StudyMed医師国家試験

LHはどこへ、DHTは敵か味方か―男性ホルモンの「流れ」を一本の線でつなぐ

第111回医師国家試験 G問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第20問

男性ホルモンについて正しいのはどれか。

  1. a.LHはSertoli細胞に作用する。
  2. b.GnRHはLeydig細胞に作用する。
  3. c.アンドロゲン受容体は膜蛋白である。
  4. d.テストステロンは5α還元酵素で不活化される。
  5. e.副腎アンドロゲンはコレステロールから合成される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は男性ホルモン、つまりアンドロゲンについての基本問題だ。分泌の調節、受容体の場所、代謝、そして合成の原料と、テーマが選択肢ごとにばらばらに見えるけれど、視床下部から精巣、標的細胞までの「流れ」を一本の線で描ければすべて解ける。順番にたどっていこう。
医学生医学生
生理学の講義で習ったはずなんですが、LHとFSHがどっちの細胞に効くのか、いつも逆に覚えてしまいます。
ドクタードクター
そこは多くの人がつまずくところだね。まず上流から。視床下部からGnRHがパルス状に分泌され、下垂体門脈を通って下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞を刺激する。するとLHとFSHが血中に放出される。GnRHの作用する場所はどこだと言えるかな。
医学生医学生
下垂体前葉ですね。ということは、GnRHがLeydig細胞に直接作用するというのは誤りですか。
ドクタードクター
その通り。Leydig細胞を直接刺激するのはGnRHではなくLHだ。精巣では、LHが間質にあるLeydig細胞に作用してテストステロンを作らせ、FSHが精細管の中にあるSertoli細胞に作用して精子形成を支える。だから「LHがSertoli細胞に作用する」という記述も誤り。覚え方としては、LとLでLHはLeydig、と結びつけるとまぎれにくいよ。
医学生医学生
LHとLeydig、確かに頭文字が同じですね。Sertoli細胞は何を作っているんでしたっけ。
ドクタードクター
FSHの刺激を受けて、アンドロゲン結合蛋白やインヒビンBを分泌する。インヒビンBはFSHを選択的に負のフィードバックで抑える。一方でテストステロンは視床下部と下垂体に負のフィードバックをかける。組織実習で精巣の標本を見たとき、精細管の外側の間質に好酸性の細胞が集まっていたのを覚えているかな。あれがLeydig細胞だ。
医学生医学生
はい、精細管の間にぽつぽつ見えました。では次に、アンドロゲン受容体が膜蛋白というのはどうでしょう。ホルモンの受容体はなんとなく細胞膜にあるイメージがあります。
ドクタードクター
そのイメージはペプチドホルモンには当てはまるけれど、ステロイドには当てはまらない。テストステロンはステロイドで脂溶性だから、細胞膜をそのまま通り抜ける。アンドロゲン受容体は細胞内にあり、核内受容体スーパーファミリーの一員なんだ。リガンドが結合すると核へ移行して二量体を作り、DNA上のアンドロゲン応答配列に結合して転写を調節する。だからこの選択肢も誤り。
医学生医学生
LHやFSH、インスリンのように水溶性のホルモンは膜受容体、ステロイドや甲状腺ホルモンは核内受容体、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。次は代謝の話。5α還元酵素はテストステロンに何をする酵素だったかな。
医学生医学生
不活化……ではなくて、ジヒドロテストステロンに変えるんでしたっけ。でも、それが強くなるのか弱くなるのかが曖昧です。
ドクタードクター
ここが大事なポイント。5α還元酵素はテストステロンを、受容体への親和性がより高いジヒドロテストステロン、つまりDHTに変える。不活化ではなく活性化なんだ。DHTは胎児期の外性器や前立腺の分化、成人の前立腺の発育、毛包への作用を担っている。だから「不活化される」という記述は誤りだ。
医学生医学生
泌尿器科の実習で、前立腺肥大症の患者さんにデュタステリドが処方されていました。DHTを減らすことで前立腺を小さくするということですね。
ドクタードクター
その通り。同じ理屈でフィナステリドなどは男性型脱毛症にも使われる。逆に、生まれつき5α還元酵素2型が欠損していると、46,XYでも外性器の男性化が不十分になる。DHTが強力な活性型だという証拠だね。では最後に残った、副腎アンドロゲンはコレステロールから合成される、という記述は?
医学生医学生
副腎皮質ホルモンも性ホルモンもステロイドなので、どれもコレステロールが原料のはずです。これが正しいですね。
ドクタードクター
正解だ。副腎皮質の網状層で作られるDHEAやその硫酸抱合体のDHEA-S、アンドロステンジオンは、束状層のコルチゾールや球状層のアルドステロンと同じく、コレステロールから出発する。コレステロールが側鎖切断酵素でプレグネノロンになり、17α-水酸化酵素と17,20-リアーゼの働きを経てDHEAへと進むんだ。
医学生医学生
球状層・束状層・網状層の順に「塩・糖・性」と覚えました。全部コレステロールが出発点というのはすっきりします。
ドクタードクター
いい覚え方だね。発展として、アンドロゲンはアロマターゼによってエストラジオールにも変換される。これを止めるアロマターゼ阻害薬は閉経後のホルモン受容体陽性乳癌に使われる。また、GnRHアゴニストを持続投与すると受容体がダウンレギュレーションしてLH・FSHがかえって低下し、テストステロンが去勢レベルまで下がる。これが前立腺癌の内分泌療法に応用されているんだ。
医学生医学生
パルス状だと刺激、持続だと抑制になるんですね。生理学の知識がそのまま治療薬につながっているのが面白いです。
ドクタードクター
そう、ホルモンの流れを理解していれば、薬の作用点も自然に整理できる。どの細胞に、どの受容体を介して、何に変換されて働くのか、という視点を常に持っておこう。

まとめ

男性ホルモンの調節では、視床下部のGnRHが下垂体前葉に作用してLHとFSHを分泌させ、精巣ではLHがLeydig細胞にテストステロンを産生させ、FSHがSertoli細胞を介して精子形成を支えます。テストステロンは脂溶性のステロイドで細胞膜を通過し、核内受容体スーパーファミリーに属するアンドロゲン受容体に結合して遺伝子転写を調節します。標的組織では5α還元酵素によって、より強力なジヒドロテストステロンへ活性化され、この経路を阻害する薬は前立腺肥大症や男性型脱毛症に用いられます。精巣のテストステロンも副腎網状層のDHEAなどの副腎アンドロゲンも、すべてコレステロールを原料とするステロイドホルモンです。分泌調節から受容体、代謝、合成までを一連の流れとして理解しておくと、性腺疾患の病態やGnRHアゴニスト、5α還元酵素阻害薬、アロマターゼ阻害薬といった治療薬の作用点も整理しやすくなります。

解答・解説

正解はeです

男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌調節系、作用機序、代謝、合成経路を横断的に問う問題である。

視床下部−下垂体−精巣系の流れ

視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)がパルス状に分泌され、下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞を刺激して黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)を放出させる。精巣では、LHは間質にあるLeydig細胞に、FSHは精細管内のSertoli細胞にそれぞれ作用する。Leydig細胞が産生したテストステロンは、視床下部・下垂体へ負のフィードバックをかける。

作用機序と代謝

テストステロンはステロイドであり脂溶性のため細胞膜を通過し、細胞内のアンドロゲン受容体(核内受容体スーパーファミリーの一員)に結合して核へ移行し、遺伝子転写を調節する。標的組織では5α還元酵素によってより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換されるか、アロマターゼによってエストラジオールに変換される。

合成経路

精巣のテストステロンも、副腎のデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)やアンドロステンジオンも、すべてコレステロールを出発物質として合成されるステロイドホルモンである。 この流れを一つずつ選択肢に当てはめると、正しいのは副腎アンドロゲンの原料に関する記述だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  LHはSertoli細胞に作用する。

    誤り。LHの標的は精巣間質のLeydig細胞である。LHがLeydig細胞のLH受容体(Gs共役型受容体)に結合すると、ステロイド合成の律速段階であるコレステロールのミトコンドリア内への輸送や側鎖切断が促進され、テストステロンが産生される。Sertoli細胞に作用するのはFSHであり、FSHはSertoli細胞にアンドロゲン結合蛋白(ABP)やインヒビンを産生させ、精子形成を支える。

  2. ×b.  GnRHはLeydig細胞に作用する。

    誤り。GnRHは視床下部で産生され、下垂体門脈を経て下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞に作用し、LHとFSHの分泌を促す。精巣のLeydig細胞を直接刺激するのはGnRHではなくLHである。なお、GnRHはパルス状に分泌されることで作用を発揮し、GnRHアゴニストを持続投与すると受容体のダウンレギュレーションによりかえってLH・FSH分泌が抑制される(前立腺癌の内分泌療法に利用される)。

  3. ×c.  アンドロゲン受容体は膜蛋白である。

    誤り。アンドロゲン受容体は細胞内受容体であり、核内受容体スーパーファミリーに属する。リガンドが結合していない状態では主に細胞質に熱ショック蛋白と複合体をつくって存在し、テストステロンやDHTが結合すると核内へ移行して二量体を形成し、標的遺伝子のアンドロゲン応答配列に結合して転写を調節する。膜蛋白として細胞表面に存在するのはペプチドホルモン(LH、FSH、インスリンなど)の受容体である。

  4. ×d.  テストステロンは5α還元酵素で不活化される。

    誤り。5α還元酵素はテストステロンを、アンドロゲン受容体への親和性がより高い強力な活性型であるジヒドロテストステロン(DHT)に変換する。つまり不活化ではなく活性化である。DHTは胎児期の外性器(陰茎・陰嚢)や前立腺の分化、思春期以降の前立腺の発育、毛包への作用などを担う。このため5α還元酵素阻害薬(デュタステリド、フィナステリド)は前立腺肥大症や男性型脱毛症の治療に用いられる。先天的な5α還元酵素2型欠損症では、男性(46,XY)でも外性器の男性化が不十分になる。

  5. ○e.  副腎アンドロゲンはコレステロールから合成される。

    正しい。副腎アンドロゲン(主にDHEA、その硫酸抱合体であるDHEA-S、アンドロステンジオン)は副腎皮質網状層で産生されるステロイドホルモンであり、コルチゾール(束状層)やアルドステロン(球状層)と同じくコレステロールを原料とする。コレステロールは側鎖切断酵素によってプレグネノロンとなり、17α-水酸化酵素/17,20-リアーゼ(CYP17A1)の作用を経てDHEAへと変換される。

ステロイドホルモン合成の概要

コレステロール → プレグネノロン(側鎖切断酵素CYP11A1、ミトコンドリア内で起こる律速段階)を起点として、以下のように分かれる。 ・ミネラルコルチコイド系: プレグネノロン → プロゲステロン → 11-デオキシコルチコステロン → コルチコステロン → アルドステロン(球状層) ・グルココルチコイド系: 17α-ヒドロキシプロゲステロン → 11-デオキシコルチゾール → コルチゾール(束状層) ・アンドロゲン系: 17α-ヒドロキシプレグネノロン → DHEA → アンドロステンジオン → テストステロン(網状層・精巣) ・エストロゲン系: アンドロステンジオン/テストステロン → アロマターゼ → エストロン/エストラジオール(卵巣顆粒膜細胞・脂肪組織など)

ホルモンの種類と受容体の局在

・ステロイドホルモン(性ホルモン、糖質・鉱質コルチコイド)、甲状腺ホルモン、活性型ビタミンD: 脂溶性で細胞内(核内)受容体に結合し、遺伝子発現を介して作用する。 ・ペプチド・蛋白ホルモン(GnRH、LH、FSH、インスリンなど)、カテコールアミン: 水溶性で細胞膜受容体に結合し、cAMPなどの二次メッセンジャーを介して作用する。

精巣内の役割分担

・Leydig細胞(間質): LH刺激でテストステロンを産生する。 ・Sertoli細胞(精細管): FSHとテストステロンの刺激で精子形成を支持し、ABP、インヒビンB、抗Müller管ホルモンを分泌する。インヒビンBはFSHを選択的に負のフィードバックで抑制する。

関連する薬剤

・5α還元酵素阻害薬: 前立腺肥大症、男性型脱毛症 ・アロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾールなど): 閉経後のホルモン受容体陽性乳癌 ・GnRHアゴニスト/アンタゴニスト、抗アンドロゲン薬: 前立腺癌

POINT

・LH → Leydig細胞 → テストステロン産生、FSH → Sertoli細胞 → 精子形成支持。 ・GnRHは下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞に作用する。 ・アンドロゲン受容体はステロイドホルモン受容体であり、細胞内(核内)受容体である。 ・テストステロンは5α還元酵素により活性の強いDHTへ変換される(不活化ではない)。 ・性ホルモン・副腎皮質ホルモンはすべてコレステロール由来のステロイドホルモンである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。