StudyMed医師国家試験

閉経で「下がるもの」と「上がるもの」―エストロゲン欠乏ひとつで読み解く体の変化

第111回医師国家試験 A問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第111回 A問題 第18問

閉経後に減少または低下するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.FSH
  2. b.骨量
  3. c.腟内pH
  4. d.皮膚コラーゲン
  5. e.LDLコレステロール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、閉経後に体の中で何が減り、何が増えるのかを問う問題だ。項目を一つずつ暗記するより、「エストロゲンがなくなると、その臓器はどうなるか」という一本の軸で考えるのがコツだよ。まず、閉経とはそもそもどういう状態か説明できるかな。
医学生医学生
卵巣の卵胞がなくなって、月経が永久に止まった状態です。12か月以上無月経が続いたら、さかのぼって閉経と判定するんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。日本人の平均閉経年齢はおよそ50歳で、その前後約10年間を更年期とよぶ。卵胞が枯渇すると、卵巣からのエストロゲンとインヒビンが出なくなる。ここから起こる変化は大きく2つに分けられる。ひとつはホルモン調節系の反応、もうひとつはエストロゲンの標的臓器の変化だ。
医学生医学生
ホルモン調節系というと、卵巣ホルモンが減るのでFSHも一緒に減る……とつい考えてしまいそうです。
ドクタードクター
そこがよくある落とし穴だね。生理学の講義で習った負のフィードバックを思い出してみよう。エストロゲンやインヒビンは下垂体のFSH分泌を抑えている。そのブレーキが外れるとどうなる?
医学生医学生
あっ、抑えるものがなくなるので、FSHはむしろ上がるんですね。
ドクタードクター
そう。GnRH、LHも上がるけれど、FSHの上昇のほうが早くから目立つ。FSH高値とエストラジオール低値の組み合わせは、閉経を内分泌学的に確かめる指標になる。卵巣が原因で起こる、高ゴナドトロピン性の性腺機能低下という形だ。次は標的臓器を見ていこう。骨はどうなるかな。
医学生医学生
骨粗鬆症は閉経後の女性に多いので、骨量は減ると思います。整形外科の実習でも、椎体の圧迫骨折で入院していたのは高齢女性が多かったです。
ドクタードクター
よく見ているね。エストロゲンは破骨細胞の分化や活性化を抑えて、骨吸収にブレーキをかけている。それがなくなると骨吸収が骨形成を上回る高回転型になって、骨量が急速に減る。特に閉経後数年の減り方が大きく、海綿骨の多い椎体が影響を受けやすいんだ。これは正解のひとつだね。
医学生医学生
皮膚コラーゲンも減るんでしょうか。エストロゲンと皮膚のつながりはあまり意識したことがありませんでした。
ドクタードクター
意外と見落とされやすいところだね。皮膚の線維芽細胞にはエストロゲン受容体があって、エストロゲンはコラーゲン産生や水分保持を後押ししている。閉経後は真皮のコラーゲンが減り、皮膚は薄く、乾燥してしわが目立つようになる。これも閉経後早期の減少が大きいとされているよ。だから皮膚コラーゲンも正解だ。
医学生医学生
腟内pHは、萎縮性腟炎になるくらいなので「低下」する方向ですか?
ドクタードクター
言葉のイメージに引っ張られたね。性成熟期は、エストロゲンで厚くなった腟上皮にグリコーゲンがたまり、Döderlein桿菌がそこから乳酸をつくってpH4前後の酸性を保っている。これが腟の自浄作用だ。閉経後は上皮が薄くなってグリコーゲンも乳酸桿菌も減るから、酸性が保てずpHは中性寄りに上がる。上昇するから自浄作用が落ちて、萎縮性腟炎を起こしやすくなるんだ。
医学生医学生
なるほど、「機能が低下する」と「pHが低下する」は別物なんですね。最後のLDLコレステロールは、閉経後に脂質異常症が増えるので上がる方だと思います。
ドクタードクター
正解。エストロゲンは肝臓のLDL受容体を増やして、血中のLDLを取り込ませている。それが失われると血中LDLは上昇する。閉経前の女性は冠動脈疾患が少ないけれど、閉経後はそのリスクが男性に近づいていく理由のひとつだ。
医学生医学生
まとめると、骨量と皮膚コラーゲンは減って、FSH、腟内pH、LDLコレステロールは上がる、ということですね。全部エストロゲン欠乏とフィードバックで説明できました。
ドクタードクター
完璧だ。臨床の話も少し加えておこう。エストロゲン欠乏による症状には、ほてりやのぼせ、発汗といった血管運動神経症状、不眠や抑うつなどの更年期障害がある。また最近は、萎縮性腟炎や性交痛、頻尿、反復する尿路感染などをまとめて閉経関連尿路生殖器症候群(GSM)とよぶようになっているよ。
医学生医学生
治療ではホルモン補充療法が使われますよね。婦人科の外来で、子宮がある人には黄体ホルモンも一緒に出していたのが印象的でした。
ドクタードクター
大事なポイントだね。子宮がある女性にエストロゲンを単独で投与すると、子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高まるから、黄体ホルモンを併用する。乳癌や静脈血栓塞栓症の既往がある人には原則として使えない。閉経後の女性を診るときは、更年期症状だけでなく、骨密度や脂質、尿路生殖器の症状まで一緒に目を配ることが大切なんだ。

まとめ

閉経後の体の変化は、卵胞が枯渇して起こるエストロゲン欠乏と、負のフィードバックが外れることによるゴナドトロピンの上昇の2つで整理できます。エストロゲンに維持されていた骨量や皮膚コラーゲン、腟上皮のグリコーゲンは減少し、一方でFSH・LH、腟内pH、LDLコレステロールは上昇します。腟内pHの上昇は自浄作用を弱めて萎縮性腟炎の原因となり、LDLの上昇は閉経後女性の動脈硬化リスクを高めます。治療にホルモン補充療法を用いる場合は、子宮がある女性には黄体ホルモンを併用することも押さえておきましょう。暗記に頼らず「エストロゲンが何を支えていたか」から考える習慣は、更年期医療や骨粗鬆症、脂質管理など幅広い臨床の場面で役立ちます。

解答・解説

正解はb, dです

閉経とは、卵巣の卵胞が枯渇して卵巣機能が停止し、月経が永久に停止した状態をいう。日本人女性の平均閉経年齢はおよそ50歳で、12か月以上無月経が続いた時点で振り返って1年前を閉経と判定する。閉経前後の約10年間(閉経前5年と閉経後5年)を更年期とよぶ。 閉経後の変化はほぼすべて「エストロゲン(主にエストラジオール)の欠乏」と、それに対する「視床下部・下垂体の反応」で説明できる。 ・内分泌:卵巣からのエストロゲン・インヒビン分泌が低下するため、視床下部・下垂体への負のフィードバックが外れ、GnRH、FSH、LHが上昇する(高ゴナドトロピン性性腺機能低下)。 ・エストロゲンの標的臓器:骨、皮膚、腟・外陰、尿路、血管、脂質代謝などでエストロゲンの作用が失われ、骨量減少、皮膚の萎縮、萎縮性腟炎、脂質異常症などが生じる。 したがって各選択肢について「エストロゲン欠乏で増えるのか減るのか」を、その機序とともに考えればよい。骨量と皮膚コラーゲンはエストロゲンにより維持されているため閉経後に減少する。一方、FSH、腟内pH、LDLコレステロールは閉経後に上昇する。

選択肢考察

  1. ×a.  FSH

    卵胞が枯渇すると、卵巣から分泌されるエストロゲンとインヒビンが低下する。これらは下垂体からのFSH(卵胞刺激ホルモン)分泌を抑えている(負のフィードバック)ため、抑制が外れたFSHは著明に上昇する。LHも上昇するが、FSHの上昇の方が早期から顕著であり、FSH高値(おおむね40 mIU/mL以上)とエストラジオール低値は閉経の内分泌学的指標となる。したがってFSHは閉経後に増加する。

  2. ○b.  骨量

    エストロゲンは破骨細胞の分化・活性化を抑え(RANKLの抑制など)、骨吸収を抑制して骨量を維持している。閉経によりエストロゲンが欠乏すると骨吸収が骨形成を上回る高回転型の骨代謝となり、骨量は急速に減少する。特に閉経後数年間の骨量減少が大きく、海綿骨の多い椎体が影響を受けやすい。これが閉経後骨粗鬆症であり、椎体骨折や大腿骨近位部骨折の原因となる。よって骨量は閉経後に減少する。

  3. ×c.  腟内pH

    性成熟期には、エストロゲンの作用で腟上皮が厚くなり、上皮細胞にグリコーゲンが蓄積する。Döderlein桿菌(乳酸桿菌)がこのグリコーゲンから乳酸をつくるため、腟内はpH 4前後の酸性に保たれ、雑菌の増殖が抑えられる(腟の自浄作用)。閉経後はエストロゲン欠乏により腟上皮が菲薄化してグリコーゲンが減少し、乳酸桿菌も減るため、腟内pHは中性寄りへ上昇する。その結果、自浄作用が低下し、萎縮性腟炎(老人性腟炎)を起こしやすくなる。よって腟内pHは閉経後に上昇する。

  4. ○d.  皮膚コラーゲン

    皮膚の線維芽細胞にはエストロゲン受容体があり、エストロゲンはコラーゲンの産生や皮膚の水分保持を促している。閉経後はエストロゲン欠乏により真皮のコラーゲン量が減少し、皮膚は薄くなって弾力を失い、乾燥やしわが目立つようになる。皮膚コラーゲン量の減少は閉経後早期に大きいことが知られている。よって皮膚コラーゲンは閉経後に減少する。

  5. ×e.  LDLコレステロール

    エストロゲンは肝細胞のLDL受容体の発現を増やし、血中のLDLコレステロールの肝臓への取り込みを促進している。閉経後はこの作用が失われ、LDLの取り込みが減るため血中LDLコレステロールは上昇する(総コレステロールも上昇する)。このため閉経後女性では脂質異常症が増え、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患など)のリスクが男性に近づいていく。よってLDLコレステロールは閉経後に増加する。

閉経後に変化する主な項目の整理

増加・上昇するもの:FSH、LH、GnRH、腟内pH、LDLコレステロール、総コレステロール、骨吸収マーカー 減少・低下するもの:エストラジオール、プロゲステロン、インヒビン、抗Müller管ホルモン(AMH)、骨量(骨密度)、皮膚コラーゲン、腟上皮の厚さ・グリコーゲン、乳酸桿菌

エストロゲン欠乏による症状・疾患

・更年期障害:ほてり・のぼせ・発汗(血管運動神経症状)、動悸、不眠、抑うつ、いらいらなどの自律神経・精神神経症状。治療にはホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが用いられる。 ・閉経後骨粗鬆症 ・脂質異常症、動脈硬化性疾患 ・閉経関連尿路生殖器症候群(GSM:genitourinary syndrome of menopause):萎縮性腟炎、性交痛、頻尿・尿意切迫、反復性尿路感染など ・皮膚の菲薄化・乾燥

ホルモン補充療法(HRT)の注意

子宮を有する女性にエストロゲンを単独投与すると子宮内膜増殖症・子宮体癌のリスクが高まるため、黄体ホルモンを併用する。乳癌、静脈血栓塞栓症などの既往がある場合は禁忌となる。

POINT

・閉経後の変化はエストロゲン欠乏と、負のフィードバック消失によるゴナドトロピン上昇で説明できる ・上がるもの:FSH(LHより顕著)、LH、腟内pH、LDLコレステロール ・下がるもの:エストロゲン、骨量、皮膚コラーゲン、腟上皮のグリコーゲン ・腟内pH上昇(自浄作用低下)→萎縮性腟炎

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。