StudyMed医師国家試験

水は増えていない、偏っているだけ―血圧の高い急性肺水腫にまず血管拡張薬を選ぶ理由

第111回医師国家試験 B問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第3問

高血圧性心疾患の患者が,肺水腫を急激に発症し,急性心不全と診断された。洞性頻脈で血圧は170/100mmHgである。浮腫などの体液貯留を認めない。  呼吸管理とともにまず行う治療はどれか。

  1. a.利尿薬の投与
  2. b.ジギタリスの投与
  3. c.血管拡張薬の投与
  4. d.ドブタミンの投与
  5. e.生理食塩液の急速輸液

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は急性心不全の初期治療を選ぶ問題だ。注目してほしいのは3点。背景に高血圧性心疾患があること、血圧が高いこと、そして浮腫などの体液貯留がないこと。この組み合わせが何を意味するかを考えると、治療は自然に決まってくるよ。
医学生医学生
肺水腫というと、肺に水がたまっているので、まず利尿薬で水を抜くイメージがあります。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるね。でも、体の水分の総量が増えていないのに肺に水があふれているとしたら、どう説明できるだろう。
医学生医学生
水が増えたのではなく、どこかから肺のほうへ移動した、ということでしょうか。
ドクタードクター
その発想が大事なんだ。急性心不全の初期対応では、来院時の収縮期血圧と病態で治療方針を立てるクリニカルシナリオ分類がよく使われる。収縮期血圧が140mmHgを超え、急激に発症した肺水腫が主体で、全身の体液貯留が乏しいものはCS1に分類される。この病態の本態は体液量の増加ではなく、体液の分布異常、いわゆるvolume central shiftと考えられているんだ。
医学生医学生
循環器の講義でCS分類は聞きましたが、血圧で分けるだけだと思っていました。なぜ血圧が高いと水が肺に移るんですか。
ドクタードクター
順を追って説明しよう。高血圧性心疾患では、長年の圧負荷で左室が求心性に肥大して壁が硬くなり、拡張しにくくなっている。そこへ急に血圧が上がると後負荷が急増し、さらに交感神経の緊張で静脈が収縮して、末梢にプールされていた血液が中心側・肺循環側へ押し出される。硬い左室はこの負荷を受け止められず、左房圧と肺静脈圧が急上昇して肺水腫になるんだ。
医学生医学生
洞性頻脈もその流れに関係していますか。
ドクタードクター
関係しているよ。頻脈になると拡張期が短くなるから、もともと拡張しにくい左室はますます血液を受け入れられなくなる。一方で、収縮力そのものは保たれていることが多い。いわゆるHFpEFの急性増悪の典型的な形だね。
医学生医学生
そうすると、治療の目標は水を抜くことではなく、上がりすぎた血圧と、肺に押し寄せる静脈還流を下げることになりますね。だから血管拡張薬が正解でしょうか。
ドクタードクター
正解。代表は硝酸薬で、低用量では主に静脈を広げて静脈還流、つまり前負荷を減らし、用量を上げると動脈も広げて後負荷を下げる。左房圧・肺静脈圧が下がって肺うっ血が速やかに改善するし、左室も血液を送り出しやすくなる。舌下錠やスプレーなら即効性があり、静注なら用量調節もしやすい。カルペリチドなども血管拡張作用をもつ薬だ。
医学生医学生
救急外来の実習で、呼吸苦の患者さんにまずニトロのスプレーをしているのを見ました。あれはこの理屈だったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。呼吸管理では酸素投与に加えて非侵襲的陽圧換気、NPPVが有効で、陽圧そのものにも前負荷と後負荷を軽減する効果がある。NPPVと硝酸薬はCS1治療の両輪だと覚えておこう。では利尿薬はどうして第一選択にならないのかな。
医学生医学生
体液貯留がないので、水を抜きすぎると脱水気味になってしまうから、ですか。
ドクタードクター
その通り。ループ利尿薬は体液が過剰な心不全でうっ血をとる薬だ。体液の総量が増えていない状態で利尿を優先すると、相対的に循環血液量が減って腎機能悪化や低血圧を招くおそれがある。体液過剰の所見が加われば併用を考えるけれど、まず行う治療ではないね。
医学生医学生
ジギタリスは心不全の薬として薬理学で習いましたが、ここでは使わないんですか。
ドクタードクター
ジギタリスは弱い強心作用と房室伝導抑制作用をもつ薬で、急性期に使う場面は主に頻脈性心房細動の心拍数コントロールだ。今回は洞性頻脈で、これは心不全や交感神経緊張への反応だから、薬で脈を抑える対象ではない。収縮力も保たれているし、効果の発現も遅いから適さない。
医学生医学生
ドブタミンも強心薬なので、同じ理由で合わないということですね。
ドクタードクター
そう。ドブタミンは主にβ1受容体を刺激して収縮力を高める薬で、血圧が低く末梢の灌流が落ちているCS3や心原性ショックで使う。今回のように血圧が高い例で使うと、心拍数や心筋酸素消費量が増え、頻脈で拡張期がさらに短くなって拡張障害を悪化させかねない。そして生理食塩液の急速輸液は、すでに左房圧が上がって肺水腫になっているところに容量を足すことになるから、肺水腫を悪化させる。明らかに禁忌だ。
医学生医学生
血圧が高ければ血管拡張薬、体液が増えていれば利尿薬、血圧が低くて灌流が悪ければ強心薬、と病態ごとに薬が対応しているんですね。
ドクタードクター
きれいにまとまったね。Nohria-Stevenson分類でいえば、今回は肺うっ血があり末梢循環は保たれたwarm and wetだ。その中でも血圧が高い血管型では血管拡張薬、体液が増えている心臓型では利尿薬が中心になる。臨床では、硝酸薬で血圧が下がりすぎないよう頻回に血圧を確認することも大切だよ。また、こうした急性肺水腫は急な血圧上昇や頻脈、心房細動の出現をきっかけに繰り返しやすいから、急性期を乗り切ったら日頃の降圧管理を見直すことが再発予防の鍵になる。
医学生医学生
一見同じ肺水腫でも、血圧と体液量を見て治療を変える必要がある、と肝に銘じておきます。

まとめ

高血圧性心疾患を背景に、著明な高血圧を伴って急激に発症し、全身の体液貯留を欠く急性肺水腫は、クリニカルシナリオ分類のCS1に相当します。その本態は体液量の増加ではなく、後負荷の急増と静脈収縮による体液の中心部への再分布であり、拡張障害のある硬い左室がこれを受け止められずに肺うっ血が生じます。そのため、NPPVなどの呼吸管理とともに、前負荷と後負荷を速やかに下げる硝酸薬などの血管拡張薬がまず行う治療となります。利尿薬は体液過剰があるとき、ドブタミンなどの強心薬は低血圧・低灌流のとき、ジギタリスは頻脈性心房細動の心拍数調節が必要なときに考える薬であり、肺水腫への急速輸液は禁忌です。来院時の血圧と体液量から病態を見極めて薬を選ぶ考え方は、急性心不全診療の基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・背景: 高血圧性心疾患。長期の圧負荷で左室が肥大し、左室壁が硬くなって拡張しにくくなっている(左室コンプライアンスの低下、拡張障害)。 ・発症様式: 肺水腫が急激に発症した。 ・血圧: 170/100 mmHgと高値。 ・心拍: 洞性頻脈(心房細動などの不整脈ではない)。 ・体液量: 浮腫などの体液貯留はない。

病態の考え方

急性心不全の初期対応では、来院時の収縮期血圧と病態から治療方針を立てるクリニカルシナリオ(CS)分類が広く用いられている。収縮期血圧が140 mmHgを超え、急激に発症した肺水腫が主体で、全身の体液貯留が乏しいものはCS1に分類される。 CS1の本態は「体液量の増加」ではなく「体液の分布異常(volume central shift)」と考えられている。著明な血圧上昇によって後負荷が急増し、さらに交感神経の緊張による静脈収縮で末梢の血液が中心静脈側・肺循環側へ移動する。拡張障害のある硬い左室はこの負荷を受け止められず、左房圧・肺静脈圧が急上昇して肺水腫に至る。洞性頻脈は拡張期を短縮させ、拡張障害をさらに悪化させる。左室の収縮力そのものは保たれていることが多い。

治療の考え方

したがって治療の主眼は、体内から水分を除くことではなく、上昇した血圧(後負荷)と静脈還流(前負荷)を速やかに下げることにある。呼吸管理としては酸素投与に加え、非侵襲的陽圧換気(NPPV)が有効で、陽圧自体にも前負荷・後負荷を軽減する効果がある。薬物療法の第一選択は、硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド)などの血管拡張薬である。舌下・スプレー・静注で速やかに効果が得られ、肺うっ血を改善する。

選択肢考察

  1. ×a.  利尿薬の投与

    ループ利尿薬(フロセミドなど)は、体内の水分が過剰になっている(体液貯留がある)心不全で、うっ血を改善する目的で用いる。本例は浮腫などの体液貯留を認めず、肺水腫は体液の総量増加ではなく、血圧上昇と体液の中心部への再分布によって生じていると考えられる。このような状況で利尿を優先すると、相対的に循環血液量を減少させて腎機能悪化や低血圧を招くおそれがある。体液過剰の所見が加われば併用を検討するが、まず行う治療ではない。

  2. ×b.  ジギタリスの投与

    ジギタリスは、Na+/K+-ATPase阻害による弱い陽性変力作用と、迷走神経刺激を介した房室伝導抑制作用をもつ。急性心不全で用いるのは主に頻脈性心房細動の心拍数調節が必要な場合である。本例は洞性頻脈であり、頻脈は心不全や交感神経緊張に対する反応であるため、心拍数を薬で抑える対象ではない。また収縮力は保たれていると考えられ、強心作用も不要である。効果発現も遅く、まず行う治療として不適切である。

  3. ○c.  血管拡張薬の投与

    血圧が高く体液貯留のない急性肺水腫(CS1)では、血管拡張薬が治療の中心となる。硝酸薬は低用量では主に静脈を拡張して静脈還流(前負荷)を減らし、用量を上げると動脈も拡張して後負荷を下げる。これにより左房圧・肺静脈圧が低下して肺うっ血が速やかに改善し、左室からの駆出も容易になる。舌下錠やスプレーで即効性が得られ、静注で用量調節もしやすい。カルペリチド(心房性ナトリウム利尿ペプチド製剤)なども血管拡張作用をもつ。呼吸管理と並行してまず行うべき治療である。

  4. ×d.  ドブタミンの投与

    ドブタミンは主にβ1受容体を刺激して心収縮力を高める強心薬(カテコラミン)であり、収縮力が低下して低心拍出・低灌流をきたした心不全(血圧が低めのCS3や心原性ショックなど)で用いる。本例は血圧が高く、ポンプ機能低下を示す所見もない。ドブタミンは心拍数や心筋酸素消費量を増加させ、頻脈によって拡張期がさらに短縮して拡張障害を悪化させるおそれがあり、不適切である。

  5. ×e.  生理食塩液の急速輸液

    急速輸液は脱水や出血による循環血液量減少、右室梗塞による低血圧などで前負荷を補う目的で行う。本例はすでに左房圧が上昇して肺水腫をきたしており、容量負荷を加えると肺うっ血・肺水腫がさらに増悪し、呼吸不全を悪化させる。明らかに禁忌である。

【クリニカルシナリオ(CS)分類】急性心不全の来院直後の治療方針決定に用いる。 ・CS1: 収縮期血圧>140 mmHg。急激な発症、びまん性の肺水腫が主体で、全身性浮腫は軽度。体液は正常〜減少していることもある(体液の再分布)。治療はNPPVと硝酸薬が中心。体液過剰がある場合に限り利尿薬を用いる。 ・CS2: 収縮期血圧100〜140 mmHg。緩徐に進行し、全身性浮腫を伴う体液貯留が主体。治療はNPPV、硝酸薬に加え、体液貯留に対して利尿薬。 ・CS3: 収縮期血圧<100 mmHg。低灌流が主体。体液貯留がなければ容量負荷を試み、改善しなければ強心薬(ドブタミンなど)、それでも低血圧が続けば血管収縮薬(ノルアドレナリンなど)や補助循環を検討する。 ・CS4: 急性冠症候群によるもの。再灌流療法を考慮する。 ・CS5: 右心不全によるもの。容量負荷を避け、原因に応じて治療する。

Nohria-Stevenson分類との関係

うっ血の有無(wet/dry)と末梢循環不全の有無(cold/warm)で4群に分ける分類もよく用いられる。本例は肺うっ血があり末梢循環は保たれていると考えられ、warm & wetに相当する。warm & wetのうち、血圧が高い「血管型(vascular type)」では血管拡張薬、体液が増えている「心臓型(cardiac type)」では利尿薬が中心となる。

高血圧性心疾患と拡張不全

長期の高血圧では求心性左室肥大が生じ、左室駆出率は保たれていても拡張期に左室が十分に広がらない。このような心不全は左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)として扱われ、急激な血圧上昇や頻脈、心房細動の出現をきっかけに急性肺水腫(いわゆるflash pulmonary edema)を起こしやすい。

POINT

・高血圧を伴う急性肺水腫で体液貯留がない場合はCS1であり、NPPVなどの呼吸管理とともに硝酸薬などの血管拡張薬を第一に用いる。 ・利尿薬は体液過剰(浮腫、体重増加)があるときに用いる。 ・ドブタミンなどの強心薬は低血圧・低灌流(CS3)で用いる。 ・肺水腫のある患者への急速輸液は禁忌。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。