「右」のMLFで動かないのはどちらの眼?―核間性眼筋麻痺を左右で解き明かす
第111回医師国家試験 H問題 第8問
国試問題にチャレンジ
右内側縦束〈MLF〉の病変で障害されるのはどれか。
- a.左眼外転
- b.左眼内転
- c.輻湊
- d.右眼内転
- e.右眼外転
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
水平共同注視では、PPRFが同側の外転神経核を刺激し、運動ニューロンが同側眼を外転させる一方、核間ニューロンの軸索は正中を越えて反対側のMLFを上行し、動眼神経核の内直筋亜核を介して反対側眼を内転させます。そのためMLF病変では病変と同じ側の眼の内転が側方注視で障害され、右MLF病変なら右眼内転障害となり、反対側の眼は外転可能で解離性眼振を伴うことが多いのがMLF症候群(核間性眼筋麻痺)です。輻湊はMLFを経由しないため通常保たれ、輻湊でも内転できない動眼神経麻痺との鑑別点になります。原因は若年者では多発性硬化症、高齢者では脳幹梗塞が代表的で、同側のPPRFまで障害されるとone-and-a-half症候群となります。注視経路を左右の交差を含めて描けるようになることが、眼球運動障害の局在診断の基本です。
解答・解説
正解はdです
内側縦束(medial longitudinal fasciculus:MLF)は脳幹の正中近くを縦に走る神経線維束である。水平方向の共同注視(両眼を同じ向きにそろえて動かすこと)に欠かせない連絡路である。本問を解くには、水平注視の神経経路を左右を区別してたどれることが必要である。
水平注視の経路(左方視の例)
(1) 左を見ようとすると、左側の橋にある傍正中橋網様体(paramedian pontine reticular formation:PPRF、水平注視中枢)が興奮する。 (2) PPRFは同側(左)の外転神経核を刺激する。 (3) 外転神経核には2種類のニューロンがある。運動ニューロンは左外転神経を通って左外直筋を収縮させ、左眼を外転させる。核間ニューロンは軸索がすぐに正中を越えて反対側(右)のMLFに入り、中脳まで上行する。 (4) 右MLFを上行した線維は右動眼神経核の内直筋亜核に達し、右動眼神経を介して右内直筋を収縮させ、右眼を内転させる。 この結果、左眼の外転と右眼の内転が同時に起こり、両眼がそろって左を向く。 したがって右MLFが障害されると、(4)の経路が途切れ、左方視のときに右眼が内転できなくなる。このとき反対側の左眼は外転するが、外転に伴って眼振(解離性眼振)がみられることが多い。この病態をMLF症候群(核間性眼筋麻痺:internuclear ophthalmoplegia、INO)という。障害は病変と同じ側の眼の内転障害として現れる、と覚えておくとよい。
選択肢考察
- ×a. 左眼外転
誤り。左眼の外転は、左PPRFから左外転神経核、左外転神経、左外直筋へと至る経路で行われ、右MLFを通らない。したがって右MLF病変では障害されない。ただし右MLF症候群で左方視をすると、外転した左眼に単眼性の水平眼振(解離性眼振)がみられることが多い。眼振はあっても外転そのものは可能である。
- ×b. 左眼内転
誤り。左眼の内転(右方視のときの左内直筋の収縮)は、右外転神経核の核間ニューロンが正中を越え、左MLFを上行して左動眼神経核に至る経路で行われる。右MLFは使われないので、左眼の内転は保たれる。左眼の内転が障害されるのは左MLF病変の場合である。
- ×c. 輻湊
誤り。輻湊(両眼を寄せて近くを見る運動)は、中脳にある輻湊中枢から両側の動眼神経核の内直筋亜核へ直接指令が伝わって起こる。MLFを経由しないため、MLF症候群では側方注視で内転できない眼も、輻湊のときには内転できるのが典型である。これが、内直筋そのものや動眼神経の麻痺(輻湊でも内転できない)との重要な鑑別点になる。なお、病変が中脳の動眼神経核近くまで及ぶ場合には、輻湊も障害されることがある。
- ○d. 右眼内転
正しい。右MLFには、左外転神経核の核間ニューロンから右動眼神経核(内直筋亜核)へ向かう線維が走っている。右MLFが障害されると、左方視のときに左眼は外転するが右眼は内転できず、正中付近で止まるか内転が不十分になる。このため、病変と同じ側である右眼の内転障害が生じる。輻湊のときには右眼も内転できるので、右内直筋や右動眼神経そのものの障害ではないと判断できる。
- ×e. 右眼外転
誤り。右眼の外転は、右PPRFから右外転神経核、右外転神経、右外直筋へと至る経路で行われ、MLFを経由しない。したがって右MLF病変では障害されない。右眼の外転障害が起こるのは、右外転神経麻痺や右外転神経核の病変である。外転神経核の病変では、右外転神経麻痺に加えて右方への共同注視麻痺が起こる。
MLF症候群(核間性眼筋麻痺)の特徴
・病変側の眼の内転障害(側方注視のとき) ・反対側の眼の外転時にみられる単眼性の水平眼振(解離性眼振) ・輻湊は通常保たれる ・正面視では眼位異常がないか、あっても軽度のことが多い ・両側性の場合は、両眼の内転障害と、上方視時の垂直眼振を伴うことがある
主な原因
・若年者、とくに両側性:多発性硬化症(脱髄) ・高齢者、一側性:脳幹(橋・中脳)の脳梗塞(血管障害) ・その他:脳幹腫瘍、外傷、Wernicke脳症など
関連する眼球運動障害
・PPRFまたは外転神経核の障害:同側への水平共同注視麻痺 ・one-and-a-half症候群:一側のPPRF(または外転神経核)と同側のMLFがともに障害される。病変側への共同注視麻痺に加え、反対側を見るときに病変側の眼の内転障害が起こる。水平方向の眼球運動で残るのは、反対側の眼の外転だけになる。 ・動眼神経麻痺:内転障害に加えて上転・下転障害、眼瞼下垂、散瞳(瞳孔を支配する線維が障害された場合)を伴い、輻湊でも内転できない。
POINT
・MLFは、外転神経核の核間ニューロンから反対側の動眼神経核(内直筋亜核)へ向かう線維が通る。 ・MLF病変では、病変と同じ側の眼の内転が側方注視で障害される(右MLF病変なら右眼内転障害)。 ・反対側の眼は外転でき、外転時に単眼性眼振がみられる。 ・輻湊は通常保たれ、動眼神経麻痺との鑑別点になる。 ・原因は若年者なら多発性硬化症、高齢者なら脳幹梗塞が代表的である。
