コーラ色の尿と赤血球円柱―「円柱の中身」が出血の場所を教えてくれる
第112回医師国家試験 E問題 第39問
国試問題にチャレンジ
30歳の男性。起床後の尿がコーラのような色であったことを主訴として来院した。幼少期から扁桃炎を繰り返している。7日前に咽頭痛と発熱があったが軽快した。尿所見:暗赤色,蛋白2+,潜血3+。尿沈渣の顕微鏡写真を別に示す。 障害されている部位として最も考えられるのはどれか。

- a.糸球体
- b.尿細管
- c.腎盂
- d.尿管
- e.膀胱
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血尿をみたら、まず糸球体由来か尿路(腎盂・尿管・膀胱・尿道)由来かを区別することが出発点です。円柱は尿細管内でTamm-Horsfall蛋白を鋳型として形成されるため、赤血球円柱は糸球体から漏れ出た赤血球を取り込んだものであり、糸球体障害を示す特異的な所見です。コーラ色の血尿、蛋白尿、変形赤血球も糸球体性を支持し、鮮紅色で凝血塊を伴う血尿は尿路由来を示唆します。先行する上気道炎の後の糸球体性血尿では、1〜2週の潜伏期と低補体を伴う溶連菌感染後急性糸球体腎炎と、上気道炎とほぼ同時に肉眼的血尿をきたすIgA腎症が代表的な鑑別です。円柱が「どこで形成され、何を取り込むか」を理解しておけば、尿沈渣の所見から障害部位を論理的に推定でき、腎臓内科と泌尿器科のどちらで精査すべきかの判断にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・30歳男性。起床後の尿がコーラ色(暗赤色〜褐色)であった。 ・幼少期から扁桃炎を繰り返している。 ・7日前に咽頭痛と発熱があり、すでに軽快している。 ・尿所見:暗赤色、蛋白2+、潜血3+。 ・尿沈渣写真では、円柱(尿細管内で形成される円筒状の構造物)の中に多数の赤血球が封入された赤血球円柱がみられる。
障害部位の考え方
血尿をみたら、まず「腎臓(糸球体)由来」か「尿路(腎盂・尿管・膀胱・尿道)由来」かを区別する。そのために役立つのが尿沈渣の所見である。 円柱は、尿細管(主に遠位尿細管〜集合管)の内腔で、尿細管上皮から分泌されるTamm-Horsfall蛋白(ウロモジュリン)が鋳型状に固まってできる。したがって円柱の中に閉じ込められている成分は、尿細管より上流、つまりネフロン内に由来する。赤血球円柱は、糸球体基底膜の破綻によって糸球体から漏れ出た赤血球が尿細管内で円柱に取り込まれたものであり、糸球体腎炎を示す最も特異的な所見である。さらに蛋白尿(2+)の合併も糸球体障害を支持する。 コーラ色の尿も手がかりとなる。糸球体性血尿では、赤血球が尿細管内を長く通過する間にヘモグロビンが酸化されてメトヘモグロビンとなり、鮮紅色ではなく褐色〜コーラ色を呈することが多い。一方、尿路からの出血は鮮紅色で、凝血塊を伴うことがある。 以上から、障害部位は糸球体である。
原因疾患の推定
先行する上気道感染の後に血尿・蛋白尿が出現しているため、次の二つが鑑別となる。 ・溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN):A群β溶血性連鎖球菌による咽頭炎の後、1〜3週程度(咽頭炎後は10日前後が典型)の潜伏期を経て、血尿・蛋白尿・浮腫・高血圧で発症する。ASO(抗ストレプトリジンO抗体)・ASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)の上昇や、血清補体価(C3、CH50)の一過性低下がみられる。本例は咽頭痛・発熱の出現から約7日後に血尿・蛋白尿が出現しており、溶連菌咽頭炎後の潜伏期(10日前後が典型)の範囲に概ね合致する。 ・IgA腎症:上気道感染とほぼ同時(感染症状の出現後1〜3日以内)に肉眼的血尿をきたしやすく、慢性扁桃炎が増悪因子として知られる。本例のように咽頭炎の発症から1週間ほど経ってからの血尿は、この典型的な時間経過とはやや異なる。幼少期から扁桃炎を繰り返している点はIgA腎症をも想起させる。 本問の情報だけでは両者を確定的に区別できないが、いずれも糸球体の疾患であり、設問で問われている障害部位はどちらであっても糸球体となる。
選択肢考察
- ○a. 糸球体
赤血球円柱は、糸球体基底膜の障害で尿中に漏出した赤血球が尿細管内で円柱に取り込まれてできるもので、糸球体由来の血尿であることを示す特異的な所見である。蛋白尿(2+)を伴うこと、コーラ色の肉眼的血尿であること、先行する咽頭炎の後に発症していること(溶連菌感染後急性糸球体腎炎、またはIgA腎症)もすべて糸球体障害に合致する。
- ×b. 尿細管
円柱が形成される場所は尿細管だが、赤血球円柱は糸球体から流れてきた赤血球を取り込んだものであり、尿細管自体の障害を示すものではない。尿細管障害(急性尿細管壊死、尿細管間質性腎炎、薬剤性腎障害など)では、β2-ミクログロブリンやα1-ミクログロブリンなどの低分子量蛋白尿、NAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ)などの酵素尿、尿細管上皮細胞や上皮円柱・顆粒円柱、尿濃縮力の低下などがみられる。急性間質性腎炎では白血球円柱や好酸球尿がみられることもある。
- ×c. 腎盂
腎盂は尿細管より下流にあるため、腎盂で出血しても赤血球が円柱に取り込まれることはなく、赤血球円柱は出現しない。腎盂からの血尿の原因には腎盂癌(尿路上皮癌)、結石などがあり、鮮紅色の血尿や凝血塊を伴いうる。また慢性腎盂腎炎など腎盂・腎髄質の慢性障害では、尿濃縮力の低下による多尿をきたすことがある。
- ×d. 尿管
尿管からの出血でも赤血球円柱は形成されない。尿管の疾患で血尿をきたす代表は尿管結石で、片側の腰背部〜側腹部の疝痛発作を伴うのが特徴である。尿管癌でも無症候性の肉眼的血尿をきたしうる。本例には疼痛の訴えはなく、赤血球円柱と蛋白尿から糸球体性の血尿と判断される。
- ×e. 膀胱
膀胱からの出血でも赤血球円柱は形成されない。膀胱の疾患で血尿をきたすものには、膀胱癌(中高年の無症候性肉眼的血尿の代表的原因)、出血性膀胱炎(膀胱刺激症状として頻尿・排尿時痛を伴う)などがある。本例は赤血球円柱と蛋白尿を伴っており、膀胱由来とは考えにくい。
糸球体性血尿と非糸球体性血尿の鑑別
糸球体性:赤血球円柱あり、変形赤血球(大小不同や、ドーナツ状・コブ状など多彩な形態の赤血球)が多い、蛋白尿を伴うことが多い、色調は褐色〜コーラ色、凝血塊はみられない。 非糸球体性(尿路由来):赤血球円柱なし、赤血球の形態は均一、蛋白尿は伴わないか軽度、色調は鮮紅色、凝血塊を伴うことがある。
尿沈渣でみられる主な円柱と意義
・硝子円柱:Tamm-Horsfall蛋白のみからなる。健常者でも少数みられ、運動後や脱水時に増える。 ・赤血球円柱:糸球体腎炎(急性糸球体腎炎、IgA腎症、急速進行性糸球体腎炎、ループス腎炎など)。 ・白血球円柱:腎盂腎炎、間質性腎炎。 ・上皮円柱・顆粒円柱:尿細管障害(急性尿細管壊死など)。 ・ろう様円柱:尿細管内に長く停滞したことを示し、高度の腎障害や慢性腎臓病でみられる。 ・脂肪円柱:ネフローゼ症候群。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)
・小児に多いが成人にも起こる。A群β溶血性連鎖球菌の咽頭炎後約1〜2週、皮膚感染(膿痂疹)後約3〜6週の潜伏期を経て発症する。 ・三主徴は血尿、浮腫、高血圧である。乏尿を伴うこともある。 ・検査:ASO・ASK上昇、低補体血症(C3・CH50低下。通常6〜8週で正常化する)。腎生検では管内増殖性糸球体腎炎の像を示し、電子顕微鏡で上皮下のハンプ(こぶ状沈着物)がみられる。 ・治療は安静、塩分・水分制限、利尿薬・降圧薬などの対症療法が中心で、多くは自然に軽快する。
IgA腎症
・わが国で最も多い慢性糸球体腎炎で、メサンギウム領域へのIgA沈着を特徴とする。 ・健診での顕微鏡的血尿・蛋白尿で発見されることが多いが、上気道炎と同時期に肉眼的血尿をきたすことがある。 ・血清IgA高値を示すことがあるが、補体は通常正常である。 ・治療にはRAS阻害薬、副腎皮質ステロイド、口蓋扁桃摘出術(扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用が行われることがある)などがある。
POINT
・赤血球円柱は糸球体性血尿の特異的所見であり、障害部位は糸球体である。 ・円柱は尿細管内でTamm-Horsfall蛋白を基質として形成されるため、円柱内の成分はネフロン由来と判断できる。 ・コーラ色の血尿、蛋白尿、変形赤血球は糸球体性血尿を示唆する。鮮紅色の血尿や凝血塊は尿路由来を示唆する。 ・上気道炎の1〜2週後に血尿 → 溶連菌感染後急性糸球体腎炎(ASO上昇、低補体)。 ・上気道炎とほぼ同時に肉眼的血尿 → IgA腎症(補体正常)。
