チューブの行き先が答えを語る―エックス線写真で見抜く胆道ドレナージ
第112回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
ある患者に対して処置を行った後の腹部エックス線写真を別に示す。 この患者の疾患として考えられるのはどれか。

- a.イレウス
- b.Crohn病
- c.食道静脈瘤
- d.総胆管結石
- e.非閉塞性腸管虚血症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
処置後のエックス線写真に写るチューブは、食道・胃を経て十二指腸下行部でループを作り、Vater乳頭から右上腹部の肝門部方向へ上行しており、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)チューブと判断できます。胆道ドレナージの対象となるのは胆汁の流れが障害される病態で、選択肢では総胆管結石が該当し、閉塞性黄疸や急性胆管炎に対して胆道減圧を行ったのち、乳頭括約筋切開術やバルーン拡張術を経て結石を除去します。イレウス管はTreitz靱帯を越えて小腸内に、経鼻胃管やS-Bチューブは胃内に先端が置かれるため、走行と先端位置で区別できます。Charcotの三徴やReynoldsの五徴を示す胆管炎では早期ドレナージが重要で、内視鏡が困難な場合は経皮経肝胆道ドレナージも選択肢となります。チューブの走行から処置の目的と疾患を読み解く力は、国家試験だけでなく日々の病棟業務での安全確認にも直結します。
解答・解説
正解はdです
画像の読み取り
腹部エックス線写真では、細いチューブが正中を下行して食道から胃に入り、胃内で弧を描いたのち十二指腸へ進んでいる。チューブは十二指腸下行部付近でループを作り、そこから先端が右上腹部の肝門部方向(頭側)へ向かって上行している。小腸へ向かって左上腹部(Treitz靱帯)を越えて肛門側に進む走行ではない。
考え方
口から挿入されて十二指腸乳頭(Vater乳頭)を経由し、胆管内に先端が置かれたチューブであり、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD:endoscopic nasobiliary drainage)チューブの典型像である。ENBDは内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP:endoscopic retrograde cholangiopancreatography)の手技で乳頭から胆管にカテーテルを挿入し、その他端を鼻から体外に出して胆汁を体外へ排出させる処置である。 したがって「処置を行った後」の写真に写っているのは胆道ドレナージであり、胆汁の流れが障害された疾患、すなわち選択肢の中では総胆管結石が該当する。総胆管結石は胆管閉塞による閉塞性黄疸や急性胆管炎を起こし、その治療として胆道ドレナージが行われる。 長いチューブが消化管内にある点ではイレウス管との鑑別が問題になるが、イレウス管は十二指腸からTreitz靱帯を越えて空腸・回腸へ進み、先端は小腸内(多くは左腹部〜下腹部)に位置する。本画像のように十二指腸から右上方の肝門部へ向かう走行はイレウス管では説明できない。
選択肢考察
- ×a. イレウス
腸閉塞(イレウス)の減圧には経鼻イレウス管(ロングチューブ)が用いられる。イレウス管は胃から十二指腸、Treitz靱帯を経て空腸・回腸へ進められ、先端は閉塞部位の口側の小腸内に置かれる。また単純X線写真では拡張した小腸ガスや鏡面像(niveau)が目立つはずだが、本画像にはそうした所見に乏しい。チューブが十二指腸から右上腹部の胆道方向へ向かう本画像の走行とは合致しない。
- ×b. Crohn病
Crohn病の寛解導入・維持では成分栄養剤による経腸栄養療法が行われることがあり、経鼻胃管や経鼻十二指腸チューブが留置される。しかし先端は胃や十二指腸・空腸といった消化管内に置かれ、胆管に入ることはない。Crohn病は消化管の全層性炎症であり、胆道ドレナージの適応となる病態ではない。
- ×c. 食道静脈瘤
食道静脈瘤の治療は内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や内視鏡的硬化療法(EIS)が中心である。破裂による大量出血時の一時止血にはSengstaken-Blakemore(S-B)チューブが使われるが、これは胃内と食道内でバルーンを膨らませて圧迫するもので、先端は胃内にとどまる。十二指腸を越えて胆管へ入る本画像のチューブとは異なる。
- ○d. 総胆管結石
総胆管結石が胆管を閉塞すると閉塞性黄疸や急性胆管炎(重症化すると敗血症に至る)を生じるため、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)や内視鏡的胆管ステント留置(EBS)による胆道減圧が行われる。その後、内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を行い、バスケットやバルーンで結石を除去する。本画像は口(鼻)から十二指腸を経て胆管に先端を置いたENBDチューブの像であり、総胆管結石に対する処置として矛盾しない。
- ×e. 非閉塞性腸管虚血症
非閉塞性腸管虚血症(NOMI:non-occlusive mesenteric ischemia)は、心不全・ショック・脱水・透析などを背景に腸間膜動脈が攣縮して、血管の器質的閉塞がないまま腸管虚血を起こす病態である。診断には造影CTや腹部血管造影が用いられ、治療は血管拡張薬(パパベリン、プロスタグランジンE1など)の選択的動注や循環の改善であり、腸管壊死があれば外科的切除を行う。胆道ドレナージの適応ではない。
胆道ドレナージの種類
・内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD):ERCPの手技で乳頭から胆管内にチューブを入れ、鼻から体外へ誘導する外瘻である。胆汁の性状や量を観察でき、洗浄や胆管造影も繰り返し行える。一方で鼻・咽頭の不快感があり、自己抜去のおそれがある。 ・内視鏡的胆管ステント留置(EBS:endoscopic biliary stenting):プラスチックステントや金属ステントを胆管内に留置し、胆汁を十二指腸へ流す内瘻である。体外にチューブが出ないため患者の負担が少ない。 ・経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD/PTCD):超音波ガイド下に皮膚から肝臓を経由して肝内胆管を穿刺する方法である。内視鏡的アプローチが困難な場合(術後再建腸管など)に選択される。
総胆管結石の臨床
・胆石が胆管内に落下するか、胆管内で形成される。症状として腹痛・発熱・黄疸がみられ、この3つはCharcotの三徴と呼ばれ急性胆管炎を示唆する。これにショックと意識障害を加えたものがReynoldsの五徴で、重症胆管炎を示す。 ・急性胆管炎では、抗菌薬投与とともに重症度に応じて早期の胆道ドレナージを行う。全身状態が安定したら、内視鏡的切石(EST/EPBD後の砕石・採石)を行い、胆嚢結石を合併していれば胆嚢摘出術を検討する。
画像で見分けるチューブ
・経鼻胃管:先端は胃内。 ・イレウス管:十二指腸からTreitz靱帯を越えて小腸内へ進み、先端は小腸内。 ・S-Bチューブ:食道と胃のバルーンで圧迫し、先端は胃内。 ・ENBDチューブ:十二指腸下行部でループを作り、乳頭から胆管内(右上腹部・肝門部方向)へ上行する。
POINT
・口(鼻)から十二指腸を経て右上腹部の胆管へ向かうチューブは、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)チューブである。 ・胆道ドレナージの適応は、総胆管結石や悪性腫瘍による閉塞性黄疸・急性胆管炎である。 ・イレウス管はTreitz靱帯を越えて小腸へ進むため、チューブの走行で区別できる。
