伝染性単核球症が「普通じゃない」とき―血球減少と高フェリチンが告げるEBV関連血球貪食症候群
第109回医師国家試験 A問題 第38問
国試問題にチャレンジ
6歳の男児。けいれんのため搬入された。5日前に発熱と咽頭痛とを認め,伝染性単核球症と診断されていた。本日,早朝に全身のけいれんを認めたため救急搬送された。来院時,けいれんはなく意識は清明。体温38.5℃。脈拍120/分,整。呼吸数24/分。心音と呼吸音とに異常を認めない。肝を右季肋下に4 cm,脾を左季肋下に5 cm触知する。尿中β2-マイクログロブリン23,000 μg/L(基準230以下)。血液所見:Hb 12.1 g/dL,白血球2,200(桿状核好中球34%,分葉核好中球38%,単球3%,リンパ球15%,異型リンパ球10%),血小板6.0万,APTT 45.2秒(基準対照32.2),血清FDP 80 μg/mL(基準10以下),Dダイマー30 μg/mL(基準1.0以下)。血液生化学所見:AST 386 IU/L,ALT 341 IU/L,LD 2,594 IU/L(基準176~353),フェリチン5,000 ng/mL(基準28~280)。 治療薬はどれか。
- a.アシクロビル
- b.ビンクリスチン
- c.テトラサイクリン
- d.副腎皮質ステロイド
- e.トシリズマブ〈ヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
伝染性単核球症は通常、白血球増多・リンパ球増多・異型リンパ球増加を示しますが、経過中に白血球や血小板の減少、著明な高フェリチン血症、LD高値、凝固異常、持続する発熱と肝脾腫が加わった場合は、EBウイルス関連の血球貪食性リンパ組織球症(HLH)を第一に考えます。HLHは活性化したT細胞・NK細胞やマクロファージによる高サイトカイン状態が本体であり、治療の基本は副腎皮質ステロイドで、シクロスポリンや免疫グロブリン、重症例ではエトポシドを併用します。EBウイルスに有効な抗ウイルス薬はなく、トシリズマブも標準治療ではないこと、テトラサイクリン系は8歳未満の小児で原則避けることも併せて押さえておきましょう。「よくある病気の典型から外れた検査値」に気づく力は、重篤な合併症を早期に拾い上げる臨床の基本になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
6歳の男児で、5日前に発熱・咽頭痛があり伝染性単核球症(infectious mononucleosis:IM)と診断されている。本日けいれんで搬送され、38.5℃の発熱が続き、肝腫大(右季肋下4 cm)と脾腫(左季肋下5 cm)を認める。 検査では次の異常が目立つ。 ・汎血球減少の傾向:白血球2,200/μL、血小板6.0万/μL、Hbは12.1 g/dLと保たれているが、白血球と血小板は明らかに低い。 ・凝固線溶系の異常:APTT延長、FDP 80 μg/mL、Dダイマー30 μg/mLと著増しており、播種性血管内凝固(DIC)の合併を示唆する。 ・細胞・組織障害:AST・ALTの上昇(肝障害)、LD 2,594 IU/Lの著増。 ・高サイトカイン血症・マクロファージ活性化を反映する所見:フェリチン5,000 ng/mL、尿中β2-マイクログロブリン23,000 μg/Lと異常高値。
診断のプロセス
通常のIMでは、白血球は増加(おおむね1万~2万/μL)し、リンパ球が半数以上を占め、異型リンパ球も多数(しばしば10~20%以上)出現する。本例は白血球が減少し、リンパ球も15%と少ないうえ、血小板減少、凝固異常、著明な高フェリチン血症、LD高値を伴っており、単なるIMの経過としては説明できない。 IMの経過中に、発熱の持続・肝脾腫・血球減少・高フェリチン血症・凝固異常が加わった場合には、EBウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)関連の血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH、血球貪食症候群ともいう)を第一に考える。EBVに感染したT細胞やNK細胞が異常に活性化・増殖し、IFN-γ、TNF-α、IL-6などのサイトカインが過剰に産生される結果、マクロファージが活性化して自己の血球を貪食する病態である。けいれんは、高熱に加えて、HLHに伴う中枢神経病変(髄液細胞増多、脳症など)の可能性も考えられ、重症度の高さを示す。 確定には骨髄穿刺などで血球貪食像を確認するが、臨床所見からHLHが強く疑われる時点で速やかに治療を開始する必要がある。
設問への考え方
HLHの治療の中心は、過剰な免疫反応(高サイトカイン状態)を抑えることである。したがって免疫抑制・抗炎症作用をもつ副腎皮質ステロイドが基本となる。EBVそのものを標的とする有効な抗ウイルス薬はない点も押さえておく。
選択肢考察
- ×a. アシクロビル
単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスに用いる抗ヘルペスウイルス薬である。ウイルスのチミジンキナーゼでリン酸化されて活性化し、ウイルスDNAポリメラーゼを阻害する。EBVもヘルペスウイルス科に属するが、潜伏感染しているEBVに対してアシクロビルは臨床的な効果がほとんど期待できず、IMやEBV関連HLHの治療薬としては用いられない。そもそもHLHの病態の本体はウイルス増殖ではなく過剰な免疫反応であり、抗ウイルス薬では制御できない。
- ×b. ビンクリスチン
微小管の重合を阻害して細胞分裂を止めるビンカアルカロイド系の抗癌薬であり、急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、小児の神経芽腫やWilms腫瘍などの多剤併用化学療法に用いられる。主な副作用は末梢神経障害や便秘(麻痺性イレウス)である。HLHの重症例や難治例では抗癌薬を併用することがあるが、その中心となるのはエトポシド(トポイソメラーゼⅡ阻害薬)であり、ビンクリスチンではない。
- ×c. テトラサイクリン
細菌リボソームの30Sサブユニットに結合して蛋白合成を阻害する抗菌薬で、マイコプラズマ、クラミジア、リケッチアなどの細胞内寄生菌に有効である。EBV感染症やHLHに対する効果はない。さらに、歯の形成期にある8歳未満の小児では歯牙の着色やエナメル質形成不全、一過性の骨発育障害をきたすおそれがあるため、原則として使用を避ける薬剤である。
- ○d. 副腎皮質ステロイド
HLHでは活性化したT細胞・NK細胞やマクロファージから大量のサイトカインが放出され、これが発熱、血球減少、肝障害、凝固異常、多臓器障害を引き起こしている。副腎皮質ステロイドはサイトカイン産生とリンパ球・マクロファージの活性化を強く抑制するため、HLH治療の基本薬となる。標準的な治療プロトコール(HLH-2004など)ではデキサメタゾンが中心に据えられ、軽症~中等症のEBV関連HLHではステロイド(必要に応じてシクロスポリンや免疫グロブリン大量療法を追加)で改善することも多い。反応が乏しい重症例ではエトポシドを併用する。
- ×e. トシリズマブ〈ヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体〉
IL-6受容体に結合してIL-6のシグナルを遮断する生物学的製剤で、既存の抗リウマチ薬で効果不十分な関節リウマチ、多関節型・全身型若年性特発性関節炎、Castleman病などに用いられる。IL-6はHLHで上昇するサイトカインの一つではあるが、HLHの病態にはIFN-γやTNF-αなど多数のサイトカインが関与しており、トシリズマブはHLHの標準治療薬ではない。第一選択として選ぶ薬剤ではない。
伝染性単核球症(IM)
主にEBVの初感染により起こる。EBVは唾液を介して感染し(kissing diseaseともよばれる)、B細胞に感染する。乳幼児期の初感染は不顕性に終わることが多いが、思春期以降の初感染ではIMを発症しやすい。三主徴は発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹で、肝脾腫や肝機能障害も高頻度にみられる。末梢血では白血球増多とリンパ球増多、異型リンパ球(EBV感染B細胞に反応して増えた細胞傷害性T細胞)の出現が特徴である。アンピシリンやアモキシシリンの投与で皮疹が出やすい。治療は対症療法が基本で、脾破裂を防ぐため急性期には激しい運動を避ける。 合併症には、HLH、重症肝障害、DIC、脾破裂、上気道閉塞、神経合併症(脳炎・髄膜炎、Guillain-Barré症候群、顔面神経麻痺など)がある。EBVは長期的には慢性活動性EBV感染症、移植後リンパ増殖性疾患、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫、上咽頭癌などとも関連するが、IMの急性期に合併して問題となる代表がHLHである。
血球貪食性リンパ組織球症(HLH)
・一次性(家族性):パーフォリンなど細胞傷害性顆粒の機能に関わる遺伝子異常による。乳幼児期に発症することが多い。 ・二次性:感染症(特にEBV)、悪性腫瘍(特にリンパ腫)、自己免疫疾患(全身型若年性特発性関節炎や成人Still病などに伴うものはマクロファージ活性化症候群とよばれる)などに続発する。 診断基準(HLH-2004)の項目は、①発熱、②脾腫、③2系統以上の血球減少、④高トリグリセリド血症または低フィブリノゲン血症、⑤骨髄・脾・リンパ節での血球貪食像、⑥NK細胞活性の低下または欠損、⑦フェリチン高値(500 ng/mL以上)、⑧可溶性IL-2受容体高値、の8項目で、このうち5項目以上を満たすか、HLHに関連する遺伝子異常があれば診断される。尿中β2-マイクログロブリンやLDの上昇も病勢を反映する。 治療は、ステロイド(デキサメタゾン)を基本とし、シクロスポリン、エトポシドを組み合わせる。免疫グロブリン大量療法が行われることもある。難治例や一次性HLH、重症のEBV関連HLHでは造血幹細胞移植が検討される。
POINT
・IMの経過中に「血球減少・肝脾腫・高フェリチン血症・LD高値・凝固異常」が加われば、EBV関連HLHを疑う。 ・通常のIMは白血球増多・リンパ球増多・異型リンパ球増加を示す。白血球減少や血小板減少は非典型的であり、合併症を考えるきっかけになる。 ・HLHの治療の基本は副腎皮質ステロイドで、シクロスポリンやエトポシドを併用する(HLH-2004プロトコール)。 ・EBVに有効な抗ウイルス薬はない。 ・テトラサイクリン系は8歳未満の小児では歯牙着色などのため原則使用しない。
