患者のそばにいてもうつらない感染症―蚊が運ぶマラリアと「ヒトからヒトへ」の伝播経路
第119回医師国家試験 C問題 第18問
国試問題にチャレンジ
Which of the following diseases does NOT cause person-to-person transmission?
- a.Malaria
- b.Measles
- c.Meningococcal meningitis
- d.Pertussis
- e.Syphilis
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
感染症の伝播経路は、空気感染(麻疹・水痘・結核)、飛沫感染(百日咳・髄膜炎菌感染症・インフルエンザなど)、接触感染(性感染症である梅毒など)といったヒト-ヒト感染と、媒介動物や環境を介する感染に大別されます。マラリアはハマダラカが原虫を運ぶ蚊媒介感染症で、輸血や経胎盤感染など血液を介した例外を除き、通常はヒトからヒトへうつりません。感染症法ではマラリアが4類、麻疹・侵襲性髄膜炎菌感染症が5類で直ちに届出、百日咳・梅毒が5類で7日以内の届出と整理でき、SFTSのように媒介動物性でもヒト-ヒト感染が報告されている例外にも注意が必要です。伝播経路を正しく理解することは、適切な感染予防策の選択、接触者への対応、そして渡航後発熱の鑑別といった臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
問題文の訳
次の疾患のうち、ヒトからヒトへの感染(person-to-person transmission)を起こさないのはどれか。 a. マラリア b. 麻疹 c. 髄膜炎菌性髄膜炎 d. 百日咳 e. 梅毒
考え方
感染症の伝播経路は、大きく「ヒトからヒトへ直接(あるいは飛沫・空気を介して)うつるもの」と、「ヒト以外のもの(媒介動物、動物、食物・水、土壌など)を介してヒトに感染し、患者から周囲の人へは通常の接触ではうつらないもの」に分けられる。 ヒトからヒトへの伝播経路には主に次の3つがある。 ・空気感染:病原体を含む飛沫の水分が蒸発した微小な粒子(飛沫核、径5μm以下)が長時間空中を漂い、離れた人にも感染する。麻疹、水痘、結核が代表である。 ・飛沫感染:咳やくしゃみで出る大きな飛沫(径5μm超)が、およそ1〜2m以内の人の粘膜に付着して感染する。百日咳、髄膜炎菌感染症、インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎などがある。 ・接触感染:皮膚・粘膜の直接接触や汚染された物品を介する。性行為による感染(梅毒、淋菌感染症など)もこれに含まれる。 一方、マラリアはハマダラカ(Anopheles属の蚊)がマラリア原虫を運ぶ蚊媒介感染症であり、患者のそばにいるだけでは他人にうつらない。選択肢のうちヒト-ヒト感染を起こさないのはマラリアである。
選択肢考察
- ○a. Malaria
マラリアは、マラリア原虫(Plasmodium属:熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、さらにサルマラリア原虫P. knowlesi)がハマダラカの吸血によってヒトに感染する蚊媒介感染症である。原虫はヒトの体内で肝細胞、次いで赤血球に感染して増殖し、周期的な発熱、貧血、脾腫などを起こす。患者の咳や接触によって他人へうつることはなく、通常の意味でのヒト-ヒト感染は起こさない。感染症法では、蚊やダニなど動物を介して感染する疾患の多くと同様に4類感染症に分類され、診断後直ちに届け出る。なお例外的に、輸血、注射針の共用、臓器移植、母体から胎児への経胎盤感染(先天性マラリア)といった血液を介した伝播は起こりうるが、日常的な人と人との接触でうつるものではない。
- ×b. Measles
麻疹は麻疹ウイルスによる感染症で、空気感染(飛沫核感染)のほか、飛沫感染・接触感染でもヒトからヒトへ広がる。感染力は極めて強く、免疫のない人が曝露するとほぼ全員が感染する(基本再生産数は12〜18程度とされる)。カタル期(発熱、咳、鼻汁、結膜充血、コプリック斑)の感染力が最も強い。感染症法では5類感染症(全数把握)で、診断後直ちに届け出る必要がある。院内では陰圧個室での空気感染予防策とN95マスクの着用が必要となる。
- ×c. Meningococcal meningitis
髄膜炎菌性髄膜炎は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis、グラム陰性双球菌)による細菌性髄膜炎で、気道分泌物の飛沫や濃厚接触を介してヒトからヒトへ感染する。健常者の鼻咽頭に無症状で保菌されていることもあり、学生寮や合宿などの集団生活で集団発生することがある。急速に進行して敗血症や電撃型(ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群:副腎出血による急性副腎不全を伴う)をきたしうる。感染症法では「侵襲性髄膜炎菌感染症」として5類感染症(全数把握)に含まれ、麻疹・風疹と同様に直ちに届け出る必要がある。濃厚接触者には抗菌薬の予防内服が考慮される。
- ×d. Pertussis
百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)による気道感染症で、主に飛沫感染、ほかに接触感染でヒトからヒトへ広がる。感染力はカタル期に最も強い。乳児、特にワクチン未接種の早期乳児では無呼吸発作などで重症化しやすく、ワクチンの効果が減弱した思春期・成人が感染源となることが多い。痙咳期には連続する短い咳(スタッカート)と、息を吸い込むときの笛のような音(whoop、レプリーゼ)が特徴である。感染症法では5類感染症で、2018年から全数把握の対象となり、7日以内に届け出る。
- ×e. Syphilis
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による感染症で、主に性的接触(性器・口腔・肛門の皮膚粘膜の病変との接触)によってヒトからヒトへ感染する性感染症である。妊婦から胎児への経胎盤感染(先天梅毒)や、まれに輸血でも伝播する。第1期の硬性下疳、第2期のバラ疹・扁平コンジローマなど、病変部に多数の菌が存在する時期に感染力が強い。感染症法では5類感染症(全数把握)で、7日以内に届け出る。近年、日本では報告数が大きく増加している。
主な伝播経路と代表疾患
・空気感染:麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)、結核 ・飛沫感染:インフルエンザ、百日咳、髄膜炎菌感染症、風疹、流行性耳下腺炎、マイコプラズマ肺炎、ジフテリアなど ・接触感染:MRSAなどの薬剤耐性菌、ノロウイルス、流行性角結膜炎、性感染症(梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症など) ・媒介動物(ベクター)による感染:マラリア・デング熱・日本脳炎・ジカウイルス感染症(蚊)、日本紅斑熱・つつが虫病・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)(ダニ)など
ヒト-ヒト感染を通常起こさない代表的な疾患
・蚊媒介感染症:マラリア、デング熱、日本脳炎など ・人獣共通感染症の多く:狂犬病、レプトスピラ症、オウム病など ・環境中の病原体による感染:破傷風、レジオネラ症など ・ただし、SFTSでは患者の血液・体液を介したヒト-ヒト感染が報告されており、「ダニ媒介=ヒトからうつらない」と一律に覚えないよう注意が必要である。
感染症法の届出の整理
・1〜4類感染症:診断後直ちに届出。動物や物を介してヒトに感染するもの(ヒト-ヒト感染は起こしにくい)の多くは4類に分類される。 ・5類感染症:全数把握と定点把握に分かれる。全数把握のうち麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに、それ以外(梅毒、百日咳など)は7日以内に届け出る。
POINT
・マラリアはハマダラカが媒介する原虫感染症で、ヒトからヒトへは通常感染しない(例外は輸血・針の共用・経胎盤感染など血液を介した経路)。 ・麻疹は空気感染、髄膜炎菌性髄膜炎と百日咳は飛沫感染、梅毒は性的接触による接触感染で、いずれもヒト-ヒト感染を起こす。 ・マラリアは4類感染症、麻疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は5類で直ちに届出、百日咳・梅毒は5類で7日以内に届出である。
