その脱毛にステロイドは効くか、悪化させるか―原因で分ける脱毛症の治療
第109回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
副腎皮質ステロイドの外用が適応となる脱毛症はどれか。
- a.抜毛症
- b.円形脱毛症
- c.Celsus禿瘡
- d.男性型脱毛症
- e.梅毒性脱毛症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
脱毛症は原因によって治療が大きく異なり、副腎皮質ステロイドの外用が適応となるのは、成長期毛包に対する自己免疫反応で生じる円形脱毛症です。円形脱毛症は境界明瞭な円形脱毛斑と感嘆符毛、毛球部周囲のリンパ球浸潤が特徴で、自己免疫性甲状腺疾患などを合併しやすく、ステロイド外用・局所注射のほか重症例ではJAK阻害薬なども用いられます。Celsus禿瘡は頭部白癬の炎症型で抗真菌薬の内服、梅毒性脱毛症は第2期梅毒の虫食い状脱毛でペニシリン系抗菌薬、男性型脱毛症はジヒドロテストステロンによる軟毛化で5α還元酵素阻害薬やミノキシジル、抜毛症は行動面への対応が治療の中心です。特に感染症にステロイドを塗ると悪化させるため、脱毛や紅斑を見たらまずKOH直接鏡検などで感染症を除外することが重要です。「病態に合った治療を選ぶ」という考え方は、ステロイドを安全に使いこなすための基本となります。
解答・解説
正解はbです
テーマ
脱毛症は原因によって治療が大きく異なるため、「病態に合った治療を選ぶ」ことが問われている。副腎皮質ステロイドは抗炎症・免疫抑制作用をもつ薬であり、その外用が有効なのは、毛包を標的とした免疫学的な炎症が脱毛の原因となっている疾患である。
考え方
選択肢の脱毛症を原因別に整理すると次のようになる。 ・抜毛症: 自分で毛を抜く行為による(精神・行動面の問題) ・円形脱毛症: 毛包に対する自己免疫反応による(免疫学的炎症) ・Celsus禿瘡: 白癬菌(皮膚糸状菌)の毛包への感染による(感染症) ・男性型脱毛症: 男性ホルモンの作用による(ホルモン依存性) ・梅毒性脱毛症: 梅毒トレポネーマの感染による(感染症) このうち免疫学的な機序が病態の中心にあり、ステロイドで炎症を抑えることが治療になるのは円形脱毛症である。感染症にステロイドを外用すると局所の免疫を抑えて病原体の増殖を助け、かえって悪化させるおそれがある点にも注意する。
選択肢考察
- ×a. 抜毛症
抜毛症(トリコチロマニア)は、自分の毛髪を繰り返し引き抜いてしまう行動によって生じる脱毛で、DSM-5では強迫症および関連症群に分類される。小児や若年者に多く、利き手側の前頭部〜頭頂部などに、形が不整で、さまざまな長さの切れ毛が混在する脱毛斑をつくるのが特徴である。毛包の炎症が原因ではないため、ステロイド外用は意味をもたない。誘因となる心理的ストレスへの対応、行動療法などの精神医学的アプローチが中心となる。
- ○b. 円形脱毛症
円形脱毛症は、成長期の毛包に対してCD8陽性T細胞などのリンパ球が攻撃をしかける自己免疫性疾患と考えられている。組織では毛球部周囲に多数のリンパ球浸潤がみられ、臨床的には境界明瞭な円形〜類円形の脱毛斑と、根元が細くなった感嘆符毛(exclamation mark hair)が特徴である。橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患やアトピー素因の合併が多い。毛包周囲の免疫学的炎症を抑えることが治療の基本となるため、副腎皮質ステロイドの外用が適応となる。ほかにステロイドの局所注射、局所免疫療法、重症例でのステロイド内服・パルス療法やJAK阻害薬内服なども用いられる。
- ×c. Celsus禿瘡
Celsus禿瘡(ケルスス禿瘡)は、頭部白癬のうち、白癬菌が毛包内・毛内に侵入して強い炎症反応を起こした病型である。膿疱や排膿を伴う隆起性の腫瘤をつくり、毛は容易に抜ける。治療は抗真菌薬(テルビナフィンやイトラコナゾール)の内服であり、毛包深部に菌がいるため外用抗真菌薬だけでは不十分である。ステロイドを外用すると局所の免疫が抑えられて白癬が悪化するため禁忌的である。湿疹などと誤ってステロイドを塗った結果として発症・増悪する例もある。
- ×d. 男性型脱毛症
男性型脱毛症(AGA)は、テストステロンが5α還元酵素によって変換されたジヒドロテストステロン(DHT)が、感受性のある前頭部・頭頂部の毛包に作用し、成長期が短縮して硬毛が軟毛化(毛が細く短くなる)していくことで起こる。遺伝的素因が関与する。炎症性疾患ではないためステロイド外用の適応はない。治療は5α還元酵素阻害薬(フィナステリド、デュタステリド)の内服やミノキシジルの外用である。
- ×e. 梅毒性脱毛症
梅毒性脱毛症は第2期梅毒でみられ、後頭部〜側頭部を中心に、境界不明瞭な小脱毛斑が多発する「虫食い状」の不完全脱毛が典型である。原因は梅毒トレポネーマの感染であり、治療はペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン内服やベンジルペニシリンベンザチン筋注など)による梅毒そのものの治療である。ステロイド外用は適応とならない。
円形脱毛症のまとめ
・病態: 成長期毛包に対する自己免疫反応。毛包はもともと免疫学的に攻撃されにくい「免疫特権」をもつが、これが破綻してリンパ球の攻撃を受けると考えられている。組織学的には毛球部周囲のリンパ球浸潤(蜂の群れ様と表現される)が特徴。 ・臨床像: 境界明瞭な円形の脱毛斑。病勢が活発な時期は脱毛斑の辺縁で毛が容易に抜け(易抜毛性)、感嘆符毛がみられる。脱毛斑が多発する多発型、頭髪全体が抜ける全頭型、全身の毛が抜ける汎発型、後頭部〜側頭部の生え際に帯状に生じる蛇行型などの病型がある。爪の点状陥凹を伴うこともある。 ・合併: 自己免疫性甲状腺疾患、尋常性白斑、アトピー性皮膚炎、Down症候群など。 ・治療: ステロイド外用・局所注射、局所免疫療法(SADBEやDPCPを用いて人為的にかぶれを起こさせる方法)、冷却療法、紫外線療法、重症の急性期にはステロイドパルス療法、慢性・重症例ではJAK阻害薬(バリシチニブなど)の内服が選択肢となる。単発型は自然に治ることも多いが、広範囲・小児発症・アトピー合併例などは難治の傾向がある。
ステロイド外用と感染症
ステロイドの外用は、白癬・カンジダ症・疥癬・細菌感染症・ウイルス感染症(単純ヘルペスなど)を悪化させる。湿疹と誤認してステロイドを塗ることで、白癬の典型像が崩れて診断が難しくなることもある(異型白癬)。脱毛や紅斑を見たら、まず真菌検査(KOH直接鏡検)で感染症を除外することが重要である。
脱毛症の原因別整理
・自己免疫: 円形脱毛症 ・ホルモン: 男性型脱毛症、女性型脱毛症、甲状腺機能低下症など ・感染症: 頭部白癬(Celsus禿瘡を含む)、梅毒性脱毛症 ・行動・物理的: 抜毛症、牽引性脱毛症 ・休止期脱毛: 出産後、高熱、手術、急激なダイエットなどの後 ・薬剤: 抗がん薬(成長期脱毛)など ・瘢痕性脱毛: 毛包が破壊されて再生しないもの(円板状エリテマトーデスなど)
POINT
・副腎皮質ステロイドの外用が適応となる脱毛症は、自己免疫性の円形脱毛症である。 ・円形脱毛症: 境界明瞭な円形脱毛斑、感嘆符毛、毛球部周囲のリンパ球浸潤、自己免疫性甲状腺疾患の合併。 ・Celsus禿瘡は頭部白癬の炎症型で、抗真菌薬の内服で治療する。ステロイドは悪化させる。 ・男性型脱毛症はDHTによる軟毛化で、5α還元酵素阻害薬内服とミノキシジル外用が治療。 ・梅毒性脱毛症は第2期梅毒の虫食い状脱毛で、ペニシリン系抗菌薬で治療。 ・抜毛症は自ら毛を抜く行動による脱毛で、切れ毛が混在する不整形の脱毛斑が特徴。
