StudyMed医師国家試験

「濡れているが温かい」心不全―warm-wetに効くのは血管を広げて水を抜く2剤

第108回医師国家試験 B問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第38問

急性心不全患者で,肺うっ血を呈しているが末梢循環不全の所見を伴わない場合の治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.フロセミド
  2. b.アドレナリン
  3. c.ニトログリセリン
  4. d.ノルアドレナリン
  5. e.プロプラノロール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は急性心不全の病態を2つの軸で分類して、それに合った治療薬を選ぶ問題だよ。注目してほしいのは「肺うっ血がある」と「末梢循環不全がない」という2つの条件。この組み合わせが、どの病型にあたるかを考えるのが出発点なんだ。
医学生医学生
循環器内科の講義でForrester分類を習いました。肺うっ血ありで心係数が保たれているから、Ⅱ群でしょうか。
ドクタードクター
その通り。Forrester分類はSwan-Ganzカテーテルで測る肺動脈楔入圧と心係数で分ける。楔入圧18 mmHgを超えると肺うっ血、心係数2.2 L/分/m²未満で末梢循環不全と判断するんだ。今回はうっ血だけがあるのでⅡ群。カテーテルを使わず身体所見で分けるNohria-Stevenson分類なら何になるかな。
医学生医学生
うっ血があるのがwet、末梢が温かいのがwarmなので、warm-wetですね。
ドクタードクター
正解。うっ血の所見は起坐呼吸、湿性ラ音、頸静脈怒張、浮腫など。低灌流の所見は四肢冷感、脈圧の低下、傾眠、尿量減少などだ。warm-wetは心拍出量がおおむね保たれていて、問題は血液が肺に溜まっていることにある。だから何をすれば楽になると思う?
医学生医学生
溜まった水を減らせばいいので、利尿薬でしょうか。それと、心臓をもっと強く動かせば肺から血液を押し出せる気もします。
ドクタードクター
前半は正解、後半がよくある誤解なんだ。warm-wetでは心臓のポンプ自体はそれなりに働いているから、強心薬で鞭を打つ必要はない。むしろ心臓に戻ってくる血液量、つまり前負荷と、送り出すときの抵抗である後負荷を下げてあげるのが治療の基本になる。そこで使うのが利尿薬と血管拡張薬だ。
医学生医学生
利尿薬はフロセミドですね。薬理学でHenle係蹄上行脚のNa-K-2Cl共輸送体を阻害すると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ループ利尿薬は強力にナトリウムと水を排泄させて体液量を減らし、前負荷を下げる。静注すると利尿が始まる前から静脈拡張作用で前負荷を軽くする効果もあるとされる。ただし利尿が効きすぎると血圧低下や腎機能悪化、低カリウム血症が起こるので、尿量・体重・電解質を見ながら調整するんだ。
医学生医学生
血管拡張薬はニトログリセリンですか。狭心症の薬というイメージが強かったです。
ドクタードクター
そう、ニトログリセリンも正解だ。NOを放出して血管平滑筋のcGMPを増やし、血管を広げる。低用量では主に静脈を広げて静脈還流を減らし、用量を上げると動脈も広げて後負荷も下げる。結果として肺毛細血管圧が下がり、肺うっ血が速やかに改善するんだ。舌下やスプレーですぐ使え、持続静注で調整もしやすい。
医学生医学生
逆に使えない場面もありますよね。
ドクタードクター
大事なポイントだ。血圧を下げる薬なので、収縮期血圧が低い例、目安として90 mmHg未満では使わない。またシルデナフィルなどのPDE5阻害薬を飲んでいる患者には併用禁忌。持続投与で耐性が出ることも覚えておこう。では残りの薬を見ていこう。アドレナリンはどうかな。
医学生医学生
BLSやACLSの実習で心停止のときに使う薬として習いました。アナフィラキシーにも使いますよね。
ドクタードクター
その通り。α・β両方を強く刺激するカテコールアミンで、心筋酸素消費量を大きく増やし頻脈や不整脈を起こしやすいうえ、血管収縮で後負荷も増やす。末梢循環が保たれたwarm-wetに使う理由はないね。ノルアドレナリンはどうだろう。
医学生医学生
主にα刺激の昇圧薬なので、ショックのときの薬ですか。
ドクタードクター
そう。急性心不全では、強心薬を使っても血圧を保てない心原性ショック、つまりcold-wetで著しい低血圧がある例に使う。今回の病態で使えば後負荷が増え、かえって肺うっ血を悪化させかねない。最後にプロプラノロールは?
医学生医学生
β遮断薬は心不全の予後を改善すると聞いたので、少し迷いました。
ドクタードクター
そこはひっかかりやすいところだね。β遮断薬には心収縮力を下げる陰性変力作用があるので、急性期に入れると心拍出量が落ちて心不全が悪化しうる。予後改善が示されているのは左室駆出率の低下した慢性心不全で、しかもカルベジロールやビソプロロールを、うっ血が取れて安定してから少量で始めて徐々に増やす使い方だ。非選択性のプロプラノロールは心不全治療薬として用いないし、β2遮断による気管支収縮にも注意がいる。
医学生医学生
整理すると、wetなら利尿薬と血管拡張薬、coldなら強心薬、それでも血圧が保てなければ血管収縮薬、ということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。少し補足すると、cold-dryでは循環血液量が足りなければまず輸液、改善しなければ強心薬。cold-wetではドブタミンやミルリノンなどの強心薬を軸に、必要ならノルアドレナリンやIABPなどの機械的補助を考える。それから臨床では、来院時の収縮期血圧で初期治療を決めるクリニカルシナリオ分類もよく使う。血圧の高いCS1は体液の再分布による急性肺水腫が主体で、NPPVと血管拡張薬が中心になるんだ。
医学生医学生
救急外来で起坐呼吸の患者さんにすぐNPPVが付けられていたのは、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
その通り。呼吸困難が強ければ薬物療法と並行してNPPVを行う。急性心不全で最も多いのはこのwarm-wetの病型だから、身体所見から素早く病型を見抜いて、利尿薬と血管拡張薬を適切に使えるようになっておこう。

まとめ

急性心不全の治療は、うっ血の有無(wet/dry)と末梢循環の状態(warm/cold)で病態を分類して選びます。肺うっ血があり末梢循環不全がない状態はForrester分類Ⅱ群、Nohria-Stevenson分類のwarm-wetにあたり、前負荷・後負荷を下げるニトログリセリンと、体液量を減らすフロセミドが治療の中心です。ニトログリセリンは低血圧例やPDE5阻害薬服用中には使えず、フロセミドは過剰な利尿や低カリウム血症に注意が必要です。強心薬や血管収縮薬は低灌流(cold)の病態で用いる薬であり、β遮断薬は急性期には心不全を悪化させうるため使わず、慢性期のHFrEFで安定後に少量から導入します。2軸で病型を整理して治療薬を対応させる考え方は、救急外来や病棟で急性心不全に対応するときの基本になります。

解答・解説

正解はa, cです

急性心不全の治療方針は、「うっ血があるか(wet か dry か)」と「末梢循環(臓器灌流)が保たれているか(warm か cold か)」の二つの軸で病態を分類して決める。

二つの分類

・Forrester分類:Swan-Ganzカテーテル(肺動脈カテーテル)で測定した肺動脈楔入圧(PCWP:pulmonary capillary wedge pressure、左房圧の指標)と心係数(CI:cardiac index、体表面積あたりの心拍出量)で分類する。PCWP 18 mmHgを超えると肺うっ血、CI 2.2 L/分/m²未満で末梢循環不全と判断する。Ⅰ群(うっ血なし・低灌流なし)、Ⅱ群(肺うっ血あり・低灌流なし)、Ⅲ群(うっ血なし・低灌流あり)、Ⅳ群(両方あり)の4群に分ける。 ・Nohria-Stevenson分類:侵襲的な測定をせず、身体所見でうっ血(起坐呼吸、湿性ラ音、頸静脈怒張、浮腫など)と低灌流(四肢冷感、脈圧の低下、傾眠、尿量減少など)を評価し、warm-dry、warm-wet、cold-dry、cold-wetの4群に分ける。 本問の「肺うっ血はあるが末梢循環不全はない」状態は、Forrester分類のⅡ群、Nohria-Stevenson分類のwarm-wetに相当する。心拍出量はおおむね保たれており、問題は心臓の前方へ送り出せない血液が肺に貯留している(前負荷・後負荷の過剰)ことにある。したがって治療の中心は、 ①血管拡張薬で静脈を拡張させて心臓へ戻る血液量(前負荷)を減らし、動脈を拡張させて心臓が血液を送り出す抵抗(後負荷)を下げること ②利尿薬で体内の過剰な水分・ナトリウムを排出させること の二つであり、代表薬がニトログリセリン(硝酸薬)とフロセミド(ループ利尿薬)である。強心薬や血管収縮薬は低灌流(cold)の病態で用いるもので、warm-wetには原則として不要である。また、呼吸困難が強い場合は薬物療法と並行して非侵襲的陽圧換気(NPPV)を行う。

選択肢考察

  1. ○a.  フロセミド

    フロセミドはループ利尿薬であり、腎尿細管のHenle係蹄上行脚にあるNa⁺-K⁺-2Cl⁻共輸送体を阻害して、強力なナトリウム・水の排泄作用を示す。体液貯留を減らして前負荷を下げ、肺うっ血を改善させる。静注すると、利尿作用が現れる前から静脈拡張作用によって速やかに前負荷を軽減する効果もあるとされる。体液貯留を伴う急性心不全(wetの病態)の第一選択薬の一つである。使用中は、過度の利尿による血圧低下・腎機能悪化や、低カリウム血症などの電解質異常に注意し、尿量・体重・血清電解質を確認しながら用量を調整する。

  2. ×b.  アドレナリン

    アドレナリンはα受容体とβ受容体の両方を強く刺激するカテコールアミンで、心拍数・心収縮力を増加させ、血管を収縮させる。主に心停止時の心肺蘇生やアナフィラキシーショックに用いられる薬剤である。心筋の酸素消費量を大きく増やし、頻脈・不整脈を誘発しやすいうえ、血管収縮によって後負荷を増やすため、末梢循環が保たれているwarm-wetの急性心不全に用いる理由はない。急性心不全の治療で通常選択される薬剤ではない。

  3. ○c.  ニトログリセリン

    ニトログリセリンは硝酸薬で、体内で一酸化窒素(NO)を放出し、血管平滑筋のサイクリックGMPを増加させて血管を拡張させる。低用量では主に静脈を拡張させて静脈還流を減らし(前負荷の軽減)、用量を増やすと動脈も拡張して後負荷も軽減する。その結果、肺毛細血管圧が下がって肺うっ血が速やかに改善する。舌下錠・スプレーで即効的に使えるほか、持続静注で用量調節もしやすい。特に血圧が保たれている、あるいは高い急性心不全(肺うっ血・肺水腫を伴う例)でフロセミドとともに第一選択となる。一方、血圧低下を起こすため収縮期血圧が低い例(目安として90 mmHg未満)では使用せず、ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィルなど)服用中の患者では併用禁忌である。持続投与を続けると耐性が生じる点にも注意する。

  4. ×d.  ノルアドレナリン

    ノルアドレナリンは主にα受容体を刺激して強い血管収縮作用を示すカテコールアミン(β1刺激作用も一部もつ)で、血圧を上昇させる。急性心不全では、強心薬(ドブタミンなど)を用いても血圧が維持できない心原性ショック(cold-wetで著明な低血圧を伴う例)に、血圧維持の目的で用いられる。末梢循環不全のない本問の病態では、血管収縮によって後負荷が増えて心臓の負担が大きくなり、肺うっ血をかえって悪化させるおそれがあるため適切ではない。

  5. ×e.  プロプラノロール

    プロプラノロールは非選択性(β1・β2両方を遮断する)のβ遮断薬で、心拍数と心収縮力を低下させる陰性変力作用をもつ。急性心不全の急性期に投与すると心拍出量がさらに低下し、心不全を悪化させるおそれがあるため用いない。β遮断薬は、左室駆出率の低下した慢性心不全(HFrEF)では予後を改善する薬剤であるが、その場合もカルベジロールやビソプロロールなど有効性が示された薬剤を、うっ血が改善し状態が安定してから少量で開始し、徐々に増量する。プロプラノロールは心不全の予後改善薬として用いられる薬剤ではなく、β2遮断による気管支収縮にも注意が必要である。

病態分類と治療の対応

・Forrester Ⅰ群/warm-dry(うっ血なし・低灌流なし):安静・酸素投与、原因疾患や誘因の治療。 ・Forrester Ⅱ群/warm-wet(肺うっ血あり・低灌流なし):血管拡張薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなど)と利尿薬(フロセミドなど)。呼吸不全があればNPPV。急性心不全で最も多い病型である。 ・Forrester Ⅲ群/cold-dry(うっ血なし・低灌流あり):循環血液量が不足していれば輸液。改善しなければ強心薬。 ・Forrester Ⅳ群/cold-wet(うっ血あり・低灌流あり):強心薬(ドブタミン、ミルリノンなど)を中心に、血圧をみながら利尿薬・血管拡張薬を併用。血圧が維持できない場合は血管収縮薬(ノルアドレナリン)を加え、さらに大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的補助循環装置などの機械的循環補助を考慮する。

クリニカルシナリオ(CS)分類

来院時の収縮期血圧に基づいて初期治療を決める考え方で、CS1(収縮期血圧140 mmHg超)では体液の再分布による急性の肺水腫が主体であり、NPPVと血管拡張薬が中心となる。CS2(100〜140 mmHg)では全身性の体液貯留を伴うことが多く、血管拡張薬に加えて利尿薬を用いる。CS3(100 mmHg未満)では低灌流が問題となり、体液貯留がなければ輸液、改善しなければ強心薬を用いる。

主な心血管作動薬の作用

・ニトログリセリン:静脈拡張(前負荷↓)>動脈拡張(後負荷↓) ・フロセミド:利尿による体液量↓(前負荷↓) ・ドブタミン:主にβ1刺激による強心作用(心拍出量↑) ・ミルリノン:ホスホジエステラーゼ3阻害による強心作用+血管拡張作用 ・ノルアドレナリン:主にα刺激による血管収縮(血圧↑、後負荷↑) ・アドレナリン:α・β刺激(心停止、アナフィラキシーに使用)

POINT

・「肺うっ血あり・末梢循環不全なし」=Forrester Ⅱ群=Nohria-Stevenson warm-wet。 ・治療は血管拡張薬(ニトログリセリン)と利尿薬(フロセミド)で、前負荷・後負荷を下げてうっ血を解除する。 ・強心薬・血管収縮薬(ドブタミン、ノルアドレナリンなど)は低灌流(cold)の病態で用いる。 ・β遮断薬は急性期の心不全を悪化させうるため用いない。慢性期のHFrEFでは、安定後に少量から導入する。 ・Forrester分類の基準値:PCWP 18 mmHg、CI 2.2 L/分/m²。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。