StudyMed医師国家試験

眼底が見えない白内障―「手術すれば見える」を保証するのは網膜電図

第109回医師国家試験 D問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第26問

76歳の女性。右眼の視力低下を訴えて来院した。1か月前から右眼が見えなくなり回復しないため受診した。右眼の視力は手動弁。右眼の散瞳薬点眼後の前眼部写真を別に示す。眼底は観察が不能であった。  行うべき検査はどれか。

第109回 D問題 第26問の問題画像
  1. a.調節検査
  2. b.屈折検査
  3. c.角膜知覚検査
  4. d.網膜電図〈ERG〉
  5. e.光干渉断層計〈OCT〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢者の高度な視力低下から白内障を見抜き、そのうえで「手術の前に何を確かめるべきか」を考える問題だ。カギは、眼底が観察できないという一文の意味。まずは前眼部写真をどう読むかから始めよう。
医学生医学生
散瞳した瞳孔の中が全体に白く濁っています。高齢ですし、白内障がかなり進んだ状態でしょうか。
ドクタードクター
その通り。瞳孔領の水晶体が全体に白濁していて、進行した加齢白内障、いわゆる成熟白内障と考えられる。視力が手動弁、つまり眼の前で手を振るとその動きがわかる程度まで落ちているのも、混濁の強さと合っているね。
医学生医学生
白い瞳孔というと、小児科の講義で習った白色瞳孔、網膜芽細胞腫をまず思い浮かべてしまいました。
ドクタードクター
乳幼児の白色瞳孔なら網膜芽細胞腫やCoats病、未熟児網膜症などを必ず考える。ただ76歳で、散瞳下に水晶体そのものが白く濁っているなら、まずは白内障だ。年齢という情報で鑑別の重みが大きく変わる好例だね。では、なぜ眼底が見えないのだろう。
医学生医学生
水晶体が濁っていて、検眼鏡の光が網膜まで届かず、反射も返ってこないからですね。
ドクタードクター
そう。角膜、前房、水晶体、硝子体といった光の通り道を中間透光体と呼ぶけれど、そこが濁ると網膜を直接見られなくなる。白内障自体は手術で濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを入れれば視力回復が期待できる。でも、ここに落とし穴がある。
医学生医学生
網膜や視神経にも病気が隠れていたら、手術しても見えるようにならない、ということですか。
ドクタードクター
まさにそこ。網膜剝離や加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障などが潜んでいれば、手術後も視力は戻らない。だから眼底が見えない眼では、光学的に網膜を「見る」のではなく、網膜が「働いているか」を確かめる検査が必要になる。それが網膜電図、ERGだ。
医学生医学生
ERGは生理学の講義で波形だけ見た覚えがあります。a波とb波がありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。光刺激に対する網膜の電位変化を角膜上の電極で記録する他覚的検査で、a波は視細胞、b波は主に双極細胞やMüller細胞に由来する。強い閃光を使えば濁った水晶体越しでも網膜全体に刺激が届くので、網膜が機能しているかを判定でき、術後の見え方を予測する手がかりになる。
医学生医学生
網膜を断層で見るならOCTのほうが詳しいと思ったのですが、だめなんですか。
ドクタードクター
良い疑問だ。OCTは近赤外光を当てて反射光を解析し、網膜の断層像を描く検査で、黄斑疾患や緑内障の評価には欠かせない。でも光学的な検査だから、光が網膜まで届かない高度の白内障ではきれいな画像が得られないんだ。屈折検査も同じ理由で、眼底からの反射光が返ってこないため測定しにくいし、そもそも眼鏡で直せる問題を調べる検査だから、この場面の疑問には答えられない。
医学生医学生
調節検査はどうでしょう。水晶体の検査なので関係がありそうに思えました。
ドクタードクター
調節検査は近くにピントを合わせる力を測るもので、視標を見て答える自覚的検査だから手動弁では行えない。76歳なら調節力はほぼ失われているしね。角膜知覚検査は角膜の三叉神経支配の知覚をみる検査で、ヘルペス性角膜炎や糖尿病の評価に使うものだから、今回の目的とは関係がない。
医学生医学生
手術で治る部分と、手術しても残る部分を分けて評価するためにERGを行う、という理解でいいですか。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、ERGは網膜全体の反応をみる検査なので、黄斑部だけの小さな病変は拾いにくいという限界がある。そこで形の異常、たとえば網膜剝離や硝子体出血を探すには超音波Bモード検査を併用するし、対光反射で相対的瞳孔求心路障害の有無をみることも視神経や網膜の大まかな評価になる。
医学生医学生
臨床実習で眼科を回ったとき、白内障の術前に超音波で眼の中を見ていた先生がいました。あれも同じ目的だったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。ERGは網膜色素変性で振幅が著明に低下したり、網膜中心動脈閉塞症でb波がa波より小さくなる陰性型を示したりと、ほかの疾患の診断でも出番が多い。手術を勧める前に「取り除けば見えるのか」を確認する姿勢は、患者さんへの説明の質にも直結するよ。

まとめ

高齢者で片眼の視力が手動弁まで低下し、散瞳下に水晶体全体の白濁を認めれば成熟白内障を考えますが、眼底が透見できないため網膜や視神経の病変の有無が分かりません。手術後に視力が回復するかを予測するには、強い閃光で網膜全体の電気的反応を記録する網膜電図(ERG)が有用で、光を通さなくても網膜機能を他覚的に評価できます。OCTや屈折検査は光学的検査のため高度の中間透光体混濁では評価が難しく、調節検査などの自覚的検査は手動弁では行えません。形態的な異常の検出には超音波Bモード検査を併用し、ERGは黄斑に限局した病変を拾いにくい点も押さえておきましょう。「治せる混濁」と「手術で取り除けない網膜の問題」を分けて評価する考え方は、術前評価と患者説明の基本になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・76歳の女性、右眼のみの視力低下 ・1か月前から見えにくい状態が続いている ・右眼視力は手動弁(眼前で手を動かすとその動きがわかる程度)と高度に低下 ・散瞳後の前眼部写真で、瞳孔領の水晶体が全体に白く混濁している ・眼底は観察不能

診断へのプロセス

高齢者で片眼の視力が高度に低下し、散瞳下で水晶体が全体に白濁していることから、進行した加齢白内障(成熟白内障)と診断できる。眼底が見えないのは、水晶体という中間透光体(角膜・前房・水晶体・硝子体など、光が網膜に達するまでに通過する組織)の混濁で光が遮られるためである。瞳孔が白く見える所見(白色瞳孔)は乳幼児なら網膜芽細胞腫、Coats病、未熟児網膜症、第一次硝子体過形成遺残などを考えるが、本例は高齢であり、これらは考えにくい。

設問の考え方

白内障は手術(超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術)で混濁を取り除けば視力回復が期待できる。しかし視力低下の原因が白内障だけとは限らず、網膜剝離、加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障、視神経疾患などが隠れていれば、手術後も視力は戻らない。本例のように眼底が透見できない場合は検眼鏡で網膜を確認できないため、光を通さなくても網膜の状態を評価できる検査を行い、術後の視機能を予測する必要がある。その代表が、強い閃光刺激に対する網膜の電気的反応を記録する網膜電図(ERG)である。なお選択肢にはないが、網膜剝離や硝子体出血などの形態的な異常の有無を調べるには超音波Bモード検査も併せて行う。

選択肢考察

  1. ×a.  調節検査

    調節検査は、近くを見るときに水晶体の厚みを変えてピントを合わせる能力(調節力)を測る検査で、近点を測定する方法などがある。老視や調節麻痺・調節痙攣の評価に用いる。視標を見て判断することが前提の自覚的検査であり、手動弁の眼では施行できず、また網膜機能の評価にもならない。76歳ではそもそも調節力はほぼ失われている。

  2. ×b.  屈折検査

    屈折検査は近視・遠視・乱視といった屈折異常の程度を調べる検査で、オートレフラクトメータや検影法などを用いる。高度の水晶体混濁では眼底からの反射光が得られず測定できない。また屈折異常は眼鏡で矯正可能な問題であり、手術後に網膜が機能するかという本例の課題には答えられない。

  3. ×c.  角膜知覚検査

    角膜知覚検査は、細い糸(Cochet-Bonnet角膜知覚計など)で角膜に触れて三叉神経支配の知覚を評価する検査である。単純ヘルペス角膜炎、糖尿病、三叉神経障害、コンタクトレンズの長期装用などで低下する。本例の白内障や網膜機能の評価とは関係がない。

  4. ○d.  網膜電図〈ERG〉

    網膜電図(electroretinogram:ERG)は、光刺激に対して網膜の視細胞や双極細胞などが生じる電位変化を、角膜上に置いた電極で記録する他覚的な網膜機能検査である。主な波形は視細胞由来の陰性a波と、双極細胞・Müller細胞由来の陽性b波である。強い閃光を用いれば、混濁した水晶体を通しても網膜全体に刺激が届くため、眼底が透見できない白内障でも網膜が機能しているかを判定でき、手術後の視力回復を予測するのに役立つ。網膜全体の反応をみる検査なので、黄斑部に限局した病変の検出には限界がある点も知っておくとよい。

  5. ×e.  光干渉断層計〈OCT〉

    光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は、近赤外光を眼底に当て、その反射光を参照光と干渉させて解析し、網膜の断層像を高解像度で描出する検査である。黄斑疾患や緑内障の評価に不可欠だが、光学的な検査であるため、光が網膜まで届かない高度の白内障では良好な画像が得られない。

白内障の概要

・水晶体が混濁した状態で、加齢によるものが最も多い。その他、糖尿病、ステロイド使用、外傷、アトピー性皮膚炎、ぶどう膜炎、先天性(風疹など)が原因となる。 ・混濁の部位により皮質白内障、核白内障、後嚢下白内障に分けられる。核白内障では屈折が近視側へずれる(核性近視)。 ・進行すると水晶体全体が混濁した成熟白内障となり、さらに皮質が液化して核が沈下した過熟白内障となる。過熟白内障では水晶体起因性の緑内障やぶどう膜炎を来すことがある。

眼底が透見できない場合の術前評価

・網膜電図(ERG):網膜全体の機能を他覚的に評価する。 ・超音波Bモード検査:網膜剝離、硝子体出血、眼内腫瘍などの形態的異常を検出する。 ・光覚・色覚の確認、対光反射(相対的瞳孔求心路障害〈RAPD〉の有無):視神経や網膜の機能の大まかな指標となる。 ・視覚誘発電位(VEP):網膜から視覚野までの伝導路の機能を評価する。

ERGの主な適応

網膜色素変性(初期から振幅が著明に低下、進行例では平坦化)、網膜中心動脈閉塞症(b波が低下し、a波より小さくなる陰性型)、先天停在性夜盲、中間透光体混濁例の網膜機能評価など。

視力の表記

0.01未満の視力は、指数弁(眼前の指の数がわかる)、手動弁(手の動きがわかる)、光覚弁(明暗がわかる)、光覚なしの順に低下する。

POINT

・高齢者、片眼の高度視力低下、散瞳下で水晶体の白濁 → 成熟白内障 ・眼底が透見できない場合、網膜機能はERGで評価し、手術後の視力回復を予測する ・形態的な異常の検出には超音波Bモード検査が有用である ・OCTや屈折検査は光学的検査のため、高度の中間透光体混濁では測定できない ・調節検査、屈折検査などの自覚的検査は手動弁では施行困難である

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。