その袋は感染性?―標準予防策で考える医療廃棄物の分け方
第112回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
88歳の男性。疲労感を主訴に来院した。1週間前に上気道炎症状があった。3日前から疲労感が強くなり,昨日から食事を摂ることができなくなった。トイレに起きるのもつらく,オムツをしていた。過去の健診で糖尿病の可能性を指摘されたことがある。現在,服薬はしていない。意識は清明。体温35.7℃。脈拍112/分,整。血圧156/92mmHg。下肢に挫創を認める。 この患者に使用した物で,標準予防策〈standard precautions〉の観点から感染性廃棄物として扱わないのはどれか。
- a.舌圧子を取り出した袋
- b.口腔ケアに用いたブラシ
- c.便が付着したオムツ
- d.下肢の創部にあてたガーゼ
- e.喀痰が付いたティッシュペーパー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
標準予防策は、感染症の診断の有無にかかわらずすべての患者を対象とし、血液、汗を除く体液・分泌物・排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性がある物として扱う考え方です。そのため、唾液のついた口腔ケア用ブラシ、便が付着したオムツ、創部にあてたガーゼ、喀痰のついたティッシュはいずれも感染性廃棄物となり、患者に接触していない未使用器具の包装袋は一般廃棄物として処理できます。標準予防策の基本は手指衛生と個人防護具の適切な使用であり、特定の病原体が疑われる場合には接触・飛沫・空気の感染経路別予防策を追加します。廃棄物は性状に応じて赤・橙・黄のバイオハザードマークで分別することも合わせて理解しておくと、臨床実習や日々の診療で院内感染を防ぐ確かな行動につながります。
解答・解説
正解はaです
症例の整理
高齢男性が、先行する上気道炎症状ののち、強い倦怠感と経口摂取不能をきたして受診している。体温35.7℃と低め、脈拍112/分の頻脈があり、糖尿病が疑われながら未治療である。オムツを使用しており、下肢には挫創がある。高齢者の感染症(肺炎、尿路感染症、創部感染など)では発熱がはっきりせず、むしろ低体温や全身倦怠感・食欲低下だけが前景に立つことがあり、脱水や高血糖の合併も考えておく必要がある。ただし本問の提示情報だけでは診断は一つに絞れず、設問の主眼は診断ではない。
設問の考え方
問われているのは、この患者の診療に使った物のうち「標準予防策の観点から感染性廃棄物として扱わない物」である。標準予防策〈standard precautions〉とは、感染症の有無が判明しているかどうかにかかわらず、すべての患者の血液、体液(汗を除く)、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性がある物として扱う考え方である。したがって、病原体の検出や診断の確定を待たずに、これらが付着した、あるいは付着した可能性のある物はすべて感染性廃棄物として処理する。 選択肢を「患者の湿性生体物質(喀痰・唾液・便・創部滲出液など)に触れたかどうか」で振り分けると、患者に触れていない未使用器具の包装袋だけが該当しないことがわかる。
選択肢考察
- ○a. 舌圧子を取り出した袋
舌圧子は口腔内に入れるため使用後は感染性廃棄物となるが、それを取り出した後の包装袋は、滅菌された未使用の器具を包んでいた物であり、患者の血液・体液・粘膜には接触していない。標準予防策が対象とする湿性生体物質が付着していないので、感染性廃棄物として扱う必要はなく、一般の廃棄物として処理してよい。したがってこれが「扱わない物」に当たる。ただし、汚染された手袋のまま袋を扱った場合などは汚染の可能性が生じるため、手指衛生や手袋交換の手順を守ることが前提である。
- ×b. 口腔ケアに用いたブラシ
口腔ケア用のブラシは口腔粘膜に直接触れ、唾液や口腔内の分泌物が付着している。粘膜と分泌物はいずれも標準予防策で感染の可能性がある物とされるため、使用後のブラシは感染性廃棄物として扱う。口腔内には多数の細菌が常在しており、高齢者では誤嚥性肺炎の原因菌にもなりうる。
- ×c. 便が付着したオムツ
便は排泄物であり、腸管由来の細菌やウイルス(ノロウイルス、Clostridioides difficile など)を含みうる。標準予防策では排泄物を感染の可能性がある物として扱うため、便が付着したオムツは感染性廃棄物として処理する。オムツ交換時には手袋・エプロン(ガウン)を着用し、処理後は手指衛生を行う。
- ×d. 下肢の創部にあてたガーゼ
創部にあてたガーゼには、血液や滲出液が付着している。血液・体液と、傷のある(損傷した)皮膚はいずれも標準予防策の対象であるため、このガーゼは感染性廃棄物となる。血液が付着した物は肝炎ウイルスやHIVなど血液媒介感染の観点からも厳重に扱う。
- ×e. 喀痰が付いたティッシュペーパー
喀痰は気道からの分泌物であり、標準予防策の対象である。本例では1週間前に上気道炎症状があり、呼吸器感染症の病原体が含まれている可能性もあるが、そうした背景がなくても喀痰が付着した物は感染性廃棄物として扱う。
標準予防策〈standard precautions〉の要点
・対象:すべての患者(感染症の診断の有無を問わない) ・感染の可能性がある物として扱うもの:血液、汗を除くすべての体液・分泌物・排泄物、傷のある皮膚、粘膜 ・主な具体策:手指衛生(最も基本)、個人防護具(手袋、マスク、ガウン、ゴーグル・フェイスシールド)の適切な使用、咳エチケット(呼吸器衛生)、汚染器材・リネンの適切な処理、環境整備、鋭利物の安全な取り扱い(リキャップしない等)、患者配置への配慮
感染経路別予防策との関係
標準予防策を基本とし、特定の病原体が判明または疑われる場合に感染経路別予防策(接触予防策、飛沫予防策、空気予防策)を上乗せする。例として、MRSAやノロウイルスでは接触予防策、インフルエンザでは飛沫予防策、結核・麻疹・水痘では空気予防策を追加する。
医療廃棄物の扱い
感染性廃棄物は性状によって分別し、バイオハザードマークで区別する。一般に、液状・泥状のもの(血液など)は赤、固形状のもの(血液が付着したガーゼなど)は橙、注射針・メスなどの鋭利な物は黄のマークを付けた容器に入れる。患者に接触していない包装材や紙くずなどは非感染性の一般廃棄物として処理できる。
高齢者の感染症の特徴
高齢者では感染症があっても発熱が乏しく、低体温、倦怠感、食欲低下、せん妄など非特異的な症状で受診することが少なくない。本例のように糖尿病が疑われる場合は、易感染性や高血糖による脱水にも注意する。
POINT
・標準予防策は、感染症の有無にかかわらず、すべての患者の血液・体液(汗を除く)・分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜を感染の可能性がある物として扱う。 ・これらが付着した物(唾液のついたブラシ、便のついたオムツ、創部のガーゼ、喀痰のついたティッシュ)は感染性廃棄物とする。 ・未使用器具の包装袋など、患者に接触していない物は感染性廃棄物ではない。 ・標準予防策の基本は手指衛生であり、必要に応じて感染経路別予防策を追加する。
