月経のない女性の閉経をどう見抜く?―子宮摘出後のほてりとFSHの役割
第112回医師国家試験 D問題 第36問
国試問題にチャレンジ
47歳の女性。顔のほてりを主訴に来院した。7年前に子宮筋腫のため子宮全摘出術を受けた。両側卵巣は温存されている。2か月前から顔のほてりがあり,汗をかきやすくなったという。動悸と息切れも自覚している。身長160cm,体重56kg。体温36.5℃。脈拍76/分,整。血圧112/64mmHg。呼吸数18/分。甲状腺の腫大を認めない。超音波検査で両側卵巣に卵胞を認めない。 まず確認すべき検査項目はどれか。
- a.FT4
- b.FSH
- c.コルチゾール
- d.プロゲステロン
- e.脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
更年期(閉経前後の約10年間)の女性に現れるほてり・発汗・動悸は、エストロゲン低下による血管運動神経症状として典型的です。子宮摘出後で卵巣が温存されている女性では月経による閉経判定ができないため、卵巣機能をホルモン値で評価し、ネガティブフィードバックの減弱によって早期かつ顕著に上昇するFSHを、エストラジオール低値とあわせてまず確認します。更年期障害は除外診断であり、甲状腺機能亢進症や心疾患なども必要に応じて検討しますが、頻脈や甲状腺腫大がなく卵胞が消失していれば、優先すべきは卵巣機能の確認です。治療ではホルモン補充療法が中心となり、子宮がなければエストロゲン単独で行える点も押さえておきましょう。子宮の有無が閉経の判断と治療選択の両方に影響することを理解しておくと、婦人科の外来診療で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・47歳の女性:更年期(閉経の前後5年ずつ、計約10年間。日本人の平均閉経年齢は約50歳なので、おおむね45〜55歳)に当たる年齢である。 ・7年前に子宮全摘出術を受け、両側卵巣は温存:子宮がないため月経は起こらず、月経の変化から閉経を判断することができない。一方で卵巣は残っているので、卵巣ホルモンの分泌は年齢相応に続き、やがて自然に低下していく。 ・2か月前からの顔のほてり(ホットフラッシュ)、発汗過多、動悸、息切れ:血管運動神経症状と呼ばれる、エストロゲン低下による自律神経系の失調症状として典型的である。 ・バイタルサインは正常で、頻脈・発熱・高血圧はない。甲状腺腫大もない。 ・超音波検査で両側卵巣に卵胞がない:卵胞が枯渇し、卵巣機能が停止しつつある(閉経に至った)ことを示す。
鑑別
ほてり・発汗・動悸は甲状腺機能亢進症(Basedow病など)でもみられるため、鑑別に挙げる必要がある。しかし本例は脈拍76/分と頻脈がなく、甲状腺腫大も認めないので、可能性は低い。息切れからは心不全も一応考えるが、バイタルは安定しており、体重増加や浮腫などの記載もない。年齢と卵胞の消失を合わせると、卵巣機能低下に伴うエストロゲン欠乏、すなわち更年期障害が最も考えられる。
設問の考え方
子宮摘出後で月経による判断ができない女性では、卵巣機能の状態をホルモン値で確認する。卵巣からのエストロゲンが減ると、視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが弱まり、下垂体から分泌されるゴナドトロピン(FSH、LH)が上昇する。中でもFSHの上昇は卵巣機能低下を最も鋭敏に反映する指標であり、まず確認すべき検査となる。通常はエストラジオール(E2)低値と組み合わせて評価する。
選択肢考察
- ×a. FT4
誤り。FT4(遊離サイロキシン)は甲状腺機能の評価に用いる。ほてり、発汗、動悸、息切れは甲状腺機能亢進症でも起こるため、鑑別のために測定する意義はある。しかし本例では頻脈がなく(脈拍76/分)、甲状腺腫大もなく、卵胞の消失という卵巣機能低下を示す所見がそろっているため、最初に確認すべき検査としての優先度はFSHより低い。
- ○b. FSH
正しい。FSH(卵胞刺激ホルモン)は下垂体前葉から分泌され、卵胞の発育を促す。卵巣機能が低下してエストロゲンやインヒビンの分泌が減ると、ネガティブフィードバックが外れてFSHが著しく上昇する(LHも上昇するが、FSHの上昇の方が早期かつ顕著である)。子宮摘出後で月経から閉経を判断できない本例では、FSH高値(とE2低値)を確認することで、症状が卵巣機能低下(閉経)によるものであることを裏付けられる。
- ×c. コルチゾール
誤り。コルチゾールは副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドで、Cushing症候群や副腎皮質機能低下症(Addison病など)、視床下部・下垂体・副腎系の異常を疑うときに測定する。本例には中心性肥満、高血圧、低血圧、色素沈着、低血糖などそれらを示唆する所見がなく、症状とも合致しない。
- ×d. プロゲステロン
誤り。プロゲステロン(黄体ホルモン)は主に排卵後の黄体から分泌され、排卵の有無や黄体機能の評価に用いられる。更年期では排卵がなくなるため低値になるが、性周期の時期によって大きく変動するため、卵巣機能低下(閉経)を判定する指標としては適さない。まず確認すべき検査ではない。
- ×e. 脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉
誤り。BNPは主に心室の心筋から、壁ストレス(容量・圧負荷)に応じて分泌されるホルモンで、心不全の診断や重症度評価に用いられる。息切れや動悸はあるものの、バイタルサインは正常で、浮腫や頸静脈怒張などの心不全を示唆する所見の記載はなく、まず確認すべき検査ではない。
閉経と更年期
・閉経:卵巣機能の消失により月経が永久に停止した状態。12か月以上月経がないことを確認して、1年前を振り返って閉経と判定する。日本人の平均閉経年齢は約50歳である。 ・更年期:閉経前後の各5年、計約10年間。この時期に現れる症状のうち、器質的疾患によらないものを更年期症状、日常生活に支障をきたすものを更年期障害という。 ・子宮摘出後や、月経が不規則な場合など月経で判断できないときは、FSH高値とE2低値を目安に閉経を判断する(目安として、FSH 40 mIU/mL以上、E2 20 pg/mL以下が用いられることが多い)。
閉経期のホルモン変化
・卵胞の減少 → エストロゲン(E2)・インヒビン低下 → ネガティブフィードバックの減弱 → FSH・LH上昇(特にFSH)。 ・閉経後も副腎由来のアンドロゲンが脂肪組織などで変換され、エストロン(E1)が少量産生される。
更年期障害の症状
・血管運動神経症状:ほてり(ホットフラッシュ)、のぼせ、発汗、動悸。 ・精神神経症状:いらいら、抑うつ気分、不安、不眠、倦怠感。 ・その他:肩こり、腰痛、頭痛、めまい、関節痛など多彩な不定愁訴。 ・長期的なエストロゲン欠乏による変化:骨粗鬆症、脂質異常症(LDLコレステロール上昇)、萎縮性腟炎(性器尿路症候群)。
診断と治療
・更年期障害は除外診断である。同様の症状を示す甲状腺機能亢進症、うつ病、心疾患、褐色細胞腫などの器質的疾患を除外する。 ・治療:ホルモン補充療法(HRT。子宮のある女性ではエストロゲン単独だと子宮内膜増殖症・子宮体癌のリスクが上がるため黄体ホルモンを併用する。子宮摘出後の本例のような女性ではエストロゲン単独でよい)、漢方薬(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)、症状に応じてSSRIなどの向精神薬。
POINT
・子宮摘出後(卵巣温存)の女性は月経がないため、閉経をホルモン値で判断する。 ・閉経・卵巣機能低下では E2↓、FSH↑・LH↑(特にFSHが鋭敏)。 ・ほてり・発汗・動悸は甲状腺機能亢進症でもみられるが、頻脈や甲状腺腫大がなく卵胞が消失していれば、まず卵巣機能(FSH)を確認する。 ・更年期障害は器質的疾患を除外したうえでの診断である。
