医師の指導を職場に届ける一枚―母性健康管理指導事項連絡カードの役割
第109回医師国家試験 G問題 第44問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。美容師。妊娠の疑いと易疲労感とを訴えて来院した。妊娠には気付いていたが,これまで医療機関を受診しなかった。立ち仕事が多く疲れやすくなったため受診した。月経周期は不整。最終月経は記憶していない。体温37.1℃。脈拍64/分,整。血圧100/76 mmHg。子宮底は臍下2 cmで軟らかく触知する。内診で子宮口は閉鎖しており硬である。帯下に異常を認めない。経腹超音波検査で子宮内に胎児とその心拍動とを認め,児の推定体重は妊娠22週相当である。経腟超音波検査で子宮頸管長は35 mmである。切迫流早産はないと判断し,勤務を軽減する措置を講じるよう雇用者に伝えることにした。 医師が作成する書類はどれか。
- a.妊娠届出書
- b.母子健康手帳
- c.在宅療養計画書
- d.診療情報提供書
- e.母性健康管理指導事項連絡カード
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠中や出産後の女性労働者に医師が勤務軽減などの指導を行い、それを事業主に伝える際には母性健康管理指導事項連絡カードを用います。医師が症状と必要な措置を記入して本人が事業主に提出し、事業主は男女雇用機会均等法に基づいて措置を講じる義務を負います。一方、妊娠届出書は妊婦本人が市町村長に提出し、母子健康手帳は市町村が交付するもので、診療情報提供書は医療機関間の連絡、在宅療養計画書は在宅医療の計画書です。未受診妊婦では届出や妊婦健診への橋渡しも重要であり、労働基準法の産前産後休業などと合わせて、働く妊産婦を支える制度を理解しておくことが臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・21歳の女性で、美容師として働いている(立ち仕事が多い)。 ・妊娠に気付いていたが医療機関を受診しておらず、易疲労感を契機に初めて受診した。最終月経は不明で月経周期も不整である。 ・体温37.1℃(妊娠中は黄体ホルモンの作用で体温がやや高めになる)、脈拍・血圧に異常はない。 ・子宮底は臍下2 cmで軟らかく触知する。子宮底が臍の高さに達するのはおよそ妊娠24週であり、その少し手前という所見は妊娠20週台前半と矛盾しない。 ・超音波検査で子宮内に胎児と心拍動を認め、推定体重は妊娠22週相当である。最終月経が不明なため、この超音波所見が妊娠週数の目安となる。 ・内診で子宮口は閉鎖して硬く、経腟超音波での子宮頸管長は35 mmと保たれている(妊娠中期で25 mm未満は早産の危険が高いとされる)。性器出血や異常な帯下もない。
判断のプロセス
以上から、妊娠22週前後の子宮内妊娠で、切迫流産・切迫早産の徴候はなく、現時点の妊娠経過に明らかな異常はない。ただし、立ち仕事が多く疲れやすくなっているため、医師は勤務の軽減が必要と判断し、そのことを雇用者(事業主)に伝えようとしている。
設問の考え方
妊娠中・出産後の女性労働者が医師などから受けた指導事項を、事業主に的確に伝えるための書類が「母性健康管理指導事項連絡カード」である。男女雇用機会均等法により、事業主は妊娠中・出産後の女性労働者が保健指導や健康診査で受けた指導事項を守れるよう、勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置を講じなければならないとされている。医師がこのカードに症状と必要な措置(作業の制限、勤務時間の短縮、休憩の配慮など)を記入し、本人が事業主に提出することで、事業主はそれに基づいて対応する。 なお、本例は妊娠22週相当まで未受診の妊婦であり、妊娠届出と母子健康手帳の取得、妊婦健康診査の受診も併せて勧めるべきである。
選択肢考察
- ×a. 妊娠届出書
誤りである。母子保健法により、妊娠した者は速やかに市町村長に妊娠の届出をするよう定められている。届出をするのは妊婦本人であり、医師が作成する書類ではない(医療機関で妊娠が確認されたことを記載欄に書く場合もあるが、届出の主体は本人である)。届出により母子健康手帳が交付される。本例のような未届の妊婦には届出を勧める必要があるが、雇用者に勤務軽減を伝えるための書類ではない。
- ×b. 母子健康手帳
誤りである。母子健康手帳は、妊娠の届出を受けた市町村が交付するもので(母子保健法)、医師が作成するものではない。妊婦健康診査や分娩、乳幼児健康診査、予防接種などの記録を医療者や保護者が書き込み、妊娠期から乳幼児期までの健康記録として用いる。勤務上の措置を事業主に伝える目的の書類ではない。
- ×c. 在宅療養計画書
誤りである。在宅療養計画書は、通院が困難な患者に対して訪問診療などの在宅医療を行う際に、医師が診療の計画を記載して患者・家族に交付するものである。外来通院が可能で、勤務上の配慮を必要としている本例とは関係がない。
- ×d. 診療情報提供書
誤りである。診療情報提供書(いわゆる紹介状)は、患者を他の医療機関に紹介する際などに、症状・診断・検査結果・治療経過などの情報を医師から他の医師(医療機関)へ伝えるための書類である。雇用者に勤務軽減の措置を伝える目的には用いない。
- ○e. 母性健康管理指導事項連絡カード
正しい。妊娠中・出産後の女性労働者が主治医や助産師から受けた指導事項(例:立ち作業の制限、勤務時間の短縮、休憩時間の延長、休業など)を、事業主に正確に伝えるための書類である。医師などが症状と必要な措置を記入し、本人が事業主に提出する。事業主は男女雇用機会均等法に基づき、記載内容に従って必要な措置を講じる義務を負う。立ち仕事による易疲労感があり勤務軽減を雇用者に伝えたい本例に、まさに適した書類である。
働く妊産婦を守る主な法制度
1. 男女雇用機会均等法 ・事業主は、妊娠中・出産後1年以内の女性労働者が保健指導・健康診査を受けるために必要な時間を確保しなければならない。 ・事業主は、受けた指導事項を守れるよう、通勤緩和、休憩に関する措置、症状に応じた作業の制限・勤務時間の短縮・休業などの措置を講じなければならない。 ・この指導事項を事業主に伝える手段として、母性健康管理指導事項連絡カードの活用が勧められている。 ・妊娠・出産などを理由とした解雇その他の不利益な取扱いは禁止されている。 2. 労働基準法 ・産前休業:出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)から、本人が請求すれば取得できる。 ・産後休業:出産後8週間は就業させてはならない。ただし産後6週間を経過し、本人が請求して医師が支障ないと認めた業務には就かせてよい。 ・妊婦が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない。 ・妊産婦が請求した場合、時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならない。 ・妊産婦を重量物を取り扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務などの危険有害業務に就かせてはならない。 ・生後1年未満の子を育てる女性は、1日2回、各30分以上の育児時間を請求できる。
母子保健法に基づく流れ
妊娠の届出(妊婦→市町村長)→母子健康手帳の交付(市町村)→妊婦健康診査(公費負担による受診券の交付)→出産→新生児訪問・乳幼児健康診査(1歳6か月児・3歳児健診は法定)。
未受診妊婦の問題
妊婦健康診査を受けずに経過した妊婦は、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、感染症(梅毒、HIV、B型肝炎など)の見逃しや、飛び込み分娩による母児の危険が高い。受診を機に妊娠届出と定期的な健診受診につなげることが重要である。
POINT
・母性健康管理指導事項連絡カード:医師などが指導事項(作業制限、勤務時間短縮、休業など)を記入し、本人が事業主に提出する。事業主は男女雇用機会均等法に基づき措置を講じる。 ・妊娠届出書は妊婦本人が市町村長に提出し、母子健康手帳は市町村が交付する(母子保健法)。いずれも医師が作成するものではない。 ・診療情報提供書は医療機関間の情報伝達、在宅療養計画書は在宅医療の計画書である。 ・子宮頸管長が保たれ、子宮口が閉鎖していれば切迫早産の徴候はないと判断できる。
