救急救命士はどこまでできる?―心停止の現場で許された「特定行為」3つ
第108回医師国家試験 B問題 第39問
国試問題にチャレンジ
心臓機能停止の傷病者に対する救急救命士の特定行為はどれか。3つ選べ。
- a.気管挿管
- b.アトロピン投与
- c.中心静脈路確保
- d.アドレナリン投与
- e.乳酸リンゲル液輸液
対話形式の解説
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ドクターまとめ
救急救命士は救急救命士法に基づき重度傷病者に救急救命処置を行う国家資格者で、侵襲性の高い処置は医師の具体的指示(オンライン指示)がある場合にのみ行える特定行為とされています。心臓機能停止の傷病者に対する特定行為は、乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液、食道閉鎖式エアウェイ・ラリンゲアルマスク・気管内チューブによる気道確保、アドレナリン投与の3つで、気管挿管とアドレナリン投与は認定を受けた救急救命士に限られます。投与できる薬剤はアドレナリンとブドウ糖に限られ、アトロピンや抗不整脈薬の投与、中心静脈路確保は医師のみが行えます。AEDによる除細動は包括的指示で行える処置であり、2014年には心停止前の輸液やブドウ糖投与が、2021年には医療機関内での処置が認められるなど業務範囲は拡大しています。救急救命士の業務範囲を正しく理解することは、オンライン指示を担う医師として病院前救護と連携するための土台になります。
解答・解説
正解はa, d, eです
救急救命士は、救急救命士法に基づいて、病院または診療所に搬送されるまでの間(2021年の法改正以降は医療機関に入院するまでの間を含む)に、重度傷病者に対して救急救命処置を行う国家資格者である。救急救命処置の多くは医師の包括的な指示(あらかじめ定められたプロトコール)のもとで行えるが、侵襲性が高く危険を伴う処置は、オンラインで医師から具体的な指示を受けた場合に限って実施できる。これを「特定行為」とよぶ。 心臓機能停止(心肺機能停止)の傷病者に対する特定行為は、次の3つに整理できる。 1. 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液 2. 器具を用いた気道確保(食道閉鎖式エアウェイ、ラリンゲアルマスク、気管内チューブ) 3. アドレナリン(エピネフリン)の投与 このうち気管挿管とアドレナリン投与は、所定の講習・実習を修了して認定を受けた救急救命士(気管挿管認定・薬剤投与認定)のみが行える。したがって、選択肢のうち気管挿管、アドレナリン投与、乳酸リンゲル液輸液の3つが特定行為に該当する。 一方、アドレナリン以外の薬剤(アトロピン、抗不整脈薬など)の投与や、中心静脈路の確保は救急救命士の業務範囲に含まれず、医師が行う医行為である。問題を解く際は「救急救命士が使える薬はアドレナリン(心停止時)とブドウ糖(低血糖時)のみ」「静脈路は末梢静脈、輸液は乳酸リンゲル液のみ」と押さえておけばよい。
選択肢考察
- ○a. 気管挿管
心肺機能停止状態の傷病者に対する器具を用いた気道確保は特定行為であり、気管内チューブによる気道確保(気管挿管)もこれに含まれる。ただし気管挿管を実施できるのは、所定の講習と病院実習(全身麻酔症例での挿管実習など)を修了して認定を受けた救急救命士に限られ、実施時には医師の具体的指示が必要である。認定がなくても、食道閉鎖式エアウェイやラリンゲアルマスクによる気道確保は特定行為として行える。
- ×b. アトロピン投与
アトロピンは抗コリン薬で、徐脈や有機リン中毒などで医師が使用する薬剤であるが、救急救命士が投与することは認められていない。救急救命士が投与できる薬剤は、心臓機能停止時のアドレナリンと、低血糖が疑われる傷病者へのブドウ糖溶液に限られる(自己注射用アドレナリン製剤をアナフィラキシーの傷病者に使用する場合を除く)。
- ×c. 中心静脈路確保
中心静脈路の確保(内頸静脈・鎖骨下静脈・大腿静脈などへのカテーテル挿入)は、気胸や動脈穿刺などの重大な合併症を伴いうる手技であり、医師のみが行える。救急救命士に認められているのは、末梢静脈に留置針を刺入して乳酸リンゲル液を用いた静脈路を確保することまでである。
- ○d. アドレナリン投与
アドレナリンはα作用による末梢血管収縮で冠灌流圧・脳灌流圧を高め、自己心拍再開率を向上させる目的で心停止時に用いられる。心臓機能停止状態の傷病者へのアドレナリン投与は特定行為であり、薬剤投与の認定を受けた救急救命士が、医師の具体的指示のもと、確保した静脈路から投与する。なお、呼吸機能停止のみで心臓機能が保たれている傷病者は対象とならない。
- ○e. 乳酸リンゲル液輸液
心肺機能停止状態の傷病者に対し、乳酸リンゲル液を用いて静脈路確保のための輸液を行うことは特定行為である。静脈路を確保しておくことで、アドレナリンなどの薬剤投与経路となる。使用できる輸液製剤は乳酸リンゲル液に限られる。さらに2014年からは、認定を受けた救急救命士が、心肺機能停止に至る前のショックなどの傷病者(増悪するショックやクラッシュ症候群が疑われる場合)にも乳酸リンゲル液による静脈路確保・輸液を行えるようになった。
救急救命処置と特定行為
救急救命処置のうち、次のものは医師の具体的指示(オンラインでの直接の指示)を必要とする特定行為である。 ・乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液(心肺機能停止状態の傷病者) ・食道閉鎖式エアウェイ、ラリンゲアルマスク、気管内チューブによる気道確保(心肺機能停止状態の傷病者。気管挿管は認定救急救命士のみ) ・アドレナリンの投与(心臓機能停止状態の傷病者。薬剤投与認定救急救命士のみ) ・乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保および輸液(心肺機能停止前の重度傷病者。2014年追加、認定が必要) ・ブドウ糖溶液の投与(血糖測定で低血糖が確認された傷病者。2014年追加、認定が必要) 包括的指示で行える処置には、自動体外式除細動器(AED)による除細動、経鼻・経口エアウェイ、バッグ・バルブ・マスク換気、酸素投与、血糖測定、自己注射用アドレナリン製剤の使用、在宅で行われている処置の継続などがある。
心臓機能停止・呼吸機能停止の定義
・心臓機能停止:心電図で心室細動、心静止、無脈性電気活動(PEA、かつての電導収縮解離)、無脈性心室頻拍のいずれかを示すか、臨床的に意識がなく頸動脈・大腿動脈(乳児では上腕動脈)の拍動を触知しない状態 ・呼吸機能停止:観察や聴診などにより自発呼吸がないことが確認された状態
救急救命士の業務の場
救急救命処置は、従来は病院・診療所に搬送されるまでの間(救急車内、現場)に限られていたが、2021年の救急救命士法改正により、医療機関に到着してから入院するまでの間(救急外来など)でも、院内の研修体制等が整っていれば実施できるようになった。
POINT
・特定行為=医師の具体的指示が必要な救急救命処置 ・心肺機能停止に対する特定行為:乳酸リンゲル液による静脈路確保・輸液、器具を用いた気道確保(気管挿管は認定者のみ)、アドレナリン投与(認定者のみ、心臓機能停止が対象) ・救急救命士が投与できる薬剤はアドレナリンとブドウ糖のみ(アトロピン、抗不整脈薬などは不可) ・中心静脈路確保は医師のみ ・AEDによる除細動は特定行為ではなく包括的指示で実施できる
