かぜの後に残った片側の膿―急性細菌性副鼻腔炎を見抜き抗菌薬を選ぶ
第109回医師国家試験 D問題 第27問
国試問題にチャレンジ
29歳の女性。保育士。左鼻漏を主訴に来院した。10日前に39℃の発熱が2日間あった。7日前から鼻漏が出現し,徐々に増悪するため受診した。左頬部痛と前額部痛とを認める。左鼻腔の内視鏡像を別に示す。 治療薬として最も適切なのはどれか。

- a.鎮咳薬
- b.抗菌薬
- c.抗真菌薬
- d.抗ウイルス薬
- e.抗ヒスタミン薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
かぜなどの上気道炎に続いて片側の膿性鼻漏が増悪し、頬部痛や前額部痛など罹患洞に一致する顔面痛を伴う場合は急性細菌性副鼻腔炎を考えます。上顎洞・前頭洞・前篩骨洞は中鼻道に開口するため、内視鏡で中鼻道からの膿性鼻汁を確認することが診断の手がかりです。症状が10日以上続く、または再増悪する経過では細菌感染が主体となり、肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラクセラ・カタラーリスを想定してアモキシシリンを第一選択とする抗菌薬治療を行います。小児と接する職業では耐性菌にも注意し、眼窩・頭蓋内合併症の徴候を見逃さないことが重要です。鼻漏の性状と左右差、経過から原因と治療を導く考え方は、日常診療で頻繁に出会う上気道感染症の適切な抗菌薬使用につながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・29歳の女性、保育士(乳幼児と日常的に接し、上気道感染症の病原体に曝露されやすい職業) ・10日前に39℃の発熱が2日間 → 先行する上気道感染(かぜ症候群) ・7日前から左側のみの鼻漏が出現し、徐々に増悪 ・左頬部痛と前額部痛 → 左上顎洞と左前頭洞の炎症を示唆 ・左鼻腔の内視鏡像で、中鼻道付近から流れ出る黄白色の膿性鼻汁を認める
診断へのプロセス
鼻漏を来す代表的な疾患は、鼻漏の性状と左右差で整理できる。アレルギー性鼻炎は両側性の水様性鼻漏、慢性副鼻腔炎は多くが両側性で粘性〜膿性、急性副鼻腔炎は膿性で一側性のことも多く、副鼻腔腫瘍では一側性の血性鼻漏がみられる。本例は上気道炎に引き続いて急性に発症し、一側性の膿性鼻漏と、罹患洞に一致する顔面痛(上顎洞では頬部、前頭洞では前額部)を伴うことから、急性(細菌性)副鼻腔炎と診断できる。上顎洞・前頭洞・前篩骨洞はいずれも中鼻道に開口しているため、中鼻道の膿はこれらの洞の炎症を反映する。
設問の考え方
かぜ症候群に伴う初期の鼻副鼻腔炎はウイルス性が多いが、症状が10日以上続く、いったん軽快したのち再増悪する、あるいは高熱と膿性鼻漏が持続するといった経過では細菌感染を考える。本例は発症から約10日が経過して鼻漏が増悪しており、膿性鼻漏と顔面痛を伴うため細菌性副鼻腔炎と判断され、治療の中心は抗菌薬である。主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスであり、アモキシシリンなどのペニシリン系薬が第一選択となる。
選択肢考察
- ×a. 鎮咳薬
鎮咳薬は咳嗽を抑える対症療法薬である。本例に咳嗽の記載はなく、使用する理由がない。また鎮咳薬は副鼻腔の細菌感染そのものを治療する作用をもたない。
- ○b. 抗菌薬
上気道炎後に増悪する一側性の膿性鼻漏と罹患洞に一致した顔面痛から、急性細菌性副鼻腔炎と診断され、原因菌に対する抗菌薬が治療の基本となる。主な起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスを想定し、アモキシシリンが第一選択となる。保育士は薬剤耐性菌(ペニシリン耐性肺炎球菌〈PRSP〉やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌〈BLNAR〉)を保菌する小児と接する機会が多く、効果不十分なら高用量アモキシシリンやβ-ラクタマーゼ阻害薬配合剤、レスピラトリーキノロンなどへの変更を検討する。鼻汁吸引や鼻処置、ネブライザー療法も併用される。
- ×c. 抗真菌薬
抗真菌薬は副鼻腔真菌症に用いる。副鼻腔真菌症(アスペルギルスによるものが多い)は中高年に多く、片側の上顎洞に慢性に発症し、CTで洞内の石灰化陰影を伴うのが特徴である。糖尿病など免疫不全患者では、ムーコルなどによる急速進行性の浸潤型もある。本例のような上気道炎後の急性経過は細菌感染によるもので、抗真菌薬の適応はない。
- ×d. 抗ウイルス薬
先行した発熱はウイルス性上気道炎と考えられるが、かぜ症候群の原因ウイルス(ライノウイルスなど)の多くには有効な抗ウイルス薬がなく、また本例ではすでに細菌感染が主体となっている。仮に先行感染がインフルエンザであったとしても、抗インフルエンザ薬は発症早期(48時間以内)の投与で効果が得られるものであり、10日経過した細菌性副鼻腔炎の治療にはならない。
- ×e. 抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎の治療薬で、くしゃみや水様性鼻漏を抑える。本例の鼻漏は一側性の膿性であり、アレルギー性鼻炎の所見とは異なる。細菌感染には無効であり、抗コリン作用により鼻汁を粘稠にして排泄を妨げるおそれもあるため、急性細菌性副鼻腔炎では積極的には用いない。
副鼻腔の開口部
・中鼻道:上顎洞、前頭洞、前篩骨洞 ・上鼻道:後篩骨洞 ・蝶篩陥凹:蝶形骨洞 ・下鼻道:鼻涙管(副鼻腔ではない) 中鼻道に膿がみられれば上顎洞・前頭洞・前篩骨洞の炎症を、上鼻道や嗅裂に膿がみられれば後部副鼻腔の炎症を考える。
罹患洞と疼痛部位
・上顎洞:頬部痛、上歯の痛み ・前頭洞:前額部痛 ・篩骨洞:眼の奥・内眼角部の痛み ・蝶形骨洞:頭頂部・後頭部痛、頭の奥の痛み
急性副鼻腔炎
・定義:急性に発症し、発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症。鼻閉、鼻漏、後鼻漏、咳嗽などの呼吸器症状を呈し、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う。 ・経過:多くはウイルス性上気道炎に続発し、そこに細菌感染が加わる。 ・起炎菌:肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス。 ・診断:鼻内視鏡での中鼻道の膿性鼻汁、単純X線やCTでの洞内の液面形成・粘膜肥厚。 ・治療:軽症では抗菌薬を使わず経過観察することもあるが、中等症以上や症状が遷延・再増悪する場合は抗菌薬を投与する。第一選択はアモキシシリン。鼻処置(鼻汁吸引)、ネブライザー療法、消炎酵素薬や去痰薬を併用する。 ・合併症:眼窩内合併症(眼窩蜂窩織炎、眼窩骨膜下膿瘍)や頭蓋内合併症(髄膜炎、脳膿瘍)を生じることがあり、眼瞼腫脹、眼球運動障害、視力低下、意識障害を伴う場合は緊急の画像検査と入院治療を要する。
慢性副鼻腔炎との違い
症状が12週以上続くものを慢性副鼻腔炎とする。多くは両側性で、鼻茸を伴うことがある。治療はマクロライド少量長期療法や内視鏡下鼻副鼻腔手術である。好酸球性副鼻腔炎は嗅覚障害や気管支喘息の合併が多く、ステロイドが有効である。
POINT
・上気道炎に続発、一側性の膿性鼻漏、頬部痛・前額部痛 → 急性細菌性副鼻腔炎 ・上顎洞・前頭洞・前篩骨洞は中鼻道に開口する ・主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスで、治療の第一選択はアモキシシリン ・小児と接する職業では耐性菌(PRSP、BLNAR)も念頭に置く ・鼻漏の性状:水様性(アレルギー性鼻炎)、膿性(急性副鼻腔炎)、血性・一側性(副鼻腔腫瘍を疑う)
