その数値は心臓を映しているか―多疾患患者で見極める心不全の「ものさし」
第108回医師国家試験 I問題 第7問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。心房細動,うっ血性心不全,脳梗塞および脂質異常症のため,アンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬,利尿薬,ワルファリン及びHMG-CoA還元酵素阻害薬を内服している。 この患者の心不全のコントロールの指標として有用でないのはどれか。
- a.SpO2
- b.体重
- c.LDLコレステロール
- d.胸部エックス線写真の心胸郭比
- e.脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
心不全のコントロール指標は、うっ血や体液量を反映するもの(体重、SpO2、胸部エックス線写真の心胸郭比やうっ血所見)と、心室への負荷を反映するBNP・NT-proBNPに大きく分けられます。体重の短期間の増加は体液貯留による増悪の早期サインであり、BNPは心房細動や腎機能低下、高齢でも高値となるため経時的変化で評価することが大切です。一方、LDLコレステロールは脂質異常症のスタチン治療の指標で、心不全の増悪や改善とは連動しません。同様に、ワルファリンはPT-INR、スタチンはLDLやCKで評価するなど、治療ごとに対応する指標があります。多疾患・多剤内服の患者では「どの検査がどの病態を映すのか」を仕分ける視点が、的確な外来管理の土台になります。
解答・解説
正解はcです
本問の患者は、心房細動、うっ血性心不全、脳梗塞(心房細動による心原性脳塞栓症が考えやすい)、脂質異常症を併せ持ち、それぞれに対して薬が処方されている。 ・ACE阻害薬:心不全(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の抑制による心保護・予後改善) ・利尿薬:心不全のうっ血(体液貯留)の改善 ・ワルファリン:心房細動に伴う血栓塞栓症(脳梗塞)の予防 ・HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン):脂質異常症 問われているのは、このうち「心不全のコントロール状態」を評価する指標として役に立たないものである。複数の疾患の治療が並行しているため、各検査がどの疾患の評価に対応するのかを整理することがポイントとなる。
心不全の病態と指標の対応
心不全は、心臓のポンプ機能が低下して必要な血液を送り出せなくなる状態である。症状は大きく二つに分けられる。 ・前方障害(低心拍出):易疲労感、四肢冷感、尿量減少など ・後方障害(うっ血):左心系では肺うっ血による呼吸困難・起坐呼吸・低酸素血症、右心系では頸静脈怒張・肝腫大・下腿浮腫など 代償機構として頻脈や心拡大・心肥大が起こり、腎血流の低下はナトリウム・水の貯留を招いて循環血液量が増え、浮腫や体重増加をきたす。したがって、外来でのコントロール指標としては、うっ血・体液量を反映するもの(体重、SpO2、胸部X線所見)と、心室への負荷を反映する血液バイオマーカー(BNPなど)が用いられる。これらはいずれも心不全の病態と直接結びついている。一方、LDLコレステロールは脂質代謝の指標であり、心不全の増悪・改善とは連動しない。
選択肢考察
- ×a. SpO2
有用な指標である。SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)はパルスオキシメータで非侵襲的に測定できる。左心不全が増悪して肺うっ血・肺水腫が生じると、肺胞でのガス交換が障害されて低酸素血症となり、SpO2が低下する。安静時や労作時のSpO2低下は心不全増悪を示すサインとなるため、コントロールの指標として用いられる。
- ×b. 体重
有用な指標である。心不全が増悪すると腎臓でのナトリウム・水の再吸収が亢進し、体内に水分が貯留して浮腫が生じる。この体液貯留は体重増加としてまず現れるため、体重は体液量を簡便に反映する指標となる。患者には毎日同じ条件で体重を測るよう指導し、短期間(数日)で2kg程度以上増えた場合には増悪を疑って受診を促すことが一般的である。利尿薬の投与量を調節する際の目安としても重要である。
- ○c. LDLコレステロール
心不全のコントロール指標としては有用でないため、これが正解である。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロールは、この患者ではスタチンで治療している脂質異常症のコントロール指標であり、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患や脳梗塞など)のリスク管理に用いられる。心不全の増悪によってうっ血や心室負荷が変化しても、LDLコレステロール値はそれに応じて変動するものではないため、心不全の状態を評価することはできない。
- ×d. 胸部エックス線写真の心胸郭比
有用な指標である。心胸郭比(cardiothoracic ratio:CTR)は、胸部X線正面像で心臓の最大横径を胸郭の最大内径で割った値で、成人では50%を超えると心拡大と判断する。心不全が増悪して心腔が拡大したり心膜液が貯留したりするとCTRが増大し、治療により改善すると縮小する。同じ写真で肺血管陰影の増強、Kerley B線、胸水などのうっ血所見も評価できるため、経時的な比較に役立つ。
- ×e. 脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉
有用な指標である。BNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)は、主に心室の心筋細胞から、心室壁の伸展(容量・圧負荷)に応じて産生・分泌されるホルモンである。心不全の重症度とよく相関し、増悪で上昇、治療による改善で低下するため、診断・重症度評価・治療効果判定・予後予測に広く用いられる。同じ前駆体から切り出されるNT-proBNPも同様に使われる。なお心房細動の合併や腎機能低下、高齢でも値は高めになるため、絶対値だけでなく同一患者での経時的な変化をみることが重要である。
心不全の外来管理で用いる主な指標
・自覚症状:労作時息切れ、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難などの有無。重症度はNYHA心機能分類(I〜IV度)で表す。 ・身体所見:体重、下腿浮腫、頸静脈怒張、肝腫大、III音(心不全で聴取されやすい過剰心音)、肺野の水泡音(coarse crackles)。 ・SpO2:肺うっ血による低酸素血症の評価。 ・胸部X線:CTR、肺血管陰影の増強(上肺野への血流再分布)、Kerley B線、胸水。 ・心エコー:左室駆出率(LVEF)、心腔の大きさ、弁膜症、下大静脈径と呼吸性変動(右房圧の推定)。 ・血液検査:BNPまたはNT-proBNP。電解質(利尿薬による低カリウム血症、ACE阻害薬による高カリウム血症)や腎機能のチェックも治療の安全管理に欠かせない。
本患者の各治療と評価指標の対応
・心不全(ACE阻害薬、利尿薬):上記の指標 ・心房細動・脳梗塞予防(ワルファリン):PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)で効果を判定する ・脂質異常症(スタチン):LDLコレステロール。副作用として肝機能障害や横紋筋融解症(CKの上昇)に注意する どの検査がどの疾患の管理に対応するのかを区別して整理しておくことが、多疾患を抱える患者の診療では重要である。
POINT
・心不全のコントロール指標は、うっ血・体液量を反映するもの(体重、SpO2、胸部X線のCTRやうっ血所見)と、心室負荷を反映するもの(BNP・NT-proBNP)である。 ・体重の短期間の増加は体液貯留による心不全増悪の早期サイン。 ・BNPは心室壁の伸展で分泌が増え、心不全の重症度・治療効果の指標となる。 ・LDLコレステロールは脂質異常症(スタチン治療)の指標であり、心不全の状態は反映しない。 ・ワルファリンの効果判定はPT-INRで行う。
