汗とほてりの犯人はどこにいる?―FSH高値の「黒幕」を卵巣に見抜く更年期障害
第114回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
51歳の女性。顔面の発汗を主訴に来院した。半年前から疲れやすさを自覚し,発作性の発汗,後頸部の熱感および肩こりが増強してきたという。身長162cm,体重56kg。体温36.0℃。脈拍72/分,整。血圧124/76mmHg。1年前から月経はない。身体診察で明らかな異常を認めない。血液所見:赤血球387万,Hb 12.8g/dL,Ht 39%,白血球6,300,血小板21万。血液生化学所見:AST 24U/L,ALT 20U/L,TSH 1.2 μU/mL(基準0.2~4.0),FT4 1.1 ng/dL(基準0.8~2.2),FSH 38mIU/mL(閉経後の基準30以上)。心電図で異常を認めない。 この病態の原因となっているのはどれか。
- a.肝臓
- b.卵巣
- c.下垂体
- d.冠動脈
- e.甲状腺
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
閉経前後の女性に生じる発作性の発汗、ほてり、肩こり、易疲労感は更年期障害の典型的な症状ですが、診断には甲状腺機能亢進症、肝疾患、心疾患など同様の症状をきたす器質的疾患の除外が欠かせません。本例は甲状腺機能・肝機能・心電図が正常で、閉経とFSH高値から卵巣機能の廃絶によるエストロゲン低下が確認でき、原因臓器は卵巣と判断できます。FSHの上昇は下垂体の異常ではなく、エストロゲンやインヒビン低下によりネガティブフィードバックが外れた二次的な反応である点が鑑別の要です。治療はHRT(子宮がある場合は黄体ホルモン併用)が中心で、閉経後の骨粗鬆症や動脈硬化への配慮も含め、フィードバック機構に基づく病態理解は内分泌疾患全般の読み解きにも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・51歳の女性で、1年前から月経がない。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳であり、12か月以上の無月経が続いていることから閉経後と判断できる。 ・半年前からの易疲労感、発作性の発汗、後頸部の熱感、肩こり。発作性の発汗や熱感(ホットフラッシュ)は血管運動神経症状、肩こりや疲れやすさは身体症状に分類される、更年期によくみられる症状である。 ・体温・脈拍・血圧は正常で、身体診察に異常はない。 ・血算はほぼ正常範囲、AST・ALTは正常で肝機能障害はない。 ・TSH 1.2μU/mL、FT4 1.1ng/dLとも基準範囲内で、甲状腺機能は正常である。 ・FSH(卵胞刺激ホルモン)は38mIU/mLと閉経後の基準(30以上)に一致して上昇している。 ・心電図に異常はない。
診断へのプロセス
更年期の女性が発汗・ほてり・疲労感などの不定愁訴を訴えた場合、まず更年期障害を考えるが、同様の症状を起こしうる器質的疾患を除外することが必須である。特に発汗・易疲労感・動悸などは甲状腺機能亢進症と重なるため甲状腺機能の確認が重要であり、本例ではTSH・FT4とも正常なので否定できる。肝機能も正常、心電図にも異常がなく、身体所見にも異常を認めない。そのうえで、閉経と高FSH値から卵巣機能が廃絶してエストロゲンが低下した状態であることが確認でき、更年期障害と診断される。
設問の考え方
問われているのは「病態の原因となっている臓器」である。更年期障害の根本にあるのは加齢に伴う卵巣機能の低下とそれによるエストロゲン分泌の減少である。FSHの上昇は下垂体の異常ではなく、エストロゲン低下によりネガティブフィードバックが外れた結果の二次的な反応にすぎない点に注意する。
選択肢考察
- ×a. 肝臓
肝疾患でも倦怠感・易疲労感は出現しうるが、本例ではAST 24U/L、ALT 20U/Lと肝機能検査は正常であり、黄疸などの身体所見もない。また発作性の発汗や熱感は肝疾患の典型的症状ではない。肝臓は本病態の原因ではない。
- ○b. 卵巣
閉経(1年間の無月経)とFSH高値は、卵巣の卵胞が枯渇して卵巣機能が廃絶し、エストロゲンが低下していることを示す。エストロゲンの急激な減少は視床下部の体温調節中枢や自律神経系に影響し、ホットフラッシュ・発汗などの血管運動神経症状や、肩こり・易疲労感などの多彩な症状を引き起こす。他の器質的疾患が否定されていることから更年期障害であり、その原因臓器は卵巣である。
- ×c. 下垂体
FSHは下垂体前葉から分泌されるが、本例のFSH上昇は卵巣からのエストロゲン(およびインヒビン)が減少し、視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが弱まった結果として生じる正常な反応である。下垂体自体の異常ではない。またTSHも基準範囲内で、下垂体前葉の機能障害を示す所見はない。
- ×d. 冠動脈
冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)では胸痛・胸部圧迫感や冷汗がみられることがあるが、本例は胸部症状がなく、脈拍・血圧は正常で、心電図にも異常を認めない。症状は半年にわたる発作性の発汗・熱感・肩こりであり、冠動脈疾患としては説明できない。なお、閉経後はエストロゲンの心血管保護作用が失われ将来の冠動脈疾患リスクは上がるが、本病態の原因ではない。
- ×e. 甲状腺
甲状腺機能亢進症は発汗過多、易疲労感、暑がりなどを呈し、更年期障害との鑑別上もっとも重要な疾患の一つである。しかし本例はTSH 1.2μU/mL、FT4 1.1ng/dLとも基準範囲内で甲状腺機能は正常であり、脈拍も72/分と頻脈はない。甲状腺は原因ではない。
更年期と更年期障害
・更年期:閉経の前後5年間、合わせて約10年間をいう。閉経は月経が12か月以上停止した時点で、1年経過してから後方視的に判定する。日本人の平均閉経年齢は約50歳である。 ・更年期症状:この時期に現れる多彩な症状のうち、器質的疾患によらないもの。そのうち日常生活に支障をきたす状態を更年期障害という。 ・病態:卵巣機能の低下によるエストロゲン減少を主因とし、加齢に伴う身体的変化、性格などの心理的要因、家庭・職場環境などの社会的要因が複雑に関与する。
主な症状
・血管運動神経症状:ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)、発汗、動悸。 ・身体症状:肩こり、頭痛、めまい、易疲労感、関節痛、腰痛。 ・精神症状:抑うつ気分、イライラ、不安、不眠、意欲低下。
検査所見
エストラジオール(E2)低下、FSH・LH上昇(特にFSHの上昇が早期から目立つ)。診断には、甲状腺疾患、うつ病、心疾患、貧血、悪性腫瘍など症状を説明しうる器質的・精神的疾患の除外が必要である。
治療
・ホルモン補充療法(HRT):血管運動神経症状に最も有効。子宮がある女性では子宮内膜増殖症・子宮体癌を防ぐため、エストロゲンに黄体ホルモンを併用する。乳癌・子宮体癌の既往、血栓症の既往などでは禁忌となる。 ・漢方薬(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの向精神薬、カウンセリング。
閉経後の長期的影響
エストロゲン欠乏は骨量減少(骨粗鬆症)、脂質異常症や動脈硬化の進行、泌尿生殖器の萎縮(萎縮性腟炎、性交痛、頻尿など)にも関わる。
POINT
・更年期女性の発汗・ほてり・肩こり・易疲労感 → 更年期障害を考え、甲状腺機能亢進症など器質的疾患を除外する。 ・閉経後はエストロゲン低下によりネガティブフィードバックが外れ、FSH・LHが上昇する(FSH上昇は下垂体の異常ではない)。 ・更年期障害の原因は卵巣機能の低下(エストロゲン欠乏)。 ・治療の第一選択はHRT(子宮がある場合は黄体ホルモンを併用)。
