StudyMed医師国家試験

嗄声と飲み込みにくさが同時に来たら―喉頭の“裏側”に潜む下咽頭癌

第109回医師国家試験 D問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第28問

65歳の男性。嗄声と嚥下困難とを主訴に来院した。3か月前から嗄声が出現し,1か月前から固形物を飲み込みにくくなった。病変部の生検にて癌の病理診断を得たため,化学放射線療法を行った後に手術療法を行った。背側から展開した摘出標本の写真を別に示す。  考えられる疾患はどれか。

第109回 D問題 第28問の問題画像
  1. a.上咽頭癌
  2. b.中咽頭癌
  3. c.下咽頭癌
  4. d.顎下腺癌
  5. e.甲状腺癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、摘出標本の写真から腫瘍がどこにあるのかを解剖学的に読み解く問題だ。ポイントは2つ。嗄声と嚥下困難という症状の組み合わせが示す場所と、標本のどこに腫瘍が乗っているかだね。まず症状から考えてみよう。
医学生医学生
嗄声なので、最初は喉頭癌かなと思いました。でも選択肢に喉頭癌がないんですよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。嗄声の原因は大きく、声帯そのものの病変と、反回神経麻痺に分けられる。そこに固形物が通りにくいという通過障害が加わっている。声を出す喉頭と、食べ物の通り道である食道入口部、その両方に接している場所はどこだろう。
医学生医学生
喉頭の後ろで、食道につながる部分……下咽頭ですか。
ドクタードクター
その通り。下咽頭は喉頭の後方から外側をぐるりと取り囲んで、輪状軟骨下縁の高さで頸部食道に移行する。だから腫瘍が大きくなると、通過障害を起こすと同時に、喉頭へ浸潤したり反回神経を巻き込んだりして声も嗄れるんだ。
医学生医学生
解剖実習で咽頭を後ろから切り開いたとき、喉頭の両脇に深いくぼみがあったのを思い出しました。あれが梨状陥凹ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。今回の標本も、まさに背側から咽頭を切り開いた状態だ。中央上方に喉頭蓋が立ち上がっていて、その後外側に広がる粘膜面に、中心が壊死して潰瘍になった隆起性の腫瘍がある。喉頭蓋より下で、喉頭の後ろ外側、つまり梨状陥凹の領域にあたる。
医学生医学生
なるほど、喉頭蓋が目印になるんですね。では中咽頭癌とはどう区別すればいいですか。
ドクタードクター
中咽頭は軟口蓋の高さから喉頭蓋谷、つまり舌根と喉頭蓋の間のくぼみまで。口蓋扁桃や舌根、軟口蓋が含まれる。今回の腫瘍は喉頭蓋より尾側にあるから、中咽頭とは位置が合わない。中咽頭癌は喫煙・飲酒に加えてHPVの関与が知られていて、咽頭痛や頸部リンパ節腫脹で見つかることが多いね。
医学生医学生
上咽頭癌はEBウイルスと関係があると講義で習いました。
ドクタードクター
そう。上咽頭は鼻腔の奥、頭蓋底の直下にあって、喉頭からは遠く離れている。耳管が塞がって片側の滲出性中耳炎になったり、鼻出血や脳神経症状で見つかったりする。放射線感受性が高いので、化学放射線療法が中心で、喉頭を含めて摘出する手術は主体にならない。
医学生医学生
甲状腺癌も反回神経麻痺で嗄声を起こしますよね。食道に浸潤すれば嚥下困難も出そうです。
ドクタードクター
鋭いね。症状だけなら甲状腺癌も候補に残る。でも甲状腺は喉頭より下で気管の前から側方にある臓器で、咽頭の粘膜面に腫瘍をつくるものではない。顎下腺も下顎骨の内側にある唾液腺だから、この標本の粘膜面には登場しない。だから症状と標本の両方を合わせると、下咽頭癌に絞り込めるんだ。
医学生医学生
症状で場所の見当をつけて、標本で解剖学的に確定する、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。下咽頭癌の特徴も整理しておこう。高齢男性に多く、危険因子は飲酒と喫煙。亜部位では梨状陥凹癌が最も多く、組織型はほとんどが扁平上皮癌だ。早期は咽頭違和感程度で気づかれにくく、頸部リンパ節転移で見つかることも多い。頭頸部癌の中でも予後は不良な部類だね。
医学生医学生
臨床実習で耳鼻科を回ったとき、下咽頭癌の患者さんに胃カメラもしていて不思議に思っていました。
ドクタードクター
それは重複癌の検索だよ。飲酒・喫煙という共通の危険因子があるから、食道癌を合併しやすい。下咽頭癌を見たら上部消化管内視鏡で食道を必ず調べる。ちなみに輪状後部癌は女性にもみられ、鉄欠乏性貧血を伴うPlummer-Vinson症候群との関連が知られている。
医学生医学生
今回は化学放射線療法のあとに手術をしていますが、どんな手術になるんですか。
ドクタードクター
進行例では咽頭喉頭頸部食道摘出術、つまり喉頭も含めて摘出し、遊離空腸などで再建して、頸部郭清を組み合わせることが多い。喉頭を失うと声が出なくなるから、食道発声や電気喉頭、シャント発声といった代用音声のリハビリが欠かせない。命を救う治療と、声という生活の質の両方を考える必要があるんだ。

まとめ

嗄声と嚥下困難が同時にみられる高齢男性では、喉頭の後外側を取り囲み食道に移行する下咽頭の癌を第一に考えます。背側から開いた摘出標本では、喉頭蓋を目印に、その尾側・後外側の梨状陥凹領域に潰瘍を伴う腫瘍があることから下咽頭癌と判断でき、上咽頭・中咽頭・顎下腺・甲状腺は部位が一致しません。下咽頭癌は飲酒・喫煙と関連が深く、梨状陥凹癌が最多で、ほとんどが扁平上皮癌であり、食道癌との重複に注意して内視鏡検査を行います。進行例では咽頭喉頭頸部食道摘出術が行われ発声機能を失うため、代用音声によるリハビリテーションも重要です。咽頭・喉頭の立体的な位置関係を理解しておくことが、症状から病変部位を推定する力の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・65歳の男性:頭頸部癌(特に喉頭癌・下咽頭癌)の好発年齢・性別である ・3か月前から嗄声、1か月前から固形物の嚥下困難:喉頭の障害と咽頭の通過障害が同時にある ・生検で癌と確定し、化学放射線療法の後に手術を施行 ・摘出標本を背側(後方)から切り開いた写真:中央上方に喉頭蓋が立ち上がり、その後方〜側方に広がる粘膜面(本来は喉頭の後ろ側で食道につながる部分)に、中心部が壊死・潰瘍化した隆起性の腫瘍を認める

診断へのプロセス

嗄声を来す病態には、声帯そのものの病変(声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯、喉頭癌など)と、反回神経麻痺(甲状腺癌、下咽頭癌、食道癌、肺癌、胸部大動脈瘤などによる)がある。嚥下困難は咽頭・食道の腫瘍による通過障害や、神経・筋の障害で起こる。嗄声と嚥下困難がそろう場合、喉頭と食道入口部の双方に隣接する下咽頭の病変が第一に考えられる。 標本では、喉頭蓋が正中にあり、背側から見てその後方・外側の粘膜が展開されている。喉頭の後ろ側から外側を取り囲み、下方で食道に移行するこの部分が下咽頭であり、腫瘍は喉頭の外側後方、梨状陥凹の領域に位置している。したがって下咽頭癌と診断できる。嗄声は、腫瘍が喉頭(披裂部や声門)へ進展したことや、反回神経への浸潤によって声帯の運動が障害されたために生じたと考えられる。

設問の考え方

摘出標本に含まれている構造(喉頭蓋を含む喉頭と、その背側の咽頭粘膜)を読み取り、腫瘍がどの部位に存在するかを解剖学的に判断する問題である。上咽頭・中咽頭・顎下腺・甲状腺はいずれもこの標本上の腫瘍の位置とは一致しない。

選択肢考察

  1. ×a.  上咽頭癌

    上咽頭(鼻咽腔)は鼻腔の後方、頭蓋底の直下に位置し、喉頭から大きく離れている。喉頭を中心とした本標本には含まれない。上咽頭癌はEBウイルスとの関連が深く、耳管閉塞による滲出性中耳炎(耳閉感)、鼻出血、頸部リンパ節腫脹、頭蓋底浸潤による脳神経症状で発見されることが多い。放射線感受性が高く、化学放射線療法が治療の中心で、手術が主体とはならない。

  2. ×b.  中咽頭癌

    中咽頭は口蓋垂の高さから喉頭蓋谷(舌根と喉頭蓋の間のくぼみ)までの範囲で、口蓋扁桃、舌根、軟口蓋、後壁を含む。本標本の腫瘍は喉頭蓋より尾側で喉頭の後外側にあり、中咽頭の位置とは異なる。中咽頭癌は喫煙・飲酒のほか、ヒトパピローマウイルス(HPV)の関与が知られ、咽頭痛や頸部リンパ節腫脹で発見されることが多い。

  3. ○c.  下咽頭癌

    下咽頭は喉頭の後方から外側を取り囲み、輪状軟骨下縁の高さで食道につながる部位で、梨状陥凹、輪状後部、後壁の3亜部位に分けられる。本標本では喉頭蓋の後外側、梨状陥凹の領域に潰瘍を伴う腫瘍があり、下咽頭癌と診断できる。高齢男性、飲酒・喫煙歴と関連が深く、嚥下困難(通過障害)に加え、喉頭への浸潤や反回神経麻痺による嗄声を来すことは本例の症状と合致する。進行例が多く、化学放射線療法や、咽頭喉頭頸部食道摘出術などの手術療法が行われる。

  4. ×d.  顎下腺癌

    顎下腺は下顎骨の内側、顎下三角に位置する唾液腺で、咽頭・喉頭の粘膜面には存在しない。本標本には含まれない。顎下腺癌は顎下部の硬い腫瘤として触知され、嗄声や嚥下困難を主訴とすることは少ない。組織型は腺様嚢胞癌などが多い。

  5. ×e.  甲状腺癌

    甲状腺は喉頭より尾側、気管の前方から側方に位置する臓器で、咽頭の粘膜面に腫瘍を形成する臓器ではない。甲状腺癌も反回神経浸潤による嗄声や、食道・気管浸潤による嚥下困難・呼吸困難を来しうるが、本標本の腫瘍は喉頭蓋の後方の咽頭粘膜面にあり、甲状腺癌の部位とは一致しない。

咽頭の区分

・上咽頭:頭蓋底から軟口蓋の高さまで。耳管咽頭口やアデノイド(咽頭扁桃)がある。 ・中咽頭:軟口蓋の高さから喉頭蓋谷の底部(舌骨上縁の高さ)まで。口蓋扁桃、舌根、軟口蓋、後壁からなる。 ・下咽頭:舌骨上縁の高さから輪状軟骨下縁まで。喉頭の後方・外側に位置し、梨状陥凹、輪状後部、後壁の3亜部位に分けられ、下方で頸部食道に移行する。

下咽頭癌

・高齢男性に多く、危険因子は飲酒と喫煙である。ただし輪状後部癌は女性にもみられ、鉄欠乏性貧血を伴うPlummer-Vinson症候群との関連が知られている。 ・亜部位別では梨状陥凹癌が最も多い。 ・組織型はほとんどが扁平上皮癌である。 ・早期には無症状または咽頭違和感程度で、進行すると嚥下時痛、嚥下困難、耳への放散痛、嗄声(喉頭浸潤・反回神経麻痺)、頸部リンパ節腫脹が出現する。頸部リンパ節転移で発見されることも多く、予後は頭頸部癌の中でも不良である。 ・食道癌などの重複癌が多く、上部消化管内視鏡検査で食道の検索を行う。 ・治療:早期例では経口的切除術や放射線療法、進行例では化学放射線療法や、咽頭喉頭頸部食道摘出術(喉頭全摘を伴い、遊離空腸などで再建する)と頸部郭清術を組み合わせる。喉頭を摘出すると発声機能が失われるため、代用音声(食道発声、電気喉頭、シャント発声)でのリハビリテーションが必要となる。

嗄声の原因の整理

・声帯の病変:急性喉頭炎、声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯(Reinke浮腫)、喉頭癌 ・反回神経麻痺:甲状腺癌、下咽頭癌、食道癌、肺癌、縦隔腫瘍、胸部大動脈瘤、甲状腺・心臓大血管手術後など。左反回神経は大動脈弓を回るため、胸部病変では左側の麻痺が多い。

POINT

・嗄声+嚥下困難の高齢男性 → 喉頭の後外側に位置する下咽頭の癌を考える ・下咽頭は梨状陥凹、輪状後部、後壁に分けられ、梨状陥凹癌が最も多い ・下咽頭癌の危険因子は飲酒・喫煙で、食道癌との重複に注意する。輪状後部癌はPlummer-Vinson症候群と関連する ・進行例では咽頭喉頭頸部食道摘出術が行われ、発声機能が失われる ・咽頭・喉頭の立体的な位置関係(喉頭蓋の後方・外側に下咽頭がある)を理解しておく

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。