針金の輪が語る自己免疫―wire loopと塊状IgGで読み解くループス腎炎
第108回医師国家試験 I問題 第24問
国試問題にチャレンジ
急速進行性糸球体腎炎を呈した患者の腎生検のPAS染色標本(A)と蛍光抗体IgG染色標本(B)とを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.ANCA関連血管炎
- b.IgG4関連疾患
- c.急性間質性腎炎
- d.血栓性血小板減少性紫斑病
- e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急速進行性糸球体腎炎は、蛍光抗体法の沈着パターンにより、線状沈着の抗GBM抗体型、顆粒状沈着の免疫複合体型、沈着がほとんどないpauci-immune型(ANCA関連血管炎)に分類されます。PAS染色で半月体に加えて係蹄壁が針金状に肥厚するwire loop lesionを認め、IgGが係蹄壁とメサンギウムに塊状〜顆粒状に沈着していれば、免疫複合体型であるループス腎炎(ISN/RPS分類III型・IV型の活動性増殖性病変)が最も考えられます。ループス腎炎ではfull houseパターンの蛍光所見、抗ds-DNA抗体上昇、低補体血症が診断と活動性評価の手がかりとなり、治療にはステロイドと免疫抑制薬を併用します。IgG4関連疾患や急性間質性腎炎は尿細管間質が主座であり、TTPは血栓性微小血管症であるため本像とは合いません。組織所見と沈着パターンを組み合わせてRPGNの原因を絞り込む考え方は、腎生検の読影と治療方針決定の基盤となります。
解答・解説
正解はeです
急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)を起こした患者の腎生検像から、原因疾患を推定する問題である。RPGN とは、数週〜数か月の単位で腎機能が急に悪化していく糸球体腎炎の臨床像を指す。
光学顕微鏡所見(A:PAS 染色)
PAS 染色(periodic acid-Schiff 染色)は、基底膜やメサンギウム基質のような糖を多く含む構造を赤紫色に染める。 ・左の糸球体:Bowman 囊の内側に細胞が増えて層をつくり、糸球体の毛細血管の束(係蹄)を押しつぶしている。これは半月体の形成で、RPGN を裏付ける所見である。 ・右の糸球体:多くの係蹄の壁が PAS 陽性に厚くなり、針金の輪のように見える(wire loop lesion)。これは、基底膜の内側(内皮下)に免疫複合体が大量に沈着したことによる変化である。メサンギウムの細胞や基質の増加も見られる。
蛍光抗体法所見(B:IgG 染色)
IgG は、係蹄の壁に沿って塊状(顆粒状〜塊状)に沈着し、メサンギウム領域にも見られる。途切れのない細い線のように染まるパターン(線状沈着)ではない。免疫複合体が沈着したことを示すパターンである。
診断の考え方
RPGN を起こす疾患は、蛍光抗体法の所見から次の 3 つに分けられる。 ・線状沈着:抗 GBM(糸球体基底膜)抗体型 ・顆粒状沈着:免疫複合体型(ループス腎炎、IgA 腎症・IgA 血管炎、感染後糸球体腎炎、クリオグロブリン血症など) ・沈着がほとんどない(pauci-immune):ANCA 関連血管炎 本例は、半月体(RPGN)、wire loop lesion、係蹄壁とメサンギウムへの IgG の塊状沈着がそろっている。以上から、免疫複合体型の RPGN であるループス腎炎(ISN/RPS 分類の Ⅲ 型またはⅣ 型に相当する増殖性病変)が最も考えられる。
選択肢考察
- ×a. ANCA関連血管炎
ANCA 関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症など)は、日本の RPGN の原因として最も多い。組織では、係蹄の壊死と半月体の形成が目立つ壊死性半月体形成性糸球体腎炎を起こす。一方で、蛍光抗体法では免疫グロブリンや補体がほとんど沈着しない(pauci-immune 型)。本例は半月体はあるものの、IgG が明らかに沈着しており、wire loop lesion も見られるので合わない。
- ×b. IgG4関連疾患
IgG4 関連疾患は、血清の IgG4 が高くなり、各臓器に IgG4 陽性の形質細胞が浸潤して線維化が起こる全身性の疾患である。自己免疫性膵炎、涙腺・唾液腺の腫れ、後腹膜線維症などを起こす。腎臓の病変は主に尿細管と間質で起こる尿細管間質性腎炎で、間質に形質細胞とリンパ球が浸潤し、それを囲む花むしろ状(storiform)の線維化が特徴である。膜性腎症を合併することはあるが、半月体や wire loop lesion を伴う RPGN の像は典型的ではない。
- ×c. 急性間質性腎炎
急性間質性腎炎は、薬剤(抗菌薬、NSAIDs、プロトンポンプ阻害薬など)への過敏反応や感染によって、尿細管と間質に炎症が起こる疾患である。間質にリンパ球や好酸球が浸潤し、尿細管炎が見られるが、原則として糸球体には大きな変化がない。急性腎障害を起こすことはあるが、糸球体の半月体形成や IgG の沈着は説明できない。
- ×d. 血栓性血小板減少性紫斑病
血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は、von Willebrand 因子を切断する酵素 ADAMTS13 の活性が著しく低下して起こる血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)である。血小板減少、破砕赤血球を伴う溶血性貧血、腎障害、発熱、精神神経症状が見られる。腎臓では、細動脈や糸球体の毛細血管に血小板血栓ができ、内皮細胞が腫れて内皮下腔が広がる。蛍光抗体法ではフィブリノゲンが沈着することはあるが、免疫複合体の沈着を示す IgG の塊状沈着は典型的ではない。また、腎障害はふつう軽いものにとどまり、半月体形成による RPGN の像はとらない。
- ○e. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
SLE では、抗 DNA 抗体などを含む免疫複合体が糸球体に沈着して、ループス腎炎を起こす。内皮下に沈着物が大量にたまると、係蹄の壁が厚く見える wire loop lesion になる。これは活動性の増殖性ループス腎炎(Ⅲ 型・Ⅳ 型)の特徴的な所見である。重症例では半月体も形成され、RPGN の経過をとる。蛍光抗体法では、IgG・IgA・IgM・C3・C1q がすべて陽性になる「full house」パターンが知られ、係蹄の壁とメサンギウムに顆粒状〜塊状に沈着する。本例の所見と一致する。
RPGN の蛍光抗体法による分類
1) 抗 GBM 抗体型(線状沈着):抗 GBM 病(肺出血を伴えば Goodpasture 症候群) 2) 免疫複合体型(顆粒状沈着):ループス腎炎、IgA 腎症・IgA 血管炎、感染後糸球体腎炎、クリオグロブリン血症性糸球体腎炎など 3) pauci-immune 型(沈着がほとんどない):ANCA 関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症) 日本の RPGN では、3) の ANCA 関連血管炎、特に MPO-ANCA 陽性の顕微鏡的多発血管炎が最も多い。
ループス腎炎の ISN/RPS 分類(2003 年)
Ⅰ 型:微小メサンギウムループス腎炎(光学顕微鏡では正常、蛍光抗体法でメサンギウムに沈着あり) Ⅱ 型:メサンギウム増殖性ループス腎炎 Ⅲ 型:巣状ループス腎炎(病変のある糸球体が全体の 50% 未満) Ⅳ 型:びまん性ループス腎炎(病変のある糸球体が全体の 50% 以上) Ⅴ 型:膜性ループス腎炎(上皮下沈着が主体。ネフローゼ症候群を起こしやすい) Ⅵ 型:進行した硬化性ループス腎炎(糸球体の 90% 以上が硬化) wire loop lesion や半月体は、活動性のⅢ 型・Ⅳ 型で見られる。治療には、副腎皮質ステロイドに加えて、ミコフェノール酸モフェチルやシクロホスファミド静注療法などの免疫抑制療法を行う。近年はベリムマブやカルシニューリン阻害薬(ボクロスポリンなど)を組み合わせることもある。
ループス腎炎を示唆する検査所見
血液では、抗 ds-DNA 抗体の上昇と、補体(C3・C4・CH50)の低下が活動性の指標になる。尿では、蛋白尿や、赤血球円柱などの活動性の尿沈渣が見られる。
POINT
・wire loop lesion(内皮下沈着による係蹄壁の肥厚)は、活動性の増殖性ループス腎炎(Ⅲ 型・Ⅳ 型)の特徴である。 ・RPGN は蛍光抗体法で 3 つに分けられる。線状なら抗 GBM 病、顆粒状なら免疫複合体型(SLE など)、沈着なしなら ANCA 関連血管炎である。 ・ループス腎炎の蛍光抗体法では、IgG・IgA・IgM・C3・C1q がすべて陽性になる「full house」パターンが典型的である。 ・急性間質性腎炎や IgG4 関連腎臓病では、病変の中心は尿細管と間質で、糸球体ではない。
