健診で3年続く尿潜血―補体正常の糸球体性血尿が指し示す「日本で最も多い腎炎」
第109回医師国家試験 A問題 第39問
国試問題にチャレンジ
48歳の男性。健康診断の尿検査で異常を指摘されて来院した。3年前から尿潜血を指摘されていた。2年前から尿蛋白も陽性になったがそのままにしていた。今回は3年連続して尿検査で異常を指摘されたため心配になり受診した。脈拍76/分,整。血圧150/90 mmHg。尿所見:蛋白2+,蛋白定量1.2 g/日,糖(-),潜血3+,沈渣に赤血球10~29/1視野,顆粒円柱1/数視野,赤血球円柱1/全視野。血液生化学所見:総蛋白7.7 g/dL,アルブミン4.2 g/dL,IgG 1,510 mg/dL(基準960~1,960),IgA 390 mg/dL(基準110~410),尿素窒素19 mg/dL,クレアチニン1.0 mg/dL,尿酸6.0 mg/dL,血糖87 mg/dL,HbA1c 5.6%(基準4.6~6.2),総コレステロール235 mg/dL,CH50 35 U/mL(基準30~40)。腎生検のPAS染色標本(A)と蛍光抗体IgA染色標本(B)とを別に示す。 この疾患について正しいのはどれか。

- a.Ⅳ型コラーゲンの遺伝子変異による。
- b.我が国の慢性腎炎症候群の中で最も多い。
- c.肉眼的血尿で発症したものは予後が悪い。
- d.ネフローゼ症候群をきたすことが多い。
- e.我が国の透析導入の原因として最も多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
持続する糸球体性血尿(赤血球円柱)に中等度の蛋白尿を伴い、補体が正常な成人では、まずIgA腎症を考え、腎生検の蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA沈着を確認して診断します。IgA腎症は我が国の慢性糸球体腎炎で最も多く、健診や学校検尿で無症候性血尿・蛋白尿として見つかることが多い一方、ネフローゼ症候群を呈するのは少数です。上気道炎とほぼ同時の肉眼的血尿は特徴的ですが予後とは直接関係せず、予後不良因子は持続する蛋白尿、高血圧、腎機能低下、組織の硬化性病変です。Ⅳ型コラーゲン遺伝子異常はAlport症候群、透析導入原因の1位は糖尿病性腎症と整理しておきましょう。疾患の疫学と予後因子を押さえることは、健診異常への適切な対応と腎不全予防の土台になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
48歳の男性。3年前から尿潜血、2年前から尿蛋白を指摘されており、年単位で続く無症候性の血尿・蛋白尿である。 ・血圧150/90 mmHgと高血圧がある。糸球体疾患による腎性高血圧を考える。 ・尿蛋白1.2 g/日、潜血3+、沈渣で赤血球10~29/1視野(5/1視野以上で血尿と判断)、赤血球円柱と顆粒円柱を認める。赤血球円柱は、赤血球が糸球体から尿細管に漏れ出て円柱に取り込まれたものであり、血尿の由来が糸球体であることを強く示す。したがって膀胱癌や尿路結石などの下部尿路からの出血ではなく、糸球体腎炎を考える。 ・アルブミン4.2 g/dLで低アルブミン血症はなく、蛋白尿も3.5 g/日未満であり、ネフローゼ症候群ではない。 ・尿素窒素19 mg/dL、クレアチニン1.0 mg/dLで腎機能はおおむね保たれている。 ・血糖87 mg/dL、HbA1c 5.6%で糖尿病はなく、糖尿病性腎症は否定的である。 ・CH50は正常で、補体が低下する急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎は考えにくい。 ・血清IgA 390 mg/dLは基準範囲内だが上限に近い。IgA腎症で血清IgAが高値(315 mg/dL以上)を示すのは半数程度であり、正常でも否定はできない。
診断のプロセス
慢性に経過する糸球体性血尿に中等度の蛋白尿を伴う成人であり、補体正常、糖尿病なしという条件から、原発性の慢性糸球体腎炎、なかでも最も頻度の高いIgA腎症をまず考える。腎生検のPAS染色(A)ではメサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の増加が、蛍光抗体法(B)ではメサンギウム領域にIgAの顆粒状沈着がみられる。蛍光抗体法でメサンギウムへのIgA優位の沈着を証明することが確定診断の決め手であり、本例はIgA腎症と診断される。
設問への考え方
本問はIgA腎症の疫学・臨床像・予後に関する知識を問うている。「日本の慢性糸球体腎炎で最も多い」「ネフローゼをきたすことは少ない」「予後は蛋白尿・高血圧・腎機能・組織所見で決まる」「透析導入原因の1位は糖尿病性腎症」を整理しておけば解ける。
選択肢考察
- ×a. Ⅳ型コラーゲンの遺伝子変異による。
Ⅳ型コラーゲン(糸球体基底膜の主要構成成分)の遺伝子変異で起こるのはAlport症候群である。多くはX連鎖性(COL4A5遺伝子)で、小児期からの持続性血尿で始まり、進行性の腎障害、感音難聴、眼病変(円錐水晶体など)を伴う。電子顕微鏡で基底膜の不規則な肥厚・菲薄化・網状化(層状化)がみられる。菲薄基底膜病もⅣ型コラーゲン遺伝子の異常と関連する。IgA腎症は、糖鎖異常を有するIgA1とそれに対する自己抗体からなる免疫複合体がメサンギウムに沈着して起こる免疫複合体性腎炎であり、単一遺伝子の変異による疾患ではない。
- ○b. 我が国の慢性腎炎症候群の中で最も多い。
IgA腎症は日本を含む東アジアで頻度が高く、我が国では原発性慢性糸球体腎炎の30~40%以上を占め、最も多い。学校検尿や職場の健康診断が普及している日本では、本例のように無症候性の血尿・蛋白尿として発見されることが多い。若年成人を中心に幅広い年齢で発症する。
- ×c. 肉眼的血尿で発症したものは予後が悪い。
IgA腎症では、上気道炎(咽頭炎・扁桃炎)の直後、ほぼ同時期に肉眼的血尿が出現することがある。しかし肉眼的血尿の有無や血尿の程度は腎予後とは直接関連せず、肉眼的血尿で発症した例の予後が悪いとはいえない(むしろ早期に発見されやすい)。腎予後不良と関連するのは、持続する蛋白尿(おおむね0.5~1 g/日以上)、高血圧、診断時の腎機能低下、および腎生検での糸球体硬化・半月体・間質線維化などの組織所見である。
- ×d. ネフローゼ症候群をきたすことが多い。
IgA腎症の多くは血尿を主体とし、蛋白尿は軽度~中等度にとどまる。ネフローゼ症候群(尿蛋白3.5 g/日以上かつ血清アルブミン3.0 g/dL以下)を呈する例は少数である。成人のネフローゼ症候群の原因として多いのは、一次性では微小変化型ネフローゼ症候群と膜性腎症、二次性では糖尿病性腎症などである。本例も血清アルブミン4.2 g/dL、尿蛋白1.2 g/日でネフローゼの基準は満たさない。
- ×e. 我が国の透析導入の原因として最も多い。
我が国の新規透析導入の原疾患で最も多いのは糖尿病性腎症(糖尿病関連腎臓病)で、約4割を占める。かつては慢性糸球体腎炎が1位であったが、1998年に糖尿病性腎症が上回った。さらに近年は高血圧を背景とする腎硬化症が増加し、慢性糸球体腎炎を上回って第2位となっている。IgA腎症は慢性糸球体腎炎の中では透析導入の主要な原因であるが、全体の1位ではない。
IgA腎症の概要
・病態:糖鎖(ヒンジ部のO-結合型糖鎖)のガラクトースが欠損したIgA1が増加し、これに対する自己抗体(IgGなど)と免疫複合体を形成してメサンギウム領域に沈着する。補体の第二経路・レクチン経路が活性化され、メサンギウム細胞の増殖と基質の増加が起こる。粘膜免疫(扁桃など)の関与が想定されている。 ・臨床像:無症候性血尿・蛋白尿で発見されることが最も多い。上気道炎に伴う肉眼的血尿(感染とほぼ同時に出現する点が、感染後1~2週間の潜伏期をおく溶連菌感染後急性糸球体腎炎との鑑別点)もみられる。血清補体は正常で、血清IgAは約半数で高値となる。 ・診断:腎生検で、光顕ではメサンギウム増殖性糸球体腎炎、蛍光抗体法ではメサンギウム領域へのIgA優位の顆粒状沈着(C3も共沈着することが多い)、電顕ではメサンギウム領域の高電子密度沈着物を認める。IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)の腎炎や肝硬変に伴う二次性のIgA沈着との鑑別が必要である。 ・経過:決して予後良好な疾患ではなく、診断後20年でおよそ3~4割が末期腎不全に至るとされる。 ・治療:高血圧や蛋白尿を伴う例ではレニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬・ARB)で降圧と蛋白尿減少を図る。蛋白尿が多い例や活動性病変がある例では副腎皮質ステロイドを用い、我が国では口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用(扁摘パルス療法)も広く行われている。近年はSGLT2阻害薬も腎保護目的に用いられる。
血尿の鑑別の手順
血尿をみたら、まず尿沈渣で赤血球の有無と形態を確認する。変形赤血球や赤血球円柱があれば糸球体性、均一な赤血球のみで蛋白尿がなければ尿路(腫瘍、結石、感染など)を考える。糸球体性で補体が正常かつ慢性経過ならIgA腎症が最も考えやすい。
POINT
・IgA腎症は我が国の慢性糸球体腎炎で最も多い。 ・診断の決め手は腎生検の蛍光抗体法でのメサンギウム領域へのIgA沈着。血清IgA高値は約半数で、補体は正常。 ・上気道炎と同時期の肉眼的血尿が特徴だが、予後とは関係しない。予後不良因子は蛋白尿の持続、高血圧、腎機能低下、組織の硬化性病変。 ・ネフローゼ症候群を呈することは少ない。 ・透析導入原因の1位は糖尿病性腎症、近年は腎硬化症が慢性糸球体腎炎を上回り2位。 ・Ⅳ型コラーゲン遺伝子異常はAlport症候群。
