「鼻先を見つめる眼」が指し示す場所―眼位から読み解く脳出血の局在診断
第108回医師国家試験 I問題 第25問
国試問題にチャレンジ
頭部単純CT(A①~⑤)と意識障害患者の眼位(B)とを別に示す。 この患者の眼位と合致するCTはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
意識障害患者で両眼が内下方を向き、鼻先を見つめるような眼位をとる場合は視床出血を考えます。視床出血が下内側に進展して中脳上部の垂直注視中枢を圧迫し、上方注視麻痺に輻湊の過剰が加わるためで、縮瞳や対光反射低下を伴うことが多く、脳室穿破もしやすいのが特徴です。被殻出血では病巣側への水平共同偏視、橋出血ではpinpoint pupilとocular bobbing、小脳出血ではめまい・嘔吐・起立歩行障害と側方注視麻痺や斜偏視、皮質下出血では部位に応じた皮質症状やけいれんがみられ、眼位と随伴症状から出血部位を推定できます。CTは画像の右が患者の左であり、第三脳室の外側が視床、さらに外側が被殻という位置関係を押さえることが読影の基本です。ベッドサイドの眼位・瞳孔所見と画像所見を結びつける力は、救急での迅速な局在診断に直結します。
解答・解説
正解はbです
意識障害のある患者の眼の位置(眼位)から脳出血の部位を推定し、その部位に出血がある CT を選ぶ問題である。
眼位(B)の読み取り
両眼とも黒目が内側(鼻側)かつ下方に寄り、自分の鼻先を見つめるような位置になっている。これを内下方偏位という。視床出血に特徴的な眼位である。
なぜ視床出血で内下方偏位になるのか
視床の出血が下内側に広がると、すぐ下にある中脳の上部(視蓋前域、上丘の周り)が圧迫される。ここには上方を見る動き(垂直注視)を調節する中枢がある。この中枢が障害されると上方を見られなくなり(上方注視麻痺)、眼球は下を向く。さらに、両眼を内側に寄せる動き(輻湊)が過剰に働くため、眼球は内側にも寄る。これらが重なって内下方偏位(「鼻先を見つめる」眼位)となる。瞳孔が小さくなり、対光反射が鈍くなることも多い。
CT の読み取り
CT の画像は、画像の右側が患者の左側になるように表示される。 ①:左の被殻(基底核の外側部)に高吸収域(出血)がある。被殻出血である。 ②:左の視床(第三脳室の外側)に高吸収域があり、脳室内にも血液が入っている。視床出血である。 ③:頭頂部に近い高さの断面で、右の大脳の皮質下に高吸収域がある。皮質下出血(脳葉出血)である。 ④:後頭蓋窩(小脳・脳幹が入る頭蓋内の後下部)の断面で、小脳に大きな高吸収域がある。小脳出血である。 ⑤:脳幹の断面で、中央部に高吸収域がある。橋出血である。 以上から、内下方偏位と対応するのは②の視床出血である。
選択肢考察
- ×a. ①
左の被殻出血である。被殻出血が内包や前頭葉の側方注視の経路に及ぶと、両眼は出血のある側(ここでは左)へ水平に向く。これは共同偏視と呼ばれ、患者は「病巣をにらむ」ような眼位になる。反対側の片麻痺を伴うことが多い。眼が水平方向に偏るのが特徴で、内下方偏位にはならない。
- ○b. ②
左の視床出血で、第三脳室の周りから脳室内への穿破も見られる。視床出血が下内側に広がると、中脳の上部にある垂直注視の中枢が圧迫される。その結果、上方を見られなくなり、さらに輻湊が過剰に働くため、両眼が内下方に向く(鼻先を見つめる眼位)。この眼位は視床出血に特徴的で、B の眼位と合う。縮瞳や対光反射の低下を伴うことも多い。
- ×c. ③
頭頂部に近い高さの断面で、右の大脳の皮質下に出血がある。皮質下出血(脳葉出血)である。高齢者のアミロイド血管症や、脳動静脈奇形などの血管奇形が原因として重要である。症状は出血した部位の皮質の機能で決まり、けいれんが起きることもある。前頭眼野(前頭葉にある、眼を反対側に向ける中枢)が障害されると病巣側への共同偏視が起こることはある。しかし、内下方偏位は起こらない。
- ×d. ④
小脳出血である。突然の後頭部痛、めまい、繰り返す嘔吐で発症し、立ったり歩いたりできなくなる。眼の症状としては、病巣側を見られなくなる側方注視麻痺(その結果、両眼は病巣と反対側へ偏る)や、左右の眼が上下にずれる斜偏視(skew deviation)が見られる。内下方偏位は典型的ではない。血腫の直径が 3 cm 以上で神経症状が悪くなっている場合や、脳幹の圧迫・水頭症がある場合は、手術(血腫除去)が検討される。
- ×e. ⑤
脳幹の中央部に出血があり、橋出血である。重症例では、発症するとすぐに深い昏睡、四肢麻痺、高熱、呼吸の異常が起こる。瞳孔が両側とも針先のように非常に小さくなる(pinpoint pupil)ことが特徴で、対光反射は保たれていることが多い。眼の動きとしては、両眼が正中に固まって動かなくなるほか、眼球が素早く下がってからゆっくり元の位置に戻る動き(ocular bobbing)が見られる。内下方偏位は典型的ではない。
高血圧性脳出血の部位別頻度と特徴
・被殻出血(最多、約 40%):反対側の片麻痺・感覚障害、病巣側への共同偏視。優位半球側では失語を伴う。 ・視床出血(約 30%):反対側の感覚障害(視床痛を残すことがある)、片麻痺、内下方偏位、縮瞳。脳室内に穿破しやすく、水頭症を起こすことがある。 ・皮質下出血(約 10〜15%):部位に応じた皮質の症状(失語、半盲など)とけいれん。アミロイド血管症や血管奇形が原因として重要である。 ・小脳出血(約 5〜10%):めまい、嘔吐、歩けない、病巣側への注視麻痺。 ・橋出血(約 5〜10%):昏睡、四肢麻痺、pinpoint pupil、ocular bobbing、高熱。予後が悪い。
眼位による部位の推定
・病巣側への水平方向の共同偏視:被殻出血などの大脳の病変(テント上病変)。患者は「病巣をにらむ」。 ・病巣と反対側への水平方向の共同偏視:橋の病変(橋にある側方注視の中枢が障害されるため)。 ・内下方偏位(鼻先を見つめる眼位):視床出血。 ・正中に固定、pinpoint pupil、ocular bobbing:橋出血。 ・斜偏視(左右の眼が上下にずれる):脳幹や小脳の病変。
落陽現象との違い
閉塞性水頭症(特に小児)や中脳背側(上丘周辺)の病変でも、両眼が下を向く落陽現象(setting-sun phenomenon)が見られる。落陽現象は、黒目が下眼瞼に沈み、上方に白目が見える状態である。視床出血の内下方偏位との違いは、内側への偏りが目立たないことである。
Parinaud 症候群
中脳背側の障害で起こる症候群である。上方注視麻痺、対光反射と輻湊反射の乖離(近くを見たときの縮瞳は保たれるのに、光への反応は弱い)、輻湊後退眼振(上を見ようとすると眼球が寄りながら奥へ引っ込む)が見られる。松果体腫瘍などで起こる。視床出血が下内側に広がると、これに似た眼の症状が出る。
POINT
・視床出血の眼位は内下方偏位(鼻先を見つめる眼位)で、縮瞳を伴うことが多い。 ・被殻出血では病巣側への水平方向の共同偏視が起こる(病巣をにらむ)。 ・橋出血では pinpoint pupil、ocular bobbing、昏睡、四肢麻痺が起こる。 ・小脳出血ではめまい、嘔吐、起立・歩行の障害、病巣側への注視麻痺が起こる。 ・CT は画像の右側が患者の左側である。視床は第三脳室の外側に、被殻はその外側にある。
