StudyMed医師国家試験

診察は「体位」から始まっている―所見を見逃さないためのポジショニング術

第111回医師国家試験 H問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第111回 H問題 第5問

身体診察の異常所見とその診察に適した体位との組合せで正しいのはどれか。

  1. a.側弯 ―― 胸膝位
  2. b.痔核 ―― 半座位
  3. c.甲状腺腫 ―― 座位
  4. d.項部硬直 ―― 右側臥位
  5. e.頸静脈怒張 ―― 腹臥位

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、身体診察で見つけたい異常所見と、その診察に適した体位の組合せを問う問題だ。体位は暗記項目に見えるけれど、「何を観察・触知したいのか」「重力や筋の緊張がどう影響するか」を考えれば自然に決まる。その視点で一つずつ見ていこう。
医学生医学生
OSCEの練習で体位の指示はたくさん出てきましたけど、正直、理由までは意識していませんでした。
ドクタードクター
そこを理由づけで整理すると忘れにくくなるよ。まず甲状腺腫から。甲状腺を診るとき、患者さんにはどんな姿勢をとってもらう?
医学生医学生
座ってもらって、後ろから両手で触る方法を習いました。飲み込んでもらうんですよね。
ドクタードクター
その通り。座位なら頸部前面を左右対称に観察できるし、頸部を軽く前屈させると胸鎖乳突筋などがゆるんで触れやすくなる。甲状腺は喉頭・気管に付着しているから嚥下で上下に動く。これが甲状腺由来の腫瘤であることを示す大事な所見で、座位で唾液や水を飲んでもらうと確認しやすいんだ。だから甲状腺腫と座位の組合せが正解になる。
医学生医学生
なるほど。では側弯と胸膝位はどうでしょう。背中を丸めると弯曲が目立ちそうな気もします。
ドクタードクター
前屈させるという発想自体は正しいよ。ただ側弯は、上半身を脱いだ立位で背面から肩の高さ、肩甲骨の位置、ウエストラインの左右差を見て、さらに立ったまま前屈してもらうAdams testで肋骨隆起を確認する。胸膝位は胸と膝をベッドにつけて殿部を高く上げる体位で、直腸・肛門の診察や骨盤位の矯正体操に使うものなんだ。
医学生医学生
小児科実習で学校検診の話を聞いたとき、前屈テストは立ったままでしたね。胸膝位だと肛門のほうに使うんですね。
ドクタードクター
そう。その流れで痔核を考えると、半座位では肛門部がまったく見えないよね。痔核の視診や直腸指診、肛門鏡は、左側臥位で膝を曲げるSims位が一般的で、砕石位や胸膝位、ジャックナイフ位なども使われる。
医学生医学生
項部硬直は側臥位で首を曲げると思っていたかもしれません。髄膜炎の患者さんは横向きで丸まっていることが多いので。
ドクタードクター
その連想は分かるよ。でも項部硬直は、仰臥位で枕を外し、検者が後頭部を支えて頸部を他動的に前屈させたときの抵抗をみる。側臥位では正しく前屈できず、筋緊張も評価しにくい。ちなみに右側臥位は、脾臓が手前に移動して触れやすくなるので脾臓の触診に使われることがある体位だ。
医学生医学生
Kernig徴候も仰臥位でしたね。髄膜刺激徴候は仰臥位でまとめて診る、と覚えます。最後の頸静脈怒張と腹臥位は明らかに変ですよね。
ドクタードクター
腹臥位では頸部がそもそも見えないからね。頸静脈は上半身を約45°起こした半座位で、顔をやや左に向けて右内頸静脈を観察する。胸骨角から拍動の上端までの垂直距離に約5 cmを足すと中心静脈圧の推定値になり、胸骨角から3 cmを超えれば中心静脈圧の上昇、たとえば右心不全などを示唆する。
医学生医学生
循環器内科を回ったとき、心不全の患者さんで首の静脈が拍動しているのを見せてもらいました。角度を変えると見え方が変わるんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。寝かせすぎると正常でも頸静脈が張って見えるし、起こしすぎると上端が下顎の陰に隠れる。だから45°が基準になる。ほかにも体位が決め手になる所見はあるよ。左側臥位では僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルやⅢ音のような心尖部の低調音が聴きやすく、前傾座位では大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音や心膜摩擦音が聴きやすい。
医学生医学生
心音も体位で聴こえ方が変わるんですね。腹部診察で膝を立ててもらうのも、腹壁の緊張をゆるめるためでしたよね。
ドクタードクター
その通り。体位は所見を引き出す道具であると同時に、患者さんの負担を減らす配慮でもある。呼吸困難のある人に無理に仰臥位をとらせない、肛門診察では羞恥心に配慮してタオルをかける、といったことも含めて体位を選べると、診察の質がぐっと上がるよ。

まとめ

身体診察では、観察・触知したい所見と重力や筋緊張の影響を考えて体位を選びます。甲状腺は座位で頸部を軽く前屈させて触診し、嚥下に伴う上下移動で甲状腺由来の腫瘤であることを確かめます。側弯は立位での背面観察と前屈テスト、痔核はSims位などの側臥位、項部硬直は仰臥位での他動的前屈、頸静脈怒張は約45°の半座位で評価し、胸膝位は直腸・肛門診察、右側臥位は脾臓の触診に用いられます。左側臥位での僧帽弁狭窄症の雑音聴取や前傾座位での大動脈弁閉鎖不全症の雑音聴取など、体位で所見の検出率が変わる例は多くあります。体位の理由を理解しておくことは、所見の見逃しを防ぎ、患者に負担の少ない診察を行うための基本です。

解答・解説

正解はcです

テーマ

身体診察では、所見を見つけやすく、患者に負担の少ない体位を部位ごとに選ぶ必要がある。本問は代表的な診察項目と、その診察に適した体位の組合せを問うている。

正解を導く考え方

各所見について「何を観察・触知したいのか」「そのために重力や筋緊張がどう影響するか」を考えると体位は自然に決まる。 ・甲状腺:頸部前面を左右対称に観察し、嚥下時の上下運動を確かめるため、座位で頸部をやや前屈させ、前面または背後から触診する。 ・側弯:脊柱の弯曲や肩・肩甲骨・腰のラインの左右差を見るため、立位で背面から観察し、前屈させて肋骨隆起を確認する。 ・痔核:肛門・直腸を診るため、左側臥位(Sims位)などで行う。 ・項部硬直:頸部の筋をリラックスさせた状態で他動的に前屈させるため、仰臥位で行う。 ・頸静脈怒張:右房圧を推定するため、上半身を約45°起こした半座位で観察する。 このように整理すると、正しい組合せは「甲状腺腫 ―― 座位」である。

選択肢考察

  1. ×a.  側弯 ―― 胸膝位

    側弯(脊柱側弯症)の診察は、上半身を脱いだ立位で背面から観察するのが基本である。肩の高さ、肩甲骨の位置、ウエストラインの左右差を確認し、さらに立位で前屈させる前屈テスト(Adams test)で肋骨隆起(rib hump)や腰部隆起の有無をみる。棘突起の配列の触診は座位や腹臥位でも行える。胸膝位は、腹臥位から胸と膝をベッドにつけて殿部を高く上げる体位で、直腸・肛門の診察や、骨盤位(逆子)の矯正を目的とした体操などに用いられる。側弯の診察には適さない。

  2. ×b.  痔核 ―― 半座位

    痔核の診察(肛門視診・直腸指診・肛門鏡検査)は、左側臥位で両膝を曲げる体位(Sims位)で行うのが一般的であり、ほかに砕石位、胸膝位、ジャックナイフ位なども用いられる。半座位は上半身を起こした体位であり、肛門部を観察・診察することができないため不適切である。

  3. ○c.  甲状腺腫 ―― 座位

    甲状腺の診察は座位で行う。座位では頸部前面を左右対称に観察でき、頸部を軽く前屈させると胸鎖乳突筋などがゆるんで触診しやすくなる。患者の背後に立って両手の指で触れる方法と、前面から触れる方法がある。甲状腺は喉頭・気管に付着しているため嚥下とともに上下に動き、座位で唾液や水を飲み込んでもらうことで甲状腺腫を他の頸部腫瘤と区別しやすい。甲状腺腫の大きさ、硬さ、表面の性状、圧痛、結節の有無などを評価する。

  4. ×d.  項部硬直 ―― 右側臥位

    項部硬直は髄膜刺激徴候の一つで、患者を仰臥位にして枕を外し、検者が後頭部を手で支えて頸部を他動的に前屈させたときの抵抗をみる。側臥位では頸部を正しく前屈させることも、筋緊張を正確に評価することもできない。右側臥位は、腹部診察で脾臓を触知しやすくするときなどに用いられる体位である。

  5. ×e.  頸静脈怒張 ―― 腹臥位

    頸静脈怒張の評価は、仰臥位から上半身を約45°起こした半座位(セミファーラー位)で、顔をやや左に向けて右内頸静脈を観察する。胸骨角から拍動の上端までの垂直距離を測り、これに約5 cmを加えた値が中心静脈圧の推定値となる。胸骨角からの高さが3 cmを超える場合は中心静脈圧上昇(右心不全など)を示唆する。腹臥位では頸部を観察できず、静脈の拍動も評価できないため不適切である。

診察で用いられる主な体位

・座位:甲状腺、頭頸部、胸部(背部の聴診・打診)などの診察。 ・立位:側弯などの脊柱・姿勢の評価、歩行や Romberg 試験など。 ・仰臥位:腹部診察(膝を立てて腹壁の緊張をゆるめる)、項部硬直、Kernig 徴候などの神経学的診察。 ・半座位(セミファーラー位、上半身を約45°挙上):頸静脈の観察。呼吸困難のある患者の楽な姿勢でもある。 ・左側臥位:僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルやⅢ音などの心尖部の低調音の聴取(ベル型聴診器)。 ・右側臥位:脾臓の触診(脾臓が手前に移動して触れやすくなる)。 ・Sims位:左側臥位で左下肢を伸ばし、右下肢の股関節と膝を曲げて前方に出す体位。直腸診・肛門診察、浣腸などに用いる。 ・胸膝位:腹臥位から胸と膝をつき殿部を高く上げる体位。直腸・肛門の診察、骨盤位の矯正体操などに用いる。 ・砕石位(截石位):仰臥位で股関節・膝関節を屈曲・開脚する体位。内診、肛門・会陰部の診察・処置に用いる。 ・前傾座位:大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音や心膜摩擦音の聴取に有用。

甲状腺の触診のポイント

甲状腺は甲状軟骨の下方、輪状軟骨の下に位置し、峡部が気管の前面にある。嚥下に伴って上下に移動することが、甲状腺由来の腫瘤であることを示す重要な所見である。

POINT

・甲状腺の触診は座位で、嚥下させて上下に動くことを確認する。 ・側弯は立位で背面から観察し、前屈テストで肋骨隆起をみる。 ・痔核・直腸診は左側臥位(Sims位)などで行う。 ・項部硬直は仰臥位で頸部を他動的に前屈させて評価する。 ・頸静脈怒張は上半身を約45°起こした半座位で観察する。 ・右側臥位は脾臓の触診、左側臥位は僧帽弁狭窄症の雑音聴取に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。