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「働きすぎ」は誰が止める?―過重労働対策の司令塔・衛生委員会

第109回医師国家試験 E問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第10問

過重労働対策で正しいのはどれか。

  1. a.被ばく管理
  2. b.がん検診の活用
  3. c.作業環境の測定
  4. d.衛生委員会での審議
  5. e.在宅での時間外勤務の奨励

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業保健の問題で、テーマは過重労働対策だ。選択肢にはどれも職場の健康管理に関係しそうな言葉が並んでいるけれど、着眼点は「その施策が何の健康障害を防ぐためのものか」。目的で仕分けていくと答えが見えてくるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で労働衛生はやりましたが、選択肢が全部それっぽく見えて迷います。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。まず前提として、過重労働とは長時間労働や休日の少なさ、深夜勤務などで疲労が蓄積し、心身の健康を損なうおそれのある働き方のことだ。具体的にどんな病気と関係していると思う?
医学生医学生
過労死という言葉があるくらいなので、心筋梗塞や脳卒中でしょうか。あとはうつ病も。
ドクタードクター
その通り。脳・心臓疾患と精神障害、そして過労死・過労自殺だ。だから対策の柱は2つ。1つは労働時間そのものを減らし、客観的に把握すること。もう1つは長時間働いた人の健康管理、具体的には医師による面接指導とその後の就業上の措置だ。
医学生医学生
面接指導は時間外労働が月100時間を超えたら、と覚えていた気がします。
ドクタードクター
以前はそうだったけれど、2019年施行の法改正で基準が引き下げられて、今は時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積がある労働者が申し出た場合に、事業者は医師の面接指導を行う義務がある。古い数字で覚えている人も多いから注意してね。さて、ここで正解の話だ。こうした対策を事業場として計画し、実行に移す場はどこだと思う?
医学生医学生
それが衛生委員会ですか。名前は知っていますが、何をするところかはあいまいです。
ドクタードクター
衛生委員会は常時50人以上の労働者を使用する事業場に設置が義務づけられ、毎月1回以上開かれる。事業者側と労働者側の委員、それに産業医や衛生管理者などで構成されていて、長時間労働による健康障害の防止対策は、その調査審議事項として明確に位置づけられているんだ。時間外労働の削減策や面接指導の進め方を、労使で話し合って実効性のある形にする。だから衛生委員会での審議が正解になる。
医学生医学生
では被ばく管理はどうでしょう。放射線科の実習で線量計をつけている技師さんを見ましたが、あれは別の目的ですよね。
ドクタードクター
そう、被ばく管理は放射線業務の従事者の被ばく線量を測定・記録して、線量限度を超えないよう管理するものだ。有害因子への曝露対策であって、労働時間の長さとは関係がない。
医学生医学生
作業環境の測定も、粉じんや有機溶剤の濃度を測るものなので同じ理屈で外れますね。
ドクタードクター
よく整理できているね。作業環境測定は労働衛生の3管理のうち作業環境管理の手段で、有害物質や騒音などのレベルを評価して環境を改善するためのものだ。がん検診はどうかな。
医学生医学生
がんの早期発見のための二次予防なので、長時間労働による脳・心臓疾患や精神障害の予防とは直接つながらない、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。職域で行われることはあっても、過重労働対策として求められる健康管理は面接指導のほうだ。最後の在宅での時間外勤務の奨励は?
医学生医学生
これは明らかに逆効果ですね。持ち帰り残業では総労働時間は減らないし、むしろ実態が見えにくくなりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが問題だ。労働時間の把握が難しくなるうえ、休息や睡眠も削られる。対策の方向性である「労働時間の削減と把握」に真っ向から逆行しているね。
医学生医学生
目的で分けると、ほかの選択肢は全部「有害物質」「がん」「時間を増やす」で、過重労働と噛み合うのは衛生委員会だけだったんですね。
ドクタードクター
そういうことだ。発展知識も押さえておこう。労働基準法の時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間で、特別な事情があっても年720時間以内、単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内という規制がある。また事業者はタイムカードやパソコンの使用記録など客観的な方法で労働時間を把握しなければならず、月80時間を超えた労働者の情報は産業医に提供される。
医学生医学生
労働衛生の3管理に、労働衛生教育と総括管理を足して5管理というのもCBTの勉強で出てきました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。過重労働対策は労働時間を管理する作業管理と、面接指導などの健康管理にまたがっていて、それを総括管理の場である衛生委員会で推進する、という位置づけになる。将来、病院勤務で自分たちの働き方を考えるときや、産業医として企業に関わるときにも、この枠組みはそのまま役に立つよ。

まとめ

過重労働(長時間労働)は脳・心臓疾患や精神障害、過労死・過労自殺のリスクを高めるため、労働時間の削減と客観的把握、そして長時間労働者への医師による面接指導と事後措置が対策の柱となります。これらを事業場として計画・推進する場が、常時50人以上の事業場に設置が義務づけられ毎月1回以上開催される衛生委員会であり、長時間労働による健康障害の防止対策はその調査審議事項に含まれます。被ばく管理や作業環境測定は有害因子への曝露対策、がん検診はがんの二次予防であり目的が異なり、在宅での時間外勤務の奨励は労働時間を延ばしかえって過重労働を助長します。面接指導の基準は現在、時間外・休日労働が月80時間超で疲労の蓄積があり本人の申出がある場合です。各施策を「何を防ぐためのものか」で整理する視点は、労働衛生の5管理の理解と産業保健の実践の基礎になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

過重労働とは、長時間労働や休日の少なさ、不規則勤務、深夜勤務などによって疲労が蓄積し、心身の健康を損なうおそれがある働き方をいう。長時間労働は脳・心臓疾患(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞など)やうつ病などの精神障害、さらには過労死・過労自殺との関連が指摘されており、労働安全衛生法などに基づく対策が事業者に求められている。

考え方

過重労働対策の柱は、大きく次の2つである。 ・根本対策: 時間外・休日労働の削減、労働時間の客観的な把握、年次有給休暇の取得促進など、労働時間そのものを減らす取り組み ・健康管理: 長時間労働者に対する医師による面接指導、その結果に基づく就業上の措置(労働時間短縮、配置転換など)、産業医への情報提供など これらを事業場として計画し実行に移す場が、労働者代表も参加する衛生委員会(または安全衛生委員会)である。長時間労働による健康障害の防止対策は衛生委員会の調査審議事項として明確に位置づけられている。 選択肢のうち、被ばく管理・がん検診・作業環境測定はいずれも別の目的の労働衛生施策であり、在宅での時間外勤務の奨励はむしろ労働時間を延ばす方向に働く。過重労働対策として正しいのは衛生委員会での審議である。

選択肢考察

  1. ×a.  被ばく管理

    被ばく管理は、放射線業務に従事する労働者の被ばく線量を測定・記録し、線量限度を超えないよう管理するもの(電離放射線障害防止規則に基づく)であり、有害因子への曝露対策である。労働時間の長さに起因する健康障害を防ぐ過重労働対策とは目的が異なる。

  2. ×b.  がん検診の活用

    がん検診はがんの早期発見・早期治療を目的とする二次予防の取り組みであり、職域で行われることはあるが、長時間労働による脳・心臓疾患や精神障害の予防とは直接の関係がない。過重労働対策として行うべき健康管理は、長時間労働者に対する医師の面接指導などである。

  3. ×c.  作業環境の測定

    作業環境測定は、作業環境管理(労働衛生の3管理の一つ)の手段として、粉じん、有機溶剤、特定化学物質、騒音などの有害因子の濃度・レベルを測定し、環境を評価・改善するものである。有害物質による健康障害を防ぐための施策であり、労働時間の過多を対象とする過重労働対策とは直接結びつかない。

  4. ○d.  衛生委員会での審議

    衛生委員会は常時50人以上の労働者を使用する事業場に設置が義務づけられ、毎月1回以上開催される。事業者側と労働者側の委員で構成され、長時間労働による健康障害の防止対策の樹立に関することは、その調査審議事項として定められている。過重労働の現状と健康影響を共有し、時間外労働の削減策、面接指導の実施方法、事後措置の進め方などを事業場として実効性のある形で審議することは、過重労働対策の中心的な取り組みである。

  5. ×e.  在宅での時間外勤務の奨励

    職場での残業を自宅に持ち帰らせても、総労働時間は減らないうえ、労働時間の把握が難しくなって実態が見えにくくなる。休息や睡眠の時間も削られるため、過重労働をかえって助長する。過重労働対策の方向性(労働時間の削減と把握)に逆行する。

過重労働対策の主な制度

・時間外労働の上限規制(労働基準法): 原則として月45時間・年360時間。臨時的な特別の事情がある場合でも、年720時間以内、時間外・休日労働の合計が単月100時間未満かつ2〜6か月平均で80時間以内、月45時間を超えられるのは年6か月まで、とされる。 ・労働時間の状況の把握(労働安全衛生法): 事業者は、タイムカードやパソコンの使用時間の記録など客観的な方法で労働時間の状況を把握しなければならない。 ・医師による面接指導(労働安全衛生法): 休憩時間を除き週40時間を超えて労働させた時間(時間外・休日労働)が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合、事業者は医師による面接指導を行わなければならない。面接指導の結果、医師の意見を聴いて、必要に応じ労働時間の短縮、就業場所の変更などの措置を講じる。研究開発業務の従事者などには申出の有無にかかわらず面接指導を行う別の基準がある。 ・産業医への情報提供: 時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者の氏名や超えた時間などの情報を産業医に提供する。

衛生委員会

・常時50人以上の労働者を使用する事業場で設置義務(安全委員会と合わせて安全衛生委員会とすることもできる)。 ・委員は総括安全衛生管理者等(議長)、衛生管理者、産業医、衛生に関し経験を有する労働者などで、議長以外の委員の半数は労働者の過半数代表の推薦に基づき指名する。 ・毎月1回以上開催し、議事録を保存する。 ・調査審議事項には、労働者の健康障害防止の基本対策、健康の保持増進、労働災害の原因と再発防止策に加え、長時間労働による健康障害の防止対策、メンタルヘルス対策などが含まれる。

労働衛生の3管理+2

作業環境管理(作業環境測定など)、作業管理(作業時間・作業方法・保護具の管理など)、健康管理(健康診断、面接指導など)の3管理に、労働衛生教育と総括管理(衛生委員会などの体制づくり)を加えて5管理とよぶ。過重労働対策は主に作業管理(労働時間の管理)と健康管理にまたがり、それを総括管理の場である衛生委員会で推進する。

POINT

・過重労働(長時間労働)は脳・心臓疾患や精神障害、過労死・過労自殺のリスクを高める。 ・対策の柱は「労働時間の削減と客観的把握」と「長時間労働者の健康管理(医師による面接指導と事後措置)」である。 ・月80時間超の時間外・休日労働で疲労が蓄積し、本人の申出がある場合は医師による面接指導が義務。 ・長時間労働による健康障害の防止対策は衛生委員会(常時50人以上で設置、毎月1回以上開催)の調査審議事項である。 ・被ばく管理、作業環境測定、がん検診は過重労働とは目的の異なる施策。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。