40歳台、からだの中で何が減り何が増えるのか―「卵子」と「エストロゲン」の2軸で考える
第110回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
40歳台の女性で加齢とともに低下するのはどれか。2つ選べ。
- a.骨密度
- b.流産率
- c.妊娠率
- d.心血管系疾患の発生率
- e.LDLコレステロール値
対話形式の解説
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ドクターまとめ
40歳台の女性の変化は、卵子の量と質の低下、エストロゲン分泌の低下という2つの軸で整理できます。卵子の老化で染色体異常をもつ胚が増えるため、妊娠率は低下する一方で流産率は上昇します。エストロゲンには骨吸収の抑制、LDLの肝臓への取り込み促進、抗動脈硬化作用があるため、その低下により骨密度は低下し、LDLコレステロールと心血管系疾患のリスクは上昇に向かいます。ホルモンではエストロゲン・インヒビン・AMHが低下し、FSH・LHが上昇します。原因から結果を論理的にたどる考え方は、更年期医療や不妊診療、生活習慣病の予防を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
40歳台は、閉経(日本人女性の平均は約50歳)に向けて卵巣機能が衰えていく時期であり、閉経前後の約10年間(おおむね45〜55歳)は更年期とよばれる。この時期の女性の身体変化は、次の2つの軸で考えると判断しやすい。
1. 卵子の量と質の低下(生殖能力の低下)
卵子は胎児期に作られたものが年齢とともに減り続け、新たに作られることはない。卵子の数(卵巣予備能)が減るだけでなく、卵子自体も老化し、減数分裂時の染色体不分離が増えて染色体異常をもつ胚が多くなる。その結果、妊娠率は低下し、流産率は上昇する。
2. エストロゲン分泌の低下(エストロゲンの保護作用の消失)
エストロゲンには骨吸収を抑える作用、LDLコレステロールの肝臓への取り込みを促す作用、血管を拡張させ動脈硬化を防ぐ作用などがある。分泌が減少すると、骨密度は低下し、LDLコレステロールは上昇し、動脈硬化が進んで心血管系疾患が増える方向に向かう。 したがって「加齢とともに低下する」のは、骨密度と妊娠率である。
選択肢考察
- ○a. 骨密度
正しい。エストロゲンは破骨細胞による骨吸収を抑えて骨量を保っている。40歳台後半から卵巣機能の低下でエストロゲンが減ると骨吸収が骨形成を上回り、骨密度は低下していく。低下は閉経前後の数年間で特に急速であり、閉経後骨粗鬆症の原因となる。女性の骨量は20歳前後で最大となり(最大骨量)、40歳台以降減少に転じる。
- ×b. 流産率
誤り。流産率は加齢とともに上昇する。妊娠初期の流産の主な原因は胎児(胚)の染色体異常であり、卵子の老化で染色体の数的異常(トリソミーなど)が増えるためである。流産率は30歳台後半から上がり始め、40歳台では妊娠の40〜50%程度が流産に至るとされる。
- ○c. 妊娠率
正しい。妊娠のしやすさ(妊孕性)は30歳台半ばから低下し始め、40歳台では急速に低下する。卵子の数が減ることに加え、卵子の質が低下して受精・着床に至る正常な胚が得られにくくなるためである。体外受精などの生殖補助医療でも、40歳台では1回の治療あたりの妊娠率・生産率が大きく下がる。卵巣予備能の評価には血中AMH(抗Müller管ホルモン)が用いられ、加齢とともに低下する。
- ×d. 心血管系疾患の発生率
誤り。心血管系疾患の発生率が加齢とともに低下することはない。閉経前の女性は、エストロゲンの抗動脈硬化作用によって同年代の男性より虚血性心疾患が少ないが、40歳台後半からエストロゲンが減ると脂質異常や血管内皮機能の低下が進み、閉経後には発症リスクが上昇して男性との差が縮まっていく。年齢そのものも動脈硬化の危険因子である。
- ×e. LDLコレステロール値
誤り。エストロゲンは肝細胞のLDL受容体を増やし、血中のLDLコレステロールを肝臓に取り込ませて処理を促進している。エストロゲンが減るとこの作用が弱まり、LDLコレステロール値は上昇する。女性の血清総コレステロール・LDLコレステロールは閉経期を境に上昇し、50歳台以降は同年代の男性を上回ることが多い。
更年期・閉経の基本
閉経は卵巣機能の停止によって月経が永久に止まることで、12か月以上月経がないことを確認して1年前を振り返って判定する。閉経前後各5年間の計約10年が更年期である。
閉経に向けたホルモンの変化
・エストロゲン(エストラジオール):低下 ・インヒビン:低下(卵胞数の減少による) ・FSH(卵胞刺激ホルモン):上昇(ネガティブフィードバックの解除。LHより先に、より大きく上昇する) ・LH(黄体形成ホルモン):上昇 ・AMH:卵胞数の減少を反映して低下
エストロゲン低下による症状・疾患
・早期:ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸などの血管運動神経症状、不眠、抑うつなどの精神症状(更年期障害) ・中期:腟の萎縮・乾燥、性交痛、頻尿など(閉経関連泌尿生殖器症候群:GSM) ・長期:骨粗鬆症、脂質異常症(LDL上昇)、動脈硬化性疾患(虚血性心疾患・脳卒中)の増加
年齢と妊娠・出産
加齢とともに妊娠率は低下し、流産率、児の染色体異常(Down症候群など)の頻度、妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病などの母体合併症は増加する。
POINT
・40歳台女性で加齢とともに低下:骨密度、妊娠率(妊孕性)、エストロゲン、AMH ・加齢とともに上昇:流産率、LDLコレステロール、心血管系疾患のリスク、FSH・LH ・卵子の老化 → 染色体異常の増加 → 妊娠率低下・流産率上昇 ・エストロゲン低下 → 骨吸収亢進(骨密度低下)、LDL上昇、動脈硬化の進展
