StudyMed医師国家試験

40歳台、からだの中で何が減り何が増えるのか―「卵子」と「エストロゲン」の2軸で考える

第110回医師国家試験 D問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第17問

40歳台の女性で加齢とともに低下するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.骨密度
  2. b.流産率
  3. c.妊娠率
  4. d.心血管系疾患の発生率
  5. e.LDLコレステロール値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、40歳台の女性で加齢とともに低下するものを選ぶ問題だ。項目がばらばらに見えるけれど、軸を2本立てると一気に整理できる。1つは卵子の量と質、もう1つはエストロゲン分泌。まず、40歳台は女性のライフステージでどんな時期かな。
医学生医学生
閉経が平均50歳くらいなので、閉経に向かって卵巣機能が落ちていく時期ですね。
ドクタードクター
その通り。閉経前後の約10年間、おおむね45〜55歳を更年期とよぶ。では1本目の軸、卵子から見ていこう。卵子は一生の間に新しく作られるのかな。
医学生医学生
いいえ、胎児期に作られたものが減っていく一方だと発生学で習いました。
ドクタードクター
そう。しかも数が減るだけでなく、卵子そのものも老化する。減数分裂のときに染色体不分離が起こりやすくなって、染色体異常をもつ胚が増えるんだ。すると妊娠しやすさ、つまり妊孕性は30歳台半ばから下がり始め、40歳台で急速に低下する。だから妊娠率は加齢とともに低下する、で正しい。
医学生医学生
妊娠率が下がるなら、流産率も一緒に下がりそうな気がしたんですが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。妊娠初期の流産の主な原因は胚の染色体異常だった。卵子の老化で染色体異常が増えるのだから、妊娠しても流産に至る割合はむしろ上がる。40歳台では妊娠の40〜50%程度が流産になるともいわれるんだ。
医学生医学生
なるほど、同じ原因で妊娠率は下がり、流産率は上がるんですね。産婦人科の実習で、不妊外来の先生がAMHの値を説明していたのを思い出しました。
ドクタードクター
AMH、抗Müller管ホルモンは発育中の卵胞から出るので、卵巣予備能の目安になり、加齢とともに低下する。体外受精でも40歳台では1回あたりの妊娠率が大きく下がるから、カウンセリングで大事な指標なんだ。では2本目の軸、エストロゲン。骨にはどう働いているかな。
医学生医学生
破骨細胞による骨吸収を抑えているので、減ると骨吸収が勝って骨密度が下がります。
ドクタードクター
正解。女性の骨量は20歳前後で最大になり、40歳台以降は減っていく。特に閉経前後の数年間は低下が急で、これが閉経後骨粗鬆症の原因になる。だから骨密度も低下するもの、で正しい。
医学生医学生
LDLコレステロールはどうですか。年をとると代謝が落ちて下がる、なんてことは……。
ドクタードクター
逆なんだ。エストロゲンは肝細胞のLDL受容体を増やして、血中のLDLを肝臓に取り込ませている。エストロゲンが減るとこの処理が弱まって、LDLは上昇する。女性のLDLは閉経期を境に上がり、50歳台以降は同年代の男性を上回ることが多いんだ。
医学生医学生
そうなると、心血管系疾患も増える方向ですね。若い女性に心筋梗塞が少ないのはエストロゲンのおかげだと循環器内科の講義で聞きました。
ドクタードクター
その通り。エストロゲンには血管を拡張させ動脈硬化を防ぐ作用もあるから、閉経前は同年代の男性より虚血性心疾患が少ない。でもエストロゲンが減るとLDL上昇や血管内皮機能の低下が進み、年齢そのものも危険因子だから、発生率が低下することはない。閉経後は男性との差が縮まっていく。
医学生医学生
まとめると、卵子の軸では妊娠率が下がって流産率が上がる、エストロゲンの軸では骨密度が下がってLDLと心血管リスクが上がる、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展としてホルモンの動きも押さえておこう。エストロゲンとインヒビンが下がると、ネガティブフィードバックが外れてFSHが上がる。FSHはLHより先に、より大きく上昇するのが特徴だ。
医学生医学生
更年期の診断でFSH高値を確認するのはそのためなんですね。
ドクタードクター
そう。症状にも時間軸がある。早期にはホットフラッシュや発汗、不眠、抑うつなどの更年期症状、中期には腟の萎縮や性交痛、頻尿などの泌尿生殖器の症状、そして長期には骨粗鬆症や脂質異常症、動脈硬化性疾患が問題になる。更年期の外来では目の前の症状だけでなく、骨や脂質といった将来のリスクにも目を向けることが大切だ。

まとめ

40歳台の女性の変化は、卵子の量と質の低下、エストロゲン分泌の低下という2つの軸で整理できます。卵子の老化で染色体異常をもつ胚が増えるため、妊娠率は低下する一方で流産率は上昇します。エストロゲンには骨吸収の抑制、LDLの肝臓への取り込み促進、抗動脈硬化作用があるため、その低下により骨密度は低下し、LDLコレステロールと心血管系疾患のリスクは上昇に向かいます。ホルモンではエストロゲン・インヒビン・AMHが低下し、FSH・LHが上昇します。原因から結果を論理的にたどる考え方は、更年期医療や不妊診療、生活習慣病の予防を理解する土台になります。

解答・解説

正解はa, cです

40歳台は、閉経(日本人女性の平均は約50歳)に向けて卵巣機能が衰えていく時期であり、閉経前後の約10年間(おおむね45〜55歳)は更年期とよばれる。この時期の女性の身体変化は、次の2つの軸で考えると判断しやすい。

1. 卵子の量と質の低下(生殖能力の低下)

卵子は胎児期に作られたものが年齢とともに減り続け、新たに作られることはない。卵子の数(卵巣予備能)が減るだけでなく、卵子自体も老化し、減数分裂時の染色体不分離が増えて染色体異常をもつ胚が多くなる。その結果、妊娠率は低下し、流産率は上昇する。

2. エストロゲン分泌の低下(エストロゲンの保護作用の消失)

エストロゲンには骨吸収を抑える作用、LDLコレステロールの肝臓への取り込みを促す作用、血管を拡張させ動脈硬化を防ぐ作用などがある。分泌が減少すると、骨密度は低下し、LDLコレステロールは上昇し、動脈硬化が進んで心血管系疾患が増える方向に向かう。 したがって「加齢とともに低下する」のは、骨密度と妊娠率である。

選択肢考察

  1. ○a.  骨密度

    正しい。エストロゲンは破骨細胞による骨吸収を抑えて骨量を保っている。40歳台後半から卵巣機能の低下でエストロゲンが減ると骨吸収が骨形成を上回り、骨密度は低下していく。低下は閉経前後の数年間で特に急速であり、閉経後骨粗鬆症の原因となる。女性の骨量は20歳前後で最大となり(最大骨量)、40歳台以降減少に転じる。

  2. ×b.  流産率

    誤り。流産率は加齢とともに上昇する。妊娠初期の流産の主な原因は胎児(胚)の染色体異常であり、卵子の老化で染色体の数的異常(トリソミーなど)が増えるためである。流産率は30歳台後半から上がり始め、40歳台では妊娠の40〜50%程度が流産に至るとされる。

  3. ○c.  妊娠率

    正しい。妊娠のしやすさ(妊孕性)は30歳台半ばから低下し始め、40歳台では急速に低下する。卵子の数が減ることに加え、卵子の質が低下して受精・着床に至る正常な胚が得られにくくなるためである。体外受精などの生殖補助医療でも、40歳台では1回の治療あたりの妊娠率・生産率が大きく下がる。卵巣予備能の評価には血中AMH(抗Müller管ホルモン)が用いられ、加齢とともに低下する。

  4. ×d.  心血管系疾患の発生率

    誤り。心血管系疾患の発生率が加齢とともに低下することはない。閉経前の女性は、エストロゲンの抗動脈硬化作用によって同年代の男性より虚血性心疾患が少ないが、40歳台後半からエストロゲンが減ると脂質異常や血管内皮機能の低下が進み、閉経後には発症リスクが上昇して男性との差が縮まっていく。年齢そのものも動脈硬化の危険因子である。

  5. ×e.  LDLコレステロール値

    誤り。エストロゲンは肝細胞のLDL受容体を増やし、血中のLDLコレステロールを肝臓に取り込ませて処理を促進している。エストロゲンが減るとこの作用が弱まり、LDLコレステロール値は上昇する。女性の血清総コレステロール・LDLコレステロールは閉経期を境に上昇し、50歳台以降は同年代の男性を上回ることが多い。

更年期・閉経の基本

閉経は卵巣機能の停止によって月経が永久に止まることで、12か月以上月経がないことを確認して1年前を振り返って判定する。閉経前後各5年間の計約10年が更年期である。

閉経に向けたホルモンの変化

・エストロゲン(エストラジオール):低下 ・インヒビン:低下(卵胞数の減少による) ・FSH(卵胞刺激ホルモン):上昇(ネガティブフィードバックの解除。LHより先に、より大きく上昇する) ・LH(黄体形成ホルモン):上昇 ・AMH:卵胞数の減少を反映して低下

エストロゲン低下による症状・疾患

・早期:ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸などの血管運動神経症状、不眠、抑うつなどの精神症状(更年期障害) ・中期:腟の萎縮・乾燥、性交痛、頻尿など(閉経関連泌尿生殖器症候群:GSM) ・長期:骨粗鬆症、脂質異常症(LDL上昇)、動脈硬化性疾患(虚血性心疾患・脳卒中)の増加

年齢と妊娠・出産

加齢とともに妊娠率は低下し、流産率、児の染色体異常(Down症候群など)の頻度、妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病などの母体合併症は増加する。

POINT

・40歳台女性で加齢とともに低下:骨密度、妊娠率(妊孕性)、エストロゲン、AMH ・加齢とともに上昇:流産率、LDLコレステロール、心血管系疾患のリスク、FSH・LH ・卵子の老化 → 染色体異常の増加 → 妊娠率低下・流産率上昇 ・エストロゲン低下 → 骨吸収亢進(骨密度低下)、LDL上昇、動脈硬化の進展

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。