StudyMed医師国家試験

スプーン爪は誰のサイン?―貧血の「随伴症候」を病態から読み解く

第111回医師国家試験 G問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第19問

貧血とその症候の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.悪性貧血 ―― Hunter舌炎
  2. b.Evans症候群 ―― 紫斑
  3. c.再生不良性貧血 ―― スプーン爪
  4. d.先天性溶血性貧血 ―― 胆石
  5. e.鉄欠乏性貧血 ―― 異食症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、貧血の種類とそれに特有の症候の組合せを問う問題だ。顔色不良や動悸、息切れといった貧血一般の症状ではなく、「その病態だからこそ出る症候」に注目してほしい。丸暗記ではなく、なぜその症候が出るのかを病態の流れで考えると、誤りが自然に浮かび上がってくるよ。
医学生医学生
組合せ問題は苦手で、CBTのときも語呂合わせで乗り切った記憶があります。病態から考えるというのは、たとえばどういうことですか。
ドクタードクター
貧血を原因で大きく分けると、鉄が足りない、DNA合成に必要なビタミンB12や葉酸が足りない、赤血球が壊れすぎる、骨髄がそもそも造れない、というように整理できる。それぞれ「足りないもの」「壊れたもの」が体のどこに影響するかを考えれば、症候が導けるんだ。まず悪性貧血から行こう。
医学生医学生
悪性貧血は内因子が欠乏してビタミンB12が吸収できなくなる病気ですよね。Hunter舌炎は聞いたことがあります。
ドクタードクター
その通り。自己免疫性の萎縮性胃炎で内因子が失われ、回腸末端でB12を吸収できなくなる。B12が欠乏するとDNA合成が障害されるから、骨髄だけでなく、細胞分裂の盛んな舌の粘膜も萎縮する。舌乳頭が消えて表面がつるっと赤くなり、ヒリヒリ痛むのがHunter舌炎だ。だからこの組合せは正しい。
医学生医学生
B12欠乏では神経症状も出るんでしたよね。神経内科の講義で亜急性連合性脊髄変性症を習いました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。後索の障害で深部感覚が落ち、側索の障害で痙性麻痺が出る。貧血がなくても神経症状が先行することがあるから、臨床では見逃したくないポイントだ。次はEvans症候群。これはどういう病態だったかな。
医学生医学生
自己免疫性溶血性貧血と……何かの合併でしたっけ。溶血なら黄疸のほうが目立つ気がして、紫斑はピンときません。
ドクタードクター
惜しい。Evans症候群は自己免疫性溶血性貧血と免疫性血小板減少症、つまりITPが合併した病態なんだ。赤血球にも血小板にも自己抗体が向かう。血小板が減るから点状出血や斑状出血といった紫斑、粘膜出血が起こる。だから紫斑との組合せは正しい。SLEなどに続発することもあるよ。
医学生医学生
なるほど、溶血の症状と出血傾向の両方が出るわけですね。では先天性溶血性貧血と胆石は?
ドクタードクター
遺伝性球状赤血球症を思い浮かべるといい。慢性的に赤血球が壊れると、ヘモグロビン由来の間接ビリルビンが大量にできる。肝臓で抱合されて胆汁に大量に出るから、ビリルビンカルシウムを主成分とする色素胆石、いわゆる黒色石ができやすい。若い人の胆石では溶血性疾患を一度は考える価値がある。
医学生医学生
消化器外科の実習で、若い患者さんの胆嚢摘出のときに指導医が「背景に溶血はないか」と話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。貧血・黄疸・脾腫が慢性溶血の三徴で、胆石は重要な合併症だ。さて、残るは鉄欠乏性貧血と異食症、そして再生不良性貧血とスプーン爪。どちらが誤りかな。
医学生医学生
スプーン爪は鉄欠乏の症状として教科書に載っていた気がします。だから再生不良性貧血との組合せが誤りでしょうか。
ドクタードクター
正解だ。スプーン爪は爪甲が薄くなり、中央がへこんで反り返る変化で、高度の鉄欠乏が続いたときにみられる。鉄は組織の酵素にも必要だから、不足すると爪や舌、口角などの上皮組織に異常が出るんだ。一方、再生不良性貧血は造血幹細胞が減って骨髄が低形成になり、赤血球・白血球・血小板の三系統が減る病気。症候は貧血症状、好中球減少による発熱や感染、血小板減少による紫斑や歯肉出血が中心だ。
医学生医学生
しかも再生不良性貧血では鉄は使われないから、むしろ余るんですよね。
ドクタードクター
その通り。造血に鉄が使われないので血清鉄は正常から高値になりやすい。鉄欠乏のサインであるスプーン爪とは結びつかない。そして異食症は鉄欠乏に伴う症状で、氷や土、生米など栄養価のないものを無性に食べたくなる。特に氷をガリガリかじる氷食症が多く、成人女性でもよく経験される。機序ははっきりしないけれど、鉄補充で速やかに改善することが多いんだ。
医学生医学生
問診で「氷をよく食べますか」と聞くのは、鉄欠乏を拾うコツなんですね。
ドクタードクター
そう、外来ではとても役立つ質問だ。発展として、鉄欠乏性貧血に舌炎と嚥下障害が加わったものをPlummer-Vinson症候群と呼ぶことも覚えておこう。また、再生不良性貧血では通常、脾腫やリンパ節腫脹はみられない。脾腫があれば溶血や血液腫瘍など別の病態を考える手がかりになる。悪性貧血では胃癌や胃神経内分泌腫瘍の合併にも注意が必要だ。
医学生医学生
症候ひとつから病態を逆算できれば、問診や身体診察で鑑別をかなり絞れそうです。
ドクタードクター
まさにそれが今回のメッセージ。爪、舌、皮膚、胆嚢といった一見血液と関係なさそうな所見が、貧血の原因を教えてくれる。診察のときは結膜の蒼白だけでなく、爪や舌もぜひ見てほしい。

まとめ

貧血は、顔色不良や動悸などの一般症状に加えて、原因となる病態に特有の随伴症候を示します。鉄欠乏ではスプーン爪や異食症(特に氷食症)、舌炎がみられ、ビタミンB12欠乏による悪性貧血ではHunter舌炎や亜急性連合性脊髄変性症が生じます。慢性溶血をきたす先天性溶血性貧血では色素胆石を合併しやすく、自己免疫性溶血性貧血とITPが合併したEvans症候群では血小板減少による紫斑がみられます。再生不良性貧血は汎血球減少による貧血・感染・出血傾向が症候の中心で、鉄はむしろ蓄積しやすく、スプーン爪とは結びつきません。症候を「何が不足し、何が壊れたか」という病態から理解しておくと、問診や身体診察から貧血の原因を推定する臨床力につながります。

解答・解説

正解はcです

貧血は原因によって「貧血一般の症状」(顔色不良、動悸、息切れ、易疲労感など)に加え、病態に特有の随伴症候を示す。本問はその特有の症候との対応を問う「誤っているもの」を選ぶ問題である。原因と症候を病態の流れで整理すると覚えやすい。 ・ビタミンB12欠乏(悪性貧血など):DNA合成障害により、細胞分裂の盛んな舌粘膜が萎縮する(Hunter舌炎)。神経障害も起こる。 ・鉄欠乏:組織の鉄含有酵素が不足し、上皮組織の異常(スプーン爪、舌炎、口角炎、嚥下障害)や異食症をきたす。 ・溶血:赤血球の破壊が亢進して間接ビリルビンが増加し、黄疸や色素胆石の原因となる。 ・血小板減少の合併:紫斑や粘膜出血をきたす。 ・骨髄不全(再生不良性貧血):赤血球・白血球・血小板の三系統が減少し、貧血症状・感染・出血傾向が症候の中心となる。 スプーン爪(匙状爪)は鉄欠乏に特徴的な症候であり、再生不良性貧血の症候ではない。したがって誤っている組合せは「再生不良性貧血 ―― スプーン爪」である。

選択肢考察

  1. ×a.  悪性貧血 ―― Hunter舌炎

    正しい組合せである。悪性貧血は、抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体を伴う自己免疫性萎縮性胃炎によって内因子が欠乏し、ビタミンB12が回腸末端で吸収できなくなる巨赤芽球性貧血である。ビタミンB12欠乏ではDNA合成が障害され、舌乳頭が萎縮して表面が平滑・発赤し、灼熱感や疼痛を伴うHunter舌炎を生じる。ほかに亜急性連合性脊髄変性症(深部感覚障害・痙性麻痺)、末梢神経障害、白髪などもみられる。

  2. ×b.  Evans症候群 ―― 紫斑

    正しい組合せである。Evans症候群は、自己免疫性溶血性貧血(AIHA、主に温式)と免疫性血小板減少症(ITP、旧称:特発性血小板減少性紫斑病)が同時または相前後して合併した病態である。血小板に対する自己抗体による血小板減少のため、点状出血・斑状出血などの紫斑や粘膜出血を生じる。全身性エリテマトーデス(SLE)やリンパ増殖性疾患などに続発することもある。

  3. ○c.  再生不良性貧血 ―― スプーン爪

    誤った組合せであり、これが正解である。スプーン爪(匙状爪)は爪甲が薄くなり中央が陥凹して反り返る変化で、高度の鉄欠乏が持続したときにみられる。再生不良性貧血は造血幹細胞の減少による骨髄低形成で汎血球減少をきたす疾患であり、症候は貧血症状、好中球減少による発熱・感染症、血小板減少による紫斑・歯肉出血などの出血傾向である。鉄はむしろ利用されずに蓄積しやすく(血清鉄は正常〜高値)、鉄欠乏の徴候であるスプーン爪とは結びつかない。

  4. ×d.  先天性溶血性貧血 ―― 胆石

    正しい組合せである。遺伝性球状赤血球症などの先天性溶血性貧血では、慢性的な溶血により間接ビリルビンが過剰に産生される。これが肝臓で抱合されて胆汁中に大量に排泄されるため、ビリルビンカルシウムを主成分とする色素胆石(黒色石)ができやすく、若年でも胆石症を合併する。慢性溶血の三徴として貧血・黄疸・脾腫が知られ、胆石はそれに伴う重要な合併症である。

  5. ×e.  鉄欠乏性貧血 ―― 異食症

    正しい組合せである。異食症(pica)は、氷・土・紙・生米など栄養価のないものを無性に食べたくなる症状で、鉄欠乏に伴ってみられる。なかでも氷をかじりたくなる氷食症(pagophagia)の頻度が高く、成人女性でもしばしば経験される。機序は明らかではないが、鉄補充により速やかに改善することが多い。

鉄欠乏性貧血の特徴的な症候

スプーン爪(匙状爪)、異食症(特に氷食症)、舌炎・口角炎、嚥下障害(Plummer-Vinson症候群:鉄欠乏性貧血+舌炎+嚥下障害)、毛髪の脆弱化など。検査では小球性低色素性貧血、血清鉄低下、総鉄結合能(TIBC)上昇、血清フェリチン低下を示す。

ビタミンB12欠乏(悪性貧血を含む)の症候

Hunter舌炎、亜急性連合性脊髄変性症(後索・側索障害)、末梢神経障害、認知機能低下、白髪。大球性貧血で、汎血球減少や間接ビリルビン・LD上昇(無効造血による)を伴うことがある。悪性貧血では胃癌・胃神経内分泌腫瘍の合併に注意する。

溶血性貧血の症候

貧血、黄疸(間接ビリルビン優位)、脾腫、色素胆石。検査で網赤血球増加、LD上昇、ハプトグロビン低下。遺伝性球状赤血球症ではパルボウイルスB19感染による無形成発作(aplastic crisis)にも注意する。

再生不良性貧血の症候

汎血球減少に基づく貧血症状・易感染性・出血傾向。網赤血球は減少し、骨髄は低形成(脂肪髄)となる。通常、脾腫やリンパ節腫脹はみられない。

Evans症候群

AIHA(直接Coombs試験陽性の溶血性貧血)+ITP(血小板減少)。溶血による貧血・黄疸と、血小板減少による紫斑・出血傾向が併存する。

POINT

・スプーン爪・異食症(氷食症)は鉄欠乏性貧血の症候。 ・Hunter舌炎はビタミンB12欠乏(悪性貧血など)の症候。 ・慢性溶血(先天性溶血性貧血)では色素胆石を合併しやすい。 ・Evans症候群=AIHA+ITPで、血小板減少による紫斑を伴う。 ・再生不良性貧血は汎血球減少による貧血・感染・出血が中心で、スプーン爪とは無関係。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。