「止める」薬が引き起こす2つの副作用―抗精神病薬のドパミン遮断を経路で読み解く
第110回医師国家試験 D問題 第16問
国試問題にチャレンジ
統合失調症治療薬の抗ドパミン作用と関連した副作用はどれか。2つ選べ。
- a.嘔吐
- b.口渇
- c.無月経
- d.手指振戦
- e.体重減少
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
抗精神病薬は中脳辺縁系のD2受容体を遮断して陽性症状を抑えますが、黒質線条体路の遮断では手指振戦などの薬剤性パーキンソニズム(錐体外路症状)が、漏斗下垂体路の遮断では高プロラクチン血症による無月経・乳汁漏出・女性化乳房が生じます。一方、口渇は抗コリン作用、体重増加や眠気は抗ヒスタミン作用、起立性低血圧はα1遮断作用によるもので、ドパミン遮断とは別の機序です。また、化学受容器引き金帯のD2遮断は嘔吐を抑えるため、抗ドパミン薬は制吐薬としても使われます。錐体外路症状の出現時期や悪性症候群などの重い副作用も合わせて押さえておくと、さまざまな診療科で薬剤性の症状を見抜く力になります。副作用を受容体ごとに整理する考え方は、薬理学の知識を臨床に生かす基本です。
解答・解説
正解はc, dです
統合失調症治療薬(抗精神病薬)は、中脳辺縁系のドパミンD2受容体を遮断して幻覚・妄想などの陽性症状を抑える。しかしドパミン経路は脳内に複数あり、目的外の経路でもD2受容体が遮断されることで副作用が生じる。本問は、副作用を「どの受容体の遮断によるか」で分類できるかを問うている。
脳内の主なドパミン経路と遮断時の影響
・中脳辺縁系路:遮断により陽性症状が改善する(治療効果) ・中脳皮質路:遮断により陰性症状・認知機能障害が悪化しうる ・黒質線条体路:遮断により錐体外路症状(パーキンソニズム、急性ジストニア、アカシジア、遅発性ジスキネジア)が出る ・漏斗下垂体路:ドパミンは下垂体前葉のプロラクチン分泌を抑えているため、遮断によりプロラクチンが上昇し、乳汁漏出・無月経・女性化乳房・性機能障害が出る 加えて、抗精神病薬はドパミン以外の受容体も遮断する。ムスカリン受容体遮断(抗コリン作用)では口渇・便秘・尿閉・霧視、ヒスタミンH1受容体遮断では眠気・食欲増進・体重増加、アドレナリンα1受容体遮断では起立性低血圧が起こる。 この整理に当てはめると、抗ドパミン作用によるのは、漏斗下垂体路を介した無月経と、黒質線条体路を介した手指振戦(パーキンソニズム)である。
選択肢考察
- ×a. 嘔吐
誤り。延髄の化学受容器引き金帯(CTZ)にはD2受容体があり、ここを遮断すると嘔吐はむしろ抑えられる。実際、メトクロプラミドやドンペリドンのような抗ドパミン薬は制吐薬として使われ、抗精神病薬のプロクロルペラジンも制吐目的で用いられる。悪心・嘔吐はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の代表的な副作用であり、消化管のセロトニン5-HT3受容体刺激などによる。
- ×b. 口渇
誤り。口渇はムスカリン性アセチルコリン受容体の遮断(抗コリン作用)によって唾液分泌が減るために起こる。抗コリン作用は低力価の定型抗精神病薬(クロルプロマジンなど)やクロザピン、オランザピン、三環系抗うつ薬で目立ち、便秘・尿閉・霧視・頻脈なども伴う。なお、クロザピンでは逆に流涎がみられることが知られる。
- ○c. 無月経
正しい。視床下部から漏斗下垂体路を通って放出されるドパミンは、下垂体前葉のD2受容体を介してプロラクチン分泌を抑制している(プロラクチン抑制因子として働く)。抗精神病薬がこれを遮断するとプロラクチンが上昇し、高プロラクチン血症となる。プロラクチンは視床下部のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)分泌を抑えるため、月経不順・無月経・不妊を生じ、乳汁漏出も伴う。男性では女性化乳房や性欲低下、勃起障害が起こる。リスペリドン、スルピリド、ハロペリドールで起こりやすく、D2受容体部分作動薬のアリピプラゾールでは起こりにくい。
- ○d. 手指振戦
正しい。黒質線条体路のD2受容体が遮断されると、線条体でドパミン作用が相対的に不足し、アセチルコリン作用が優位になる。その結果、Parkinson病と同様の症状(薬剤性パーキンソニズム)が出現し、手指振戦、筋強剛、無動・寡動、小刻み歩行、仮面様顔貌などがみられる。錐体外路症状の一つであり、D2受容体遮断作用が強い高力価の定型抗精神病薬(ハロペリドールなど)で起こりやすい。対応は原因薬の減量・変更が基本で、必要に応じて抗コリン薬(ビペリデンなど)を用いる。
- ×e. 体重減少
誤り。抗ドパミン作用で体重が減ることはない。むしろ抗精神病薬は、ヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体の遮断を介して食欲を増進させ、体重増加をきたしやすい。とくにオランザピンやクロザピンでは体重増加、脂質異常症、耐糖能異常(高血糖)が問題となり、オランザピンとクエチアピンは糖尿病患者に禁忌である。体重減少(食欲低下)はメチルフェニデートなどの中枢神経刺激薬でみられる副作用である。
抗精神病薬の分類
・定型(第一世代)抗精神病薬:主にD2受容体遮断。ハロペリドール(高力価、錐体外路症状が強い)、クロルプロマジン(低力価、鎮静・抗コリン・α1遮断作用が強い)など ・非定型(第二世代)抗精神病薬:D2遮断に加え5-HT2A遮断作用をもつSDA(リスペリドン、ペロスピロン、ブロナンセリンなど)、多くの受容体に作用するMARTA(オランザピン、クエチアピン、クロザピン)、D2部分作動薬(アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール)。定型薬に比べ錐体外路症状が少ない
錐体外路症状の種類と時期の目安
・急性ジストニア:投与開始後数日以内。眼球上転、斜頸、舌突出など ・パーキンソニズム:数日〜数週。振戦、筋強剛、無動 ・アカシジア:数日〜数週。じっとしていられない、足踏みを繰り返す ・遅発性ジスキネジア:数か月〜数年の長期投与後。口をもぐもぐさせる口周囲の不随意運動など。難治のことがある
その他の重要な副作用
・悪性症候群:高熱、筋強剛、意識障害、自律神経症状、CK上昇。原因薬の中止とダントロレン投与 ・QT延長、起立性低血圧(α1遮断)、過鎮静(H1遮断) ・クロザピン:無顆粒球症、心筋炎、けいれん。治療抵抗性統合失調症に限り、血液モニタリングの下で使用する
POINT
・抗ドパミン作用による副作用:錐体外路症状(振戦などのパーキンソニズム、ジストニア、アカシジア、遅発性ジスキネジア)と高プロラクチン血症(無月経、乳汁漏出、女性化乳房) ・抗コリン作用:口渇、便秘、尿閉、霧視 ・抗ヒスタミン作用:眠気、体重増加 ・α1遮断作用:起立性低血圧 ・抗ドパミン薬には制吐作用があり、嘔吐はSSRIの代表的副作用
