「全国並みなら何人死ぬはずか」―標準化死亡比は期待死亡数づくりから始まる
第109回医師国家試験 G問題 第43問
国試問題にチャレンジ
ある工場の作業者において,過去5年間に16名の肝癌による死亡が確認された。死亡数が全国と比較して多いかどうかを知るために標準化死亡比を求めることとなった。 算出に必要な情報の組合せはどれか。

- a.年齢階級別人口 ―― 年齢階級別肝がん死亡率
- b.年齢階級別肝がん死亡率 ―― 年齢階級別観察人年数
- c.年齢階級別肝がん死亡率 ―― 年齢階級別肝がん死亡率
- d.年齢階級別肝がん死亡数 ―― 年齢階級別観察人年数
- e.年齢階級別肝がん死亡数 ―― 年齢階級別肝がん死亡率
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
標準化死亡比(SMR)は間接法による年齢調整の指標で、観察死亡数を期待死亡数で割って求めます。期待死亡数は、基準集団(全国)の年齢階級別死亡率に観察集団(工場作業者)の年齢階級別人口を掛けて合計したもので、人の出入りがある職域集団では人数ではなく観察人年数を用います。一方、直接法の年齢調整死亡率は観察集団の年齢階級別死亡率と基準人口を用いるため、死亡率が不安定な小集団には間接法のSMRが適しています。SMRの解釈では偶然変動の評価に加え、職域特有の健康労働者効果にも注意が必要です。「基準集団からは率、観察集団からは年齢構成」という構造を理解しておくと、公衆衛生学の年齢調整に関する問題を迷わず解けるようになります。
解答・解説
正解はbです
選択肢の読み方
選択肢は問題の図表で「全国のデータ ―― この工場の作業者のデータ」の組合せとして示されている。すなわち、左側が基準集団(全国)から得る情報、右側が観察集団(工場の作業者)から得る情報である。
標準化死亡比(SMR)とは
標準化死亡比(standardized mortality ratio:SMR)は、間接法による年齢調整の指標である。観察集団で実際に起きた死亡数(観察死亡数)を、「もし観察集団が基準集団と同じ年齢階級別死亡率で死亡したら何人死亡するか」という期待死亡数で割って求める。 SMR = 観察死亡数 ÷ 期待死亡数(100倍して表すことも多い) 期待死亡数 = Σ(基準集団の年齢階級別死亡率 × 観察集団の年齢階級別人口〔ここでは観察人年数〕) 肝癌の死亡率は年齢とともに大きく上昇するため、工場作業者の年齢構成が全国と違えば、単純に死亡数や粗死亡率を比べても工場の影響かどうか判断できない。そこで年齢構成の違いを調整するためにSMRを用いる。
本問への当てはめ
・観察死亡数:工場作業者の肝癌死亡16名(問題文で既に与えられている)。 ・期待死亡数の計算には、全国(基準集団)の年齢階級別肝がん死亡率と、工場作業者(観察集団)の年齢階級別観察人年数が必要である。 作業者は5年間の間に入職・退職・死亡などで出入りがあるため、単なる人数ではなく、各人が観察された年数を合計した「人年」を分母に用いる。全国の死亡率は通常「人口10万対・1年あたり」の値であるため、工場側の人年数を掛けることで、5年間に期待される死亡数がそのまま得られる。 したがって、全国から「年齢階級別肝がん死亡率」、工場から「年齢階級別観察人年数」を得る組合せが正しい。
計算例
例えば工場作業者の観察人年が、40歳代で10,000人年、50歳代で8,000人年、全国の肝がん死亡率がそれぞれ人口10万対20、50(1年あたり)だったとすると、期待死亡数=10,000×20/100,000+8,000×50/100,000=2+4=6名となる。観察死亡数16名を用いるとSMR=16÷6≒2.7となり、全国の約2.7倍の死亡が観察されたことになる。SMRが1(100)を超えれば基準集団より死亡が多いと解釈する(偶然の変動かどうかは信頼区間や検定で評価する)。
選択肢考察
- ×a. 年齢階級別人口 ―― 年齢階級別肝がん死亡率
誤りである。全国の年齢階級別人口と観察集団の年齢階級別死亡率を組み合わせるのは、直接法による年齢調整死亡率の考え方に近い(直接法では、観察集団の年齢階級別死亡率に基準人口〔モデル人口〕を掛けて合計し、基準人口の総数で割る)。直接法で得られるのは年齢調整死亡率であり、標準化死亡比ではない。また、工場作業者のように人数が少ない集団では年齢階級別死亡率が不安定になるため、直接法は適さない。
- ○b. 年齢階級別肝がん死亡率 ―― 年齢階級別観察人年数
正しい。期待死亡数は、基準集団である全国の年齢階級別肝がん死亡率に、観察集団である工場作業者の年齢階級別観察人年数を掛け、全年齢階級について合計して求める。これに問題文で与えられた観察死亡数16名を組み合わせれば、SMR=16÷期待死亡数が算出できる。小集団でも安定した基準集団の死亡率を使えるのが間接法の利点である。
- ×c. 年齢階級別肝がん死亡率 ―― 年齢階級別肝がん死亡率
誤りである。両集団の年齢階級別死亡率を比べることは、年齢階級ごとの比較としては意味があるが、それだけでは期待死亡数を求められない。期待死亡数の算出には、観察集団の年齢構成(年齢階級別の人年数)が不可欠である。また、少人数の工場作業者では年齢階級別死亡率を安定して求めること自体が難しい。
- ×d. 年齢階級別肝がん死亡数 ―― 年齢階級別観察人年数
誤りである。全国の年齢階級別死亡数だけでは、それを全国の年齢階級別人口で割らない限り死亡率にならず、工場の観察人年数と掛け合わせても期待死亡数は得られない。全国側から必要なのは死亡数ではなく死亡率である。
- ×e. 年齢階級別肝がん死亡数 ―― 年齢階級別肝がん死亡率
誤りである。全国の死亡数と工場の死亡率の組合せでは、基準集団の死亡率も観察集団の年齢構成(人年数)も得られず、期待死亡数を計算できない。SMRの算出に必要な「基準集団の年齢階級別死亡率」と「観察集団の年齢階級別人口(人年)」のいずれも含まれていない。
年齢調整の2つの方法
1. 直接法(年齢調整死亡率) ・必要な情報:観察集団の年齢階級別死亡率、基準人口(モデル人口)の年齢階級別人口。 ・年齢調整死亡率=Σ(観察集団の年齢階級別死亡率×基準人口の年齢階級別人口)÷基準人口の総数。 ・都道府県別比較や年次推移の比較など、人口規模の大きい集団同士の比較に用いる。日本では基準人口として2015年モデル人口が用いられている(以前は1985年モデル人口)。 2. 間接法(標準化死亡比:SMR) ・必要な情報:基準集団の年齢階級別死亡率、観察集団の年齢階級別人口(または観察人年)、観察集団の総死亡数。 ・SMR=観察死亡数÷期待死亡数。 ・市町村や職域集団(工場、職業コホート)など、人数が少なく年齢階級別死亡率が不安定な集団で用いる。 ・基準集団と比べて1(または100)より大きければ死亡が多く、小さければ少ないと判断する。
人年(person-years)
観察対象者それぞれの観察期間を合計した値である。例えば、5年間観察された人が10人、2年間観察された人が5人いれば、5×10+2×5=60人年となる。出入りのあるコホートで発生率や死亡率を求める際の分母として用いる。
健康労働者効果
職域集団は、就業できる程度に健康な人で構成されるため、一般集団と比べると死亡率が低めに出やすい(healthy worker effect)。職域のSMRを解釈する際には、この偏りに注意が必要である。
POINT
・SMR=観察死亡数÷期待死亡数(間接法)。 ・期待死亡数=Σ(基準集団の年齢階級別死亡率×観察集団の年齢階級別人口〔人年〕)。 ・基準集団からは「死亡率」、観察集団からは「年齢構成(人口・人年)」と「総死亡数」を用いる。 ・直接法(年齢調整死亡率)は観察集団の年齢階級別死亡率と基準人口を用いる。小集団には間接法(SMR)が適する。 ・出入りのある職域集団では、人数ではなく観察人年数を分母とする。
