「ゴボッ」と聞こえても安心するな―経鼻胃管と「腸が使えるなら腸を使え」の原則
第111回医師国家試験 H問題 第6問
国試問題にチャレンジ
経鼻胃管について正しいのはどれか。
- a.意識障害患者への挿入は禁忌である。
- b.挿入時は体位をTrendelenburg位にする。
- c.心窩部で気泡音を聴取すれば適正位置と判断できる。
- d.誤嚥性肺炎〉の急性期には経管経腸栄養は禁忌である。
- e.経口摂取不可能時は静脈栄養より経管経腸栄養を優先する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
経口摂取ができなくても消化管が機能していれば、静脈栄養より経管経腸栄養を優先するのが栄養管理の大原則です。経腸栄養は腸粘膜の萎縮やバクテリアルトランスロケーションを防ぎ、カテーテル関連感染などの合併症が少なく安価です。経鼻胃管は座位またはファウラー位で頸部を前屈させて挿入し、意識障害や誤嚥性肺炎の急性期でも禁忌ではありませんが、頭蓋底骨折の疑いでは経鼻挿入を避けます。先端位置は心窩部の気泡音だけでは判断できず、X線写真での確認が確実で、吸引物のpH測定は補助的な方法です。日常的な手技だからこそ、誤挿入による重大事故を防ぐ確認の手順を理解しておくことが医療安全の基本になります。
解答・解説
正解はeです
経鼻胃管(nasogastric tube:NGチューブ)は、鼻腔から咽頭・食道を経て胃内に先端を留置するチューブである。用途は大きく二つに分かれる。一つは減圧・排液(腸閉塞や術後の胃内容の吸引、胃洗浄など)、もう一つは経管経腸栄養や薬剤投与の経路としての利用である。 本問では、(1) 挿入の適応と体位、(2) 挿入後の先端位置の確認方法、(3) 栄養経路の選択原則、の三点が問われている。 栄養経路の選択には「腸が使えるなら腸を使う(If the gut works, use it.)」という大原則がある。経口摂取ができなくても消化管の機能が保たれていれば、静脈栄養ではなく経管経腸栄養を第一選択とする。腸管を使うことで腸粘膜の萎縮を防ぎ、腸管のバリア機能や免疫機能が維持され、細菌が腸管から血中へ移行するバクテリアルトランスロケーションが起こりにくくなる。また、中心静脈カテーテルに伴うカテーテル関連血流感染や高血糖、肝機能障害などの合併症も避けられ、費用も安い。 さらに、挿入後の位置確認で心窩部の気泡音聴取だけに頼ってはならないことは、医療安全上きわめて重要な知識である。気管内への誤挿入に気づかず栄養剤を注入すると、重篤な肺炎や窒息を起こし死亡事故につながりうる。
選択肢考察
- ×a. 意識障害患者への挿入は禁忌である。
誤り。意識障害のある患者は経口摂取ができないことが多く、消化管機能が保たれていれば経鼻胃管を介した経管栄養のよい適応となる。薬物中毒での胃洗浄や、嘔吐による誤嚥を防ぐための胃内減圧にも用いられる。ただし意識障害患者では咳嗽反射や嚥下の協力が得られず、チューブが気管へ誤挿入されても咳込みなどの反応が乏しい。そのため挿入後の位置確認は特に慎重に行う必要がある。これは注意点であって、禁忌ではない。なお、経鼻挿入を避けるべき代表例は頭蓋底骨折の疑い(チューブが頭蓋内へ迷入するおそれ)や重度の顔面外傷であり、このような場合は経口挿入を選ぶ。
- ×b. 挿入時は体位をTrendelenburg位にする。
誤り。Trendelenburg位は仰臥位で頭部を低く、骨盤(腰部)を高くする体位で、骨盤高位ともよばれる。この体位では胃内容が逆流して誤嚥しやすく、挿入には適さない。経鼻胃管は原則として座位またはファウラー位(半座位)で挿入する。頸部を軽く前屈させると、チューブが気管ではなく食道へ進みやすくなる。挿入の途中で患者に嚥下してもらうのも、食道へ誘導するのに有効である。
- ×c. 心窩部で気泡音を聴取すれば適正位置と判断できる。
誤り。シリンジで空気を注入し心窩部で気泡音(送気音)を聴く方法は古くから使われてきたが、これだけで適正位置とは判断できない。先端が気管・気管支、食道内、あるいは十二指腸にあっても、音が伝わって心窩部で似た音が聞こえることがあるからである。実際に、この方法だけで確認して気管内へ栄養剤を注入した事故が報告されている。確実な確認方法は胸腹部X線写真で先端位置を確かめることである。補助的に、吸引した内容物のpHを測る方法(胃液であれば強い酸性を示す)もある。気泡音聴取は複数の確認法の一つにとどめる。
- ×d. 誤嚥性肺炎〉の急性期には経管経腸栄養は禁忌である。
誤り。誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)の急性期には、さらなる誤嚥を防ぐため経口摂取を一時中止することが多い。一方、経管経腸栄養は禁忌ではなく、消化管機能が保たれていれば栄養経路として用いる。経管栄養を行う際は、ベッドの頭側を30〜45度程度挙上する、投与速度を調整する、胃内残量に注意するなどして、胃食道逆流による再誤嚥を予防する。なお、経管栄養中でも口腔内分泌物や逆流した胃内容の誤嚥は起こりうる。経管栄養によって誤嚥性肺炎を完全に防げるわけではない点にも注意する。
- ○e. 経口摂取不可能時は静脈栄養より経管経腸栄養を優先する。
正しい。経口摂取ができなくても消化管が機能していれば、経管経腸栄養を静脈栄養より優先するのが栄養管理の原則である。経腸栄養は生理的な経路で栄養を投与できる。腸粘膜の萎縮を防いで腸管バリアと腸管関連免疫を維持し、バクテリアルトランスロケーションを抑える。中心静脈カテーテル関連の感染症や代謝性合併症が少なく、管理も容易で費用も安い。静脈栄養を選ぶのは、腸閉塞、消化管穿孔、大量の消化管出血、重症の下痢や吸収障害など、腸管が使えない病態に限られる。
栄養療法の経路選択
・経口摂取が可能 → 経口栄養(必要に応じ栄養補助食品を併用) ・経口摂取が不可能または不十分で、消化管が機能している → 経腸栄養(経管栄養) ・短期間(おおむね4週間以内):経鼻胃管、経鼻空腸管 ・長期間(4週間以上が見込まれる):胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術)、腸瘻 ・消化管が使えない → 静脈栄養 ・短期間:末梢静脈栄養(PPN) ・長期間・高カロリーが必要:中心静脈栄養(TPN)
経鼻胃管の主な適応
・経管経腸栄養、薬剤投与 ・胃内容の減圧・排液(腸閉塞、術後、急性膵炎など) ・胃洗浄(薬物中毒など) ・上部消化管出血の確認
挿入の手順と注意点
・挿入する長さの目安:鼻尖→耳朶→剣状突起までの長さ(成人でおおむね45〜55cm) ・体位:座位またはファウラー位とし、頸部を軽く前屈させる ・患者に嚥下してもらいながら進める ・咳込み、嗄声、呼吸困難、チアノーゼが出たら気管への誤挿入を疑い、すぐに抜去する ・頭蓋底骨折が疑われる場合は経鼻挿入を避ける
位置確認
・最も確実なのはX線写真による先端位置の確認 ・吸引物のpH測定(胃内なら強い酸性)は補助的な方法 ・心窩部の気泡音聴取だけでは不十分 ・初回だけでなく、注入のたびに、チューブの固定位置(鼻孔でのマーキング)のずれと吸引物を確認する
POINT
・消化管が機能していれば、静脈栄養より経腸栄養を優先する(If the gut works, use it.)。 ・経腸栄養の利点:腸粘膜萎縮の予防、バクテリアルトランスロケーションの抑制、カテーテル関連感染が少ない、安価。 ・経鼻胃管の位置確認は心窩部の気泡音だけでは不十分で、X線写真による確認が確実である。 ・挿入は座位または半座位で行い、頸部を前屈させる。Trendelenburg位は用いない。 ・意識障害や誤嚥性肺炎の急性期でも、経管経腸栄養は禁忌ではない。
