ほてりの正体は「ゆらぎ」にあり―更年期障害とエストロゲンの深い関係
第120回医師国家試験 B問題 第10問
国試問題にチャレンジ
更年期障害の発症に最も関与するのはどれか。
- a.アンドロゲン
- b.エストロゲン
- c.甲状腺ホルモン
- d.プロゲステロン
- e.副腎皮質ホルモン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
更年期障害は、卵巣の卵胞が枯渇していく過程でエストロゲン(主にエストラジオール)が大きく変動しながら低下し、視床下部の体温調節中枢や自律神経系が乱れることで生じ、そこに心理的・社会的要因が重なって症状が修飾されます。閉経期にはネガティブフィードバックの減弱によりFSHが上昇し、プロゲステロンは排卵の減少に伴いより早期から低下しますが、ホットフラッシュなどの主症状の主因はエストロゲンの低下です。甲状腺疾患は症状が似ているため除外が必要であり、閉経後の主なエストロゲンは副腎由来アンドロゲンが末梢で変換されたエストロンになります。治療はホルモン補充療法が第一選択で、子宮がある場合は子宮内膜保護のために黄体ホルモンを併用します。エストロゲン低下は骨粗鬆症や脂質異常症、性器尿路症候群にもつながるため、更年期の理解は中高年女性の長期的な健康管理の基盤となります。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】更年期障害の病態の中心となるホルモン変化を問う問題である。
更年期とは
閉経とは卵巣機能の低下により月経が永久に停止した状態をいい、12か月以上の無月経を確認した時点で、最後の月経をもって閉経とする(後から振り返って判定する)。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳であるが個人差が大きい。閉経をはさんだ前後5年ずつ、計約10年間を更年期とよぶ。この時期に現れる、器質的疾患では説明できない多彩な症状を更年期症状といい、そのうち日常生活に支障をきたすものを更年期障害という。
病態の考え方
更年期には卵巣の卵胞が枯渇していき、卵胞から分泌されるエストロゲン(主にエストラジオール)が減少する。エストロゲンは単調に下がるのではなく、大きく変動(ゆらぎ)しながら低下していく。視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが弱まるため、ゴナドトロピン(特にFSH:卵胞刺激ホルモン)は上昇する。エストロゲンの急激な減少と変動が、視床下部の体温調節中枢や自律神経系の機能に影響し、ほてり・のぼせ・発汗(ホットフラッシュ)などの血管運動神経症状をはじめとする症状を引き起こす。これに加齢に伴う身体的変化、心理的要因、家庭・職場などの社会的要因が重なって症状が修飾される。 したがって、更年期障害の発症に最も関与するのはエストロゲン(の低下)である。エストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)が血管運動神経症状に高い効果を示すことも、このことを裏づけている。
選択肢考察
- ×a. アンドロゲン
アンドロゲン(男性ホルモン)は女性でも卵巣と副腎から少量分泌されている。閉経後も卵巣の間質や副腎からのアンドロゲン分泌は続き、閉経期にエストロゲンほど急激な変化は生じないため、女性の更年期障害の主因ではない。なお、男性では加齢に伴うテストステロンの低下が男性更年期障害(LOH症候群:加齢男性性腺機能低下症候群)の原因となる。
- ○b. エストロゲン
卵巣機能が衰えて卵胞が減少すると、卵胞から分泌されるエストロゲンが大きく変動しながら低下する。このエストロゲンの減少とゆらぎが、視床下部の体温調節や自律神経の働きを乱し、ホットフラッシュ、発汗、動悸、不眠、抑うつ気分などの更年期症状をもたらす。エストロゲンを補充するホルモン補充療法が更年期障害の薬物療法の第一選択であり、とくに血管運動神経症状に著効することからも、エストロゲンが発症に最も深く関与していることがわかる。
- ×c. 甲状腺ホルモン
甲状腺機能亢進症では発汗、動悸、ほてり、いらいら感が、甲状腺機能低下症では易疲労感、抑うつ、冷え、むくみがみられ、更年期障害の症状と重なる部分が多い。また甲状腺疾患は中年女性に多い。そのため更年期障害を診断する際には、甲状腺機能検査などで甲状腺疾患を除外する必要があるが、甲状腺ホルモンが更年期障害の原因というわけではない。
- ×d. プロゲステロン
プロゲステロン(黄体ホルモン)は排卵後の黄体から分泌されるホルモンである。更年期の初期には排卵が不規則になって黄体機能が不十分となり、プロゲステロンはエストロゲンよりも先に低下し始める。しかし、ホットフラッシュなど更年期障害の主な症状はエストロゲンの低下・変動によるもので、プロゲステロンの欠乏が主因ではない。治療では、子宮を有する女性にエストロゲンを単独で投与すると子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高まるため、子宮内膜を保護する目的で黄体ホルモン製剤を併用する。これは原因への治療ではなく、副作用予防のための併用である。
- ×e. 副腎皮質ホルモン
副腎皮質ホルモン(コルチゾールなど)は閉経に伴って大きく変化するものではなく、更年期障害の原因ではない。なお、副腎皮質から分泌されるアンドロゲン(アンドロステンジオンなど)は脂肪組織などのアロマターゼによってエストロン(E1)に変換される。閉経後は卵巣からのエストラジオール(E2)分泌がほぼなくなるため、この末梢での変換によるエストロンが主なエストロゲンとなる。
更年期障害の主な症状
・血管運動神経症状:ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、発汗、動悸、冷え ・精神神経症状:不眠、いらいら、不安、抑うつ気分、易疲労感 ・その他:肩こり、腰痛、関節痛、頭痛、めまい 日本人では肩こり、易疲労感、ホットフラッシュ、腰痛などの頻度が高いとされる。症状は多彩で変化しやすく、程度や組み合わせに大きな個人差がある。
閉経前後のホルモン変化
・エストラジオール(E2):変動しながら低下し、閉経後は低値となる。 ・プロゲステロン:排卵の減少に伴い早期から低下する。 ・FSH、LH:ネガティブフィードバックの減弱により上昇する(FSHの上昇が顕著)。 ・閉経後の主なエストロゲンは、副腎由来アンドロゲンが末梢で変換されたエストロン(E1)である。
診断
年齢、月経の状況、症状に加え、血中のエストラジオール低値とFSH高値を参考にする。甲状腺疾患、うつ病、貧血、高血圧、心疾患などの器質的・精神的疾患を除外したうえで診断する。
治療
・ホルモン補充療法(HRT):薬物療法の第一選択。子宮がある場合はエストロゲンと黄体ホルモンを併用し、子宮摘出後であればエストロゲン単独療法(ERT)とする。乳癌、子宮内膜癌、血栓塞栓症の既往などは禁忌となる。乳癌リスクの上昇はわずかであり、飲酒や肥満などの生活習慣によるリスクと同程度以下と考えられている。 ・漢方療法(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)、向精神薬(抗うつ薬など)。 ・カウンセリング、運動や睡眠などの生活習慣の改善。
エストロゲン低下に伴う長期的な変化
骨量の減少(閉経後骨粗鬆症)、LDLコレステロールの上昇(脂質異常症、動脈硬化)、外陰・腟の萎縮(性器尿路症候群)などがあり、更年期以降の健康管理で重要である。
POINT
・更年期障害の主な原因は、卵巣機能低下に伴うエストロゲンの変動を伴う低下である。 ・閉経期にはエストロゲンが低下し、FSHが上昇する。 ・ホルモン補充療法が薬物療法の第一選択であり、子宮がある場合は子宮内膜保護のために黄体ホルモンを併用する。 ・甲状腺疾患は症状が似ているため、鑑別として除外が必要である。 ・閉経は12か月以上の無月経で判定し、閉経前後の約10年間が更年期である。
