StudyMed医師国家試験

HDP妊婦の「胃が痛い」は胃痛ではない―HELLP症候群を3つの検査で捕まえろ

第110回医師国家試験 D問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第18問

妊娠高血圧症候群のため入院中の妊娠32週の患者が上腹部痛を訴えた。  まず確認すべき血液検査項目はどれか。3つ選べ。

  1. a.Ca
  2. b.LD
  3. c.AST
  4. d.血小板数
  5. e.ヘモグロビン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠高血圧症候群で入院中の妊婦さんが訴えた上腹部痛をどう受け止めるかという問題だ。ポイントは、この症状を消化器の病気として片づけず、妊娠高血圧症候群に合併する重い病態のサインとして考えられるかどうか。まず何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
妊娠後期の上腹部痛なので、最初は胃炎や胆石を考えてしまいそうです。
ドクタードクター
普通の患者さんならそれも大事な鑑別だね。でも妊娠高血圧症候群の妊婦さんの心窩部痛や右季肋部痛、悪心・嘔吐は、まずHELLP症候群の初発症状として扱わなければいけない。
医学生医学生
産婦人科の講義で出てきました。Hemolysis、Elevated Liver enzymes、Low Plateletsの頭文字でしたよね。
ドクタードクター
その通り。溶血、肝酵素上昇、血小板減少の3つだ。本態は胎盤の形成不全を背景にした全身の血管内皮障害で、細い血管の中で赤血球が壊れ、肝臓の類洞にフィブリンや血栓が沈着して肝細胞が傷み、血小板が消費されて減っていく。
医学生医学生
上腹部痛はどうして起こるんですか。
ドクタードクター
肝臓が腫れて、肝臓を包む被膜が引き伸ばされるからなんだ。だから痛みは右季肋部から心窩部に出やすい。重症になると肝被膜下血腫や肝破裂、DIC、常位胎盤早期剥離、子癇などにつながり、母児の命に関わる。
医学生医学生
だとすると、3つの要素をそのまま検査すればいいわけですね。溶血はヘモグロビンの低下で見ればいいでしょうか。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。溶血の指標として使うのはLDなんだ。LDは赤血球の中にたくさん含まれていて、赤血球が壊れると血中に漏れ出して上がる。広く使われるSibaiの基準では、目安はLD 600 IU/L以上だよ。
医学生医学生
ヘモグロビンではだめな理由は何でしょう。
ドクタードクター
妊婦さんのヘモグロビンは、循環血漿量の増加による生理的貧血、出血、妊娠高血圧症候群に伴う血液濃縮など、いろんな要因で上下する。溶血があれば下がることもあるけれど、それだけでは溶血を拾う感度も特異度も低いし、診断基準にも入っていない。
医学生医学生
なるほど。肝酵素はASTで、血小板はそのまま血小板数ですね。
ドクタードクター
そう。肝酵素はAST 70 IU/L以上、血小板は10万/μL以下が目安になる。ALTも同様に上がるよ。つまり、まず確認すべきはLD、AST、血小板数の3つだ。
医学生医学生
カルシウムはどうですか。子癇の予防で硫酸マグネシウムを使うので、電解質が気になりました。
ドクタードクター
いい連想だね。ただ、マグネシウム投与中に監視するのは血中のマグネシウム濃度で、腱反射の消失や呼吸抑制といった高マグネシウム血症のサインに注意する。カルシウムはHELLP症候群の評価項目ではないし、この場面で真っ先に見るものでもない。
医学生医学生
LDは肝臓が傷んでも上がりますよね。溶血だとはっきり言うにはどうすればいいですか。
ドクタードクター
鋭いね。間接ビリルビンの上昇、ハプトグロビンの低下、末梢血塗抹での破砕赤血球などを合わせて評価する。さらに血小板が減っていたら、フィブリノゲン、FDP・Dダイマー、アンチトロンビン活性も調べてDICの合併を確認しよう。
医学生医学生
一度検査して正常だったら、ひとまず安心してよいのでしょうか。
ドクタードクター
そこが臨床で一番怖いところなんだ。HELLP症候群は症状が先に出て、検査値の異常が遅れてついてくることがあるし、数時間で一気に悪くなることもある。だから初回が正常でも数時間ごとに繰り返し測る。右季肋部痛が強いまま続くなら、超音波やCTで肝被膜下血腫も確認する。
医学生医学生
臨床実習で産科を回ったとき、妊娠高血圧症候群の妊婦さんの採血が1日に何度もオーダーされていた理由がやっとわかりました。診断がついたら、治療はどうなりますか。
ドクタードクター
降圧、子癇予防の硫酸マグネシウム、DICの治療で母体を安定させたうえで、原則として速やかに妊娠を終わらせるのが根本治療だ。34週未満で母児の状態が許せば胎児肺成熟のためのステロイド投与を考え、血小板が著しく少なければ帝王切開に備えて血小板輸血も検討する。急性妊娠脂肪肝やTTP・HUSも鑑別に挙がるから覚えておこう。
医学生医学生
妊娠高血圧症候群の妊婦さんの「胃が痛い」はHELLPのサインと考えて、LD、AST、血小板数をすぐ確認し、繰り返し追う、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。症状を聞いた瞬間に検査をオーダーできるかどうかが、母児の予後を左右するよ。

まとめ

妊娠高血圧症候群の妊婦が上腹部痛・心窩部痛や悪心・嘔吐を訴えたら、消化器疾患より先にHELLP症候群を疑います。HELLP症候群は溶血・肝酵素上昇・血小板減少を3要素とし、それぞれLD、AST、血小板数で評価します(広く用いられる目安はLD 600 IU/L以上、AST 70 IU/L以上、血小板10万/μL以下)。ヘモグロビンは妊娠に伴う生理的変化などで変動するため溶血の指標には向かず、カルシウムも評価項目ではありません。検査値の異常が症状より遅れたり急速に悪化したりするため、初回が正常でも繰り返し測定し、DICや肝被膜下血腫、常位胎盤早期剥離の合併にも注意します。治療の基本は母体の安定化と速やかな妊娠終了であり、症状から重篤な合併症を想起して即座に検査へつなげる姿勢は、産科救急の基本となります。

解答・解説

正解はb, c, dです

状況の整理

妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)で入院管理中の妊娠32週の妊婦が、新たに上腹部痛を訴えている。HDPの妊婦にみられる上腹部痛(心窩部痛・右季肋部痛)や悪心・嘔吐、強い倦怠感は、消化器疾患としてではなく、まずHELLP症候群の初発症状として扱わなければならない。

HELLP症候群とは

HELLPは、Hemolysis(溶血)、Elevated Liver enzymes(肝酵素上昇)、Low Platelets(血小板減少)の頭文字をとった名称である。妊娠後半から産褥早期に発症し、多くはHDPに合併する。胎盤の形成不全を背景とした全身の血管内皮障害が本態で、細い血管内で赤血球が壊れ(微小血管障害性溶血)、肝臓の類洞に血栓やフィブリンが沈着して肝細胞が障害され、消費により血小板が減少する。肝臓の腫大による被膜の伸展が上腹部痛の原因であり、重症化すると肝被膜下血腫・肝破裂、DIC(播種性血管内凝固)、常位胎盤早期剥離、子癇、急性腎障害などを起こし、母児の生命を脅かす。

まず確認すべき検査

したがって、上腹部痛を訴えた時点で直ちにHELLP症候群の3要素を評価する。広く用いられる診断の目安(Sibaiの基準)は、溶血:LD(乳酸脱水素酵素)600 IU/L以上、肝酵素上昇:AST 70 IU/L以上、血小板減少:10万/μL以下の3つである。よって、まず確認すべき血液検査項目はLD、AST、血小板数である。なお、HELLP症候群は症状が先行し検査値の異常が遅れて出ることや、短時間で急速に悪化することがあるため、初回が正常でも数時間ごとに繰り返し測定する。

選択肢考察

  1. ×a.  Ca

    誤り。血清カルシウムはHELLP症候群の診断項目に含まれず、上腹部痛を訴えたHDP患者でまず確認すべき項目ではない。なお、子癇の予防・治療に硫酸マグネシウムを投与している場合は、高マグネシウム血症(腱反射消失、呼吸抑制)を監視するために血中Mg濃度を測定するが、これもCaではない。

  2. ○b.  LD

    正しい。LD(乳酸脱水素酵素、LDHとも表記)は赤血球内に多く含まれ、溶血が起こると血中に逸脱して上昇する。HELLP症候群の「H(溶血)」を評価する代表的な指標であり、600 IU/L以上が診断の目安となる。肝細胞障害でも上昇するため、溶血の確認には間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、末梢血塗抹標本での破砕赤血球の出現もあわせて評価する。

  3. ○c.  AST

    正しい。AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は肝細胞障害を反映し、HELLP症候群の「EL(肝酵素上昇)」を評価する指標である。70 IU/L以上が診断の目安とされる。ALTも同様に上昇する。肝酵素の著明な上昇や持続する強い右季肋部痛がある場合は、肝被膜下血腫や肝梗塞を疑い、超音波やCTで評価する。

  4. ○d.  血小板数

    正しい。HELLP症候群の「LP(血小板減少)」を評価する。血管内皮障害部位での血小板の活性化・消費によって減少し、10万/μL以下が診断の目安である。血小板数は重症度の評価にも使われ、低いほど出血やDIC合併の危険が高い。DICの合併を判断するため、フィブリノゲン、FDP・Dダイマー、アンチトロンビン活性などの凝固線溶系検査も同時に行う。

  5. ×e.  ヘモグロビン

    誤り。HELLP症候群で溶血が起これば低下することはあるが、ヘモグロビン値は妊娠による循環血漿量の増加(生理的貧血)や出血、HDPに伴う血液濃縮など多くの因子で変動するため、溶血の指標としては感度・特異度が低い。診断基準の項目にも含まれず、まず確認すべき項目ではない。

妊娠高血圧症候群(HDP)の病型(日本産科婦人科学会 2018年改訂)

・妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、蛋白尿を伴うもの。蛋白尿がなくても、肝機能障害・腎機能障害・神経障害(子癇、視覚障害など)・血液凝固障害(血小板減少など)・子宮胎盤機能不全(胎児発育不全など)のいずれかを伴えば妊娠高血圧腎症とする ・妊娠高血圧:妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、上記を伴わないもの ・加重型妊娠高血圧腎症:妊娠前または妊娠20週までに存在する高血圧・腎疾患に、妊娠高血圧腎症の所見が加わったもの ・高血圧合併妊娠:妊娠前または妊娠20週までに高血圧があり、加重型に該当しないもの 高血圧の定義は収縮期血圧140 mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上であり、160/110 mmHg以上を重症とする。

HELLP症候群の管理

・母体の状態の安定化:降圧、子癇予防の硫酸マグネシウム投与、DICの治療 ・原則として速やかな妊娠終了(児の娩出)が根本的な治療である。妊娠34週未満で母児の状態が許せば、胎児肺成熟を促すための副腎皮質ステロイド投与を検討する ・血小板が著しく減少している場合は、帝王切開に備え血小板輸血を考慮する

鑑別すべき疾患

・急性妊娠脂肪肝(AFLP):妊娠後期に悪心・嘔吐・上腹部痛で発症し、肝不全、低血糖、高アンモニア血症、凝固障害(DIC)、腎障害をきたす。HELLP症候群と症状・検査所見が重なり、ともにDICを高率に合併して母児の予後を左右する ・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS) ・胆石症、急性胆嚢炎、急性膵炎、胃腸炎などの消化器疾患(HDP患者では先にHELLP症候群を除外する)

POINT

・HDPの妊婦の上腹部痛・心窩部痛、悪心・嘔吐はHELLP症候群を疑う ・HELLP=溶血(H)+肝酵素上昇(EL)+血小板減少(LP) ・診断の目安:LD 600 IU/L以上、AST 70 IU/L以上、血小板10万/μL以下 ・DIC、常位胎盤早期剥離、子癇、肝被膜下血腫・肝破裂を合併しうる ・治療の基本は母体の安定化と速やかな妊娠終了

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。