以内の届出だ。
医学生医学生
ダニ媒介の疾患も、ヒトからはうつらないと考えていいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だね。重症熱性血小板減少症候群、いわゆるSFTSでは、患者の血液や体液を介したヒト-ヒト感染が報告されている。「媒介動物の病気だからヒトからはうつらない」と一律に覚えず、疾患ごとに確認しておこう。それから、マラリアは流行地からの帰国後の発熱では必ず鑑別に挙げること。熱帯熱マラリアは急速に重症化しうるから、渡航歴の聴取が診断の第一歩になるんだ。

まとめ

感染症の伝播経路は、空気感染(麻疹・水痘・結核)、飛沫感染(百日咳・髄膜炎菌感染症・インフルエンザなど)、接触感染(性感染症である梅毒など)といったヒト-ヒト感染と、媒介動物や環境を介する感染に大別されます。マラリアはハマダラカが原虫を運ぶ蚊媒介感染症で、輸血や経胎盤感染など血液を介した例外を除き、通常はヒトからヒトへうつりません。感染症法ではマラリアが4類、麻疹・侵襲性髄膜炎菌感染症が5類で直ちに届出、百日咳・梅毒が5類で7日以内の届出と整理でき、SFTSのように媒介動物性でもヒト-ヒト感染が報告されている例外にも注意が必要です。伝播経路を正しく理解することは、適切な感染予防策の選択、接触者への対応、そして渡航後発熱の鑑別といった臨床判断の基礎になります。

解答・解説

正解はaです

問題文の訳

次の疾患のうち、ヒトからヒトへの感染(person-to-person transmission)を起こさないのはどれか。 a. マラリア b. 麻疹 c. 髄膜炎菌性髄膜炎 d. 百日咳 e. 梅毒

考え方

感染症の伝播経路は、大きく「ヒトからヒトへ直接(あるいは飛沫・空気を介して)うつるもの」と、「ヒト以外のもの(媒介動物、動物、食物・水、土壌など)を介してヒトに感染し、患者から周囲の人へは通常の接触ではうつらないもの」に分けられる。 ヒトからヒトへの伝播経路には主に次の3つがある。 ・空気感染:病原体を含む飛沫の水分が蒸発した微小な粒子(飛沫核、径5μm以下)が長時間空中を漂い、離れた人にも感染する。麻疹、水痘、結核が代表である。 ・飛沫感染:咳やくしゃみで出る大きな飛沫(径5μm超)が、およそ1〜2m以内の人の粘膜に付着して感染する。百日咳、髄膜炎菌感染症、インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎などがある。 ・接触感染:皮膚・粘膜の直接接触や汚染された物品を介する。性行為による感染(梅毒、淋菌感染症など)もこれに含まれる。 一方、マラリアはハマダラカ(Anopheles属の蚊)がマラリア原虫を運ぶ蚊媒介感染症であり、患者のそばにいるだけでは他人にうつらない。選択肢のうちヒト-ヒト感染を起こさないのはマラリアである。

選択肢考察

  1. ○a.  Malaria

    マラリアは、マラリア原虫(Plasmodium属:熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、さらにサルマラリア原虫P. knowlesi)がハマダラカの吸血によってヒトに感染する蚊媒介感染症である。原虫はヒトの体内で肝細胞、次いで赤血球に感染して増殖し、周期的な発熱、貧血、脾腫などを起こす。患者の咳や接触によって他人へうつることはなく、通常の意味でのヒト-ヒト感染は起こさない。感染症法では、蚊やダニなど動物を介して感染する疾患の多くと同様に4類感染症に分類され、診断後直ちに届け出る。なお例外的に、輸血、注射針の共用、臓器移植、母体から胎児への経胎盤感染(先天性マラリア)といった血液を介した伝播は起こりうるが、日常的な人と人との接触でうつるものではない。

  2. ×b.  Measles

    麻疹は麻疹ウイルスによる感染症で、空気感染(飛沫核感染)のほか、飛沫感染・接触感染でもヒトからヒトへ広がる。感染力は極めて強く、免疫のない人が曝露するとほぼ全員が感染する(基本再生産数は12〜18程度とされる)。カタル期(発熱、咳、鼻汁、結膜充血、コプリック斑)の感染力が最も強い。感染症法では5類感染症(全数把握)で、診断後直ちに届け出る必要がある。院内では陰圧個室での空気感染予防策とN95マスクの着用が必要となる。

  3. ×c.  Meningococcal meningitis

    髄膜炎菌性髄膜炎は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis、グラム陰性双球菌)による細菌性髄膜炎で、気道分泌物の飛沫や濃厚接触を介してヒトからヒトへ感染する。健常者の鼻咽頭に無症状で保菌されていることもあり、学生寮や合宿などの集団生活で集団発生することがある。急速に進行して敗血症や電撃型(ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群:副腎出血による急性副腎不全を伴う)をきたしうる。感染症法では「侵襲性髄膜炎菌感染症」として5類感染症(全数把握)に含まれ、麻疹・風疹と同様に直ちに届け出る必要がある。濃厚接触者には抗菌薬の予防内服が考慮される。

  4. ×d.  Pertussis

    百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)による気道感染症で、主に飛沫感染、ほかに接触感染でヒトからヒトへ広がる。感染力はカタル期に最も強い。乳児、特にワクチン未接種の早期乳児では無呼吸発作などで重症化しやすく、ワクチンの効果が減弱した思春期・成人が感染源となることが多い。痙咳期には連続する短い咳(スタッカート)と、息を吸い込むときの笛のような音(whoop、レプリーゼ)が特徴である。感染症法では5類感染症で、2018年から全数把握の対象となり、7日以内に届け出る。

  5. ×e.  Syphilis

    梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による感染症で、主に性的接触(性器・口腔・肛門の皮膚粘膜の病変との接触)によってヒトからヒトへ感染する性感染症である。妊婦から胎児への経胎盤感染(先天梅毒)や、まれに輸血でも伝播する。第1期の硬性下疳、第2期のバラ疹・扁平コンジローマなど、病変部に多数の菌が存在する時期に感染力が強い。感染症法では5類感染症(全数把握)で、7日以内に届け出る。近年、日本では報告数が大きく増加している。

主な伝播経路と代表疾患

・空気感染:麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)、結核 ・飛沫感染:インフルエンザ、百日咳、髄膜炎菌感染症、風疹、流行性耳下腺炎、マイコプラズマ肺炎、ジフテリアなど ・接触感染:MRSAなどの薬剤耐性菌、ノロウイルス、流行性角結膜炎、性感染症(梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症など) ・媒介動物(ベクター)による感染:マラリア・デング熱・日本脳炎・ジカウイルス感染症(蚊)、日本紅斑熱・つつが虫病・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)(ダニ)など

ヒト-ヒト感染を通常起こさない代表的な疾患

・蚊媒介感染症:マラリア、デング熱、日本脳炎など ・人獣共通感染症の多く:狂犬病、レプトスピラ症、オウム病など ・環境中の病原体による感染:破傷風、レジオネラ症など ・ただし、SFTSでは患者の血液・体液を介したヒト-ヒト感染が報告されており、「ダニ媒介=ヒトからうつらない」と一律に覚えないよう注意が必要である。

感染症法の届出の整理

・1〜4類感染症:診断後直ちに届出。動物や物を介してヒトに感染するもの(ヒト-ヒト感染は起こしにくい)の多くは4類に分類される。 ・5類感染症:全数把握と定点把握に分かれる。全数把握のうち麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに、それ以外(梅毒、百日咳など)は7日以内に届け出る。

POINT

・マラリアはハマダラカが媒介する原虫感染症で、ヒトからヒトへは通常感染しない(例外は輸血・針の共用・経胎盤感染など血液を介した経路)。 ・麻疹は空気感染、髄膜炎菌性髄膜炎と百日咳は飛沫感染、梅毒は性的接触による接触感染で、いずれもヒト-ヒト感染を起こす。 ・マラリアは4類感染症、麻疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は5類で直ちに届出、百日咳・梅毒は5類で7日以内に届出である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。