StudyMed医師国家試験

等間隔に並ぶ3つの山―流行曲線のリズムを刻む「潜伏期」

第109回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第9問

ある感染症を発症した患者数をその発症日ごとに図に示す。  この感染症の発生状況の要因として最も考えられるのはどれか。

第109回 E問題 第9問の問題画像
  1. a.潜伏期
  2. b.風土病
  3. c.栄養状態
  4. d.患者年齢
  5. e.集団免疫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発症日ごとの患者数を並べた流行曲線、いわゆるエピカーブを読む問題だ。注目してほしいのは患者数の多さよりも「山の並び方」。山がいくつあって、どんな間隔で現れているかを見てみよう。
医学生医学生
散発的な発生のあと、大きな山が3つ、ほぼ同じくらいの間隔で出ています。だいたい10日おきくらいでしょうか。
ドクタードクター
いい読み取りだね。3月初め、中旬、下旬と、約10日ごとに山が現れて、真ん中の山が一番高く、その後小さくなって収束している。では、こういう規則的なリズムはなぜ生まれると思う?
医学生医学生
最初は集団免疫かと思いました。免疫を持つ人が増えて流行が収まったように見えたので。
ドクタードクター
流行が収束する理由の一つとしては的外れではないよ。でも問題は「山が一定間隔で繰り返す形」そのものをどう説明するかだ。ヒトからヒトへうつる感染症を想像してみて。最初の患者から感染した人は、すぐには発症しないよね。
医学生医学生
あ、感染してから発症するまでに潜伏期がありますね。その人たちが発症してまた次の人にうつして…。
ドクタードクター
そう。最初の患者が第1世代、その人からうつった人が潜伏期を経て発症するのが第2世代、さらにその次が第3世代。世代ごとに潜伏期ぶんの時間がかかるから、患者数の山が潜伏期に相当する間隔で繰り返し現れる。これを伝播型、あるいは進行性の流行と呼ぶんだ。だから答えは潜伏期になる。
医学生医学生
山の間隔がそのまま潜伏期の目安になるわけですね。10日前後だと、感染症学の講義で習った麻疹の潜伏期が思い浮かびます。
ドクタードクター
麻疹の潜伏期は約10〜12日だから、例としてはよく合うね。ただ、この問題は病原体の特定までは求めていないから、あくまで「潜伏期が10日前後の感染症が世代を重ねて広がった」と理解しておけば十分だ。では他の選択肢も確認しよう。風土病はどうかな。
医学生医学生
風土病はマラリアのように特定の地域に根付いている病気のことなので、時間的なパターンとは別の話な気がします。
ドクタードクター
その通り。風土病、つまりエンデミックは地域に定着して絶えず一定程度発生し続ける状態を指す「場所」の概念だ。今回のように短期間で急増して収束するのはエピデミック、つまり流行の像で、むしろ対照的だね。
医学生医学生
栄養状態や患者年齢も、かかりやすさには関わりますけど、10日ごとに変わるものではないですよね。
ドクタードクター
そう。低栄養は罹患や重症化のリスクを上げる宿主要因だし、年齢も感受性に関わる人的要因だけれど、2か月足らずで集団の栄養状態が周期的に変動したり、年齢構成が変わったりはしない。周期的な山は説明できないんだ。集団免疫も同じで、流行の規模や起こりやすさ、終息には関与するけれど、等間隔の山を生み出す要因ではない。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「流行の三要素は人・場所・時間」と習いました。集団免疫や年齢は「人」、風土病は「場所」、そして潜伏期による山の繰り返しは「時間」の話、と整理できそうです。
ドクタードクター
見事な整理だね。ここで流行曲線の主な型をまとめておこう。食中毒のように多くの人が同じ感染源に一度だけ曝露されると、急峻な一つの山になる。これが単一曝露型、点流行だ。山の頂点から潜伏期を逆算すれば曝露時期を推定できる。汚染された井戸水のように曝露が続くと、患者発生がだらだら続く持続曝露型になる。
医学生医学生
一峰性の山の右側に小さな山が続いていたら、初発患者からの二次感染を考えるんですよね。CBTの問題で見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。その小さな山も、ヒトからヒトへの伝播が始まったサインだ。ちなみに集団免疫が高まると、感染しないまま年長になる人が増えて、罹患年齢が上がる傾向がある。ワクチン接種率の上昇で麻疹患者の中心が年長児や成人へ移ったのはその例だ。
医学生医学生
実際の現場では、エピカーブを描くことで感染経路の見当をつけるわけですね。
ドクタードクター
その通り。保健所や院内感染対策の現場では、発症日を並べて山の形と間隔を見るのが最初の一歩になる。単一の山なら共通の感染源を探し、等間隔の山ならヒトからヒトへの伝播を疑って、接触者の把握や隔離、ワクチン接種の確認を急ぐ。形を読めれば、打つべき対策が見えてくるんだ。

まとめ

発症日ごとの患者数を示す流行曲線(エピカーブ)で、ほぼ等間隔に山が繰り返し現れる場合は、ヒトからヒトへ感染が連鎖する伝播型(進行性)流行を考えます。感染者が次の世代の患者を生むまでに潜伏期ぶんの時間がかかるため、山の間隔は潜伏期を反映し、本問では約10日ごとの山から潜伏期が流行パターンを規定する要因と判断できます。風土病は「場所」、栄養状態・年齢・集団免疫は「人」に関わる要因で、罹患のしやすさや流行の規模には影響しても、短期間の周期的な山を説明するものではありません。単一曝露型の一峰性の山、持続曝露型のだらだらした発生、伝播型の等間隔の山という代表的な型を押さえておくと、感染経路の推定や対策の立案に直結する実践的な疫学の視点が身につきます。

解答・解説

正解はaです

グラフの読み取り

横軸は発症日(2月中旬〜4月上旬)、縦軸はその日に発症した患者数である。経過を追うと次のようになる。 ・2月中旬〜下旬: 1日0〜2人程度の散発的な発生 ・3月1日前後: 最初の山(最大9人/日) ・3月12日前後: 最も大きな山(最大20人/日) ・3月23日前後: 3つ目の山(最大11人/日) ・4月以降: 1日1〜3人程度に減って徐々に収束 つまり、ほぼ一定の間隔(およそ10日前後)をおいて患者数の山が繰り返し現れ、山の高さはいったん大きくなった後に小さくなっている。

考え方

感染症の流行曲線(エピカーブ: 発症日ごとの患者数を並べた図)の形は、感染がどのように広がったかを推定する手がかりになる。ヒトからヒトへうつる感染症では、ある患者(世代1)から感染した人が発症するまでに潜伏期(感染から発症までの期間)がかかり、その人たちがさらに次の人へうつす(世代2、世代3…)。このため、潜伏期の長さにほぼ相当する間隔で患者数の山が繰り返し出現する「伝播流行(進行性流行)」の形をとる。本図で山がほぼ等間隔に並んでいるのは、この世代ごとの患者発生を反映しており、流行パターンを規定している要因として最も考えられるのは潜伏期である。 一方、選択肢のうち風土病・栄養状態・患者年齢・集団免疫は、流行の起こりやすさや患者の分布には関わりうるが、数週間という短い期間のなかで山が規則的に繰り返す形を説明するものではない。 なお、山の間隔が10日前後であることから、潜伏期がおよそ10日前後の感染症(例えば麻疹は約10〜12日)が集団内で世代を重ねて広がった状況が想像されるが、本問では病原体の特定までは求められていない。

選択肢考察

  1. ○a.  潜伏期

    少数の散発例ののち、ほぼ一定の間隔(10日前後)で3回の山が出現し、その後収束している。ヒトからヒトへ感染する疾患では、感染者が次の世代の患者を生み出すまでに潜伏期分の時間がかかるため、潜伏期に相当する間隔で患者発生の波が繰り返される。本図の周期的な山はこの機序で最もよく説明でき、発生状況を決めている要因は潜伏期と考えられる。

  2. ×b.  風土病

    風土病(エンデミック)とは、特定の地域に定着し、その地域で絶えず一定程度発生し続ける疾患を指す。地域との結びつきを表す概念であり、数週間の間に規則的な山を繰り返すという時間的なパターンを説明するものではない。むしろ本図のように短期間に患者が急増して収束する状況は、エンデミックではなく「流行(エピデミック)」の像である。

  3. ×c.  栄養状態

    低栄養は感染症にかかりやすさや重症化に影響する宿主要因である。しかし集団の栄養状態が10日前後の周期で良くなったり悪くなったりすることは考えにくく、等間隔に繰り返す患者発生の山を説明できない。

  4. ×d.  患者年齢

    年齢は感受性や罹患しやすさに関わる人的要因であるが、2か月足らずの観察期間で集団の年齢構成が変化することはなく、周期的な山の出現とは結びつかない。

  5. ×e.  集団免疫

    集団免疫とは、免疫をもつ人が集団内に一定割合以上いると、感受性者に感染が届きにくくなり集団全体として流行が起こりにくくなる現象である。流行の規模や起こりやすさを左右し、流行の終息にも関与するが、短期間に一定間隔で山が繰り返されるという形そのものを生み出す要因ではない。本図の周期性は、世代ごとの伝播に要する時間、すなわち潜伏期で説明するのが妥当である。

流行曲線(エピカーブ)の主な型

・単一曝露型(点流行、一峰性流行): 食中毒のように多数の人が同じ感染源に短時間だけ曝露された場合。患者数は1つの急峻な山となり、ほぼ左右対称に近い形を示す。発症のばらつきは潜伏期のばらつきを反映し、山の頂点の時期から曝露時期を逆算できる。山の右側のすそ野に小さな山が続く場合は、初発患者からの二次感染を考える。 ・持続曝露型: 汚染された井戸水など、感染源への曝露が続く場合。患者発生が長期間だらだら続き、感染源を除去すると減少する。 ・伝播型(進行性流行): ヒトからヒトへ感染が連鎖する場合。潜伏期に相当する間隔で世代ごとの山が現れ、感受性者が減るにつれて収束する。本問の図はこの型である。

流行の三要素(記述疫学の視点)

・人(人的特性): 年齢、性、職業、予防接種歴、免疫保有率など。免疫を持つ人の割合が一定以上になると流行が起こりにくくなる(集団免疫)。集団免疫が高いほど感受性者が感染に出会う機会が減り、感染しないまま年長になる人が増えるため、罹患年齢は高くなる傾向がある(例: ワクチン接種率の上昇により、麻疹の患者の中心が乳幼児から年長児・成人へ移行した)。 ・場所(地理的特性): 媒介動物の生息域、水系流行における汚染水域に一致した患者発生など。風土病(エンデミック)は地域に定着した疾患を表す。 ・時間(時間的特性): 長期変動(10年以上にわたる趨勢)、循環変動(数年ごとの周期的な変動)、季節変動(季節ごとの増減)、さらに短期の流行曲線の形。

用語

・潜伏期: 病原体に感染してから症状が出るまでの期間。 ・世代時間(世代間隔): ある感染者が感染してから、その人から次の人が感染するまでの間隔。ヒトからヒトへの流行で山が繰り返す間隔は、主にこれと潜伏期に規定される。 ・エンデミック(風土病)、エピデミック(流行)、パンデミック(世界的大流行)の区別も確認しておく。

POINT

・発症日ごとの患者数のグラフ(流行曲線)は感染経路の推定に役立つ。 ・一峰性で急峻な山 → 単一曝露(点流行、例: 食中毒)。右のすそ野の小さな山 → 二次感染。 ・ほぼ等間隔に山が繰り返す → ヒトからヒトへの伝播型流行で、間隔は潜伏期を反映する。 ・流行の三要素は「人・場所・時間」。集団免疫は人、風土病は場所に関わる概念である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。