StudyMed医師国家試験

「鼻先を見つめる眼」が指し示す場所―眼位から読み解く脳出血の局在診断

第108回医師国家試験 I問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第25問

頭部単純CT(A①~⑤)と意識障害患者の眼位(B)とを別に示す。  この患者の眼位と合致するCTはどれか。

第108回 I問題 第25問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、意識障害の患者さんの眼位から出血部位を推定し、それに合うCTを選ぶ問題だ。カギは2つ。眼が「どちらの方向に」偏っているか、そしてCTで高吸収域が「どの構造に」あるか。まずは眼位の写真を見て、どう表現するかな。
医学生医学生
両眼とも黒目が内側で、しかも下を向いています。寄り目で下を見ているような感じです。
ドクタードクター
その通り。自分の鼻先を見つめるような眼位で、内下方偏位と呼ぶ。この眼位でまず思い浮かべてほしい出血部位があるんだ。
医学生医学生
脳出血で眼が偏るというと、共同偏視しか思いつきません。被殻出血で病巣側を向く、というのは神経内科の講義で習いました。
ドクタードクター
共同偏視は水平方向の偏位だね。今回は垂直方向の要素、つまり下向きが加わっている点が大事なんだ。内下方偏位は視床出血に特徴的な眼位だよ。
医学生医学生
視床の出血で、なぜ眼が下を向くんでしょうか。視床は感覚の中継核というイメージしかなくて。
ドクタードクター
いい疑問だ。ポイントは視床のすぐ下にある中脳上部、視蓋前域から上丘の周りに、上方を見る垂直注視の中枢があること。視床出血が下内側に広がるとここが圧迫され、上を見られなくなって眼球が下を向く。さらに両眼を内側へ寄せる輻湊が過剰に働くので、内側にも寄る。この2つが重なって鼻先を見つめる眼位になるんだ。縮瞳や対光反射の低下を伴うことも多い。
医学生医学生
解剖実習で脳を切ったとき、第三脳室の両脇に視床があって、そのすぐ下が中脳でした。位置関係を思い出すと納得できます。
ドクタードクター
そう、解剖の位置関係がそのまま症候につながる。ではCTを見ていこう。まず大前提として、CTは画像の右側が患者さんの左側だ。視床出血を探すなら、どこに注目する?
医学生医学生
第三脳室のすぐ外側ですね。2番目の画像は、左の第三脳室の脇に高吸収域があって、脳室の中にも血液が入っているように見えます。
ドクタードクター
正解。左視床出血で、脳室内に穿破している。視床は脳室に接しているから穿破しやすく、水頭症を起こすこともある。これが内下方偏位に合うCTだ。ほかの画像も確認しておこう。1番目はどうかな。
医学生医学生
第三脳室よりもっと外側、基底核の外側に出血があるので、被殻出血でしょうか。
ドクタードクター
その通り。左の被殻出血だ。出血が内包や前頭葉からの側方注視の経路に及ぶと、両眼は病巣側へ水平に向く。患者さんが「病巣をにらむ」形だね。反対側の片麻痺を伴うことが多いけれど、下向きにはならない。
医学生医学生
3番目は頭頂に近い断面で、皮質の下に出血があります。高血圧性の出血とは少し場所が違う気がします。
ドクタードクター
いい観察だ。皮質下出血、いわゆる脳葉出血だね。高齢者ではアミロイド血管症、若い人では脳動静脈奇形などの血管奇形が原因として重要だ。症状は出血した皮質の機能で決まり、けいれんを起こすこともある。前頭眼野が障害されれば病巣側への共同偏視は起こりうるが、内下方偏位にはならない。
医学生医学生
4番目は後頭蓋窩の断面で、小脳に大きな出血があります。救急外来の実習で、めまいと嘔吐で来た人が小脳出血だったのを見ました。
ドクタードクター
貴重な経験だね。小脳出血は突然の後頭部痛、めまい、繰り返す嘔吐で発症し、立てない・歩けないのが特徴だ。眼では病巣側への側方注視麻痺や、左右の眼が上下にずれる斜偏視が見られる。血腫が3cm以上で神経症状が悪化している、脳幹圧迫や水頭症がある、といった場合は手術が検討される。
医学生医学生
最後の5番目は脳幹の真ん中に出血があるので橋出血ですね。瞳孔が針先のように小さくなるのは覚えています。
ドクタードクター
pinpoint pupilだね。橋出血の重症例では、発症直後から深い昏睡、四肢麻痺、高熱、呼吸の異常が出る。眼球が素早く下がってゆっくり戻るocular bobbingや、正中での固定も特徴だ。縮瞳という点は視床出血と少し似ているけれど、眼位の特徴がまったく違う。
医学生医学生
眼位で整理すると、病巣をにらむなら被殻、鼻先を見るなら視床、正中固定とpinpointなら橋、ということですね。
ドクタードクター
よくまとまっている。もう一つ加えると、橋の側方注視中枢が障害されると病巣と反対側への水平共同偏視になる。大脳病変とは向きが逆になるので注意しよう。発展として、似た下向きの眼位に落陽現象がある。小児の閉塞性水頭症などで黒目が下眼瞼に沈んで上方に白目が見える状態だが、内側への偏りは目立たない。中脳背側の障害による上方注視麻痺、対光反射と輻湊反射の乖離、輻湊後退眼振はParinaud症候群として、松果体腫瘍とセットで覚えておくといい。
医学生医学生
意識障害で診察に協力してもらえない患者さんでも、眼を見るだけで部位がある程度推定できるのは強力ですね。
ドクタードクター
そうなんだ。救急の現場では、CTを撮る前にまず瞳孔と眼位を確認する。それだけで病巣の見当がつき、画像を読むときの着眼点も定まる。ただし眼位はあくまで手がかりで、最終的には画像で確定することを忘れないようにしよう。

まとめ

意識障害患者で両眼が内下方を向き、鼻先を見つめるような眼位をとる場合は視床出血を考えます。視床出血が下内側に進展して中脳上部の垂直注視中枢を圧迫し、上方注視麻痺に輻湊の過剰が加わるためで、縮瞳や対光反射低下を伴うことが多く、脳室穿破もしやすいのが特徴です。被殻出血では病巣側への水平共同偏視、橋出血ではpinpoint pupilとocular bobbing、小脳出血ではめまい・嘔吐・起立歩行障害と側方注視麻痺や斜偏視、皮質下出血では部位に応じた皮質症状やけいれんがみられ、眼位と随伴症状から出血部位を推定できます。CTは画像の右が患者の左であり、第三脳室の外側が視床、さらに外側が被殻という位置関係を押さえることが読影の基本です。ベッドサイドの眼位・瞳孔所見と画像所見を結びつける力は、救急での迅速な局在診断に直結します。

解答・解説

正解はbです

意識障害のある患者の眼の位置(眼位)から脳出血の部位を推定し、その部位に出血がある CT を選ぶ問題である。

眼位(B)の読み取り

両眼とも黒目が内側(鼻側)かつ下方に寄り、自分の鼻先を見つめるような位置になっている。これを内下方偏位という。視床出血に特徴的な眼位である。

なぜ視床出血で内下方偏位になるのか

視床の出血が下内側に広がると、すぐ下にある中脳の上部(視蓋前域、上丘の周り)が圧迫される。ここには上方を見る動き(垂直注視)を調節する中枢がある。この中枢が障害されると上方を見られなくなり(上方注視麻痺)、眼球は下を向く。さらに、両眼を内側に寄せる動き(輻湊)が過剰に働くため、眼球は内側にも寄る。これらが重なって内下方偏位(「鼻先を見つめる」眼位)となる。瞳孔が小さくなり、対光反射が鈍くなることも多い。

CT の読み取り

CT の画像は、画像の右側が患者の左側になるように表示される。 ①:左の被殻(基底核の外側部)に高吸収域(出血)がある。被殻出血である。 ②:左の視床(第三脳室の外側)に高吸収域があり、脳室内にも血液が入っている。視床出血である。 ③:頭頂部に近い高さの断面で、右の大脳の皮質下に高吸収域がある。皮質下出血(脳葉出血)である。 ④:後頭蓋窩(小脳・脳幹が入る頭蓋内の後下部)の断面で、小脳に大きな高吸収域がある。小脳出血である。 ⑤:脳幹の断面で、中央部に高吸収域がある。橋出血である。 以上から、内下方偏位と対応するのは②の視床出血である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    左の被殻出血である。被殻出血が内包や前頭葉の側方注視の経路に及ぶと、両眼は出血のある側(ここでは左)へ水平に向く。これは共同偏視と呼ばれ、患者は「病巣をにらむ」ような眼位になる。反対側の片麻痺を伴うことが多い。眼が水平方向に偏るのが特徴で、内下方偏位にはならない。

  2. ○b.  ②

    左の視床出血で、第三脳室の周りから脳室内への穿破も見られる。視床出血が下内側に広がると、中脳の上部にある垂直注視の中枢が圧迫される。その結果、上方を見られなくなり、さらに輻湊が過剰に働くため、両眼が内下方に向く(鼻先を見つめる眼位)。この眼位は視床出血に特徴的で、B の眼位と合う。縮瞳や対光反射の低下を伴うことも多い。

  3. ×c.  ③

    頭頂部に近い高さの断面で、右の大脳の皮質下に出血がある。皮質下出血(脳葉出血)である。高齢者のアミロイド血管症や、脳動静脈奇形などの血管奇形が原因として重要である。症状は出血した部位の皮質の機能で決まり、けいれんが起きることもある。前頭眼野(前頭葉にある、眼を反対側に向ける中枢)が障害されると病巣側への共同偏視が起こることはある。しかし、内下方偏位は起こらない。

  4. ×d.  ④

    小脳出血である。突然の後頭部痛、めまい、繰り返す嘔吐で発症し、立ったり歩いたりできなくなる。眼の症状としては、病巣側を見られなくなる側方注視麻痺(その結果、両眼は病巣と反対側へ偏る)や、左右の眼が上下にずれる斜偏視(skew deviation)が見られる。内下方偏位は典型的ではない。血腫の直径が 3 cm 以上で神経症状が悪くなっている場合や、脳幹の圧迫・水頭症がある場合は、手術(血腫除去)が検討される。

  5. ×e.  ⑤

    脳幹の中央部に出血があり、橋出血である。重症例では、発症するとすぐに深い昏睡、四肢麻痺、高熱、呼吸の異常が起こる。瞳孔が両側とも針先のように非常に小さくなる(pinpoint pupil)ことが特徴で、対光反射は保たれていることが多い。眼の動きとしては、両眼が正中に固まって動かなくなるほか、眼球が素早く下がってからゆっくり元の位置に戻る動き(ocular bobbing)が見られる。内下方偏位は典型的ではない。

高血圧性脳出血の部位別頻度と特徴

・被殻出血(最多、約 40%):反対側の片麻痺・感覚障害、病巣側への共同偏視。優位半球側では失語を伴う。 ・視床出血(約 30%):反対側の感覚障害(視床痛を残すことがある)、片麻痺、内下方偏位、縮瞳。脳室内に穿破しやすく、水頭症を起こすことがある。 ・皮質下出血(約 10〜15%):部位に応じた皮質の症状(失語、半盲など)とけいれん。アミロイド血管症や血管奇形が原因として重要である。 ・小脳出血(約 5〜10%):めまい、嘔吐、歩けない、病巣側への注視麻痺。 ・橋出血(約 5〜10%):昏睡、四肢麻痺、pinpoint pupil、ocular bobbing、高熱。予後が悪い。

眼位による部位の推定

・病巣側への水平方向の共同偏視:被殻出血などの大脳の病変(テント上病変)。患者は「病巣をにらむ」。 ・病巣と反対側への水平方向の共同偏視:橋の病変(橋にある側方注視の中枢が障害されるため)。 ・内下方偏位(鼻先を見つめる眼位):視床出血。 ・正中に固定、pinpoint pupil、ocular bobbing:橋出血。 ・斜偏視(左右の眼が上下にずれる):脳幹や小脳の病変。

落陽現象との違い

閉塞性水頭症(特に小児)や中脳背側(上丘周辺)の病変でも、両眼が下を向く落陽現象(setting-sun phenomenon)が見られる。落陽現象は、黒目が下眼瞼に沈み、上方に白目が見える状態である。視床出血の内下方偏位との違いは、内側への偏りが目立たないことである。

Parinaud 症候群

中脳背側の障害で起こる症候群である。上方注視麻痺、対光反射と輻湊反射の乖離(近くを見たときの縮瞳は保たれるのに、光への反応は弱い)、輻湊後退眼振(上を見ようとすると眼球が寄りながら奥へ引っ込む)が見られる。松果体腫瘍などで起こる。視床出血が下内側に広がると、これに似た眼の症状が出る。

POINT

・視床出血の眼位は内下方偏位(鼻先を見つめる眼位)で、縮瞳を伴うことが多い。 ・被殻出血では病巣側への水平方向の共同偏視が起こる(病巣をにらむ)。 ・橋出血では pinpoint pupil、ocular bobbing、昏睡、四肢麻痺が起こる。 ・小脳出血ではめまい、嘔吐、起立・歩行の障害、病巣側への注視麻痺が起こる。 ・CT は画像の右側が患者の左側である。視床は第三脳室の外側に、被殻はその外側にある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。