タバコを吸い始めて数日で呼吸不全―急性好酸球性肺炎の「意外な素顔」
第108回医師国家試験 I問題 第6問
国試問題にチャレンジ
急性好酸球性肺炎について正しいのはどれか。
- a.喫煙と関連しない。
- b.呼吸不全を伴わない。
- c.副腎皮質ステロイドが奏効する。
- d.アレルギー性疾患を背景に発症する。
- e.気管支肺胞洗浄液で好酸球比率は正常である。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
急性好酸球性肺炎は、アレルギー性疾患の既往のない若年者に、喫煙開始・再開や本数増加などを契機として急性に発症し、急速な低酸素血症から呼吸不全に至ることもある疾患です。発症初期は末梢血好酸球が増えていないことが多いため、気管支肺胞洗浄液で好酸球比率の著明な上昇(一般に25%以上)を確認することが診断の中心となり、ARDSなどとの鑑別が重要です。副腎皮質ステロイドが著効し、原因を避ければ再発はまれで予後は良好です。喘息合併が多く再発しやすい慢性好酸球性肺炎、寄生虫などによるLöffler症候群、EGPAやABPAと比較して整理しておくと、好酸球性肺疾患全体の理解が深まります。重症に見えても治療可能な疾患を見逃さないために、喫煙歴の「変化」を問診で聞き出す姿勢は臨床で大きな武器になります。
解答・解説
正解はcです
急性好酸球性肺炎(acute eosinophilic pneumonia:AEP)は、肺胞腔や間質に好酸球が急速に浸潤して起こる急性の肺炎である。本問では、この疾患の「誘因」「重症度」「治療反応性」「背景因子」「診断に用いる検査所見」という基本的な特徴を押さえているかが問われている。
臨床像の要点
・若年成人に多く、発熱、乾性咳嗽、呼吸困難が数日(多くは1週間以内)の経過で急速に出現する。 ・誘因として最も有名なのは喫煙で、特に「喫煙を始めて間もない時期」や「禁煙後の喫煙再開」、「喫煙本数の急な増加」が発症の引き金となる。ほかに薬剤、粉塵などの吸入曝露、感染症などが原因となりうる。 ・低酸素血症が目立ち、急性呼吸不全に至って人工呼吸管理が必要になる例もあるため、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や急性間質性肺炎との鑑別が重要となる。 ・胸部画像では両側性のすりガラス影や浸潤影、小葉間隔壁の肥厚(Kerley B線に相当)、両側胸水がみられる。
診断の考え方
発症初期には末梢血好酸球が増えていないことが多く(経過の後半に上昇することがある)、末梢血だけでは診断も除外もできない。そのため、気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL)を行い、洗浄液中の好酸球比率が著明に上昇していること(一般に25%以上が目安)を確認することが診断の中心となる。感染症(特に寄生虫・真菌)や薬剤など、好酸球増多をきたす他の原因の検索も並行して行う。
治療と予後
副腎皮質ステロイドへの反応は極めて良好で、投与後速やかに症状・画像所見が改善する。慢性好酸球性肺炎と異なり、原因(喫煙など)を避ければ再発はまれで、予後は良好である。
選択肢考察
- ×a. 喫煙と関連しない。
誤り。喫煙は急性好酸球性肺炎の代表的な誘因である。喫煙を開始して数日〜数週間以内の発症が典型で、禁煙後に喫煙を再開した場合や本数を急に増やした場合にも起こりうる。そのため問診では喫煙歴の「変化」を具体的に聞くことが診断の手がかりとなる。喫煙以外にも薬剤、粉塵・煙などの吸入、寄生虫などの感染症が原因となる。
- ×b. 呼吸不全を伴わない。
誤り。急速に進行する低酸素血症が本症の特徴であり、急性呼吸不全を呈することが多い。重症例では人工呼吸管理を要し、臨床像がARDSと似るため鑑別が問題となる。一方で治療反応性は良好なので、早期に本症を疑ってBALで診断をつけることが重要である。
- ○c. 副腎皮質ステロイドが奏効する。
正しい。急性好酸球性肺炎は副腎皮質ステロイドに対する反応が非常に良く、投与開始後おおむね数日以内に発熱・呼吸状態・画像所見が改善する。重症例ではメチルプレドニゾロンの静注から開始し、経口薬に切り替えて短期間(数週間程度)で漸減・中止することが多い。原因を回避すれば再発はまれで、長期投与や再燃が問題となりやすい慢性好酸球性肺炎とは対照的である。なお軽症例では原因除去(禁煙など)のみで自然軽快することもある。
- ×d. アレルギー性疾患を背景に発症する。
誤り。急性好酸球性肺炎は、気管支喘息やアトピーなどのアレルギー性疾患の既往がない健康な若年者に突然発症することが多い。これに対し、慢性好酸球性肺炎は気管支喘息などのアレルギー性疾患を合併する頻度が高く、また好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)やアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)も喘息を背景とする。アレルギー素因との関連は、急性型と慢性型を区別するポイントの一つである。
- ×e. 気管支肺胞洗浄液で好酸球比率は正常である。
誤り。BAL液中の好酸球比率の著明な上昇(一般に25%以上)こそが本症の診断の根拠である。健常者のBAL液では細胞の大部分が肺胞マクロファージで、好酸球は通常1%未満にとどまる。本症では発症早期に末梢血好酸球が正常範囲であることが多いため、末梢血所見に頼らずBALで肺局所の好酸球増多を証明することが診断上欠かせない。
好酸球性肺疾患の整理
肺に好酸球が浸潤する疾患は、原因や経過によっていくつかに分けられる。 ・単純性肺好酸球増多症(Löffler症候群):寄生虫(回虫など)の幼虫移行や薬剤が原因。移動性の淡い浸潤影を示し、症状は軽く、数週以内に自然軽快することが多い。 ・急性好酸球性肺炎:喫煙開始などを契機に急性発症し、呼吸不全を伴う。初期に末梢血好酸球増多に乏しく、BAL液で好酸球が著増する。ステロイドが著効し再発はまれ。 ・慢性好酸球性肺炎:中年女性に多く、数週〜数か月の経過で咳、発熱、体重減少を示す。約半数に気管支喘息を合併し、末梢血好酸球増多を伴うことが多い。胸部X線で肺野末梢優位の浸潤影を示し、肺水腫像を反転させたようにみえることから「photographic negative of pulmonary edema」と呼ばれる。ステロイドは奏効するが、減量・中止後の再発が多い。 ・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧称Churg-Strauss症候群):気管支喘息が先行し、末梢血好酸球増多と血管炎症状(多発単神経炎、紫斑など)を伴う。MPO-ANCA陽性例がある。 ・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA):喘息患者でアスペルギルスに対するアレルギー反応が起こり、中枢性気管支拡張や粘液栓を生じる。
急性好酸球性肺炎の診断の目安
発症から1か月以内(多くは1週間以内)の急性の呼吸器症状、胸部画像での両側性陰影、低酸素血症、BAL液の好酸球比率の上昇(25%以上)、そして感染症や薬剤など他の原因の除外がそろうことで診断される。
POINT
・急性好酸球性肺炎の誘因として、喫煙開始(喫煙再開・本数増加を含む)が重要。 ・急速に進行する低酸素血症を呈し、呼吸不全に至ることがある(ARDSとの鑑別)。 ・アレルギー性疾患の既往のない若年者に多い(喘息合併が多いのは慢性好酸球性肺炎)。 ・発症初期は末梢血好酸球が増えないことが多く、診断にはBAL液の好酸球比率上昇(25%以上)が必須。 ・副腎皮質ステロイドが著効し、再発はまれ。
