StudyMed医師国家試験

妊娠後期に「下がる」のはどれ?―胎児にブドウ糖を送り続ける母体の空腹時血糖

第111回医師国家試験 B問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第4問

正常妊娠で妊娠初期に比べ後期に低下するのはどれか。

  1. a.循環血液量
  2. b.空腹時血糖
  3. c.血中プロラクチン
  4. d.血中コレステロール
  5. e.血中アルカリフォスファターゼ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、正常妊娠で母体に起こる生理的変化を問う問題だ。妊娠後期に向かって「増えるもの」と「減るもの」を整理できているかがポイントになる。まず、妊娠中の母体の変化と聞いて、どんなイメージがあるかな。
医学生医学生
胎盤からホルモンがたくさん出て、血液も増えるので、ほとんどの項目が増えるイメージです。
ドクタードクター
大筋はその理解でいい。だからこそ、数少ない「下がるもの」を正確に押さえておくことが得点につながるんだ。まず循環血液量から考えよう。
医学生医学生
産科の講義で、妊娠中は循環血液量が非妊時の4〜5割増えると習いました。分娩時の出血に備える意味があるんですよね。
ドクタードクター
その通り。妊娠初期から増え始めて、妊娠32〜36週ごろに最大になる。胎盤循環を確保するためでもある。増加の主体は血漿量で、赤血球はそれほど増えないから、血液は薄まってヘモグロビン濃度が下がる。いわゆる水血症、生理的貧血だね。
医学生医学生
ということは、循環血液量そのものは増えて、ヘモグロビン濃度は下がる。濃度と量を混同しないように気をつけます。
ドクタードクター
いい整理だ。次はプロラクチン。
医学生医学生
授乳のためのホルモンなので、分娩後に増えるものだと思っていました。妊娠中から高いんですか。
ドクタードクター
よくある誤解だね。胎盤から大量に出るエストロゲンが下垂体のプロラクチン分泌細胞を増やし、刺激するので、妊娠の進行とともに上がり続けて、末期には非妊時の10倍以上になる。ただ妊娠中は高濃度のエストロゲンとプロゲステロンが乳汁分泌を抑えているから、本格的に母乳が出るのは胎盤が娩出された後なんだ。
医学生医学生
なるほど、準備はできているけれどブレーキがかかっている状態なんですね。コレステロールはどうでしょう。
ドクタードクター
エストロゲンの作用で肝臓での脂質合成が増え、インスリン抵抗性で脂肪分解も進むから、総コレステロールも中性脂肪も妊娠後期には増える。生理的な脂質異常の状態だ。コレステロールは胎盤でステロイドホルモンをつくる材料にもなる。
医学生医学生
ALPも上がるんでしたっけ。CBTの勉強で、肝胆道系の異常以外でALPが上がる例として、骨の成長期と妊娠を覚えた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。胎盤が胎盤型ALPを産生するので、胎盤が大きくなるにつれて上昇し、非妊時の2〜3倍程度になることもある。耐熱性が特徴だ。一方、ASTやALTは正常妊娠ではほとんど変わらないから、それらが上がっていたら別の原因を考える必要がある。
医学生医学生
そうすると、残る空腹時血糖が正解ですね。でも、妊娠中はインスリン抵抗性が高まって妊娠糖尿病になることもあるので、血糖は上がりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番のポイントだ。妊娠後期には胎児が急速に育ち、母体のブドウ糖を胎盤経由で絶えず受け取っている。だから食事をしていない空腹時には母体の血糖が下がりやすく、ケトン体もできやすい。一方で、hPLやプロゲステロン、コルチゾールなどの作用でインスリン抵抗性が強まるため、食後には血糖が上がりやすい。空腹時は低め、食後は高め、という二面性があるんだ。
医学生医学生
食後に血糖を高く保つのも、胎児にブドウ糖をしっかり届けるための適応なんですね。膵β細胞がその負荷に追いつけないと妊娠糖尿病になる、と。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。臨床的な話もしておこう。空腹時血糖が生理的に下がるからこそ、妊娠糖尿病の診断基準は非妊時より低く設定されていて、75g OGTTでは空腹時92mg/dL以上が基準の一つになっている。スクリーニングは妊娠初期と、インスリン抵抗性が強まる24〜28週ごろに行うのが一般的だ。
医学生医学生
ほかに妊娠後期に下がるものとしては、何を覚えておけばいいでしょうか。
ドクタードクター
ヘモグロビン濃度やヘマトクリット、アルブミンは希釈で下がる。糸球体濾過量が増えるので血清クレアチニンや尿素窒素も下がる。だから非妊時なら正常範囲のクレアチニンでも、妊婦では腎機能低下を疑うことがある。さらにプロゲステロンが呼吸中枢を刺激して換気が増えるので、動脈血二酸化炭素分圧も低下する。逆にフィブリノゲンなどの凝固因子や白血球数は増えて、血栓ができやすい状態になる。
医学生医学生
妊婦さんの検査値は非妊時の基準値で判断してはいけない、ということですね。臨床実習で産科を回るときに意識してみます。
ドクタードクター
そう、妊娠中の「正常」は非妊時の正常とは違う。生理的変化を知っていれば、本当の異常にも気づきやすくなるよ。

まとめ

正常妊娠では胎盤ホルモンの影響や胎児の発育に伴い、循環血液量、プロラクチン、コレステロール・中性脂肪、胎盤型ALP、凝固因子など多くの項目が妊娠後期に向かって増加します。その中で空腹時血糖は、胎児へブドウ糖が持続的に供給されるために低下し、一方でhPLなどによるインスリン抵抗性のため食後血糖は上がりやすいという二面性をもちます。後期に低下するものとしては、ほかに希釈によるヘモグロビン濃度・アルブミン、糸球体濾過量増加による血清クレアチニン・尿素窒素、換気亢進による動脈血二酸化炭素分圧を押さえておきましょう。空腹時血糖の生理的低下を踏まえて妊娠糖尿病の診断基準が非妊時より低く設定されているように、妊婦の生理的変化の理解は検査値を正しく解釈し、異常を見逃さないための土台となります。

解答・解説

正解はbです

妊娠中の母体は、胎児の発育を支え、分娩・授乳に備えるため、循環・代謝・内分泌の各面で大きく変化する。本問は、その生理的変化のうち「妊娠の進行とともに低下するもの」を選ばせる問題である。 整理の仕方として、妊娠後期に向かって変化する項目を「増えるもの」と「減るもの」に分けて覚えるとよい。 ・増えるもの: 循環血液量(特に血漿量)、心拍出量、プロラクチン、エストロゲン・プロゲステロン・hPL(ヒト胎盤性ラクトーゲン)などの胎盤ホルモン、コレステロール・中性脂肪、アルカリフォスファターゼ(ALP)、凝固因子(フィブリノゲンなど)、白血球数、糸球体濾過量など。 ・減るもの: ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット(血漿量増加による希釈)、血清アルブミン(同じく希釈)、空腹時血糖、血清クレアチニン・尿素窒素(糸球体濾過量の増加による)、動脈血二酸化炭素分圧(プロゲステロンによる換気亢進)など。 選択肢のうち、空腹時血糖だけが妊娠後期に低下する。妊娠後期には胎児が急速に成長し、母体のブドウ糖が胎盤を通じて絶えず胎児へ供給される(胎盤では濃度勾配に従う促進拡散でブドウ糖が移行する)。そのため食事をとっていない空腹時には母体の血糖が下がりやすい。一方で、食後には胎盤ホルモンによるインスリン抵抗性のために血糖が上がりやすいという、一見矛盾する二面性をもつ点が重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  循環血液量

    循環血液量は妊娠初期から増え始め、妊娠32〜36週ごろに最大となり、非妊時より40〜50%程度増加する。胎盤循環の確保と、分娩時の出血への備えという意味をもつ。増加の主体は血漿量で、赤血球量の増加はそれより小さいため血液が希釈され、ヘモグロビン濃度が低下する(妊娠性の生理的貧血、水血症)。妊娠後期に低下するのではなく増加するため誤りである。

  2. ○b.  空腹時血糖

    妊娠後期には胎児の発育が急速に進み、胎児はエネルギー源として母体のブドウ糖を大量に利用する。ブドウ糖は胎盤を通じて持続的に胎児へ移行するため、母体の空腹時血糖は非妊時や妊娠初期より低下する。また妊娠中は空腹時にケトン体が産生されやすくなる(飢餓が早く進む状態)。一方、hPLやプロゲステロン、コルチゾールなどの作用でインスリン抵抗性が強まるため、食後血糖は上昇しやすい。これは胎児へのブドウ糖供給を増やすための適応であり、この負荷に膵β細胞が対応できないと妊娠糖尿病を発症する。妊娠後期に低下するものとして正しい。

  3. ×c.  血中プロラクチン

    胎盤から大量に分泌されるエストロゲンが下垂体のプロラクチン分泌細胞を増殖・刺激するため、血中プロラクチンは妊娠の進行とともに上昇し、妊娠末期には非妊時の10倍以上に達する。プロラクチンは乳腺の発達を促し分娩後の乳汁分泌に備えるが、妊娠中は高濃度のエストロゲン・プロゲステロンが乳汁分泌を抑制しているため、本格的な乳汁分泌は分娩後に胎盤が娩出されてから始まる。後期に増加するため誤りである。

  4. ×d.  血中コレステロール

    妊娠中はエストロゲンの作用などで肝臓での脂質合成が亢進し、またインスリン抵抗性によって脂肪分解も進むため、総コレステロールや中性脂肪は妊娠の経過とともに増加し、妊娠後期には生理的な脂質異常(高脂血症)の状態となる。中性脂肪の増加は特に目立つ。コレステロールは胎盤でのステロイドホルモン合成の材料にもなる。後期に増加するため誤りである。

  5. ×e.  血中アルカリフォスファターゼ

    胎盤はアルカリフォスファターゼ(胎盤型ALP)を産生するため、胎盤の増大とともに血中ALPは上昇し、妊娠後期には非妊時の2〜3倍程度になることもある。胎盤型ALPは耐熱性であることが特徴である。これは肝障害や骨疾患によるものではなく生理的変化である。なお、AST・ALTなど他の肝酵素は正常妊娠ではほとんど変化しない。後期に増加するため誤りである。

妊娠に伴う主な生理的変化

・循環: 循環血液量が約40〜50%増加(妊娠32〜36週ごろに最大)、心拍出量・心拍数が増加。末梢血管抵抗は低下し、血圧は妊娠中期にやや低下する。 ・血液: 血漿量の増加が赤血球量の増加を上回り、ヘモグロビン濃度・ヘマトクリットが低下(水血症)。白血球数は増加。フィブリノゲンなど凝固因子が増加し、血栓ができやすい(過凝固状態)。 ・腎: 腎血漿流量・糸球体濾過量が増加し、血清クレアチニン・尿素窒素は低下。尿糖が出やすい。 ・呼吸: プロゲステロンが呼吸中枢を刺激して1回換気量・分時換気量が増加し、動脈血二酸化炭素分圧が低下(代償性の呼吸性アルカローシス)。子宮増大で機能的残気量は減少。 ・糖代謝: 空腹時血糖は低下、食後血糖は上昇しやすい(hPLなどによるインスリン抵抗性)。 ・脂質: 総コレステロール・中性脂肪が増加。 ・肝関連: ALPは胎盤由来で上昇、アルブミンは希釈により低下。AST・ALT・ビリルビンは通常変化しない。 ・内分泌: プロラクチン、エストロゲン、プロゲステロン、hPLが増加。hCGは妊娠8〜10週ごろに最大となった後に低下する。

妊娠糖尿病との関連

妊娠中期以降はインスリン抵抗性が強まるため、妊娠糖尿病のスクリーニングは妊娠初期と妊娠中期(24〜28週ごろ)に行われる。空腹時血糖は生理的に低下するので、妊娠中の空腹時血糖の診断基準値は非妊時より低く設定されている(75 g OGTTで空腹時92 mg/dL以上が妊娠糖尿病の診断基準の一つ)。

POINT

・正常妊娠の後期に低下するもの: 空腹時血糖、ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット、アルブミン、血清クレアチニン・尿素窒素、動脈血二酸化炭素分圧。 ・正常妊娠の後期に増加するもの: 循環血液量、心拍出量、プロラクチン、コレステロール・中性脂肪、ALP(胎盤型)、凝固因子、白血球数。 ・妊娠中は空腹時血糖が下がる一方、インスリン抵抗性で食後血糖は上がりやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。