閉経で「下がるもの」と「上がるもの」―エストロゲン欠乏ひとつで読み解く体の変化
第111回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
閉経後に減少または低下するのはどれか。2つ選べ。
- a.FSH
- b.骨量
- c.腟内pH
- d.皮膚コラーゲン
- e.LDLコレステロール
対話形式の解説
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ドクターまとめ
閉経後の体の変化は、卵胞が枯渇して起こるエストロゲン欠乏と、負のフィードバックが外れることによるゴナドトロピンの上昇の2つで整理できます。エストロゲンに維持されていた骨量や皮膚コラーゲン、腟上皮のグリコーゲンは減少し、一方でFSH・LH、腟内pH、LDLコレステロールは上昇します。腟内pHの上昇は自浄作用を弱めて萎縮性腟炎の原因となり、LDLの上昇は閉経後女性の動脈硬化リスクを高めます。治療にホルモン補充療法を用いる場合は、子宮がある女性には黄体ホルモンを併用することも押さえておきましょう。暗記に頼らず「エストロゲンが何を支えていたか」から考える習慣は、更年期医療や骨粗鬆症、脂質管理など幅広い臨床の場面で役立ちます。
解答・解説
正解はb, dです
閉経とは、卵巣の卵胞が枯渇して卵巣機能が停止し、月経が永久に停止した状態をいう。日本人女性の平均閉経年齢はおよそ50歳で、12か月以上無月経が続いた時点で振り返って1年前を閉経と判定する。閉経前後の約10年間(閉経前5年と閉経後5年)を更年期とよぶ。 閉経後の変化はほぼすべて「エストロゲン(主にエストラジオール)の欠乏」と、それに対する「視床下部・下垂体の反応」で説明できる。 ・内分泌:卵巣からのエストロゲン・インヒビン分泌が低下するため、視床下部・下垂体への負のフィードバックが外れ、GnRH、FSH、LHが上昇する(高ゴナドトロピン性性腺機能低下)。 ・エストロゲンの標的臓器:骨、皮膚、腟・外陰、尿路、血管、脂質代謝などでエストロゲンの作用が失われ、骨量減少、皮膚の萎縮、萎縮性腟炎、脂質異常症などが生じる。 したがって各選択肢について「エストロゲン欠乏で増えるのか減るのか」を、その機序とともに考えればよい。骨量と皮膚コラーゲンはエストロゲンにより維持されているため閉経後に減少する。一方、FSH、腟内pH、LDLコレステロールは閉経後に上昇する。
選択肢考察
- ×a. FSH
卵胞が枯渇すると、卵巣から分泌されるエストロゲンとインヒビンが低下する。これらは下垂体からのFSH(卵胞刺激ホルモン)分泌を抑えている(負のフィードバック)ため、抑制が外れたFSHは著明に上昇する。LHも上昇するが、FSHの上昇の方が早期から顕著であり、FSH高値(おおむね40 mIU/mL以上)とエストラジオール低値は閉経の内分泌学的指標となる。したがってFSHは閉経後に増加する。
- ○b. 骨量
エストロゲンは破骨細胞の分化・活性化を抑え(RANKLの抑制など)、骨吸収を抑制して骨量を維持している。閉経によりエストロゲンが欠乏すると骨吸収が骨形成を上回る高回転型の骨代謝となり、骨量は急速に減少する。特に閉経後数年間の骨量減少が大きく、海綿骨の多い椎体が影響を受けやすい。これが閉経後骨粗鬆症であり、椎体骨折や大腿骨近位部骨折の原因となる。よって骨量は閉経後に減少する。
- ×c. 腟内pH
性成熟期には、エストロゲンの作用で腟上皮が厚くなり、上皮細胞にグリコーゲンが蓄積する。Döderlein桿菌(乳酸桿菌)がこのグリコーゲンから乳酸をつくるため、腟内はpH 4前後の酸性に保たれ、雑菌の増殖が抑えられる(腟の自浄作用)。閉経後はエストロゲン欠乏により腟上皮が菲薄化してグリコーゲンが減少し、乳酸桿菌も減るため、腟内pHは中性寄りへ上昇する。その結果、自浄作用が低下し、萎縮性腟炎(老人性腟炎)を起こしやすくなる。よって腟内pHは閉経後に上昇する。
- ○d. 皮膚コラーゲン
皮膚の線維芽細胞にはエストロゲン受容体があり、エストロゲンはコラーゲンの産生や皮膚の水分保持を促している。閉経後はエストロゲン欠乏により真皮のコラーゲン量が減少し、皮膚は薄くなって弾力を失い、乾燥やしわが目立つようになる。皮膚コラーゲン量の減少は閉経後早期に大きいことが知られている。よって皮膚コラーゲンは閉経後に減少する。
- ×e. LDLコレステロール
エストロゲンは肝細胞のLDL受容体の発現を増やし、血中のLDLコレステロールの肝臓への取り込みを促進している。閉経後はこの作用が失われ、LDLの取り込みが減るため血中LDLコレステロールは上昇する(総コレステロールも上昇する)。このため閉経後女性では脂質異常症が増え、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患など)のリスクが男性に近づいていく。よってLDLコレステロールは閉経後に増加する。
閉経後に変化する主な項目の整理
増加・上昇するもの:FSH、LH、GnRH、腟内pH、LDLコレステロール、総コレステロール、骨吸収マーカー 減少・低下するもの:エストラジオール、プロゲステロン、インヒビン、抗Müller管ホルモン(AMH)、骨量(骨密度)、皮膚コラーゲン、腟上皮の厚さ・グリコーゲン、乳酸桿菌
エストロゲン欠乏による症状・疾患
・更年期障害:ほてり・のぼせ・発汗(血管運動神経症状)、動悸、不眠、抑うつ、いらいらなどの自律神経・精神神経症状。治療にはホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが用いられる。 ・閉経後骨粗鬆症 ・脂質異常症、動脈硬化性疾患 ・閉経関連尿路生殖器症候群(GSM:genitourinary syndrome of menopause):萎縮性腟炎、性交痛、頻尿・尿意切迫、反復性尿路感染など ・皮膚の菲薄化・乾燥
ホルモン補充療法(HRT)の注意
子宮を有する女性にエストロゲンを単独投与すると子宮内膜増殖症・子宮体癌のリスクが高まるため、黄体ホルモンを併用する。乳癌、静脈血栓塞栓症などの既往がある場合は禁忌となる。
POINT
・閉経後の変化はエストロゲン欠乏と、負のフィードバック消失によるゴナドトロピン上昇で説明できる ・上がるもの:FSH(LHより顕著)、LH、腟内pH、LDLコレステロール ・下がるもの:エストロゲン、骨量、皮膚コラーゲン、腟上皮のグリコーゲン ・腟内pH上昇(自浄作用低下)→萎縮性腟炎
