泣くほど青くなる子ども―Fallot四徴症の低酸素発作を鎮める一手
第108回医師国家試験 I問題 第8問
国試問題にチャレンジ
Fallot四徴症の低酸素発作時の治療薬として適切なのはどれか。
- a.モルヒネ
- b.フロセミド
- c.ニトログリセリン
- d.イソプロテレノール
- e.副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
Fallot四徴症の低酸素発作は、啼泣などを契機とした漏斗部攣縮による肺血流減少と、体血管抵抗低下による右左短絡の増加が本態で、過呼吸による悪循環が加わって進行し、発作中は心雑音が減弱・消失します。治療は悪循環を断つことが目標で、鎮静と過呼吸抑制をもたらすモルヒネが代表的な薬であり、膝胸位、酸素、炭酸水素ナトリウム、輸液、β遮断薬、フェニレフリンを組み合わせます。一方、イソプロテレノールなどのβ刺激薬や強心薬は漏斗部狭窄を強めるため禁忌で、ニトログリセリンなどの血管拡張薬やフロセミドなどの利尿薬も短絡増加や前負荷減少につながり不適切です。蹲踞や膝胸位が有効な理由も同じ血行動態で説明でき、発作を起こした例は根治手術や姑息術を急ぐ適応となります。病態生理から治療と禁忌を導く考え方は、先天性心疾患の理解全般に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
Fallot四徴症は、①心室中隔欠損、②肺動脈狭窄(主に右室流出路の漏斗部狭窄)、③大動脈騎乗、④右室肥大の4つを特徴とする、代表的なチアノーゼ性先天性心疾患である。
低酸素発作(無酸素発作、spell)の機序
乳幼児期に、啼泣、排便、哺乳、起床直後などを契機として、急にチアノーゼが強まり、多呼吸・不機嫌となり、重症では意識消失やけいれん、死亡に至ることもある発作である。機序は次のように説明される。 ・啼泣や興奮で交感神経が緊張し、右室流出路の漏斗部筋が攣縮して肺動脈への血流がさらに減る(右室流出路の狭窄が強まる)。 ・啼泣時などには体血管抵抗が低下し、心室中隔欠損を通る右→左短絡が増えて、酸素化されていない静脈血が大動脈へ多く流れる。 ・低酸素血症とアシドーシスが呼吸中枢を刺激して多呼吸となり、酸素消費と静脈還流が増えて短絡がさらに増えるという悪循環に陥る。 発作中は、肺動脈狭窄による心雑音(駆出性収縮期雑音)が肺血流の減少を反映して弱くなるか消失するのが特徴である。
治療の考え方
治療の目標は、この悪循環を断ち切り、肺血流を増やして右→左短絡を減らすことである。 ・鎮静:交感神経緊張と過呼吸を抑える(モルヒネが代表)。 ・漏斗部の攣縮を抑え、心拍数を落として心室充満を改善する(β遮断薬)。 ・体血管抵抗を上げる:膝胸位(胸膝位)、α刺激薬(フェニレフリン)。 ・酸素投与、アシドーシスの補正(炭酸水素ナトリウム)、輸液による前負荷の確保。 したがって、心収縮力を増強する薬、体血管抵抗を下げる薬、循環血液量を減らす薬は発作を悪化させる。この視点で各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ○a. モルヒネ
適切である。モルヒネは鎮静作用により啼泣・興奮による交感神経の緊張を和らげ、右室流出路(漏斗部)の攣縮を軽減する。また呼吸中枢を抑制して過呼吸を鎮め、「低酸素→多呼吸→静脈還流増加→短絡増加」という悪循環を断つ。筋注・皮下注・静注のいずれでも投与でき、低酸素発作の薬物治療の第一選択として位置づけられる。呼吸抑制に注意して用いる。
- ×b. フロセミド
不適切である。フロセミドはループ利尿薬で、心不全や肺うっ血を改善する目的で用いる。Fallot四徴症の低酸素発作は肺血流の減少が本態であり、うっ血は問題ではない。利尿により循環血液量(前負荷)が減ると右室からの拍出がさらに減り、発作を悪化させうる。発作時にはむしろ輸液で前負荷を保つことが勧められる。
- ×c. ニトログリセリン
不適切である。ニトログリセリンは硝酸薬で、静脈・冠動脈を拡張させ、狭心症発作や急性心不全の治療に用いられる。Fallot四徴症の低酸素発作は冠血流の問題ではないうえ、血管拡張により体血管抵抗と前負荷が低下すると、心室中隔欠損を介した右→左短絡が増え、チアノーゼを悪化させうる。発作時に目指すのは体血管抵抗を上げることであり、逆の作用をもつ。
- ×d. イソプロテレノール
不適切であり、禁忌である。イソプロテレノールはβ受容体刺激薬で、心収縮力と心拍数を増加させる。これにより右室流出路の漏斗部の収縮が強まって狭窄が悪化し、肺血流がさらに減少する。またβ2作用による末梢血管拡張で体血管抵抗が下がり、右→左短絡が増える。発作の治療に用いられるのは逆の作用をもつβ遮断薬(プロプラノロールなど)であり、発作の予防にも使われる。
- ×e. 副腎皮質ステロイド
不適切である。副腎皮質ステロイドは抗炎症・免疫抑制作用をもち、ショックの一部などで用いられることはあるが、低酸素発作の機序(漏斗部攣縮、体血管抵抗低下による短絡増加、過呼吸による悪循環)に作用する薬ではなく、発作の治療薬として用いられない。
Fallot四徴症の概要
・チアノーゼ性先天性心疾患の中で最も頻度が高い。22q11.2欠失症候群との関連が知られる。 ・聴診:肺動脈狭窄による胸骨左縁上部の駆出性収縮期雑音、II音は単一(肺動脈成分が小さい)。心室中隔欠損は大きく、左右の圧が等しいため、欠損孔による雑音はほとんど生じない。 ・胸部X線:右室肥大で心尖部が挙上し、肺動脈の低形成で左第2弓が陥凹するため「木靴型心(coeur en sabot)」を示す。肺血管陰影は減少する。 ・心電図:右軸偏位、右室肥大。 ・蹲踞(そんきょ、しゃがみこみ):歩行を始めた幼児が運動後にしゃがみこむ姿勢をとる。下肢の動脈が屈曲・圧迫されて体血管抵抗が上がり、右→左短絡が減ることでチアノーゼが和らぐ。乳児の発作時に膝胸位をとらせるのも同じ原理である。 ・長期のチアノーゼでばち指、多血症(赤血球増多症)をきたし、脳膿瘍や脳血栓症の合併に注意する。
低酸素発作への対応のまとめ
①膝胸位(胸膝位)をとらせ、抱いて落ち着かせる ②酸素投与(肺血流が少ないため効果は限定的) ③モルヒネの投与(鎮静・過呼吸の抑制) ④炭酸水素ナトリウムによる代謝性アシドーシスの補正 ⑤輸液による前負荷の確保 ⑥β遮断薬(プロプラノロール)の静注:漏斗部攣縮の抑制 ⑦α刺激薬(フェニレフリン):体血管抵抗を上げて短絡を減らす 発作を起こした例は根治手術(心内修復術)の時期を早める、あるいは待機中にBlalock-Taussig短絡術などの姑息術を行う適応となる。発作予防には経口β遮断薬が用いられる。
避けるべき薬
β刺激薬(イソプロテレノール)、ジギタリスなどの強心薬(漏斗部の収縮を強める)、血管拡張薬、利尿薬(前負荷の減少)。
POINT
・Fallot四徴症の低酸素発作は、漏斗部攣縮による肺血流減少と、体血管抵抗低下による右→左短絡の増加が本態。 ・発作時は心雑音が減弱・消失する。 ・治療:膝胸位、酸素、モルヒネ、炭酸水素ナトリウム、輸液、β遮断薬、α刺激薬(フェニレフリン)。 ・イソプロテレノールなどのβ刺激薬・強心薬は漏斗部狭窄を悪化させるため禁忌。 ・血管拡張薬や利尿薬も短絡や前負荷の面から不適切。
