「考えがまとまらない」はどの症状?―思考の異常を3つの引き出しで整理する
第109回医師国家試験 E問題 第22問
国試問題にチャレンジ
症候とその説明の組合せで正しいのはどれか。
- a.強迫観念 ―― 自分のものでない考えが勝手に浮かんでくる。
- b.思考途絶 ―― 思考が不活発で考えが前に進まない。
- c.支配観念 ―― 思考が外部から支配される。
- d.反響言語 ―― 主題はそれないが細部にこだわる。
- e.連合弛緩 ―― 関連のない観念が浮かんでまとまらない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
思考の異常は、思考過程(連合弛緩・思考途絶・思考制止・観念奔逸・迂遠など)、思考内容(妄想・支配観念など)、思考体験(強迫観念・自生思考・させられ思考・思考吹入など)の3つに分けて整理すると理解しやすくなります。連合弛緩は観念間のつながりが緩んでまとまりを欠く状態で、ブロイラーが統合失調症の基本症状とした4つのAの一つであり、重度になると滅裂思考や言葉のサラダに至ります。思考途絶(突然途切れる、統合失調症)と思考制止(全体に遅い、うつ病)、強迫観念(自分の考えと自覚)と自生思考・思考吹入(自分のものでない考え)、支配観念とさせられ思考、反響言語(オウム返し)と迂遠(細部にこだわるが主題に戻る)は、混同しやすい組として押さえておきたいところです。説明文がどの用語の定義かを逆に考える習慣は、症候を正確に記載し鑑別診断につなげる臨床の基本にも直結します。
解答・解説
正解はeです
本問は、精神医学で用いられる思考の異常や言語の症状について、用語とその定義を正確に対応させられるかを問う問題である。 思考の異常は、伝統的に次の3つの側面に分けて整理すると理解しやすい。 ・思考過程(思路)の異常:考えの進み方・つながり方の障害。連合弛緩、滅裂思考、思考途絶、思考制止、観念奔逸、迂遠などがこれにあたる。 ・思考内容の異常:考えている内容そのものの異常。妄想、支配観念(優格観念)などがこれにあたる。 ・思考体験(自我意識)の異常:考えが自分のものであるという感覚や、自分で制御しているという感覚の障害。強迫観念、自生思考、させられ思考、思考吹入、思考奪取などがこれにあたる。 各選択肢の説明文を読み、その説明が本来どの用語にあたるかを考えると、取り違えが見抜ける。たとえば「考えが前に進まない」は思考制止、「外部から支配される」はさせられ思考、「主題はそれないが細部にこだわる」は迂遠を説明したものである。用語と定義が正しく対応しているのは、連合弛緩の組合せのみである。
選択肢考察
- ×a. 強迫観念 ―― 自分のものでない考えが勝手に浮かんでくる。
強迫観念は、本人自身が「ばかばかしい」「不合理だ」と分かっていながら、意志に反して繰り返し頭に浮かび、振り払おうとしても離れない考えである。重要なのは、その考えが自分自身の考えであるという自覚(自我所属性)が保たれている点である。強迫症(強迫性障害)に典型的である。一方、「自分のものでない考えが勝手に浮かんでくる」という体験は、考えの自己所属感が損なわれた状態で、自生思考(考えが意図せず次々と湧いてくる)や、さらに進むと思考吹入(他者から考えを吹き込まれると感じる)にあたり、統合失調症でみられる。
- ×b. 思考途絶 ―― 思考が不活発で考えが前に進まない。
思考途絶は、話や考えの流れが何の前触れもなく突然止まってしまい、しばらく途切れる状態であり、統合失調症に特徴的である。本人は「考えを抜き取られた」と感じることもあり(思考奪取)、両者は関連して現れることがある。設問の「思考が不活発で考えが前に進まない」という説明は、思考の速度が全体的に遅くなる思考制止(思考抑制)を指しており、うつ病に典型的にみられる。突然止まる(途絶)か、全体に遅くなる(制止)かで区別する。
- ×c. 支配観念 ―― 思考が外部から支配される。
支配観念(優格観念、overvalued idea)は、強い感情を伴う体験をきっかけに生じた考えが、他の考えよりも優位に意識の中心を占め、その人の思考や行動を長く支配するようになったものである。内容自体は了解可能なことが多く、妄想とは異なり本人の価値観や経験から理解しうる。一方、「思考が外部から支配される」という説明は、自分の考えが他者に操られていると感じるさせられ思考(作為思考)であり、させられ体験(作為体験)の一つとして統合失調症に典型的にみられる。
- ×d. 反響言語 ―― 主題はそれないが細部にこだわる。
反響言語(エコラリア)は、相手が言った言葉をそのままオウム返しに繰り返す症状である。他者の動作をまねる反響動作などとともに反響症状と総称され、自閉スペクトラム症、統合失調症の緊張病状態、前頭側頭型認知症などでみられる。設問の「主題はそれないが細部にこだわる」は迂遠(迂遠思考)の説明であり、話が回りくどく枝葉末節にこだわって要点になかなかたどり着かないが、最終的には目的に到達する状態を指す。てんかんの性格変化、認知症、知的障害などでみられる。
- ○e. 連合弛緩 ―― 関連のない観念が浮かんでまとまらない。
連合弛緩は思考過程の異常で、観念と観念の論理的なつながりが緩み、話の筋道に一貫性がなくなって、全体として何を言いたいのかが分かりにくくなる状態である。スイスの精神医学者ブロイラー(E. Bleuler)が統合失調症の基本症状の一つとして挙げた(4つのA:連合弛緩、感情の平板化、両価性、自閉)。程度が強まると文法的にも意味が通じない滅裂思考となり、極端な場合は単語の羅列(言葉のサラダ)に至る。説明文は連合弛緩の定義と合致している。
思考の異常の整理と典型疾患
1. 思考過程(思路)の異常 ・連合弛緩:観念間のつながりが緩み、まとまりを欠く(統合失調症)。重度になると滅裂思考、言葉のサラダ。 ・思考途絶:思考の流れが突然途切れる(統合失調症)。 ・思考制止(思考抑制):思考の速度が遅く、考えが前に進まない(うつ病)。 ・観念奔逸:考えが次々に湧き、話題が脇へそれていく。連想は表面的な音や語呂でつながる(躁病)。 ・迂遠:回りくどく細部にこだわるが、最終的には主題に到達する(てんかん、認知症、知的障害)。 ・保続:同じ言葉や考えが繰り返し現れ、次の話題に移れない(器質性脳疾患、認知症)。 2. 思考内容の異常 ・妄想:根拠のない誤った確信で、訂正が不可能なもの。 ・支配観念(優格観念):強い感情体験に由来し、意識の中心を占め続ける観念。了解可能な点で妄想と区別される。 3. 思考体験(自我意識)の異常 ・強迫観念:不合理と自覚しながら繰り返し浮かぶ自分の考え(強迫症)。 ・自生思考:自分の意図と関係なく考えが勝手に湧いてくる(統合失調症の初期など)。 ・させられ思考(作為思考)、思考吹入、思考奪取、考想伝播:自分の思考が外部から操作される、吹き込まれる、抜き取られる、他人に伝わると感じる(統合失調症、シュナイダーの一級症状に含まれるものが多い)。
反響症状
反響言語(言葉のオウム返し)、反響動作(動作のまね)、反響表情などをまとめて反響症状という。自閉スペクトラム症、統合失調症の緊張病状態、前頭側頭型認知症、トゥレット症などでみられる。
POINT
・連合弛緩:観念のつながりが緩みまとまらない。ブロイラーの4つのAの一つで統合失調症の基本症状 ・思考途絶(突然途切れる、統合失調症)と思考制止(遅く進まない、うつ病)を区別する ・強迫観念は「自分の考え」と自覚している。「自分のものでない考え」は自生思考・思考吹入 ・支配観念(優格観念)と、させられ思考(外部から支配される)を区別する ・反響言語はオウム返し。「細部にこだわり主題はそれない」のは迂遠
