StudyMed医師国家試験

「EFが保たれている=軽症」は誤解―HFpEFの患者像から死因を読み解く

第120回医師国家試験 D問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第4問

左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の特徴はどれか。

  1. a.予後は良い。
  2. b.患者数は減少している。
  3. c.背景因子は若年である。
  4. d.非心血管疾患死が多い。
  5. e.β遮断薬の効果が強い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、左室駆出率の保たれた心不全、いわゆるHFpEFの特徴を問う知識問題だ。ポイントは「HFrEFと何が違うのか」。疫学、患者背景、予後、死因、治療反応性という5つの切り口で整理していこう。まず、HFpEFはどう定義されるか覚えているかな。
医学生医学生
LVEFが50%以上の心不全です。40%未満がHFrEF、その間がHFmrEFでしたよね。
ドクタードクター
その通り。では病態はどうだろう。ポンプとして押し出す力は保たれているのに、なぜ心不全になるのか。
医学生医学生
心筋が硬くなって広がりにくい、拡張障害が中心だと循環器の講義で習いました。
ドクタードクター
そう。左室が硬いと、拡張期に血液を受け入れるために高い充満圧が必要になる。その圧が左房から肺静脈へ伝わって、肺うっ血や息切れが起こるんだ。収縮は保たれていても、うっ血はしっかり起こる。
医学生医学生
収縮力が保たれているなら、HFrEFより予後は良さそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
まさにそこが一番の落とし穴だね。HFpEFの長期予後は不良で、5年死亡率はおよそ50%前後と報告されている。HFrEFと大きくは変わらない水準だし、心不全による再入院も多い。「EFが保たれている=軽症」ではないんだ。
医学生医学生
患者数についてはどうでしょう。治療が進歩して減っている、ということはないんですか。
ドクタードクター
むしろ増えている。人口の高齢化に加えて、高血圧・糖尿病・肥満といった生活習慣病が増えていることが背景にある。今では心不全患者のおよそ半数がHFpEFとされ、高齢者ではさらに割合が高い。
医学生医学生
臨床実習で循環器内科を回ったとき、心不全で入院していたのは80代の高血圧のある女性がとても多かった印象です。
ドクタードクター
いい観察だね。それがHFpEFの典型的な患者像だ。高齢、女性、高血圧、糖尿病、肥満、心房細動、慢性腎臓病。左室の硬さは加齢や長年の圧負荷で少しずつ進むから、若年者にはまれなんだ。一方、HFrEFは心筋梗塞後や拡張型心筋症が原因になることが多く、比較的若い人や男性にも多い。
医学生医学生
そうすると、併存症をたくさん抱えている人たちなので、亡くなる原因も心臓以外が多くなる、ということでしょうか。
ドクタードクター
その推論が正解につながる。HFpEFでは、HFrEFと比べて非心血管死、つまり肺炎などの感染症、悪性腫瘍、腎不全などで亡くなる割合が高い。逆に、心室細動や心室頻拍による突然死はHFrEFほど多くない。患者像をイメージできれば、自然に導ける答えなんだ。
医学生医学生
治療についてはどうですか。β遮断薬はHFrEFの標準治療だったので、HFpEFでも効くのかと思っていました。
ドクタードクター
HFrEFではβ遮断薬が死亡率と心不全入院を減らすことが確立していて、ACE阻害薬やARNI、MRA、SGLT2阻害薬とあわせて基本薬になっている。ところがHFpEFでは、大規模試験でβ遮断薬の予後改善効果は示されていない。使うとすれば、心房細動のレートコントロールや虚血性心疾患の合併など、別の理由があるときだ。
医学生医学生
HFrEFで効く薬がHFpEFでは効かないというのは意外です。では、HFpEFで使える薬はないんでしょうか。
ドクタードクター
代表的なのはSGLT2阻害薬で、大規模試験で心血管死または心不全増悪の複合エンドポイントを減らすことが示されている。うっ血には利尿薬で症状を和らげる。最近は非ステロイド型MRAや、肥満を伴うHFpEFでのGLP-1受容体作動薬についてもデータが蓄積しつつある。
医学生医学生
整理すると、HFpEFは高齢で併存症が多く、増えていて、予後は悪く、死因は心臓以外が多く、β遮断薬の予後改善効果は示されていない、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。臨床で大事なのは、心不全そのものだけでなく、高血圧、心房細動、糖尿病、腎機能障害、さらに感染予防や栄養状態といった全身を診ることだ。HFpEFの予後を左右するのは併存症の管理なんだ。それから、息切れのある高齢者で心エコーのEFが正常だからといって心不全を否定しないこと。拡張能の指標やBNPもあわせて評価しよう。
医学生医学生
CBTの勉強ではEFばかり見ていましたが、患者さん全体を見ることが大切なんですね。

まとめ

HFpEFはLVEF50%以上で、心筋の硬化による拡張障害を主体とする心不全です。高齢・女性・高血圧・糖尿病・肥満・心房細動・慢性腎臓病を背景に増加しており、心不全患者の約半数を占め、予後はHFrEFと同程度に不良です。併存症が多いため、死因に占める非心血管死(感染症、悪性腫瘍、腎不全など)の割合が高い点が特徴です。HFrEFで確立したβ遮断薬などの予後改善効果はHFpEFでは示されておらず、エビデンスのある代表的薬剤はSGLT2阻害薬です。「EFが保たれている=軽症」という誤解を避け、併存症を含めて全身を管理する視点が、高齢化社会の心不全診療で欠かせません。

解答・解説

正解はdです

心不全は左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)によって分類される。LVEFが40%未満のものを左室駆出率の低下した心不全(heart failure with reduced EF:HFrEF)、40%以上50%未満のものを左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)、50%以上のものを左室駆出率の保たれた心不全(heart failure with preserved EF:HFpEF)と呼ぶ。 HFpEFは、左室の収縮力(ポンプとして血液を押し出す力)は保たれている一方で、心筋が硬くなり拡張しにくくなる(拡張障害)ことが中心の病態である。左室が十分に広がらないため、拡張期に血液を受け入れるには高い充満圧が必要となり、その圧が左房・肺静脈へ伝わって肺うっ血や息切れを起こす。 本問では、HFpEFの疫学・患者背景・予後・死因・治療反応性という「HFrEFとの違い」を押さえているかが問われている。HFpEFの典型像は「高齢・女性・高血圧・糖尿病・肥満・心房細動・慢性腎臓病など多くの併存症を抱えた患者」であり、この患者像をイメージできれば、死因として心臓以外の疾患(感染症、悪性腫瘍、腎不全など)の占める割合が大きいことは自然に理解できる。また、HFrEFで確立された薬物療法の多くがHFpEFでは予後改善効果を示せていない点も重要な対比である。

選択肢考察

  1. ×a.  予後は良い。

    誤り。LVEFが保たれていると「軽症」と誤解されやすいが、HFpEFの長期予後は不良であり、5年死亡率はおよそ50%前後と報告されている。これはHFrEFと大きくは変わらない水準である。心不全による再入院も多い。高齢で併存症が多いことも予後を悪くする要因である。

  2. ×b.  患者数は減少している。

    誤り。HFpEFは増加している。人口の高齢化に加え、高血圧・糖尿病・肥満などの生活習慣病が増えていることが背景にある。加齢と長年の高血圧などにより心筋の線維化・肥大が進み、左室が硬くなって症状が顕在化する人が増えている。現在では心不全患者のおよそ半数がHFpEFを占めるとされ、高齢者ではその割合がさらに高い。

  3. ×c.  背景因子は若年である。

    誤り。HFpEFは高齢者に多い。典型的な背景因子は、高齢、女性、高血圧、糖尿病、肥満、心房細動、慢性腎臓病などである。左室の硬さは加齢や長期間の圧負荷(高血圧)によって徐々に進むため、若年者にはまれである。一方、HFrEFは心筋梗塞後や拡張型心筋症などを原因とし、比較的若い患者や男性にも多い。

  4. ○d.  非心血管疾患死が多い。

    正しい。HFpEFの患者は高齢で多くの併存症をもつため、HFrEFやHFmrEFと比べて死因に占める非心血管死(感染症・肺炎、悪性腫瘍、腎不全など)の割合が高い。逆に、心室細動や心室頻拍などの致死性不整脈による突然死は、HFrEFほど多くない。心血管死の中でも、不整脈による突然死より心静止(asystole)の割合が多いとする報告もある。このためHFpEFの診療では、心不全そのものの治療に加えて併存症の管理が予後に直結する。

  5. ×e.  β遮断薬の効果が強い。

    誤り。β遮断薬はHFrEFでは死亡率と心不全入院を減らすことが確立しており、標準治療の柱の一つである。しかしHFpEFでは、大規模臨床試験でβ遮断薬の予後改善効果は示されていない。HFpEFでβ遮断薬を使うのは、心房細動の心拍数コントロールや虚血性心疾患の合併など、別の理由がある場合に限られる。HFpEFで大規模試験により心不全入院などの複合エンドポイントの減少が示されている代表的な薬剤は、SGLT2阻害薬である。

LVEFによる心不全の分類

・HFrEF:LVEF<40% ・HFmrEF:40%≦LVEF<50% ・HFpEF:LVEF≧50% ・HFimpEF(HFrecEF):以前LVEF<40%だったが治療により改善したもの

HFpEFとHFrEFの比較

・年齢・性別:HFpEFは高齢・女性に多い。HFrEFは比較的若年・男性にも多い。 ・主な背景:HFpEFは高血圧、糖尿病、肥満、心房細動、慢性腎臓病。HFrEFは虚血性心疾患(心筋梗塞後)、拡張型心筋症など。 ・病態:HFpEFは拡張障害が中心で、左室は肥大・硬化していることが多い。HFrEFは収縮障害が中心で、左室は拡大していることが多い。 ・死因:HFpEFは非心血管死の割合が高い。HFrEFは心臓突然死を含む心血管死が多い。 ・予後:どちらも不良で、大きな差はない。

HFrEFの基本薬物療法

HFrEFでは、①ACE阻害薬/ARBまたはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、②β遮断薬、③ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、④SGLT2阻害薬の4系統を早期に導入することが推奨されている。いずれも予後改善効果が確立している(俗に「Fantastic Four」と呼ばれる)。

HFpEFの治療

・うっ血に対しては利尿薬で症状を緩和する。 ・SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、ダパグリフロジン)は、大規模試験で心血管死または心不全増悪の複合エンドポイントを減らした。HFpEFで推奨度の高い薬剤である。 ・近年は非ステロイド型MRAや、肥満を伴うHFpEFに対するGLP-1受容体作動薬などのエビデンスも蓄積しつつある。 ・高血圧、心房細動、糖尿病、肥満、腎機能障害などの併存症を管理することが重要である。

POINT

・HFpEF=LVEF≧50%で、拡張障害が主体の心不全である。 ・高齢、女性、高血圧、糖尿病、肥満、心房細動を背景に増加している。 ・予後はHFrEFと同程度に不良で、5年死亡率は約50%である。 ・併存症が多いため、非心血管死(感染症、悪性腫瘍、腎不全など)の割合が高い。 ・β遮断薬やACE阻害薬などのHFrEF治療薬は、HFpEFでは予後改善効果が示されていない。エビデンスが確立しているのはSGLT2阻害薬である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。